(18)南の島より

俺は半分寝ながら、ジャレッドの夢に出てきた前世の記憶を聞いていた。あまりにも痛々しい記憶はまだ今の彼の体にも刻みこまれているようであった。俺は涙を流しながらジャレッドの体をやさしくなでた。彼は今12歳の子供に戻っている。これ以上けっして傷つくことがないようにやさしく包み込むように抱いた。

「コリン、波の音が聞こえる」
「ああ、俺にも聞こえるよ」
「俺達の魂は今、あの南の島にいるのかな、それとももっと昔の洞窟で暮らしていた時代にいるのか・・・・」
「わからない、でも俺達はいつもこうやってよりそって生きていた・・・波の音がなつかしい」
「抱いて欲しいな」
「お前、大丈夫か・・・過去の記憶を思い出したばかりだろう」
「今俺はもっと昔に戻っている。波の音に包まれて抱かれている。こんなに心地よいところはない」

夢の中にいるような気持ちでジャレッドを抱いた。本当に抱いたのか、それとも夢見ていただけなのかはわからない。ジャレッドの声は聞こえない。ただ波の音だけが聞こえ、彼は穏やかな顔で眠っている。







再び目が覚めた時、太陽はもうかなり高い場所に見えた。きのうと今日はスポーツクラブに行くのも休みにして、完全にジャレッドと二人だけで過ごすと決めていた。何度も目を覚ましてうつらうつらしていたので体はけだるいがそれもまた心地よい。ジャレッドはまだ寝ている。頬に伝わる涙の跡にそっと手を触れ、口付けした。

「心配するな。これからはずっと俺がお前を守ってやるから・・・過去の分まで・・・さて、俺は一足先に起きて朝食を作っているよ。それ前にシャワーか。いつ寝てしまったのか覚えてないからな」

また波の音が聞こえる・・・おかしい・・・テレビでもつけっぱなしで寝てしまったのかな。まあ、とりあえずはシャワーだ。

「おい、コリン!部屋の中、素っ裸で歩くな!」


「だれだ!お前は・・・・・なんだ・・・兄貴か」

リビングのソファーに兄のイーモンが座ってビデオを見ていた。

「おいコリン、お前なんか羽織れよ。いくら弟だからといって恋人じゃないんだからそんな格好でうろうろされたら目のやり場に困るだろう。なんとかしろ」
「うるさいなあ、ここは俺のアパートだ。どんな格好でいようと構わないだろ!兄貴こそなんでこんな朝っぱらから俺のとこに勝手に入り込んで、いい加減にしてくれ」
「朝じゃない。もう12時を過ぎている」
「何時だろうといいだろう!今日は休みなんだ。人の生活に干渉するな!」
「その様子だときのうは随分楽しんだようだな」
「うるせえ!」
「とりあえず服を着替えろ」
「ああ、着替えるさ!着替えるから兄貴暇だったらなんか朝飯作ってくれ」
「よしきた、もちろん3人前だろう」
「ああ、そうだよ!せっかく二人だけの朝を気持ちよく迎えようと思っていたのに・・・わざわざ邪魔しにきたのか」
「邪魔というわけでもないけどさ、南の島に行った時のビデオ、早く見たくて、俺んちにはないから」
「それで人のアパートに勝手に入ってビデオ見ていたのか!」
「いい、BGMになっただろう。波の音とか南国の音楽、あっそうそう、南国フルーツのみやげもあるぜ」
「せっかく行ったんだろう。なんですぐ戻って来たんだよ。兄貴は別に今こっちで用はねえだろう」
「先に帰ってきたのもすべて予定通りさ。まあ、今に見ていろ」
「またなにか余計なこと考えているんじゃないだろうな」

俺はイヤな予感がした。兄貴が張り切って何かしているときというのはたいてい何かよからぬことを考えた時で、その結果俺とクラウディーネが大変なことに巻き込まれる・・・それはもう子供の時からのきまりきったパターンである。

