(10)マネージャー
俺はジャレッドとのセックスが楽しくてたまらない。あいつは体中すべてが性感帯のような人間で、どこをどう触っても素晴らしくよく反応してくれてまた声も特別デカイ。それだけでも俺は体中にやる気がみなぎってしまう。滑らかな皮膚、しまりのいいあの部分、三十過ぎてもその体を保っているのだから、十代の頃に出会えてやっていたらもっとよかったかもしれないと惜しい気もするが、それでも今でも充分素晴らしい。俺は男でも女でも随分たくさんの相手とやったが、セックスということに関して、あれだけいい体を持っているやつは世界でも数人しかいないだろうと断言できる。加えてマゾという性質まで持ち合わせていて、痛みもあいつの脳内では快感に変換されるらしい。最初のうちこそ大人しくされるままになっていたが、一度自分の性癖に気づいてからは、積極的に自分からより刺激の強いポーズを取るようになった。俺もつい興奮して攻め立てるのだが、その痛みがたまらない快感になるらしい。とろけるような顔をして喘ぎ声をだす。そんな絶頂期に放出して満足感を味わっているとヤツはだいたい意識を失っている。ただ気絶するだけでなくその間にちゃんと夢まで見てにやにやしているのだから、寝顔を見るだけでも楽しい。とにかくセックスをしてこれだけ自分が楽しみ、相手も喜ばせられる人間はそうはいないだろう。俺は自分の幸運を神に感謝しながらジャレッドを起こす。
「おい、ジャレッド、時間だぞ、起きろ!」
気分よく寝ているというか気絶しているので、起こすのも難しいが、それでも時間だからしょうがない。
「ジャレッド、ジャレッド!」
「なあ、コリン、俺はいま幸せだよな」
夢の世界に住む人間は起きたばかりは時々変なことを口走る。しあわせだ、しあわせだとはしゃぐやつの口を適当にふさいで支度をした。今日は朝9時にはスポーツクラブに来るように言われていた。やばい!もう9時過ぎている。あわててジャレッドをタクシーに押し込み、スポーツクラブへと向かった。
「ちょっとあんた達!朝から何やっているのよ!もう予定の時間を1時間も過ぎているのよ」
スポーツクラブに着くとさっそく姉というかマネージャーのクラウディーネが俺達を待ち構えていた。この姉は時間に遅れることは大嫌い、加えて映画スターというものは人気があるからといっていい気になってはいけない。常日頃の肉体的、精神的鍛錬こそがこの世界で長く生き残る秘訣であるという固い信念を持っているから俺に対してかなり厳しいことを要求する。
「そんなに固いこと言うなよ。まだ新婚で朝しかやる時間がないからしょうがないだろう。まったくいい顔してるよな。たっぷりやった満足感というか・・・・」
「イーモン!あんたは黙ってて。ちょっと予定がずれたけど、なるべく計画通りにできるよう組み替えるから。でもねコリン明日からは遅刻しないで時間通りに来て頂戴。わかったわね!」
「はいはい、わかりました」
とにかくクラウディーネにひとまず謝ってからトレーニングルームに向かった。夢の住人ジャレッドはまだぼんやりしている。
筋肉トレーニングに水泳、ダンスに剣術、一通り予定のメニューをこなしてやっと俺とジャレッドは一息ついた。
「アー大変だ、大変だー、俺はしぬー」
コーチがそばにいる時は大人しく神妙な顔をしていたジャレッドも、二人きりになると途端に騒ぎ出した。
「俺、こんなにいろいろやったの初めてだよ、あー疲れた。なんとかしてくれー」
「お前一応演劇学校とか出ているんだろう。授業でやらなかったか」
「ああ出てるよ。演劇だけじゃない。美術学校も通ったし、映画監督になろうとして・・・・」
「けっこういろいろ行っているじゃないか」
「どうせ何をやってもうまくいかなくてみんな中退さ。映画俳優だって思っていたほど楽じゃないし、俺一体何が一番才能があるんだろう」
「セックス」
「はあ、お前何言っているんだ!」
「お前のずば抜けた才能はセックスだよ。誰にも負けねえ」
「お前殴るぞ!ああー、手を動かしても痛い、筋肉痛だ。足なんかつっている、ダンスなんかさ、どうしてあんなに早く動かなきゃなんないんだよー。俺、ついていけない」
「お前、ロックバンドのボーカルだろう。音楽得意じゃないのか」
「それとこれとは別だ。人が作って人が振付けたような動きうまくできない。俺は自分の中から湧き上がるような音と動きしか乗れないんだ」
