(17)魂の記憶
ブリトニーとのデートが終わった夜、初めてコリンのアパートに泊まった。今夜は戻らなくてよい、朝、慌しく抱き合わなくてもいい、だから俺達は心行くまでセックスを楽しんだ。薄れていく意識の中で俺はコリンに抱かれながら眠りについた。今なら出てきてもかまわない、じっくりお前の話を聞いてやるよ・・・そうあいつに話かけながら・・・
それは数ヶ月に1度程度のことであったが、僕の体も心も少しずつ崩れていくのを感じていた。何人もの客が僕を鞭打って興奮し、叫び声を上げている中、次々と犯していく。何度も意識を失っては目覚め、ようやく解放されても数日間は鞭の痛みと熱で起き上がれなかった。起き上がれるようになっても特別他の仕事をさせられることはない。ただよい食べ物を与えられ、体を清められて次のその日を待つ。いつのまにかそんな日々にも慣れ12歳になった。彼は街の学校の宿舎にいて滅多に会えない。ただ彼の戻ってくる日だけを楽しみに毎日生きていた。
「おい、もういい加減で止めとけよ。これ以上は耐え切れずに死んでしまう」
「うるせえ、死なせてもいいという約束で特別の金貨を渡した。お前らの何十倍もな」
「これだけ整った顔の子は滅多にいねえ、それをお前殺すなんて、俺達はこいつを見るのが楽しみで、この家に出入りして高いもの買っているんだ。殺したければ他のところでやってくれ」
「お前らはもう終わっているんだろう・・・出て行け・・・後はこいつは俺のものだ・・・どう扱おうと勝手だろう。それとも俺が出した金貨の値打ちを言ってやろうか・・・・心配するな・・・殺したりはしない・・・ただちょっと余計に楽しみたいだけさ・・・」
また激しい鞭の音が響き、僕は泣き叫んだ。何度も意識を失いかけるがまたすぐに目覚めてしまう。余りの痛さにいつ犯されたのかすらわからないほどであった。どれぐらい長い間そんなことが続いたのだろうか。ふと鞭の音が止み、体が軽くなった時、また意識を失った。
「ジャレッド・・・ジャレッド・・・返事をしてくれよ・・・・なんでこんなこと・・・お前の悲鳴が聞こえたんだよ。あんなに離れた場所にいても・・・だから・・・死なないでくれ・・・目をさませよ・・・ジャレッド!」
遠くからの声が少しずつ大きくなり、目を開いた。彼、コリンの顔がすぐ近くに見えた。
「よかった、目を覚ました。酷いことを・・・・体が熱い・・・」
「僕は・・・・死ぬのかな・・・もう一度あの頃のように君と暮らしたかったけど・・・」
「あの頃?」
「洞窟の中で一緒に暮らしていた。覚えている?君は像よりももっと大きいマンモスだって捕まえることができた」
「覚えているよ・・・お前のおかげで俺も思い出した」
「僕は小さな獲物しか獲れなくて、いつも罠で獲ったウサギを食べていた。まだ完全に死んでないウサギの皮をはいで・・・今の僕みたいに体中赤く血だらけになって・・・苦しそうな呻き声をあげていたのに僕には聞こえなかった。・・・今ならわかる。僕がどんなに残酷なやり方でウサギを殺していたか・・・」
「ジャレッド・・・あの時代はみんなそうやって食物を獲ていた。お前だけじゃない」
「君に会えて僕は救われた。あの時も今も同じだよ・・・ずっと考えていた・・・死ぬ時は君のそばで死にたい・・・一人ぼっちで死ぬのは怖いから君に抱かれて・・・あの時のように・・・僕のたったひとつの願いだったんだ。そばに来てくれてうれしいよ・・・」
「だめだ、ジャレッド・・・死んではいけない・・・生きるんだ!このぐらいの鞭打ち、どうってことない。死ぬような怪我じゃないさ。大丈夫、お前は死んだりはしない」
「今、生き延びても・・・また同じことが繰り返され・・・もう耐え切れない・・・怖いんだよ・・・自分がどうなるかわからなくて・・・もう我慢できない・・・・早く楽になりたい・・・」
