(4) バースディー

飛行機という乗り物はよく遅れる。そんなことは充分承知していたが、今まで俺は時間通りに到着する便しか乗っていなかったので、ぎりぎりの時間のを選んでしまった。遅い!出発の時に3時間遅れて、さらにまた空港の天候がよくないということでなかなか着陸しない。雪でも降っているのだろうか?だけど12月26日の今日、ホワイトクリスマスという言葉だってあるくらいだから、雪ぐらい降っても不思議ではない、雪の対策ぐらいちゃんと考えとけ!これぐらいの雪、大したことないじゃないか!思わず、サングラスをはずして窓の外を見てしまった。

「あの、コリンさんですよね。映画俳優の・・・・」

隣の席に座っていた若い女の子が話しかけてきた。彼女は座席に着いた時から俺のことを気にしてチラチラ見ていたが、俺はひたすら寝たふりをしていた。周りの乗客に気づかれたら最後、一睡もできなくなり、時差ぼけに悩まされることになる。まあ、そんなことに気を使うなら、最初からファーストクラスに席を取ればいいのだが、今の俺は別料金を払ってファーストクラスに座ろうと思わなくなっていた。人生で本当に大切なものはそう多くはない。だからなるべくシンプルに暮らしていこう。ジャレッドに出会ってからはそんなことまで考えるようになった。

「すみません、プライベートな時間をお邪魔する気はないのですけれど、大ファンでした。こんなところでお会いできるなんて!ぜひサインをしてください」

幸い周りの席を見渡しても空席ばかりで乗客はまばらである。クリスマスの翌日に国境を越えて移動する人間はそう多くはないのだろう。俺だって本来なら新年までずっとダブリンにいるはずであった。でも今年は違う。キリストと1日違いで生まれたやつに惚れ込んでしまったから、急いで国境を越えることになった。

「お仕事で忙しいのですか」
「いや、大丈夫だ。サイン、どこにすればいい」
「ありがとうございます!ここに書いてください」

ノートを差し出されて慌ててサインを書く。他にも何人か周りの乗客にサインを頼まれたが、思っていたよりはるかにその数は少ない。まあ乗客の数も少ないけど、まだまだ俺はどこに行っても注目を集め、人に取り囲まれてしまうような本物のスターにはなっていないのだな、と考えてしまう。やっと空港に着いたが、別に俺はファンに取り囲まれることもなく、スンナリとゲートを出てしまった。





ジャレッドのコンサート開始時間はもうとっくに過ぎているが、俺はタクシーを飛ばしてコンサート会場へと急いだ。道がやけに混んでいる。あいつのコンサートはそんなに人気があるのだろうか。おまけに雪が本格的に降ってきたので、なおさら車はのろのろ運転になってしまう。やっとの思いで会場に着いたときはもう終わりの時間に近かった。そんな時間なのに会場の周りにはチケットを買えなかったファンが大勢取り巻いていた。

「すみません、知り合いの者ですが、中に入れてもらえますか」
「だめです、決まりですから、例えお知り合いの方でもお通しすることはできません」

受付にそっけなく言われた。

「じゃあ、楽屋の方に案内してくれ」
「お名前を教えてください」
「コリン・ファレルだ。映画俳優の・・・」
「すみません、コリン様というお名前は今日の面会予定者に記入されていないのですが・・・」
「ジャレッドに会うのに予約が必要なのか!大丈夫だよ、あいつのことはよく知っているからさ」
「だめです、最近はファンもいろいろなタイプの人がいるので、よくチケットと名前を確認してから通すように言われているのです」
「俺はコリン・ファレルだ。怪しい者じゃない。ほら、身分証明書もここにある」
「コリン様というお名前は書かれていません」
「映画俳優のコリンだ。今度ジャレッドと共演する、知らないのか!」
「私、映画とかあまり見てないものですから」

