(2) ファミリー

「まあ、コリン、大きくなったわねー!会いたかったわー」

ダブリンにある実家に帰ると、ママが飛び出してきて大げさに俺を抱きしめた。27になった息子に対して毎年大きくなったはないと思うのだけど、ママは必ずこう言う。俺はどんなに忙しい時でもクリスマスシーズンのこの時期だけは必ず実家に帰って家族と過ごすことにしていた。俺だけではない、姉のクラウディーネも兄のイーモンも必ず同じ時期に帰ってくる。俺達兄弟は普段はそれぞれ勝手なことやっているが、それでもクリスマスには毎年集まるようにした。会って別に何か特別なことをするわけでもないが、それでも実家は懐かしい。

「もうクラウディーネもイーモンもとっくに帰ってきてるのよ。お前はぎりぎりまで仕事があったの」
「うん、撮影にはまだ入ってないけど、監督といろいろ打ち合わせがあってさ、歴史物の主役に選ばれたからいろいろ調べなければならないし・・・」
「クラウディーネから聞いたわ。すごい映画に出るんでしょ。お前の活躍は素晴らしいわ!この近所でも評判になっているのよ。コリンはいつ帰ってくるってみんなが聞きに来るの」
「あんまり大騒ぎして欲しくないな。俺、飛行機であんまり眠れなかったから、少し休んでいいか」
「ごめんなさいね、さ、早く入ってゆっくり休んでちょうだい」





自分の部屋に入ってベッドに寝転んだ。今年はいろいろなことがあった。思いがけず歴史大作の主役に抜擢されたし、変わった方法で相手役のオーディションをやってもらったら、思いがけない相手に出会うことができた。あいつとはきっと前世からの縁で結ばれているに違いない。島を出てからもう一ヶ月が過ぎていて、一度も会っていない。撮影中でもないのに、この俺が一ヶ月もやらないなんて、これはもう最高記録かもしれない。雑誌で見つけて切り抜いたジャレッドの写真を取り出して眺めた。

「もう一ヶ月になるぞ。俺はそろそろ我慢できなくなってきた。お前は大丈夫なのか」

ライブツアーは二週間の予定のはずであったが、思いがけず評判がよくてチケットが連日売り切れ、二週間延長するという電話がかかってきた。あいつの仕事がうまくいっているのはうれしいが、その分俺は悶々とした毎日を送っている。やっぱりあいつは特別だった。この俺が一ヶ月もの間他の男や女と寝る気になれず、自分で処理するようになったのだから・・・疲れて眠いはずなのになかなか寝付かれない・・・目を閉じてあの夜のことを思い浮かべながら自分のものに手を伸ばしかけた・・・・

「おい、コリン!帰っているんだろう。どうして俺に挨拶もしないで部屋にこもっているんだ!」

突然の大声がして兄のイーモンが入ってきた。俺はあわてて手を引っ込めたが、気づかれてしまったらしい。

「なんだよ!いきなりノックもしないで部屋に入ってきて!」
「俺達は兄弟だろう、そう固いこと言うなよ」
「今飛行機に乗って帰ってきたばかりだ。疲れているんだからあっちへ行ってくれ」
「ほう、俺と違って映画スターのお前はスケジュールが詰まっているのか。それで恋人にも会えずに一人で悶々と・・・・これがお前の新しい恋人か。すっげえかわいいじゃんか!今度俺にも紹介してくれよ・・・・てお前がするわけないな」

イーモンの手には枕元に置いてあったジャレッドの写真の切り抜きが握られている。

「何をする!返せよ・・・」
「ジャレッド、レト・・・・ハリウッド映画の俳優でありながら、バンド活動もし、ライブツアーが大好評・・・・こういうのがお前の趣味か」
「返せよ、いい加減にしてくれ、ただの共演者だ。次の映画で共演する」
「お前は映画の共演者と片っ端から寝ているからな。こいつとはもちろんもうやっているんだろう。それで会えない時でも思い出し、自分を慰めている。ママにはもう話したのか」
「男の恋人のこと、親に話すやつがいるか」
「そうだよな、特にお前はママに期待されているし・・・俺は男しかだめだから、子供ができることもあきらめられているけれど、お前はどっちでも大丈夫だろ。早く孫の顔が見たいって俺がいつも言われている」
「クラウディーネは?」
「あれもだめだ。お前のマネージャーやってハリウッドスターに会えると喜んでいるけど、サインもらって喜んでいるだけでちっとも結婚する気配がない。子供ができる確率が一番高いのは我が家ではお前しかいないんだよ」
「俺だって当分結婚する気はない。今は仕事のことで頭がいっぱいだ」
「新しい恋人に夢中なんだろう。まあ、このことはママには黙っていてやるからさ。あんまりがっかりはさせたくないからな」





