(14)崇拝者
朝、けたたましく鳴る電話の音で目が覚めた。
「ジャレッド、わるい・・・電話に出てくれ・・・・」
そう声をかけ、手を伸ばしても誰もいない。そうか、今日はあいつはデートの約束か。いくらカモフラージュのためとはいえ、デートの前に俺にあってやってから行くというのはあんまりだからな・・・・しかたなく自分で電話に出た。
「朝早くから何の用だ」
「俺だよ、俺、声でわかるだろう」
「ボズか、朝っぱらからなんだ。ダブリンからか」
「違う、すぐ近くからだ。やっと本人が出たな。コリンお前最近新しい恋人ができただろう。ハスキーボイスの・・・」
「ああそうだけど、それが何か」
「いや、別にお前の恋人の話はどうでもいいんだ。俺の話を聞いて欲しい」
「お前の話かよ・・・・」
俺はため息をついた。電話の相手は同じ年のボズ、ダブリンで家がすぐ近くだったから俺達兄弟としょっちゅう一緒に遊んでいた。男らしいさっぱりした性格のやつだったので、俺や兄貴のような人間と付き合っていても少しも染まらず、数少ない普通の男友達として長い間友情が続いてきた。ところがこのまっとうな人生を送るはずだったボズ、兵役に行き、実際の戦争も体験してしまって、人間が変わってしまった。詳しいことはわからないが、何か決定的なことがあったらしく、現実から目をそらし、今までのように普通に女とつきあうこともなく、映画やドラマに出てくる年下の美しい男に憧れ、恋をするようになってしまった。
「俺さ、新しい相手に夢中になって苦しくてたまらないんだ・・・・」
「どうせお前、映画に出てくるやつだろう。エルフとか妖精とかきれいな役やってたって、普段会えば普通の人間だぜ。あんまり幻想ばかり追いかけるなよ」
「いや、ちがうんだよ・・・今俺が夢中になっているのは、エルフとかそうふわふわ浮いているんじゃないんだ。もっとしっかり地に足がついているんだけど、どこかこう人間離れした、地球人じゃないっていうか・・・・」
「宇宙人に夢中になっているのかよ、あいにく俺は今ひまじゃねえ。撮影準備で忙しい」
「今日は予定ないだろう。イーモンに聞いた」
「詳しいな。だったら兄貴に話も聞いてもらえばいいだろう」
「だめだよ。イーモンはバカンスで近くにはいない」
「バ、バカンス!俺は聞いてないぞ。あの兄貴、何処へ行ったんだ!」
「教えてやってもいいけどさ、その代わり、俺の話も聞いてくれ」
「わかった、聞いてやるからさ。後で会おう。じゃあな!」
せっかくの休日になんであいつの浮ついた恋の話を聞かなきゃならないのかと腹が立った。まったく何が宇宙人だ。俺のジャレッドだって人間離れしているってことにかんしちゃ、誰にも負けねえ。つまらない人の宇宙人の話なんか聞きたくもない。ちくしょう、宇宙人なんて言われるだけで俺はあいつを思い出して興奮するじゃないか。でも兄貴の行き先も気になるから仕方なく俺はボズと外で会う約束をした。
朝の10時という早い時間に俺はハンバーガーショップでボズと待ち合わせをした。なんでこんな早い時間に出かけたかというと12時にそのすぐ近くのレストランでジャレッドがブリトニーと会う約束をしていた。ボズの話しなどはさっさと終わらせてもらってジャレッド達がどうなるか近くで見ていたい。いや、これはあくまでもカモフラージュなのだから、ジャレッドとブリトニーがどうこうなるということなどありえないが、それでも気になるものは気になる。
「ありがとう、コリン。俺のためにこんな朝早くからわざわざ出てきてくれて」
「いや、お前のためじゃない。俺もちょっと昼から用があって・・・・」
「忙しいのに悪いな」
「別にいいさ。手短にすませてくれ。それより俺の兄貴はどこ行ったか知っているのか」
まず、こっちの聞きたいことを先に切り出した。これで予定の時間になったらさっさと別れることができる。
「イーモンはお前が持っている会員制リゾートホテルのクーポンを使って南の島へ行ってるさ。俺のところへ来てお前からもらったクーポン、使ってないなら売ってくれって」
「何枚」
「友達も誘うからできるだけたくさんほしいってさ」
「友達誘ってバカンスね。こっちが忙しい思いをしているのにあの兄貴め」
