(11)過去の傷跡
にぎやかなパーティーの会場で僕は不安に怯えている。言われるままにワインや食べ物を運んでいるのだが、あちらこちらで僕を見ては笑い、指差してささやく声が聞こえる。やがて何人かの招待客がこの家の主人の所に集まり、話し合っている声が聞こえる。金貨の音もする。今夜の僕は何枚ぐらいの金貨で取引されるのだろうか。話は決まったようだ。この前は一人だったが今夜は何人もの人に腕をつかまれて別の部屋に連れていかれた。この前と同じ部屋、豪華なベッド、僕は言われるままに服を脱ぎベッドに横になった。
「なんだ、まだ子供じゃないか。そんなにいいのか」
「10歳だと、体は小さいけど、この顔、なかなかそそられるじゃないか。よく見せてみろ」
「怯えているようだ、そう怖がるな・・・・」
全部で10人ぐらいだろうか。しばらくの間僕は体のあちらこちらを触られ、油を塗られていた。そのたびに僕は声を上げる。
「随分反応のいい体をしているな」
「だから言っただろう。これだけの奴隷は滅多にいないって」
「誰が、先にやる」
「まあ、待て順番を決めてゆっくり楽しもうぜ」
「体に鞭の跡が多いな」
「殺さなけりゃ、何してもいいという話だ」
「本当か!」
僕の手足は何本もの手で押さえつけられ、体の中心にまたこの前と同じ太い杭が埋め込まれた。あまりの痛さに泣き叫び、もがこうとするが動くことはできない。杭は激しく打ち込まれ、僕は泣き叫んだ。少し楽になったかと思うと、また激しく打ち込まれる。体が二つに引き裂かれるように痛い。血が出ているのを感じる。泣き叫びながら意識が遠くなっていった。
だがすぐにまた意識は取り戻した。激しい鞭の音がして、背中に鋭い痛みを感じた。
「これぐらいで気絶するな、早く目を覚ませ!」
「すみません、許してください、鞭は止めて・・・・アアー痛い・・・やめて・・・たすけて・・・」
鞭の音が止んだとき、また体には別の杭が差し込まれた。もうそこは血だらけになっているに違いない。泣き叫びながらもがけばもがくほど痛みは激しくなってくる。そして笑い声が聞こえる。泣き叫んでいるのは僕一人、笑い声の中意識が遠くなればまた鞭の音が聞こえた。何回同じことが繰り返され、意識を失いそうになったのだろうか。僕はもうわけがわからなくなり、ただ叫び声を上げていた。この時間が永遠に続くように思われた。
「おい、もう夜明けだぞ。一晩中うなされている」
「かわいそうになあ、これだけやられたら・・・・」
「でもこいつは一晩でそうとう稼いだ。気をよくした招待客がいろいろ店のものを買っていったようだ」
「子供を痛めつけて喜んでいるのか」
「わからねえ、とにかく俺達はこのジャレッドを大事にしておかねえと、死なれたりしたら大変だ」
「そうだな・・・」
僕はうっすらと目を開けた。体中が痛く、燃えるように熱い。いつも寝ている奴隷部屋で寝かされていた。
「大丈夫か、今日はお前、何もしなくていい。ゆっくり休んでいろ・・・・」
「そんな悲しそうな顔するな。いつもってわけじゃないんだから、その時だけ我慢すれば・・・」
僕は何も答えなかった。ただ目から涙を流し続けていた。
「ジャレッド、いるか、昼間から寝ているなんて、また何かあったのか」
同じ年のコリンがやってきた。彼はこの家の主人の子で、最近は学校に行き、そこで寝泊りもしているからなかなか会えなくなっていた。
「新しい字をたくさん覚えてきた。お前にも教えてやるよ」
彼は薄暗く汚い奴隷用の部屋にも平気でやってきて僕と話をしていく。
「やめて、来ないで!僕は奴隷だから君と話なんかできない」
「何言っているんだよ。お前とは昔から友達だろう。俺はお前のこと奴隷なんて思っていない」
「君はそうでも僕は違う、お願いだから向こうへ行って・・・鞭でひどく打たれて痛いんだよ・・・だからそばに来ないで・・・」
「鞭で打たれたのか、俺に見せてみろ」
「やめて!見ないで!」
僕がそう叫んでも彼は僕の方にやってきた。そして服をずらし、鞭で打たれた背中に手を当てた。
「お前が酷い目にあっているというのは本当か」
「さわらないで、余計に痛くなるだけだから」
「そうか、ごめん・・・・」
コリンは僕の体から手を離した。その目からみるみるうちに涙が溢れ、激しく泣きじゃくるようになった。
「どうしたの・・・・」
「いま、お前に触れてわかったんだ。お前がきのうどんなに酷い目にあったか」
「誰に聞いたの」
「聞かなくてもわかるさ。お前の顔を見て、この傷跡を見れば・・・・」
「鞭で打たれるのはもう慣れた」
「それだけじゃないだろう・・・・」
彼は僕の体を抱き起こし、強く抱きしめた。僕は彼に身を任せ、少し力を抜いた。
「約束するよ、俺が大人になったら必ずお前を奴隷ではない、自由な市民にしてやる」
