(22)陶酔

俺の兄貴は本当に使えない。シャノンが尋ねてくることになって、近くまで出迎えに行ったはずなのだが、どこでどうすれ違ったのか間違えて裏口から入ろうとしたシャノンはすぐセキュリティーに捕まってしまった。ここはセキュリティーがかなり厳しい。そのおかげで勝手に写真を撮られたり、プライバシーを覗かれたりという心配は全くないのだが、外部の人を招待するにはそれ相応の準備が必要になってしまう。そのために兄貴をわざわざ迎えに行かせたのだが、まったく役には立ってくれなかった。もっとも俺の兄貴に役に立つことをしてもらおうと期待してはいけないのだが・・・・

「ここ初めて来たけど、へえー中はこうなっていたのか。すげーなーなるほど、これならしつこい記者に付きまとわれることもない」

ジャレッドの兄、シャノンはしきりにあたりをキョロキョロしている。

「どうもすみません、手違いでいやな思いをさせてしまって・・・・」

兄貴は必死にシャノンの気持ちをなだめようとしている。セキュリティーに捕まるなんてあまり気分のいいことではないだろう。

「いや、いいですよ。セキュリティーなんて警察に比べればずっと親切で扱いも丁寧だから・・・」
「け、警察に捕まったこともあるのですか」
「ああ、かなり前だけど、ジャレッドが振られてひどく落ち込んでいたから、酒を飲みに誘ったんだ。ジャレッドのやつ、やたら飲みすぎて俺もけっこう飲んでいて、気がついたら二人とも暴れて店のコップとかかなり壊していたらしい。警察に通報されてそのまま捕まった」
「俺、その時のこと全く記憶にない」
「とんでもない弟だ。しかもよ、初めて映画の出演、通行人程度の役だけど決まっていて、3日後に撮影が始まるって時にだよ。まあそんなタイミングで飲みに誘った俺が悪いけど・・・俺は必死で嘘を考えて、ジャレッドだけは翌日すぐ出してもらえるようにした。自分は1週間も捕まっていたけど・・・」
「へえーそれはバンド組むよりもずっと前のことだろう」
「そうだ、ジャレッドが二十歳ぐらいだったかな。いや、もっと後だ・・・・あの頃のジャレッドは荒れていた。何をしたらいいかわからず、いつもピリピリしていた。今は大分落ち着いてきたが・・・」
「悪かった、兄貴には随分迷惑をかけた」
「だけどそういうジャレッドがいたから今の俺達のバンドがあるんだろう」
「まあ、そういうことだ」
「ここで立ち話をするのもなんだから、とりあえずコリンの部屋に行きましょう」

イーモンはまるで自分の部屋にでも案内するようにみんなを俺の部屋へと案内した。





部屋に入るなり、南の島で取ったビデオをつけたり、冷たい飲み物や珍しい南国の果物を切って出したりと、兄貴はまめまめしく働いている。そうしながらも彼の目はシャノンの方をじっと見ている。そのシャノンはさっきからビデオをじっと見詰めて、自分に向けられる兄貴の視線など、まるで気がついていない。

「いいところだな、マット、トモ、どうだった?」
「ああ、すごいよかったよ、俺達二人、ずっとサーフィンやっていたし、ダイビングとかパラセーリングにも挑戦したんだ」
「へーそんなにいろいろできるのか」
「体験も全部ただなんだ。朝昼晩、全部バイキングで食べ放題だし、また毎日内容が少しずつ違って味付けがいいんだ。俺かなり太ったかもしれない」
「俺はそうでもないぞ、食べることは食べたけどよく腰、じゃない体も動かしていたからさ・・・」
「サーフィン、やってみたいな」
「次はぜひみんなで行きましょう。コリンとジャレッドの撮影の時・・・・」
「まだ行かれるのか」
「チケットは余っています」
「ジャレッド、いいか?お前が仕事で忙しい時に俺達だけ遊んでいて怒らないか」
「別に俺はいいよ」
「それならスケジュール表を見て予定を立ててみたら・・・・」

兄貴のやつ、すっかり旅行会社の添乗員気分になっている。俺はもう知らない。こっちは役作りで忙しいのだから・・・なんだかんだ言って月日はあっというまに過ぎてしまう。俺もジャレッドも体の方はトレーニングを積んでそれらしい体型になってきたが、まだ役をやる上でこれだ!と思えるものを掴んでいない。二十歳で王になり、短い生涯で広大な帝国を作り上げたカリスマ的な王、アレキサンダー、どのように演じればいいのだろう。





「俺、まだヘファイスティオンが掴みきれてないよ。お前とこうして愛し合って、幸せな気持ちでいるけど、ヘファイスティオンはそうじゃないって気がして・・・うまく言えないけどさ・・・俺とは違うんだよな」

