(30)面談
俺とジャレッドが並んで座っていて、前には俺の両親が座っている。まあ、当たり前といえば当たり前なホームドラマのような状況なのだが、あいにく俺は戦争に出ていたり、近未来の特殊な状況に置かれている、という立場の役が多く、ごく普通のホームコメディの映画などにはあまり出演していない。この状況はどう考えてもコメディであろう。昔、先生と俺と母親の三者が話す面談というのがあったが、兄イーモンのずば抜けた個性的なエピソードに慣れていた母は、俺がちょっとやそっとのことをしても動じるということはなかった。だが今回は息子のゲイの恋人と対面するという難しい役を与えられているのである。さすがの両親もしばらくは言葉がでない。
「コリン、お前はこの男と同棲しているのか」
「え、まあ、そういうことになるけれど・・・・・」
最初に口火を切ったのは父の方だった。
「お前ももう二十歳を超えて、一人前に仕事をしている立派な大人だ。お前の生活についてとやかく言うつもりはない。ただお前の仕事、映画スターというものは、常に人目にさらされるし、その地位から引き摺り下ろそうとする、あるいはその立場を面白おかしく宣伝して金儲けをしようとする悪意は常に身近にある。彼もまた映画スターを目指しているのなら、そのあたりのこともよく考えてやって行動した方がいいんじゃないかな」
「俺は自分の将来、そしてジャレッドのことも充分注意している。だからこれだけセキュリティの厳しい、外部の者が容易に入れない場所に住んでいる。今までずいぶんいい加減な付き合いをしてきたが、このジャレッドに対しては本気だ」
「そこまで言い切れるなら、もう何も言うことはないな。ママはかなりショックを受けているだろうけど・・・」
「わかっているよ、それは・・・でも今の俺は誰か他の女と付き合ったり、結婚しようとしたりする気はまったくない。こいつと一緒にいることが今の俺の真実だから」
言うことはカッコよく言いながらも目を伏せた。母が何を思っているかは想像がつく。兄イーモンはしかたがないとしても、俺ぐらいはまともに結婚して孫の顔を見せて欲しい。そう思っているに違いない。チラリとジャレッドの方を見ると、普段態度の大きいあいつからは想像もできないほど、小さく縮こまって、消え入りそうな風情で座っている。こんないじらしい表情ができるのかと関心するほどに、また俺の欲情はメラメラと燃え上がってくる。
「すみません、でも俺、本当にコリンのこと愛しているんです。初めのうちはなんて強引なやつかと思ったけど、一緒にいるほどに、なんていうか、今までとは違う感情がこみあげてきて・・・どうしようもなく・・・」
おい、ジャレッド、お前こう言う場合は黙っていた方がいいんだぞ。考えても見ろ。お前が何をどう言っても状況は悪くなるばかりだ・・・ああ、困った、ジャレッドの顔を隅から隅まで見ている・・・そんなに見ないでくれ・・・ああ、俺の方が恥ずかしくなってくる。長い沈黙だ・・・ああ・・・どうしよう・・・・なにか言わなくては・・・・
「まあ、ほんとうにかわいらしいわね・・・コリンがあなたのこと好きになったというわけがよくわかるわ!こんなにかわいいんですもの、パパ、二人のことは認めてあげましょうよ!」
やった!というわけにはいかないが、母親も一応なっとくしたみたいだ。恥ずかしそうに小さくすわっているジャレッドの愛らしさ、これはもう特別な存在だ。
「この彼と、コリンだったら将来どんなかわいい子が生まれてくるのかしら、楽しみだわ!」
「そうだよ、ジャレッドならきっとかわいい子が・・・!!・・・ママ!勘違いしないでくれ!俺とジャレッドは男同士だぞ!男同士で子供なんか生まれるわけないじゃないか!」
「そんなことないでしょ、今は科学が発達しているから・・・試験管ベイビーとか、あとなんて言ったかしら・・・羊ではじめてやって、そっくり同じ子供が生まれるってのは・・・・」
「クローンだろう。だめだよママ、いくら科学が発達したって、男同士で子供ができるわけないって・・・・」
「あら、そうなの。イーモンはよく言っているわよ。今は科学が発達しているから、男同士でもいろいろな可能性があるって・・・試験管とか、そっくり同じ人間とか・・・」
「兄貴の言うことをまともに聞くな!イーモンの言うことは50パーセントは嘘で、後の49パーセントは妄想と願望だって言っているだろう!」
やっぱり兄貴か・・・・母にまでいろいろ吹き込んで、まったく何を考えているんだか・・・
「ところで、イーモンは何をしている。今アメリカに住んでいるんだろう。何とかっていう名前のバンドのマネージャーをしているとか」
「あ、それ俺、いや僕のバンドのことです・・・イーモンさんにはお世話になっています」
「君のバンドって・・・まさかコリンとイーモンは兄弟そろって一人の人間を・・・・」
「いえ、大丈夫です。イーモンさんが好きなのは僕の兄のシャノンですから・・・」