「そうしたら僕はこの家を出なければならないの」
「そうじゃないよ、自由な人間として一緒に暮らす。鞭で脅かして仕事をさせるんじゃない。一緒に話したり、笑ったり、仕事したり、友達としてずっと一緒に暮らすんだよ」
「本当にそんなことできるの」
「もちろんだよ。友達としてずっと一緒に暮らそう。あ、ごめん、こんなに強く抱いて痛かったか?」
「痛くないよ。本当にずっと一緒に暮らせるんだね」
「ああ、一緒に暮らそう」
「ずっと一緒に暮らそう、コリン」
そう言って俺は彼を抱く手に力を入れた。
「おい、ジャレッド、目を覚ませ!こんなところで何寝ぼけている」
「ずっと一緒に暮らそう、コリン・・・いやあ、今のセリフよかった。感動して涙が出そうになった」
「兄貴、うるさい!黙っていてくれ!」
コリンの大声で目が覚めた。スポーツクラブのロビーのソファーで寝ていたらしい。また前世の夢を見ていた。だんだん具体的になってきて、なんだかまだ背中や尻の穴がひりひりと痛い。しばらく俺はこんな夢で悩まされなければいけないのだろうか。映画の役作りのためにスポーツクラブに通い、たくさんの資料を読まなければならないこの忙しい時期に・・・前世の俺が悲惨な境遇だというのはよくわかったが、こういつも出てこられたんじゃ、俺のほうがたまらない。どんなに訴えてきても、いまさらどうすることもできないし・・・
「イーモン、また貴方に電話よ。仕事が決まったら携帯ぐらい早く買いなさい」
コリンの姉でマネージャーでもあるクラウディーネがやってきた。コリンの兄、イーモンはうれしそうに電話を取る。
「はい、お電話変わりました。イーモンです。あ、イタリアンレストラン、いいですよ、俺イタリアンも大好きです。じゃあ8時にそのレストランで待ち合わせですね。わかりました、楽しみにしています。・・・・・・・愛しのシャノン、愛している」
「ええー!今なんて!」
携帯を切った後の言葉に驚いた俺は大声を上げてしまった。
「ジャレッド、大声出すなよ!お前の今の声、ロビー中に響き渡ったぜ」
「しゃ、シャノンって俺の兄貴のシャノンか」
「そうだけど、あ、お前寝ていて聞いてなかったのか、俺の兄貴、お前のバンドのマネージャーになるって」
「そんな話聞いてないぞ、ちょっと確かめてみる」
俺は慌てて兄貴のシャノンに電話をかけた。
「あ、ジャレッドだけど、兄貴、新しいマネージャー・・・・」
「そうだよ!ジャレッド、コリンのお兄さんのイーモンさんに会ってさ、ぜひマネージャーをやりたいって言われたんだ。会ってみたらスゲーいい人でさ、意気投合しちゃったんだよ。コリンのお兄さんなら身元も確かだし、何よりすごいんだ。俺達のアパートのあのレシートの山、あれを3時間ぐらいで全部月ごとに分けて整理しちゃったんだ。俺もう感激してさ!気になる仕事全部終わってほっとしたからお礼にイーモンさんを食事に誘ったんだ。お前らも来るだろう。大勢の方が楽しいしさ。もちろんマットとトモも一緒だよ。なんかこう肩の荷がおりて最高の気分だよ、じゃあな!」
シャノンは一人で一方的にしゃべりまくり電話をきってしまった。俺達兄弟は二人ともお金の計算とかそういうことにかなり弱い。だもんでよいマネージャーが見つかったのは喜ばしいことなのだが、コリンの兄、イーモンの最後の言葉がどうも気になる。愛してるって、あの声と言葉はどう考えても恋人に向かって言っている感じだ。兄貴には聞こえてないけれど・・・
「おい、コリン、お前の兄貴、俺の兄貴が好きみたいだぜ」
「ああ、そうらしい」
「どうしてくれるんだよ。俺の兄貴はゲイじゃないぜ」
「知ってるさ」
「知っててどうして冷静でいられる!」
「まあ、こうなったらなるようにしかならないさ」
「俺、なんかいやーな予感がするんだけど・・・」
「俺もだよ、やっぱり俺達気が会うな。さすが前世からの長い付き合いだ」
「そんなこと言っている場合じゃないぜ。言っておくけど俺の兄貴は100パーセントストレートの人間だ」
「だからと言ってもう両方とも喜んでいるんだから今更引き離すわけにもいかないだろう」
「そりゃまあ、そうだけど・・・・なんかお前やけに冷静だな、腹が立つ」
「俺はあの兄貴と二十年以上も一緒に生活してきたんだ。大抵のことにはなれちまって驚かない」
「そういうことか・・・・」
俺はため息をついた。前世のことといい今目の前で起きている出来事といい、もうどうにでもなれという気分である。
−つづくー
後書き
ジャレッドの前世はかなりかわいそうな状態です。現世も次々といろいろなことに巻き込まれ苦労しています。
2006、2、10
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