(28)過去と現在

長い夢から覚めて俺はしばらくの間呆然としていた。頬には涙の痕が残っている。喉はひりひりしている。ずいぶんたくさん泣き、叫んでいたような気がする。

「おい、コリン、お前水を飲め」

ジャレッドの言葉はいつも直接的である。ヤツは言葉に対して独特の感性を持っている。自分の中にあるものを、空中に浮かんでいるものを直接まるめて言葉にして人に投げつけるようなところがある。言われなくても俺も喉が渇いていたのでコップから水を飲んだ。

「おかしいな、お前の飲んだ水、俺のところにちっとも流れてこないじゃないか」

この言葉を聞いてようやく俺はジャレッドが何を言おうとしているのか理解することができた。夢の中で見た奇蹟、水を飲むことができないジャレッドは全身の渇きで苦しそうに呻いていた。そんな姿を見てられなくなった俺はある決心をして目の前で水を飲んだ。神は俺達を救った。俺の飲んだ水はジャレッドにも流れ込み、体の隅々までもを潤した。だがそんな奇蹟はそのときだからこそ起きたのだろう。

「ジャレッド、無理だよ。今の俺達の生活の中で奇蹟は起こらない。そんな必用ないだろう。ただ俺達がこうしてまた出会ったこと、それこそが奇跡だ」
「そうだな・・・・お前はあの夢の続きは知っているか」
「わからない、俺の記憶はそこまでは。お前はどうだ?」
「俺も今はわからない・・・まさかあのまま二度と会えないっていうんじゃないだろうな!俺はそんなのはいやだ、同じ時代、同じ場所で生まれてきていながら・・・」
「きっとまた会えたさ・・・俺はそう信じている。あれだけの奇蹟を起こしたのだから・・・・」
「今の俺にとっての奇蹟はお前のここか・・・・」

ジャレッドは俺の体に擦寄り股の間をしきりと触ってきた。そんなことをされれば俺のそこはたちまち固く大きくなる。

「やるたびに思うけどさ、よくこんな固くて太い物が俺の狭い穴に入るよ。考えてみればスゲー拷問だよ。特にお前の物は大きいから今でも緊張するし、意識がなくなるし・・・」
「いやなら回数減らすぜ」
「それだけの思いをするのになぜまたすぐに求めてしまうんだろう。よっぽど前世からの因縁があるんだろうな」
「そうだな、悲しい思いをした分、求める気持ちも強くなっているんだよ。何か塗ろうか」
「このままでいい」
「お前相変わらずだな」
「この突き刺すような痛みが好きなんだ。お前の先が俺の入り口を刺激するとそれだけで震えがくる。無理やり差し込まれた瞬間はこの世のものとは思えない激痛が走る。お前は俺の苦痛を長引かせるためにわざとゆっくり入る。俺は声を出さないよう必死に耐えるさ。少しずつ内部を擦られ奥へと異物が侵入する感覚はたまらない。そうこうしているうちにお前は俺に激しく欲望をたたきつける。俺はもう狂ったように泣き叫び、絶頂の中で生き絶えたかのように意識を失う」
「おい、俺いつもそこまでやっているか?」
「そうではないけど、俺はそんな感覚が好きなんだやっぱり少しはマゾなのかな」
「少しなんてもんじゃないぞ、お前は正真正銘のマゾだよ」
「じらさないで早く入れてくれよ。俺の言ったとおりにな」
「お前の要求は難しすぎる」
「前世でいつも俺は耐えていた。繰り返される暴行の痛みと屈辱に、ただお前のことだけを思って耐えていた。お前の姿だけを夢に見て、苦痛を我慢していた。あんまり我慢ばかりしていたから、そのうち痛みですら快感になったのだろう・・・どんな痛みを与えられても、お前に触れる喜びだけをたよりに生きていた。それなのに去勢されてお前と引き離され、王宮に閉じ込められてあの後、あいつは、いや俺はどうやって生きていったんだろう。まさかお前の飲んだ水が伝わってきたって、その奇蹟だけを信じて、生まれ変わりを信じて生きていたのか?」
「ジャレッド、あの時代も今も、俺達は繰り返し出会ってきた。そう信じよう。今俺達には前世にかかわらず、俺達の世界がある」

俺はゆっくりとジャレッドの体を押さえつけ、体内へと侵入した。彼が何を望んでいるか、手にとるようにわかるから望みどおりに喘ぎ声を出させ、やがてそれは叫び声となる。俺も興奮して下半身に力を籠める。何度繰り返しても決して飽きることのないこの行為、深い満足感、俺は心の中で何度も何度もつぶやいた。

「ジャレッド、俺は前世では何一つお前を救うことはできなかった。だから今はお前の望むとおりのことをする。変態マゾウサギのジャレッド、お前が苦痛に耐えて意地を張っている顔は、何よりも俺に強い興奮を呼び起こす。俺に生きる力を・・・生きる喜びを・・・・」






電話の音がする。まだ暗いじゃないか!今日はオフの日だからと快く楽しみ、長い長い前世の夢まで見てぐったり疲れて寝ている時になんで電話なんかかけてくるんだ。まだ暗い・・・・少しは明るくなっているかもしれないがこんな時にかけてくるのは兄貴ぐらいだ。バカ兄貴!何度言ったらわかる。電話をするときは時間帯に気をつけろ!俺は裸のまま、渋々受話器を取った。