俺が何を言ってもこの受付は頑として通してはくれない。もうすぐ終わりの時間なのか、取り巻いているファンが騒ぎ出し、警備員が取り押さえていたりする。俺はノートを破いて予約したホテル名と電話番号を記入した。

「仕方がない。これをジャレッドに渡してくれ、他のやつではなく必ずジャレッドにだぞ、わかったな」
「はい、わかりました」

コンサート会場は異様な熱気に包まれている。今夜はジャレッドの誕生日だからそれもあるのだろうか。こんなところでうろうろしているのも危険かもしれないので、ひとまず俺は予約しておいた近くのホテルへと向かった。





ベッドに横になると睡魔に襲われた。飛行機の中ではやはりよく眠れない。ジャレッド、お前今何しているんだ。せっかくお前の誕生日にわざわざ会いに来たのに・・・・・






「外はひどい吹雪だぞ!どうしてお前、こんな時に外へ行った」
「罠にウサギがかかっているかもしれないと思って・・・・もう3日間何も食べてない」
「吹雪がやんだら俺が何か獲ってきてやるから心配するな」
「俺はいつもお前の獲物を食うだけか」
「それでいいじゃないか、こんなに冷たくなって・・・もっと側に来い」

俺はジャレッドの体の周りに付いた雪を振り払い、氷のように固く冷たくなった毛皮を脱がせた。

「あんまり無理するなよ・・・・俺はお前さえそばにいてくれればそれで・・・・ジャレッド、愛している・・・・」





「ちょっと待ってくれ!俺はたった今ここ来たばかりだ。せっかく来てくれたのに待たせて悪かった。もうすぐ12時か・・・・」

目の前に、ジャレッドの姿が・・・・もちろん毛皮などを身につけているのではなく現代人の姿で・・・・

「ジャレッド・・・・・ジャレッドなのか・・・・」
「ああもちろん俺だ。お前、ホテルの鍵も閉めないで寝るなよ!強盗にでも襲われたらどうする」
「文句は後回しだ・・・・まだ間に合う、ジャレッド、誕生日おめでとう」

そのすぐ後に時計の針は12時をさし、日付は27日へと変わった。

「だめか、もう日付は変わってしまった。お前の誕生日を一緒に祝えなかった」
「一緒にってくっついてという意味か。俺達はずっと長い間一緒にいたじゃないか。くっついたり離れたりしてさ、そんなこと気にしなくていい」
「飛行機の時間が大幅に遅れやがって・・・・コンサートの時間にも間に合わなかったし・・・・それにセキュリティーがすごくて・・・」
「悪かった、俺の誕生日だったから、特に厳しくしていたんだ・・・3日前ぐらいからいろいろ花束やメールがきていた」
「すごいじゃないか。人気者なんだな」
「それが男からのラブレターばかりでさ・・・一目会いたいだの抱きしめたいだのいろいろ書いてあって・・・俺の兄貴は100パーセントのストレートで女としか付き合ったことないからさ、まあ俺もお前に会う前はそうだったけど、男からのラブレターなんか見るたびに怒り出して・・・警備も強化するし・・・・おいちょっとなにがおかしい」

俺は笑いをこらえきれずにいた。100パーセントストレートの兄貴か、うちのイーモンは100パーセントのゲイだし・・・・

「いや、うちの兄貴とは正反対だと思ってさ、うちの兄貴は女とやったことは一度もない、100パーセントのゲイだぜ」
「それで、俺達二人はその半分、どっちでも大丈夫な50パーセントというわけか・・・・しゃれにもならねえ、くだらないこと言ってないで早く始めてくれ、俺はコンビにへ行くといってホテルを出てきた。あんまり遅くなるとまずい」
「コンサートは今日で終わりだろう。いつから一緒に暮らせる」
「それがちょっと今、いろいろヤバイ雰囲気でさ、兄貴がやたらと俺のこと監視してくる」
「俺と付き合っていること言ってないのか」
「言えるわけないだろう!男と付き合っているなんて口が裂けても言えない。女と同棲したいと言ってある。お前はいいよな。兄貴が100パーセントだからそういうことオープンなんだろう」
「でもないぜ、兄貴にはオープンにできても、母親とかは俺に期待しているからなにも言えないし・・・・・」
「お互い秘密の恋っていうことか、俺そういうの好きだな。体が熱くなる」