「俺はお前を死なせたりはしない。楽になどしない」
コリンは薬の入ったつぼを持ち、真っ赤にはれ上がった僕の背中に塗り始めた。傷に染み込む痛みで僕はまた泣き叫んだ。
「やめて!・・・アアー・・・痛い・・・もういい・・・やめてー・・・いやー」
「ジャレッド、しっかりしろ。お前を失った俺の痛みを思って耐えろ」
「君の痛み・・・」
「そうだ、あの時お前を失った俺の痛みがわかるか!その後の記憶が全くないんだ。お前を失った後、俺の魂も死んだから記憶に刻まれてない。お前と出会う前の記憶もない。・・・・ただお前と一緒に過ごした日々だけが魂に刻み込まれている。今の俺達になんの思い出がある。まだなんの記憶も刻み込まれていない・・・これじゃあ、もう二度とお前と出会えない。なんの記憶を頼りにお前を見つけ出せばいいんだよ・・・わかるか・・・・お前はまだ死んではいけない」
「コリン・・・・」
「俺達はもっと同じ時を共有しなければいけないんだ、わかるか」
「わかった、僕は生きるよ・・・終わったら抱きしめて欲しい」
彼は再び僕の背中に薬を塗り始めた。その痛みは耐え切れるものではなく、また叫び声を上げてしまった。それが終わると彼は自分の服を脱ぎ、僕の寝かされているベッドに入った。肌が触れ、彼の温もりを感じることができた。
「あと少しの辛抱だジャレッド。がんばって俺のために生きてくれ・・・・」
「君と離れている時、僕は何をすればいい」
「俺達は今、こんなのを読んでいる。古いギリシャの王様の話なんだ」
彼は巻物を取り出して僕に見せてくれた。
「こんな字、僕にはさっぱりわからないよ」
「俺も同じだよ。ほとんどわからない。少しずつ俺が覚えたことをお前にも教える。これはここに置いておくからお前も時々見ればいい。離れていても同じ話を読んでいれば心は一つだ。少しずつ記憶が魂に刻まれる。俺とお前の共通の記憶になる」
「それは素晴らしい。同じ記憶を魂に刻み付ける。僕はもう一人で泣いてばかりはいない。少しでも多くの言葉を覚えていくよ」
「ジャレッド、俺達はまだ始まったばかりだ。一緒に生きていこう」
コリンの手がやさしく僕の背中をなでた。僕は彼の体に両腕を伸ばした。同じ年でも彼の方がずっと大きくてたくましい体をしている。
夢を見て泣くなんていうことは珍しい。だが涙が後から後から溢れて止まらなくなっていた。
「おい、ジャレ、どうしたんだ。泣いているのか」
コリンが驚いて声をかけてきた。
「悪い、起こしてしまったようだ」
「泣くほどの夢か、どんな夢だ」
「夢で男が泣くなんて変なヤツだと思っているだろう」
「思ってないさ、お前の記憶は俺にも繋がっている。そうだろう・・・」
「その通り・・・俺は何度もお前に救われている」
「前世ではそんなにいいヤツだったのか?今の俺はたいしたことないけどさ」
「いつもお前に救われているよ」
「話してくれ」
「俺を固く抱きしめてくれたら」
「入れたりはしないぞ。そうするとお前はすぐ別の世界にいってしまって話にならない」
「ただ抱きしめてくれるだけでいい。こうしていると落ち着くんだ」
「ジャレ、愛している」
「俺もだよ、コリン・・・」
俺はまだ涙が乾かないうちに、俺達の過去を話しておきたいと考えていた。それはきっと単なる前世の記憶だけでなく、今の俺達にも繋がっている、魂の記憶であるから・・・・
−つづくー
後書き
愛することはお互いの魂に記憶を刻み込むこと、なんていつもそんなことを意識しているわけではありません。たまたま書いているうちにふっと浮かんだ言葉です。絶望的な状況の中何を話したら救いになるだろうかといろいろ考えて・・・
2006、3、24
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