「コリン、誰かいるのか」
「おい、愛しのハニーが出てきたぞ。今日はまた一段とかわいいじゃないか。たっぷり愛してやった後だからか」
「うるせえな、ジャレッド、知っていると思うけど兄貴のイーモンだ。俺の部屋に勝手に入り込んでビデオを見ているというとんでもないやつだ。兄貴、さっさと朝食作ってくれ、俺達シャワーを浴びているから」
「お前達、シャワーも一緒かよ」
「当たり前だ。やっと一緒に暮らせるようになった。もう一瞬でも離れたくない」
「コリン・・・」
「冗談だよ、兄貴の前でそんなことできるわけないだろう。別々に入るよ。今だけはね」

冗談とも本気とも区別がつかない言い方をして俺はシャワールームへ入った。






お互いに無事シャワーを浴び終わった頃に兄貴はもう手早く三人分の朝食を用意していた。いろいろなアルバイト経験があるので、さすがにこういうことは得意だ。食べている間も南の島のビデオがつけっぱなしだったので、波の音がBGMがわりに聞こえた。

「コリン、寝ている間に波の音が聞こえたのは・・・」
「ああ、お前が今思ったとおりだよ。兄貴がずっとビデオを見ていたんだ」
「あ、マットとトモだ!うわーあいつらはしゃいでいるな・・・」
「兄貴、目的はなんなんだい?どうして俺の契約しているリゾートホテルにバンドのメンバー二人だけを誘っていった。正直に答えろ!」
「まるで刑事ドラマだな。お前、そういう役も似合いそうだ」
「ふざけるな!証拠はあがっているんだ!友人のボズからホテルのチケットを買っただろう。あいつはあいつで面倒なこと起こしてくれたし・・・目的はなんだ」
「はいはい、正直に答えますよ、刑事さん。本当は彼を誘いたかったけど、いきなりは・・・そのやっぱりはずかしくて・・それでまずバンドのメンバー二人を誘って外堀から固めようと・・・」
「どういう意味だ!」
「マットとトモ、あの二人けっこういいコンビなんだよな。バンドでのコメディだけじゃなくて、ひょっとしたら本気でつきあってもうまくいくんじゃないかって・・・ゲイ一筋の俺の勘なんだけど、、あの二人、きっかけさえあれば絶対うまくいく。ちょっとそのきっかけを作ってやろうと誘っただけさ」
「だけどあの二人、マットは興味はありそうだけど経験はないし、トモは経験も興味もまったくなさそうだけど・・・」
「そこだよ!そこが重要ポイントなんだ!ジャレッド、さすがに君は俺の弟が選んだパートナーだけある。ゲイというのは本当はそうであっても本人が気がつかないことの方がずっと多い。周りの目や常識に縛られているから、自分がそうであることを無意識のうちに否定してしまう。だけどいくら否定しても、その出会うべきパートナーに出会ってしまったら、後はどうしようもなく魅かれてしまうだけだ。君もそうだろう。自分がゲイだとは思っていなかった」
「は、はい。まあそうですけれど・・・」
「そういう目で見ていなくても、人はそのパートナーに出会ってしまったら離れられなくなる。あの二人、バンドのメンバーというだけならオフのとき別行動してもよさそうだけど、いつも一緒にいるだろう」
「それは、そうだけど、でも俺やシャノンとだって一緒に・・・・」
「君たちのバンドはただ仕事で活動しているわけではない」
「それはそうだ。俺が自分の世界を作るために、最も感性が合いそうな人間を選んでバンドを作ったんだから」
「ジャレッド、君の感性は素晴らしいよ。何千人もいる周りの人間から見事魂が触れ合う本当のパートナーを一組選び出した」
「兄貴、外堀の話はもういいから、目的を話せ。目的はシャノンだろう」
「ああ、もちろんそうだ」
「そこまでの理論と計画性があるなら、俺はもう口出ししない。ただし、うまくいかなくてもともとだ」
「わかっている。お前たちに迷惑はかけない」

目の前のビデオでは相変わらず美しい海とそこではしゃぐイーモン、マット、トモの3人が映っている。兄貴の話にだまされているのか、俺の目にもこのマットとトモがベストパートナーのように思えてくる。ジャレッドも同じこと考えているらしい。俺達は目で合図して頷き合ってしまった。



                                              −つづくー



後書き
 兄、イーモンの勢いもすごいです。せっかくの二人の初めての朝を邪魔しにきたのに、自分の理論を唱えて納得させてしまうのですから・・・外堀を埋めたところで、あとは本陣突撃でしょうか(笑)
2006、3、31



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