(20)訪問者

俺の部屋にジャレッドのバンドのメンバー、マットとトモもやってきて、ますます話はややっこしくなってきた。まあ元はといえば俺の兄貴のイーモンがジャレッドの兄シャノンを狙って、まずは周りの人間を味方につけようと二人を南の島になど誘ったわけだが、その二人は兄貴の思惑以上の結果を出して今目の前にいる。

「俺、トモと結婚したい」

まずはマットが爆弾発言をした。言いたいことはわかる。俺だってジャレッドとのこと、本当はきっちり世間に公表して二人で堂々と暮らせるようにしたい。だが相手が女ならそれは簡単だが、男となるとそうはいかない。俺はハリウッドスターの中でもかなりいい加減なタイプの男に見られているので、女と付き合った、別れた、婚約したなどという話題が出てもファンは少しも驚かない。男とホテルに入ったというゴシップが流れても、ああ、あのコリンならやりかねないと黙認されてしまう。だが同じ俳優であるジャレッドと本気で付き合い同棲しているなどということが世間にバレると事態は違ってくる。本気ともなれば俺を見る世間の目、そしてそれ以上にジャレッドへの評価が大きく変わってしまう。あいつの今の立場を考えれば公表することなどとてもできない。それにシャノンの反応も気になる。シャノンはジャレッドがゲイ雑誌に写真を載せられていたというだけでも怒り出したという。

「なあ、マット、落ち着いてよく考えろ。俺達の関係は変わった。俺達は愛し合って関係を持った、これは紛れもない事実だ。だが俺達のような関係を一般のファンは受け入れてくれるか?同棲だって難しいかもしれない」
「そんなもんなのかな」
「お前は以前からゲイ雑誌を読んで、そういうタイプの人間がこのアメリカに以外に多くいることを知っているんだろうが、それでもやっぱりこういう関係は少数派だ。数にすれば1パーセントにもならないだろう。大多数の人間はそうではない普通の人間だ。そして彼らは俺達が同性愛者だと知ったらそれだけで嫌悪の目で見るかもしれない。ファンがみなそうなったらバンド活動はおしまいだ」

思い込んだら突っ走るマットに比べ、トモはかなり冷静だ。

「おい、ジャレッド、お前はどう思う。お前の方が俺たちよりこういう関係長いんだろう」

マットは今度はジャレッドに話をふってきた。

「俺は・・・コリンに会う前は自分はストレートだと思っていたし、同性愛やゲイは自分には全く関係ない世界だった。もしコリンに出会わなければ今でもそうだと思う。だけど俺達は出会ってしまった。生きていくうえでどうしても出会わなければいけない相手だったんだ。そのために俺は今までさんざん回り道をしながらも役者になり、バンドをやってきた。すべてはひとつに結びついている。出会わなければならない本当のパートナー、それは男とか女とかそういうことは結局関係ないんだよ。俺にとってコリンが本当のパートナーだし、マットとトモがそういう関係だったのもうれしい。だがこの話は俺達の間だから喜んで話せることだろう。トモの言うとおり普通のファンは俺達のこういう関係に嫌悪するだろう。俺達がバンドのメンバーであり、役者である限りファンには夢を見せなければならない。少数派の関係など見せるわけにはいかない」
「そうだよな、俺のようないい加減な俳優ですら、いい加減な一夜限りの関係はいくらでも公表できるけど、本気の関係は隠さなければならない。カジュアルセックスが俺のキャッチフレーズだから・・・」
「カジュアルセックスか、今そういうこと全然やってないだろう。コリン、俺と付き合うようになったこと後悔しているか」
「するわけないだろう。お前以上の男はいないから・・・・」

普通人前ではこういうこと言わないだろうが、俺は思っているとおりの言葉を素直に言った。実際ジャレッドと付き合うようになって他の人間とのセックスには全く興味がなくなった。肉体的、精神的に深い満足感が得られて、さらに前世からの強い絆まである相手を得た今、例え肉体関係だけでもいい加減なことはしたくはない。

「うらやましいな、そういう関係・・・」

マットがため息をついた。しばらく沈黙が続いた。





突然トモの携帯が鳴った。

「あ、シャノン、ああ今戻ってきた。悪い、すぐに連絡入れなくて・・・ジャレッドのとこ、あ、いやコリンのところに来ているんだ。いいホテル使わしてもらって最高のバカンスを楽しんできたから、お礼を渡さなければと思って・・・ジャレッド・・・ええとジャレッドは・・・」

トモはうろたえながら俺達の方を見た。ジャレッドと俺の関係をシャノンに知られてはマズイがこんな明るい昼間だったら俺の部屋にジャレッドが来ていても問題ないだろう。俺は大きく頷いた。