「やっぱりお前は天才だよ、お前の兄貴が言っていたようにな。でも天才だって好き勝手にやってうまくいくってもんじゃない。形を覚え、監督に力を引き出してもらうこともある」
「わかっているよ、わかっているけどさーまあ、お前だからこうやってぐちも言えるけど・・・」
「がんばれよ、またマッサージしてやるから」
「お前のはマッサージとは言わない、あれは前戯だ」
「前戯でもいいだろう。喜んでいるんだから」
「そうだな」
「お前らほんとうにいつも楽しそうに話しているな」
いつの間にか兄のイーモンがそばに立っていた。
「なんだ、兄貴か、いつもプラプラしてないで、まともに仕事でもしろよ。こっちはトレーニング終わったばかりで疲れているんだ」
「お前に言われたくはない。ちゃんと今日仕事をしてきたさ。契約もしてきた」
「契約って兄貴、なんの仕事の契約を?」
「もちろんマネージャーさ」
「兄貴がマネージャー!一体誰が兄貴なんかマネージャーに雇うんだよ」
「シャノン、レトと契約した」
「ジャレッドの兄貴じゃないか」
「まあ、正式にはバンドのマネージャーという契約だけど」
「どうしてバンドのマネージャーなんか」
「愛しているから・・・」
兄貴が顔に似合わず真っ赤になってぼそっとつぶやいた。この兄貴の表情がなかったら俺は怒鳴るか笑い飛ばすかしていたところだが、普段の兄貴とは似ても似つかない表情なので心配になってきた。
「兄貴、大丈夫だよな」
「大丈夫じゃない。俺は今深刻な恋の病に陥っている。今日本物見て、声を聞いたんだけど、なんかもう胸がキューんとなって痛くなってくるんだ。俺が自己紹介してコリンの兄でマネージャーもやっていたからもしよかったらバンドのマネージャを、と言ったらすごくうれしそうな顔でニコッと笑うんだ。コリンには弟が世話になっている。俺も困っていたところだ、ぜひ頼むってさ。俺もううれしくてうれしくてたまらなかった。今までずいぶんたくさんの男とつきあったり寝たりしたけど、こんな気持ちになったのは初めてだ。もちろんシャノンがストレートで俺のことそんな目で見ていないことはよくわかっている。だから片思いでいいんだ。ただそばにいて少しでも役に立てればそれで・・・」
「兄貴がマネージャーとして役に立つとは思えない。役に立たなくていいからせめて俺達の関係をぶち壊すようなことだけはしないでくれ」
「なんだお前、随分なことを言う弟だな。人が真剣になっているのに・・・」
「真剣になった兄貴がどういう騒ぎを巻き起こすか今までの経験でよくわかっているからね」
この話を聞いたジャレッドがどう思うか心配になったが、幸いやつはソファーでぐっすり寝ていた。天才は放出するエネルギーが大きい分、消耗も激しいらしい。
「イーモン、シャノンさんから電話よ」
クラウディーネが携帯をもって駆けつけてきた。無職であまり金を持っていない兄貴は携帯も持っていなかった。
「あ、はい、俺です。イーモンです。すみません、俺、携帯も持ってなくてそれ姉貴のなんです。ええ、弟は有名な映画スターだけど俺の方はどうもぱっとしなくて・・・え、そんなことない、インスピレーションを感じたなんて、俺、え、今日の予定ですか?・・・何もないです。レストランで、喜んでご一緒します。ええ、弟のコリンたちも一緒に・・・・うれしいです。よろしくお願いします。失礼します」
電話を切ったイーモンは両手を挙げて万歳をした。
「やったー、おい、コリン、聞いたか!シャノンがメンバーと一緒に食事がしたいって・・・・お前たちも一緒だけどさ・・・俺一度自分のアパートに戻ってシャワー浴びてこないと・・・何を着ていくか・・・おい、こういう時どういう服を着ればいいんだよ。ゲイだってこと絶対バレないように、普通の男らしい格好をしたいんだ。どうすればいい?」
「しらねえよ」
俺は冷たく言い放った。兄貴は喜んでいるけど、これは絶対何かトラブルが起こるに決まっている。俺とジャレッドが被害にあわないよう祈るしかない。
−つづくー
後書き
話が思いがけない方向に進んでしまって先がわかりません。イーモン×シャノンは成立するのだろうか?
2006、2,3
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