(44)残された時間
ジャレッドはいい加減な俺と違って、かなり神経質で完ぺき主義者である。そのことでバンドのメンバーはかなり苦労もしているようだ。レコーディングの日が決まっているのに曲がまだできてないと喚いたり、コンサートの始まる時間になっても声の調子が悪いと歌わなかったり、そんなことは多々あるようだ。ただ、そこはやっぱりプロのミュージシャンなので、途中でいくら喚いても本番では別人のような集中力を見せ、乗り越えてしまうという。俺がジャレッドと一緒に仕事をするのは今回が初めてだが、合宿の日程が近づくにつれ、やっぱり役作りができないと言い出した。最初は一人になって自分を見つめると旅に出たが、兄イーモンとシャノンの手助けをしているうちにすぐ俺達もベッドインしてしまった。こうなればジャレッドの苛立ちは当然俺に向けられる。
「なあコリン、たまには俺が上になってもいいか?」
「別にかまわないけどどうして?」
「自分で入れれば力を加減して調節できるだろう。合宿が始まれば、尻が痛いと休むわけにもいかない」
「尻の穴が痛いだろう」
「そこまではっきり監督に言えるか!とにかくお前のモノがでかすぎるから、俺は毎回人間が耐えられるはずのない痛みを味わっているんだ」
「それがよくて抱きついてくるヤツは誰だ」
「ああ、俺はマゾだからな。自分の限界を試してみたくなる。だけど、キャンプ地のテントじゃ声は筒抜けだろう。おまけに翌日のトレーニングのことも考えなければいけない。馬とか乗れなくなったら大変だ」
「だったらしばらくやめておけばいいだろう。別に俺は撮影やその前の合宿中はなくても大丈夫だ」
「お前が我慢できても、俺は我慢できない。旅になんか出たら猛烈な邪念に襲われた。数ヶ月も続くんだろう。とても無理だ」
「へー、お前、そんなに俺が欲しいのか」
「わからないけどさ、とにかく声を出さず、翌日にひびかないやり方を覚えないと・・・・もう時間がない。いいだろう?」
「ああ、いいさ、好きにやってくれ」
ジャレッドは俺のモノにたっぷりと唾液を塗りつけ、後ろを向いて上に跨った。顔は見えないが、後姿だけでもビンビンに立ちあがるほど俺は興奮した。片手で俺のモノを支え、自分の腰を沈めようとする。だが、入り口付近を掠めるだけでなかなか奥には入らない。
「それじゃダメだ。手伝ってやろうか」
「うわー!勝手に動くな。いいか、俺がどれだけ痛い思いをしているか、お前にはわからないだろう。ちょっと間違えば串刺しと同じだ!」
串刺し、昔はそんな残酷な刑罰もあった。先を尖らせた棒を尻に突っ込まれるのにハンマーで叩かれるのと自分の重みで突き刺さっていくのでは、俺だったら無理やり叩き込まれた方がまだましだと思う。まあ、俺の立場だとその痛みを味わうことは決してないのだが・・・・
「ジャレッド、無理なら俺が入れてやろうか」
「さかりのついた犬め!どうせ我慢できないんだろう。さっさと押さえつけて入れてくれ。俺は暴れるからな」
わざと汚い言葉を使って挑発もしてきた。そう言いながらもジャレッドは身構えるようなポーズを取る。他のヤツには決して見せないその場所がヒクヒクとうごめいている。俺はそこを舌で湿らせて勢いよく突っ込んだ。ジャレッドの悲鳴が俺をどこまでも興奮させる。力の限り腰を動かし欲望を吐き出した頃には、ジャレッドは軽く気絶する。さすがに慣れてきたのかずっと意識を失っているということはなくなったが、朦朧としたまま感じる言葉を独り言のようにつぶやく。
「ヘファイスティオンは幼馴染のフィロタスを拷問にかけて処刑した。フィロタスは最後、ヘファイスティオンに助けてくれと懇願した。でも、彼は助けたりはせず、それどころか率先して残酷な拷問を加えた」
「まだこだわっているのか。その部分、台本では直接出てこない。お前はただ見ているだけだ」
「台本ではそうでも、史実にはそう書かれていた。なぜそんなことができるのか、俺にはどうしてもわからない。プライドも何もかも捨てて頼ってきた友人にそんなことをするなんて、俺にはとてもできない」
「俺もできないさ。アレキサンダーのやったことなど俺には絶対できないし、理解することも無理だ。それでも俺はその役ができる。役の人物全てなど理解はできない」
「せめて、あの手記が今手元にあったら・・・・お前も読んだんだろう、何か覚えてないか?」
「お前なあ・・・・曖昧な前世の記憶で俺を責めるなよ」
「苦労してないからお前はすぐに忘れてしまう。俺なんていつも大変な目にあっているから、心のあちこちに記憶が棘のように刺さっている。思い出そうとすれば胸がキリキリと痛んでたまらない」
「それでいいじゃないか。俺だった忘れたわけではない。お前を失った記憶、決して忘れない。その方がずっと辛いぞ」
「そうかもしれないな。俺はまたお前より先に死ぬのか?」
「わからない」