みなが帰った後のベッドの上、互いの体を探りながらジャレッドはこうつぶやいた。

「お前がそうなら、俺はもっと難しいよな。カリスマ的な伝説の王だぜ、今の俺と全く違うじゃないか」
「お前はカリスマだよ。一度愛されれば夢中になってしまう」
「それだけか、俺はテクニックでカリスマになれるのか」
「違う、お前はただ立っているだけで圧倒的な存在感がある。俺とは違う。俺は役作りで随分筋肉をつけた。ボーカルで声を枯らすほど歌っているし、声もでかい。だけど俺の存在感ってなんだ?個性ってなんだ?大勢の人間の中で本当に目立つことができるのか?昼間兄貴が言っていたけど、俺は記憶がなくなるまで酒を飲み、警察に捕まったことがある。兄貴がうまいこと言ってくれて翌日には釈放されたけど、そこでいろいろな囚人の顔を見てつくづく思ったよ、俺は凶悪犯人とかの役は絶対できないだろうなって・・・犯人だけではない、ヒーローだって誰もが注目する主役にはなれない。画面に登場するだけでみんなが注目するような存在感が俺にはないんだ」
「存在感か・・・映画スターにとっては必用なことかもな・・・・だけど役者にとって存在感というのはそんなに必要なことか・・・俺はどんな役をやっても、俺自身が出てしまう、コリンという自分が違う衣装を着て違う舞台セットでしゃべっているだけのようにも感じるんだよ。それ以外の役をどう演じたらいい。アレキサンダーではコリンを出したくはない。歴史の人物としてその世界で生きてみたいんだ」
「結局俺達、同じところで悩んでいるのか」
「いいさ、悩めば・・・・心が悩んでいてもお前の体は本当に素直に反応する」

俺はジャレッドの熱い体の奥に指を差し入れた。低い呻き声を上げ、うれしそうに啼く彼の内部を探れば、俺自身もいやでも興奮してくる。欲望に突き動かされ激しく刺し貫く俺をジャレッドは喜びとも苦痛とも区別がつかない声で迎え入れた。






「ちょっと待ってくれ、お前、鞭とかもっているか」
「そんなもの、あるわけないだろう」
「じゃあ、細いベルトでもいい。なるべく細いやつで思いっきり打ってくれ」
「おい待て、何を突然言い出すんだ」
「知っているだろう。俺がマゾだっていうことは・・・・」
「お前、ただやるだけで充分気絶するだろう。ベルトなんてやめておけよ。傷跡がずっと残るぜ」
「見えない場所にすればいい。なあ、頼む、何か掴めそうなんだよ・・・・試してみないと・・・」
「おい、あんまりへんな方向に行かない方がいいぞ」
「大丈夫だ。俺にとって必用なことだから・・・・」

ジャレッドは立ち上がり、クローゼットの中を見ると1本の細い皮のベルトを取り出してきた。

「これだ、これ、さっき部屋の片付けをしていた時、ちょうどよさそうだと思ってみていた」
「ちょうどいいってお前・・・・」
「そんな大げさな顔するなよ。ほんの2,3回、試しに打ってみて、どんな感じか試してみたいだけだ」
「2、3回だけだぞ」

俺は試しにベルトを手に持ち、ジャレッドの尻に当てたが音はほとんど出ない。

「それじゃ全然だめだ。もっと力を入れてうなるような音を出さなければ・・・」

もう一度力を入れて振り下ろした。鋭い鞭の音とジャレッドの悲鳴が聞こえた。続けて3回ぐらい同じ事を繰り返した。

「もういい、もういい、やめてくれー・・・お前力いっぱいやったな・・・ああ・・・痛え・・・ヒリヒリする」
「だから言っただろう・・・もうやめておけ・・・・」
「体が熱くなってくる・・・打たれたところが・・・スゲエよ・・・痺れて震えている・・・早く来てくれ・・・今なら最高の・・・」

ジャレッドは誘うように尻を高く上げて突き出し、俺はその穴に望みどおりのものを入れた。中は熱い体液で満たされ、とろけるような感触になっていた。

「ああー気持ちいい・・・俺達やっぱりおかしいよな・・・なんていいんだ・・・体中から液体が溢れ出ているよ・・・信じられない・・・俺は男なのに・・・」

激しく腰を動かす俺に捕まれて、ジャレッドはけもののようにひくひく動き、喘ぎ声を漏らし続けていた。

「もう少しほしいか」
「ああ、好きなだけやってくれ・・・・」

俺達はもはや理性を失い、立場も忘れていた。いったん体を離し、ベルトを手に取り、さらに力を入れて振り下ろした。ジャレッドの鋭い悲鳴は感極まりない喜びの声のようにも聞こえ、俺は夢中になって同じ動作を数回繰り返した。




                                                 ーつづくー




あとがき
 あーあ、とんでもない展開になってしまった・・役作りの行き詰まりからつい・・・でもこういう感覚すごくよくわかります(自分だけかもしれないが)
2006、5、12




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