(13)カモフラージュ

俺の毎日は多忙を極めている。役にふさわしいように体に筋肉と体力をつけるためのスポーツクラブ通い、歴史物で実在の人物でもあるのでおびただしい資料も読まなければならない。さらに兄シャノンにはコリンとの関係を秘密にしているため、夜には一緒に暮らしているアパートに帰らなければならない。朝早く起きてコリンのところに行き、慌しくセックスをして、すぐにスポーツクラブに向かう、朝食はほとんど車の中で食べている。そんなに忙しいのならわざわざ朝からせックスなどしなくてもと言われそうだが、習慣になってしまうとどうもやらないではいられない。食事は1回や2回ぐらい抜かしてもいいがこれだけは抜かせない・・・別に俺はそういつもいつも女と付き合っていたわけでなく、やらない時が数ヶ月続いたりもしたのにどうしてこうなってしまったのだろう。

「ジャレッド、相当疲れているようだな、しばらく朝はやめておくかい」
「いやだ、これがなければ生きていけない」

終わったあとあまりに俺がぐったりしているのでコリンが心配してこう提案してきた。

「結構ハードスケジュールだからな、トレーニング種目を少し減らすか」
「必用だからやっているんだろう。おまけに俺筋肉全然ないし、このままじゃどうみても古代ギリシャの戦士に見えないだろう」
「ヘファイスティオンは戦士として特別活躍したわけではない、ただアレキサンダーを一人の人間として愛し、愛された男だ」
「でも戦いの場面はたくさんあるんだろう」
「そりゃ、まあそうだけど・・・」
「俺、戦士の役やったことないからな・・・」

映画だけではない。俺の人生も今まで・・・くらげみたいな生き物とか、うさぎしか取れない原始人、奴隷の子供・・・だめだこれは・・・まともに戦えそうなやつ一人もいないじゃないか。それだけではない。前世のあいつが何度も夢の中に出てくるから、俺はすっかり寝不足になっている。なんで俺がいまさらあいつの恐怖や痛みを感じていなければいけないんだ。おかげで俺はこの前行ったレストランでもまともに食べられなかった。

「よく夢を見るのか」
「ああ、毎回同じ場面ばっかり・・・・あいつは犯されて泣いてばかりいる。お前はどうだ」
「俺はあの島で原始人時代の夢を見ただけだ。そっちの話では見たことない」
「お前は苦労してないからだよ。少しはなんとかしてやれよ。だから俺のところにばかり現われる」
「幽霊と同じようなものか」
「それとは違うけどさ、あーあ、俺の前世って悲惨なのばっかりだ」
「最後は知らないんだろう。きっと二人でハッピーエンドになっているさ。そんな犯されているばかりの記憶じゃ、今のお前にだって影響が現われるはずだ。お前、セックス好きだろう」
「好きなのかな」
「好きに決まっている。これだけやっといて嫌いとは言わせない。だから前世でも最後はハッピーエンド、そんなに気にするな」
「そうなのか・・・・」

会話が途切れるとだいたいコリンは俺の体をやさしくなでる。言葉でも体でも俺達は完全に繋がっている。前世のコリンも今のこいつぐらい気を使ってくれりゃ、あいつも救われて俺のところになんか来なくなるのに・・・

「そんなに大変なら俺の昔の女貸してやろうか」
「・・・・・・!」

心が繋がっているはずのパートナーが突然思いがけないことを言った。

「おい、お前今なんて言った!」
「俺の昔の女貸してやろうかって・・・」

「どういう意味だ!ふざけるな!殴るぞ!」

「まあ、落ち着いてよく聞けよ。お前が今大変なのは俺達が中途半端な半同棲生活をしていて、行ったり来たりしているからだろう。一緒に暮らせばそんな苦労はなくなる」
「それはそうだけどさ、俺は兄貴を裏切りたくないんだ。俺がまだ子供の頃両親が離婚して、親父は仕事するだけで精一杯、ずっと兄貴に育てられたようなもんだったから。1歳しか歳は違わないけど、いつも俺よりずっと大人だった」
「いずれきちんと話してわかってもらおうと思っている。でも今のままでは難しいと思うんだ。撮影が始まる前にやらなければいけないことも多い。だからさ、とりあえずお前は女ができたということで今のアパートを出るんだ。それを貸してやろうかって・・・」
「そんな都合のいい女いるのか」
「ブリトニーがいい。あいつ今つきあっている男が一般人だから公表されたくないんだ。誰かマスコミをごまかすのにちょうどいい俳優がいたら紹介してほしいってさ。別に特別なことしなくてもいいさ。目立つ所で一緒に数回お茶でも飲んでいればマスコミは喜んで飛びついてくれる。そうすればブリトニーもお前も本命の相手と安心して付き合える。どうだ、いい考えだろ」
「それでうまくいくのか。俺、自信ないな」
「お前、役者だろ!とりあえず一度会って様子をみてみろ」
「会って、もし俺がブリトニーに本気になったら・・・・」
「それはあり得ない。お前は俺に夢中だ。女には目もくれない」
「相変わらず大した自信だ」