大丈夫ってことはねえだろう、ジャレッド・・・・お前の兄は俺の兄貴のことなんかこれっぽっちも・・・まあ、いいや、そのことを考えると頭が痛くなってくる・・・・・
「あなた、名前はなんて言ったかしら・・・」
「あ、ジャ、ジャレッドです」
「ちょっといいかしら、ジャレッド・・・・」
俺の母親は立ち上がってジャレッドの方に歩み寄った。こういう場合、次の展開はどうなるのか。先が全く見えない。ごく普通の家庭を扱ってホームコメディをやっておけばよかった。この場合、俺がひとまず母に抱きついて、感動の親子の対面でもやればいいのかな・・・・あ、だめだ、もう遅い、ジャレッドに抱きついてしまった。かなり大柄な俺の母に抱きつかれて、ジャレッドは目は白黒させ、口もパクパクするだけだ。
「コリンのことよろしくね。あの子、私の口から言うのもなんだけど、とってもいい子なのよ。ふざけているように見えるかもしれないけど、根は繊細ですごくやさしいの。相手の人のこと、絶対に傷つけたくないから、いつも自分が悪い振りをして、別れ話にしてしまうの・・・ほんとは寂しがりやなのよ・・・だからあなたのように心を許せる人が見つかって・・・・」
「ぼ、僕もうれしく・・・・コ、コリン・・・・」
ジャレッドは強く抱かれてまだ口をパクパクさせている。俺に向かってしきりに助けてくれと合図を送っている。こいつもまた特殊な役ばかり今まで経験して、普通の恋愛映画やホームコメディには縁がなかったらしい。
「後は二人の子供が生まれるのが楽しみだわ。あなたは何も心配しなくていいのよ。私は3人の子を育てたんですもの、任せてちょうだい。あなたのお母様は?」
「僕の家は、子供の時、両親が離婚して、大人になってからは父にも母にもほとんど会っていません」
「そうなの、ごめんなさいね。でもこれからは私のことを頼ってちょうだい」
「は、はい、頼りにします」
これが男と女との普通の結婚話で、長い間反対していた母が、ようやく心を許して彼女を抱きしめる、というシーンなら感動的な話になるのだろう。だけどそうではない・・・俺達は男同士・・・でもそれが何だって言うのだろう。男とか女とかそんなことはどうでもいいことであるはずなのに・・・・
「ママ、コリンの普段の生活も見たことだし、そろそろ俺達は引き上げた方がいいんじゃないか」
「そうね、イーモンがアメリカを案内してくれるって言っていたし・・・コリン、また後で夕食を一緒にどうかしら」
「ああ、いいけどさ・・・じゃあ、また後で連絡してくれ・・・・」
「ねえ、パパ、イーモンも恋人を紹介したいっていっていたのよ。あの子、まだ片思いだって言うのに・・・」
「まあ、いいじゃないか、会って話をあわせてやろうぜ。あれはあれで一生懸命だし・・・・」
「そうよね、私達の子、みんなとってもいい子よね。クラウディーネも会えるかしら」
「久しぶりに家族みんなで会えるかもしれないな」
「まあ、素敵じゃない、パパ・・・・」
両親は俺達の前で堂々とキスをしてそれから部屋を出て行った。
「お前の両親って仲いいんだな」
「まあな、でもその代わり干渉も強いさ」
「うらやましいよ、こっちはどっちともほとんど交流ないからな・・・」
「そうか、でも兄貴とは仲いいんだろう。俺の兄貴と違ってまともだし・・・」
「お前はああいう家族で育ったからこういう性格になったのか」
「なんだよ、何が言いたい」
「なんかこうスケールが大きいって感じで・・・・大丈夫か、お前のママ、俺が子供を生むみたいなことまで言っていたぜ」
「そのうちわかるだろう、俺の兄貴が言ったことがデタラメだって」
「知らねえぞ・・・今度来たときにベビーウエアとか紙おむつ持って来たらどうする?」
「それはないだろう。俺たちがいくら愛し合ったってベビーはできない」
愛し合うという言葉にたちまち俺のものは反応してピンと立ち上がった。
「今からやるのか、俺、冷や汗かいて、心臓はまだドクドク音を立てているぜ」
「本当だ、意外と臆病だ」
「仕方ねえだろー、あんな状況でどう対応しろっていうんだ。俺はもうさんざん大変な目にあった。少しはやさしくやってくれ」
「お前の望みはわかっている。思いっきりやさしくだろう」
期待で胸を膨らませる俺の目の前で、うずくまって小さく丸くなるジャレッド、俺は軽く足で蹴飛ばしてから、縮んだ足の間をゆっくり押し開いた。
「なあ、俺の兄貴はお前の兄貴とまだこういうことしてねえよな」
「確実にしていない!そこは俺たちよりも壁が遥かに厚い」
熱くなったジャレッドの内部は、それでも始め、俺の侵入を拒んで推し戻そうとする。俺は腰を強く掴み、自分のものに力を入れた。
−つづくー
後書き
コリンの母はコリン、イーモンという息子を育てているので、それだけ体も心も大きいゴッドマザーというイメージです。
2006、7、10
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