まだクリスマスの前の日なのに、その日のご馳走はすごいものだった。ローストビーフ、ローストチキン、七面鳥の丸焼き、ステーキ、ロブスター、ケーキ・・・などなどこの季節にスーパーで特別に売られているものは何でもそろっていた。

「さあ、さめないうちになんでも食べてちょうだい。パパは仕事で帰りが遅いっていうから、お前達先に食べてちょうだい」
「ママ、昨日の夕食とは随分差があるな。コリンをそんなに太らせていいのか」

イーモンが文句を言うとクラウディーネが弁解してくれる。

「大丈夫よ。今度の役は古代の英雄だからトロイのようによくきたえて筋肉をつけるように言われているの。肉はたくさん食べた方がいいんじゃない」
「そうでしょう、イーモン、ママは別にコリンだけを特別扱いしているわけじゃないのよ。お前のことだって愛している」
「はいはい、いいですよ。どうせ俺はぱっとしないできそこないの長男ですから」
「イーモン、いい加減にしなさい。さあ、早く食べましょう」

ママもイーモンも口ではいろいろ言っているが顔は笑っていてやっぱり家族なんだとほっとする。普段の生活ではこうはいかない。華やかに見えるハリウッドスターで、みな表面的にはにこやかにつきあっているが、裏ではいろいろな足の引っ張り合いや争いがあり、いつも緊張を強いられる。安心して自分をさらけ出して付き合えるのはやはり家族と小数の友人だけだ。





「それでねえコリン、今年は少し長く休暇をとってもらえないかしら。親戚とかお前に会いたいって人、たくさんいるのよ」
「大丈夫よ、来年の春から撮影前のトレーニングをするって言われているから、冬の間はゆっくりできるんじゃない」

俺の代わりにクラウディーネが答えてしまった。マネージャーをやっているから俺より詳しくスケジュールを知っているのだが、俺のプライベートな予定に関しては全く考慮してくれない。ジャレッドが確か12月26日にライブツアーが終わり、その日はちょうどあいつの誕生日でもあるから、最後のツアーを見てそのまま一緒に暮らし始める計画でいる。そうすると25日にはダブリンを出発しなければならず、たったの5日しか滞在できなくて、ママをがっかりさせることになるが、俺も早くあいつとの生活を始めたい。

「ごめん、ママ・・・・俺、25日にはここを立たないと・・・」
「まあ、そんなに急いで・・・・他の仕事でもあるの」
「いや、仕事ではなくて、プライベートなことなんだけど・・・いまつきあっている人の誕生日が26日で、その日から一緒に暮らしたいと思っているからさ・・・・」
「まあ、コリン!お前にそんな真剣に考えてお付き合いしている人がいるなんて!誕生日や記念日はとても大切なのよ。誕生日の日から一緒に暮らし始めたいなんて、本当にその方のこと大切に思っているのね。こっちのことは心配しなくていいのよ。ぜひその人のことを優先してあげて・・・・・なんだかとてもうれしいわ。来年はお前の素晴らしい演技をスクリーンで見られて、それにもしかしたら・・・・なんだかママ、気分がよくて少しワインで酔ったみたい。さあ、イーモンもクラウディーネもどんどん食べて飲んで・・・・」

あいまいな話し方をした俺が悪かったのだろうか。ママは大きな勘違いをしているようだ。でもまあいますぐ真実を話さなくてもいずれわかってしまうことだし・・・・・イーモンが俺の方を見て意味ありげに笑っている。ちくしょう!元はといえばお前が悪いんじゃないか。普通に結婚して家庭を持っている兄貴がいたら、俺はこんなことで悩まずにすんだはずだぞ!



                                                −つづくー




後書き
 さてこちらはコリンの家族、正真正銘のゲイの兄と全く結婚する気のない姉がいて、ママの期待を一身に背負ってしまうコリン、ジャレッドと同じように家族に秘密を作ってしまいました。
2005、12、21


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