(29)突然の訪問

朝のけだるい空気の中、俺は再びコリンの太腿をなでた。たったそれだけのことで、ヤツの中心は勢いよく立ち上がる。それが自分の中に差し込まれる瞬間を想像し、俺も自分の中心をヤツの足に絡ませた。急ぐことはない、俺達には充分な時間があるのだから・・・・ドアのチャイムの音がする。

「おい、コリン、何か鳴っているぞ」
「ほっとけ、こんな時間に誰が尋ねてくるか!別の階と間違えたんだろう」

彼の指が俺の内部に差し込まれ、喘ぎ声を出した。これほど幸せな瞬間を俺は知らない。もっと強く、もっと激しく・・・指を飲み込んだ俺の内部はさらなる刺激を求めてのたうちまわった。たまらずに漏れる喘ぎ声はコリンの熱い口でふさがれ、唾液が流し込まれる・・・・またチャイムの音がする。

「うるさいなー!おい、ジャレッド、ちょっと見て来い」
「え、俺が・・・・」
「どうせ兄貴のイーモンだよ。俺が出たらあの兄貴、のこのこ入り込んでくるかもしれねえ。全く遠慮ってことを知らねえから・・・」
「俺が追い出すのか」
「お前が出て、その顔を見せりゃ、さすがの兄貴だってこっちの都合がわかり、出直してくるさ」
「俺、今どんな顔をしている」
「欲しくてたまらねえ顔だ、な、頼む、俺のこれ、急に小さくはならないからさ、いくら兄弟でもこんなに立てたままで会うのはまずいだろう」
「そりゃ、まあそうだ」

俺は吹き出した。突っ込まれていた指を引き抜き、あわててガウンのようなものを羽織ってドアへと向かった。コリンの兄がとんでもない人物であることはよく知っている。こんな兄貴がいることもコリンらしい、と言えば言えなくもない。家族のこと、兄弟のこと、問題は山のようにあるが、それでも今俺達は一緒に幸せに暮らしている。少しぐらいのトラブルや厄介ごとなど、どれほどお互い愛し合っていても一緒に暮らすことすらかなわなかった前世の人生に比べればどうということはない。俺は喜んでドアの方へ向かった。言葉は何も要らないだろう。コリンの兄イーモンはこういうことには敏感であるはずだから・・・またチャイムの音がした。俺はあわててロックをはずしドアを開けた。

「あ、あ、・・・・・・あの・・・・」







「こんなに朝早く、急に訪ねて来てごめんなさいね」

目の前にいたのはイーモンではなかった。がっちりとした逞しい体つきの四十代ぐらいの夫婦、コリンの両親に違いない。

「コリンは中にいるんだろう?まったくしょうがないな、こんな格好で外に出させて」

コリンによく似ているから彼の父に違いない。確か何かのスポーツ選手、サッカーだ、サッカー選手をしていて、今は監督だとか。ど、どうしよう、電話では明日と言っていたのに・・・・

「あ、あの、俺・・・・」
「君はコリンと同棲しているのか」
「ち、違います・・・・ただ一緒に住んでいるだけです・・・あ、違います。ただ一緒の映画に出演するだけで、その・・・」

世の中には相手役が渡された台本に書いてあるセリフ以外のことを言ってもうまく対応してしまう器用な役者も多いが俺にはそんな才能はない。足はガクガク震え、心臓はバクバク音をたて、今にも口から飛び出しそうになった。

「一緒の映画って、どんな映画なの?」

今度はコリンの母に質問された。どんな映画って、俺の役名なんていったっけ・・・こんな時にとっさには出てこない長い名前だ。ちくしょう・・・

「えっと、コリンはアレキサンダーで・・・・おーい、コリン・・・俺の役名は・・・」
「おい、ジャレッド、兄貴まだ帰らないのか。しょうがないなあ、俺が行って追い返してやるよ。だいぶ小さくなってきたし・・・」