ジャレッドは服をさっさと脱いでベッドに横になった。

「早くきてくれ、俺はもう我慢できねえ」
「おい、これからのことはどうする?」
「それは後から考える・・・・1ヶ月も待ったんだ。その間俺は歌い続けていた。喉がからからに渇いて死にそうだ・・・早くぶち込んでくれよ」
「お前の口からそういう言葉を聞くとはな・・・・そうあせるな・・・1ヶ月ぶりなんだからお前の体も固くなっているだろう。少し慣らしてからの方が・・・・・」
「いらねえ、そんなもの・・・・せっかく我慢していたんだ・・・・固くなった体を突き破り、のた打ち回って絶叫するほどのことをしてくれないと・・・・それが誕生日プレゼントだ」
「お前、このホテルそんなに防音よくないぞ。無人島とは違うから・・・・」
「声なんかろくに出ないよ・・・・もう最後だと思って歌い果たしてきたから・・・・今の俺は全てを出し切って干からびて空っぽだ。お前の露で早く潤してくれ・・・・突き刺す痛みが早く欲しい」
「お前、詩人だな」
「今、俺にはいろいろなものが見えている。早く・・・・はやくしてくれ!」





「うわー!・・・・・ひー・・・・だめだ!・・・・・やめてくれー・・・ギャー!・・・・・ぐわあああー!」

望み通りのことをしたら、案の定けもののようなうめき声を上げてジャレッドは果てた。まったく男同士でも普通はもうちょっと穏やかにやると思うのだが、どうしてこいつは極端なことばかり望むのだろう。誕生日とかクリスマスとか、もっとロマンチックなものだろう。これではまるで愛し合うというより戦いでもしているみたいだ。俺が一方的に攻撃して相手はそれを受け入れるだけの戦い。これが愛と言えるのだろうか・・・・俺達は果てしない戦いを始めようとしているのかもしれない・・・・なんのために・・・・

ジャレッドが突然笑い出した・・・・意識を失っていると思ったのにもう取り戻したのか・・・・

「今、お前の考えていることが読めた。俺達は愛し合うというよりも戦っているみたいだ、そう思っただろう」
「よく、わかったな」
「俺達、変だよな・・・・1ヶ月ぶりに再会して、普通もう少し違う愛仕方あると思うけど・・・・でも俺はこれなんだよな。これで大満足して満たされる・・・・兄貴が知ったら驚くだろうな・・・・でも俺、お前に会って自分が何を求めているか少しずつわかりかけたんだ。歌だって変わってきているし・・・・お前との関係を大事にしていきたい・・・だけどとりあえず今日は帰る」
「送って行こう」
「いいよ、女じゃないし、一人で帰れる」
「送っていってお前の兄貴にも会ってくる」
「おい、俺達の関係ばらすのか」
「いや、ばらすかどうかはまだわからないけど、とりあえずお前の兄貴には挨拶しておいた方がいい。共演者として」
「共演者だぞ、共演者。それ以上のことはしゃべるなよ!俺の立場ってものも少しは考えてくれ」
「わかったよ、共演者ということで挨拶しておく」
「やっぱり、お前の考えていることはよくわからねえ、さっきははっきり読めたけど・・・・」
「こっちはもっとわからねえ思いをしているさ」

本当に変な関係だ。それなのにどうしてこうも魅かれなければならないのだろうか。


           
                                               −つづくー



後書き
 今日はジャレッドの誕生日、誕生日らしくロマンチックに結ばれる話を書こうと思ったのに、どうしてこういう話になってしまうの!
ジャレッドがMだからいけないんだと責任転換しています。
2005、12、26


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