「ああ、悪いシャノン、声がよく聞こえなくって・・・ジャレッドも今コリンの部屋にいるよ。あいつも大変だよな。役作りで筋トレはあるは歴史の本を読まなければならないわで・・・女優と付き合って同棲しているんだって・・・ああ、そうらしいな、忙しい男だよ、いろいろと、え、ジャレッドに変われって・・・ちょ、ちょっと待って・・・・」

またトモが実に不安げな顔で俺達の方を見る。ジャレッドが意を決した表情でトモの携帯を受け取った。

「あ、兄貴、俺だよ、ジャレッド・・・うん、大丈夫だよ、元気だから・・・え、会いに来たい・・・コリンの部屋今から行ってもいいか・・・いいよ別にお礼なんて俺からよく言っておくから・・・そんな気を使わなくても他人じゃないから・・・ちょ、ちょっと兄貴・・・あれ・・・切れてしまった。これってもしかして・・・・」

ジャレッドが泣き出しそうな表情で俺達の方を見る。

「俺、シャノンに何かマズイこと言ったかな」
「言った!他人じゃないと言っただろう。コリンと他人じゃないなら一体どういう関係なんだよ。そこんとこ突っ込まれたらどうする」
「あ、俺、他人じゃないとそんなこと言ったっけ?」
「言った、言った、確かに言った」

マットが得意になって言っている。

「兄貴にもう一度電話しとかなきゃ、あー俺携帯に充電するの忘れてた!ちょっとトモの貸してくれ・・・えーとシャノン・・・シャノン・・・ただいま電源をお切りになって電波が届かない状態で・・・こっちへ向かっているのか・・・ど、どうしよう」
「え、シャノン来るのか。俺達いなくなった方がいいのか」
「だめだよ、マットもトモもいてくれなきゃ、今ここにいると言ったばかりだろう」
「あ、そうか」
「俺達の関係もシャノンに知れたらマズイよな」
「当たり前だ・・・ああ、どうしよう・・・いいか、俺達はあくまでも南の島のバカンスを楽しんだ、ということにするんだ。ジャレッドは役作りのためオフの日もコリンと一緒に勉強、そういうことにしよう。おい、シャノンがここに来る前に証拠になりそうなものを隠しておくんだ」
「証拠になりそうなものって・・・」
「俺達のペアのTシャツとかおそろいのハートマークのマグカップとか、シャノンやコリンの土産になりそうなものだけ残しておいて、二人にもハートのマグカップ買ったけど今は包みを開くな・・・写真も抱き合っているのはだめだぞ・・・友達らしく映っているのだけ」
「ジャレッドのものもチェックしておいた方がいい。下着とか歯ブラシなんかここにおいてあったら同棲しているのすぐにバレてしまう」
「シャノンそこまで見るかな・・・」
「念には念を入れないと・・・」

なんだかんだ言いながらも3人は実に手際よく動いて証拠隠しを始めた。バンドのツアーでは突然予定が変更になったり、急いで次の会場に行かなければならないことも多いらしい。すばやく荷物をまとめるのは得意なのだろう。と、突然ドアのチャイムの音がした。シャノン、早すぎやしないか・・・もうきたのか・・・だけどあんまり待たせては・・・・・






「あ、兄貴!なんの用だ!」

そこに立っていたのはシャノンではなく俺の兄のイーモンだった。

「なんの用って、兄が弟のとこ用もないのに訪ねたらいけないか。お、他にも訪問者がいるようだ。マットとトモか・・・ちょっと話しがしたい。入ってもいいか」

俺がいいとも悪いとも言わないうちにイーモンは中に入りマットやトモと抱き合ったりしている。

「いいか、兄貴、もうすぐシャノンがここに来る。俺とジャレッドの関係、それからマットとトモの関係、いいかい絶対にシャノンにはバラすなよ!」
「え、シャノンが来るんだって・・・ラッキー・・・今日はなんていい日だ」
「俺の言うことを最後まで聞け!」
「聞いてるよ、お前とジャレッドの関係をバラすな、ということだろう」
「それだけじゃない、マットとトモもだ」
「本当か。あの二人も俺の思っていたとおり・・・いやーホントにそうなるなんて・・・うれしいよ・・よし今夜はお祝いだ!」
「その前にやらなければならないことがある。いいか、兄貴は少し黙っていてくれ!」
「なんだよ。俺もなにか手伝おうか」
「何もしなくていい。兄貴はただここに座って黙って動かないでいてくれれば・・・」

てんやわんやの大騒ぎになってしまった。


                                               −つづくー






後書き
 話はどんどん複雑になっていきます。正直に告白できれば楽なのだけどそうもいかずに・・・
 2006.4、21




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