ベッドルームからコリンの声がする。彼はまだこの事態に気づいていない。

「コリン!イーモンじゃないぞ。お前のご両親が・・・・」
「え、なんだって、よく聞こえないよ・・・・もっと大きな声で言えよ・・・・」

コリンが俺よりももっといい加減な格好で出てきてしまった。

「OH、MY、GOD!」

自分の信仰や普段の生活とは関係なくやはりピンチの時にはこの言葉を叫んでしまう。俺もアメリカ人なんだと妙なところで感心した。






数十分後、俺とコリンはきちんとした服に着替え、応接室で、コリンの両親と対面するような形でソファーに座った。

「あ、あの、俺・・・」

コリンが何か言おうとするがうまく言葉にならないらしい。こんな時俺が下手なことを言えば事態はもっと悪くなるから沈黙を守るしかない。

「正直に言いなさい、コリン、彼を愛し、一緒に暮らしているのか」
「は、はい、そうです」
「お前がゲイであるかどうか、それは個人の問題だから親が口を挟むことではないだろう。だがどうして正直に言わないでママを騙した?」
「それは・・・俺は映画スターだからイメージっていうものがあるし、イーモンがゲイだから俺までそうだって言うとママががっかりすると思って・・・・」
「イーモンは何事も正直だ。あれは正直すぎてうまくいかないことも多いようだが・・・それに引き換えお前は・・・立場はわかるがハリウッド・スターということでちやほやされて少しいい気になっていないか?お前の仕事での立場もあるだろうから、ゲイなどと公表はせず、世間には隠し続けてもいいが、なぜ、家族にまで嘘をつく」
「確かに俺、今まで男でも女でも近づいてくるやつは大勢いたから、いろいろなことやっていたけど、でもこのジャレッドに会って変わった。初めて本気で愛し、ずっと一緒にいたい、一緒に暮らしたいと思うようになった」
「まあ、そんなに本気だったら、なぜママに紹介してくれなかったの」
「がっかりすると思ったからさ、兄貴は完全にゲイで、俺もそうだと言ったら、孫の顔を見ることできないだろう。姉貴もあの調子だし・・・」
「そうでもないのよ・・・最近お付き合いする人ができたみたいだし・・・」
「どうせ、スターを追っかけて夢中になっているんだろう」
「違うわよ、あの子もあなた達のような弟を持って、いろいろ考えて真剣にお付き合いするようになったのよ」
「そうか、それなら俺は好きにして・・・・」

コリンがほっとしたようにため息をついた。

「完全に認めたわけではないぞ、ただ一緒に暮らしているなら、それはそうときちんと紹介しろ。イーモンなど聞いてもいないのに写真を見せびらかして、あれはまだ片思いなんだろう」
「そうだよ、まったく兄貴は兄貴で、まだ何も始まってないのに完全に舞い上がって・・・・」
「イーモンのことは置いといて、彼はなんていう名前だ」

コリン父が俺の方をじっと見た。付き合うのにふさわしい男かどうか観察しているようだ。もちろんコリン母の目はもっと厳しく俺の隅々まで観察している。俺の両親は離婚していて、今ではどちらにも年1回会うか会わないか程度の極めて冷めた付き合いしかしていないが、コリンの家では長い休暇には必ず家族全員が集まると聞いていた。母親というものは、息子がガールフレンドなどを紹介すると厳しい目で見てチェックをするらしい。ましてゲイの相手となれば・・・

「あ、俺、ジャレッドという名前です」
「ジャレッド、ジャレッドという名前なのね。まあ、なんてかわいらしいのでしょう。目がとっても青くてきれいなのね。ねえ、パパ、同性愛といってもこんなにかわいらしい子なら、許してあげましょうよ」
「俺は別に最初から子供の自由を認める方針だ。お前があんまりコリンは何か隠しているに違いないって、いつもそればかり言っていたから・・・・」
「ごめんなさい、パパ、ママ・・・俺はうそばかりついていたけど、でもジャレッドに対する気持ちだけは本気なんだ。ただ肉体だけや表面的な繋がりじゃなくて、もっと遠い昔から、魂の深いところで繋がれていたような気がするんだ」
「そういう相手に出会えるということは、幸せなことだ。大切にしてあげなさい。だいたいお前は末っ子で育ってきたからわがままなところがあるし、相手が年下だと急に態度が変わって偉そうになったりするんじゃないのか。あんな格好でドアの前に立たせて・・・」
「そうよ、コリン・・・あんまり苛めるんじゃないのよ。お前はクラウディーネやイーモンに鍛えられているからいいけど、この子はとても繊細な子じゃないの」

やれやれ、認められてきたのはいいけれど、俺はこの両親にはどんな目で見られているのだろう。年下、繊細、よっぽど若く頼りなく見えるに違いない。コリンが苛めるというのも本当の話だ。ヤツはかなりサドの気があり、苛めや攻めに相当のバリエーションを持っている。そうした一つ一つの場面は思い出すだけで顔が赤くなるから、なるべく冷静をよそわなければならない。

「楽しみだわ〜コリンとこの子の間には、将来どんなかわいい子ができるのかしら♪」

俺は飲み物を吹き出しそうになった。ちょ、ちょっと待ってくれ、俺達は男同士だぞ!子供なんかできるわけないだろう!

「ママ、俺達は男同士だぜ、子供なんてできるわけないだろう」

俺が思ったとおりのことをコリンがそのまま答えてくれた。兄もそうだがコリンの家族というのは普通の人間とはかけ離れた発想が次々と出てくる奇蹟の家族なのかもしれない。だとしたら俺は大変な男と付き合っていることになる。



                                                      −つづくー




後書き
 ついにコリンの家族にバレてしまいましたが、バレたらバレたでコリンの家族は意外とおっとり構えているような気がします。兄イーモンがパイオニアになって、両親は多少のことでは驚かなくなっているハズですから・・・
2006、6、30



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