土曜日にブリトニーに会う約束をしたので、金曜日の夜は早めにアパートに戻った。コリンがさっそく知り合いの雑誌記者を手配したので、俺もそれなりに映画スターらしい格好をしてデートに行かなければならない。

「ジャレッド、今日は早いな」

シャノンが喜んで出迎えてくれた。

「明日、デートの予定だから。なあ、兄貴、俺がここを出て同棲したら寂しくなるか」
「そうか、そんな話しが出ているのか。別に俺は構わないさ。お前がいなくてもマットやトモがしょっちゅうやってくるし・・・ここはバンドの集会所みたいになっているから・・・・」
「そういえば最近マットとトモに会わないけど・・・・」
「バカンスだよ・・・・仕事がオフになったからって喜んで出かけてしまった。まったくあいつら何考えているんだか。いくら彼女とスケジュールが合わないからって普通男二人で南の島になんか行くかよ」
「南の島のバカンス!」

南の島と聞いて俺の頭にはすぐにあのオーディションの島のことが思い浮かんだ。あの二人いつのまにそういう関係に・・・いやもしそうじゃなくても南の島になんか二人で行ったら絶対そういう関係になってしまう。誘ったのはマットの方か・・・あいつ口だけじゃなくて・・・

「ジャレッド、お前は撮影があるから、当分バカンスなんて無理だろうけど、一緒に生活を始めればそれも楽しいだろう、頑張れよ。あ、そうだお前に手紙が来ていた。珍しくまじめそうな封筒だからとっておいた」
「まじめそうな封筒って・・・」
「真っ白いのは珍しいんだ。ファンレターは赤やピンクの封筒とか多いだろう。女の子のファンならいいけどさ、最近男か女かわからないような名前でハートマークなんかついた手紙が多いんだ。お前宛に・・・そういうのは即刻シュレッターにかけているけど・・・」
「そうなのか」

渡された手紙を読んでみた。

「あなたにこんな手紙をお送りすることをお許しください。あなたの映画を見て俺は泣きました。こんなにも汚れなく美しい姿と魂をもった人間がこの世の中にいるものかと・・・俺は同性愛者ではありません。でもあなたを見て恋する気持ちを押されることができません。どうか陰ながらあなたを慕うことをお許しください。   ボズより」

全く知らない名前である。もしかして俺宛にこういう手紙が山のように届いているのだろうか。ただそれは俺の目に触れてないだけで・・・

「なんだこの手紙は、また同じパターンか。白い封筒だから普通の友達かと、処分していいか」
「あ、別にいいよ」
「まったく、へんな雑誌に写真が載るとこれだから困る。お前、ストーカーとか気をつけろよ」
「あ、うん、あ、マットとトモは・・・・」
「あいつらは南の島のバカンス。しばらく音楽を離れてのんびりしたいってさ。俺もその気持ちわかるよ。ツアーが終わると気が抜けたようにからっぽになってしまう。しばらくボケッとしてそれからじゃないと新しい恋人を作る気にもならない。お前は元気だな」

シャノンの考えではマットとトモがどうにかなるという考えはまったくないようだ。同性愛というのはあくまでも特別な人間の特別な行為、その気のない人間はいくら男同士で旅に出ようとバカンスにいこうとそういう関係には全くならないと信じている。そうだこんなこと考えている場合ではない。明日はまた大勢の雑誌記者の前で、演技をしなければならない。



                                                  −つづくー



後書き
 中途半端な同棲生活ではなく、完全に同棲をと願ったコリン、ついにある作戦を考えます。南の島のバカンスは・・・もちろんこれは下心があってのことでしょう(笑)


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