確かに俺はホテルのクーポン、当分使えそうもないのでボズを始め友達数人に配ってしまった。でもまだ手元にいくらでもあるのになんでまた俺に隠れて・・・怪しい。あの兄貴が考えることだ。何か裏があるに違いない。
「友達って、誰と行くか兄貴言ってなかったか?まさかまた新しい恋人ができたとか?」
できるだけさりげなく探りを入れる。二人きりで行ったのならそれはもう間違いなくあれだろう。
「仕事先のバンドのメンバー二人とだって・・・いい仕事が見つかったって喜んでいたよ」
「へえ、仕事先のね」
「これぐらいでいいだろう。俺の話も少しは聞いてくれよ」
「ああ、わかったよ」
兄貴と一緒に行った人間は後でゆっくり調べればいい。バンドのメンバーといえば30STM、でもいきなり二人っきりになる勇気もなく仕方なくもう一人誰かを誘ったのだろう。懲りない兄貴だ。シャノンがそんなことなるはずないだろう。
「初めて彼の出演した映画を見たのはDVDだった。その手の雑誌で人気ナンバーワンて書いてあったから、どんな俳優かずっと気になっていたんだ」
「それでそいつが宇宙人の役で出ていたわけか。言っとくけどお前なあ、ハリウッドの俳優なんていくらでもメイクして妖精でも宇宙人でもなんでもやるけど普段はお前と同じ、普通の人間だぜ。それをどう本当らしく見せるかがそいつの演技力、素顔とは全く違う。まあお前がそんなに夢中になっているんならサインぐらいもらってやってもいいけどさ」
「できれば直接会いたいんだ。会って気持ちを伝えたい。それだけだ」
「それはやめといた方がいいと思うけど、それでどんな映画だった」
俺は必死で話題をそらせた。実際に会っても無視されるだけ、それならサインでももらっておいて夢は夢のままにしておいた方がいい。
「彼はすごくきれいなんだけど、麻薬に溺れてぼろぼろになって死んでいくんだ。ちっともいい役じゃない。なんでこんなことぐらいでって思った。だけど彼はどこまでもまっすぐ堕ちていくんだ。宇宙の闇のような空間をまっすぐ堕ちているように見えてなんだか悲しくて涙がボロボロこぼれた。うまくいえないけどさ、俺戦場でいろいろな体験をして、何がなんだかわからなくなって・・・だけどこの映画見て思ったんだ。俺は堕ちていくこの人を受け止めるために生まれてきたんじゃないかってね。勝手な思い込みだと思われるかもしれないけど、俺は映画を通して彼に出会ってしまったんだ」
「そうか、そういう出会いがあったのか」
「コリン、お前わかってくれるのか」
「ああ、わかるよ。俺にもそんな出会いがあった。ずっと捜し求めていたやつについに出会えたというか」
「あのハスキーボイスの・・・」
「そうだ。俺はあいつに出会って変わった。今まではとっかえひっかえ相手を変えてそれを見せびらかすことがスターの条件だと思っていたけど今は違う。ただあいつと一緒に暮らし、自分の演技を高めていきたい。他には何もいらない」
「コリン、お前変わったな。そうだよ。人生にはそんな出会いもあるんだ。俺もあきらめないでただ彼を見つめていたい」
「あきらめる必要ないさ。お前は堕ちていく彼を受け止めたいんだろう。だったらその気持ちを大切にしろ。いつかチャンスはやってくるかもしれない。がんばれよ」
「そうだな、お前に話してよかったよ。俺なんか目の前がパーッと明るくなった。真っ暗な闇の中に一筋の光が差し込んだような」
「大げさだな」
「コリン、やっぱりお前はスターの器だ。お前にはカリスマ性がある。お前の言葉には光があるんだよ」
「そうか、あ、もう時間だ。じゃあまた俺に何か力になれることがあったら相談しろよ」
「わかった、ありがとう。俺はいい友達を持っている」
握手してボズと別れた。最初は渋々だったがカリスマだ、スターだと言われれば悪い気はしない。さあ後はジャレッドがどういう演技をするか見にいくだけだ。俺は足取りも軽く街を歩いた。もちろん一般のファンに見つからないようサングラスをかけたまま・・・・
−つづくー
後書き
この後いろいろなハプニングが予想されますが、とりあえず今のところまだそれぞれ誰のことを言っているか気づいてないので平和です。
2006、3、3
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