「こんな時間にイーモンか!なんの用だ!」
「ごめんなさい、コリン、うっかりしていたわ、そっちはまだ夜だったのね」

ダブリンに住む母の声である。

「なんだ、ママか、ごめん、またあのバカな兄貴かと思って・・・・」
「イーモン、そっちでしっかり仕事しているようじゃない。あんまりこっちでは聞かない名前だけど、火星がどうとかっていうすごい有名なバンドのマネージャーをしているとか」

兄貴のことだ。ジャレッドのバンドのことアメリカですごい有名なバンドとでも言ったに違いない。

「ねえ、ママ、わかっていると思うけど、あの兄貴だよ」
「わかっているわよ、コリン、ママはもう古い習慣には捕らわれずにイーモンがどんな人と一緒に暮らしても祝福してあげようと思っているのよ。すごくうれしそうに話していたのよ。そんなに喜ぶなんて、今度こそ本気なのよ、そのバンドの人と・・・」

兄貴は本気かもしれないが、そのバンドの人というお相手、つまりジャレッドの兄シャノンはイーモンがそんな感情を持っているということすらしらない。

「それでね、コリン、パパがちょうど休暇が取れたから、明日の飛行機でアメリカに行く予定なの。クラウディーネ、イーモン、コリン、みんなアメリカで暮らしているんですものね。特にパパはクリスマス休暇にコリンに会えなかったからすごく残念がっていたの。いいわね。今一緒に暮らしている方もいるんでしょう。ママにもぜひ紹介して・・・・」

し、しまった!クリスマス休暇、ジャレッドの誕生日を祝おうと慌ててアメリカに戻り、好きな女の誕生日だと嘘をついていた。ジャレッドとの生活は刺激的で、おまけに両方の兄貴についていろいろあったからそんなことはすっかり忘れていた。落ち着け、落ち着けコリン、ジャレッドの兄シャノン以外にも自分の身内に秘密をバラしてはいけない人物がいるじゃないか。どうやってごまかす・・・ジャレッドに女装を・・・・いや、それはだめだ!絶対にいやだ!

「何がいやなのコリン、都合の悪いことでもあるの?」
「そんなことない、大丈夫だよママ、何時の飛行機でこっちに来る?」
「夕方にはそっちにつくわ」
「わかった、空港まで迎えに行くよ。それからホテルの予約はとってある?」
「ホテルなんて、あなたのところに泊まればいいわ」
「だめだよ、それは・・・彼女がいるし、俺もこっちでは結構有名なハリウッドスターなんだ。ホテル俺が予約しておくよ。たまにはパパとのんびり楽しめば・・・」
「わかったわ、じゃあホテルの予約お願いね。どうせまたイーモンが何かトラブルおこしてホテルでのんびりというわけにはいかないでしょうけど・・・」
「兄貴には俺がよく話しておくよ、じゃあな」

受話器を置いた頃、ジャレッドが目を開いて、けだるそうな顔で俺を見た。

「誰からの電話?こんな早い時間に・・・・」
「俺の母親だ」
「て、言うことはいずれ俺の母親っていうことにも・・・・」
「そんな冗談言っている場合じゃないだろう。どうする、お前のこと・・・・」
「お前もまだ話してない家族がいたのか?」
「当たり前だよ、兄貴は始めからあんなだから母ももうあきらめたけど、そのぶん早く俺が結婚して孫の顔を見せろと・・・」
「普通そうだろうな、で、どうする?」
「どうするって1日だけ昔の彼女に頼んで恋人の役をやってもらって、後はお前はただの友達ということで・・・」
「誰を選ぶんだよ・・・・」
「ブリトニーあたりがいいかもしれない」
「おい、ブリトニーは俺の彼女ということにしたばっかりだろう」
「あ、そうか、じゃあリンジーとか」
「いい加減だな、お前。今度は俺の元彼女、紹介してやろうか、キャメロンとか」
「おい、キャメロンはスゲー美人でお前と婚約したという噂もあったじゃないか。いいのか」
「いいさ、もう別れたんだから・・・・たぶんその頃から感じていたんだよ。俺は普通に結婚するタイプの人間じゃないって。お前と会ってそれがなぜなのかよくわかったし・・・」
「そうか、それなら頼むよ」
「俺たちってほんとよく演技ばかりしてるよな」
「仕方がないだろ。それぞれバラしてはまずい相手がいるんだし、それにそれが仕事なんだから・・・」
「まあ、そうだけどさ」
「ジャレッド、愛している・・・お前を抱くたびに幸せを感じる・・・もう決して俺の側を離れるな」
「俺もだよ・・・変態マゾウサギとか散々ひでえこと言われてもな」
「そんなこと言ったか」
「ああ言った。大体お前は忘れっぽいんだよ。前世のことだって思い出すのは大体俺が先だ」
「すまない。でも愛していることに変わりはない」
「それも俺の気持ちの方がずっと大きい。あれだけ痛い思いに耐えているんだから」
「それはお前がマゾだからだろう」
「まあな・・・・」

言い返せなくなったジャレッドは黙って自分の唇を少し舐め、俺の口へと押し付けてきた。こうなるとお互いにもう何も言えなくなる。



                                                    −つづくー




後書き
 前世ではなくもとの二人に戻るととたんにそれぞれが勝手なことをしゃべって言い合うようになります。ジャレにたいしていろいろ悪口言ってスミマセン。
2006、6、23










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