「お前の腕に抱かれて死にたい・・・・ヘファイスティオンもきっとそれを願ったはず・・・・それなのにアレキサンダーは目を逸らし立ち上がってしまった」
「死を現実のものとして受け止められなかったのだろう。その気持ち、俺にはよくわかる」
俺はジャレッドの肩を抱き寄せ、髪を撫でた。どちらかが先に死を迎えなければならないのなら、こうして穏やかに抱き合ってその時を過ごしたい。だが、それは無理なのか・・・・・
俺は砂漠を旅しては珍しい品物を運び、かなりの財産を蓄えた。あれほど嫌っていた父と同じ仕事をした。両親が亡くなってからは自分が店で働き、さらに大きくした。結婚して子供も生まれた。多くの奴隷に働かせ、何不自由ない生活といっていいだろう。もう危険な旅をする必要もない。それなのに俺はいつも旅をして見つけた遠い国のものばかりをぼんやりと見ていた。
「壷は嫌いだ。誰かが壊すと僕のせいにされて鞭で打たれた」
「ジャレッド・・・・お前は今どこにいる?」
振り返っても誰もいない。それなのに確かに頭の中に声が響く。
「本当は壷なんてどうでもよかったのかもしれない。ただ、僕が怖がったり泣いたりするのが面白くて鞭を使っただけなのかも・・・・悲鳴を上げ、泣き叫べばみんなが興奮して僕の体を押さえつけた・・・・怖かった・・・・あんな痛い思い・・・・でも僕はこれが終われば君に会えると・・・・」
「すまない、俺はお前を助けることができなかった」
「でも僕は君のそばにいるだけで・・・・死んだ方がいいと思ったけど・・・・やっぱり君と同じ世界で生きて・・・・そうでないともう二度と君には会えないと思って・・・・もう充分生きたから、これで死んでも・・・・・」
夜、誰もいないはずの店の扉が開いた。月明かりの中に立つ影がバタリと倒れた。
「ジャレッド、お前、ジャレッドなのか!」
俺は急いで影の方に駆け寄って、その体を抱き上げた。間違いなくジャレッドだ。
「本当はもっと早くここへきたかった。でも監視が厳しくて・・・・ずっと前から病気になっていて、もう助からないからどうか一度だけ外に出して欲しいと王様にお願いして、やっと出してもらえた。たくさんの宝石をもらった。みんな君のものだ」
「ジャレッド、よく来てくれた。病気なんてすぐによくなる。俺はよい医者も呪い師も知っている。すぐに呼んでくる」
「待って、行かないで・・・・君に見せたいものが・・・・」
ジャレッドは手に持っていた布で包んだ包みをひらいた。中からモザイク画が出てきた。
「覚えているよね。君と一緒にこの半分を見つけた。どこにある」
「待っていろ、すぐに持ってくる」
俺は自分の部屋に走り、もう片方のモザイク画を持ってきた。それは布でくるんで部屋の奥にしまっていた。二つの絵を合わせるとピタリとはまった。
「よかった。これで一つになった」
「でも、この絵はよく見るとこっちの人間は死んでいる。友人の死に王が気も狂わんばかりに嘆き悲しんでいる。どうしてこの絵がこんなりっぱなモザイクに・・・・・普通なら戦いの場面とか、立派な顔の絵を残すはずなのに・・・・」
「これはきっと王様の命令で作られたものではないよ。誰かがその時のことをよく覚えていて、後になってから作った。僕はこの死んでいる人の書いた日記も見つけた」
「どうしてそれが彼のものだとわかる?」
「この絵と同じ場所で見つけた。間違いない、同じ時代、同じ人だ。もしかしたらこれは違う人が書いたものかもしれない。でもコリン、僕はこの日記で救われた。僕達が読める言葉で書いてあるのはほんの少しだから、全部はわからない。でも彼は、誰にも言えず一番伝えたかったことを僕達の言葉で書いてくれた。おそらく彼らは普通は別の言葉を使っていたんだよ」
「そうか、それならゆっくり読んでみよう。でもどうしてこれがお前を救うことになる?」
「僕の生まれてきた意味を知ることができた」
「生まれてきた意味?」
「僕達は前世で出会って結ばれた。その記憶を受け継いで、次の誰かに伝えなければならない。僕はもう生まれ変わった後の人に会うことができた。その人にこれを伝えなければ・・・・」
「そんなに大事なものなのか」
「それが僕の役割だと思った。だから陰謀が渦巻く王宮の中で生きることができた。これを全部読んで、書いた人が何を思ったかがわかれば・・・・・もう一人の僕が必死にそれを探していた。・・・・・でも、僕にはもうこれを全部読むことなどできない・・・・」
「お前の言うことはよくわからない。だけど、お前が俺のところにもどってきてくれてうれしい」
「君はまだ僕を愛してくれている?」
「もちろんだ」
「宦官は普通の人間よりずっと早く年をとってしまう。こんな醜くなってしまって、もう君に会わないほうがいいかもしれないとも思った。それでもやっぱり会いたくて・・・・」
「醜くなんかない。お前は今でも美しい・・・・辛い思いをさせて悪かった。俺の人生は後悔ばかりだ・・・・」
「自分を責めないで・・・・僕は役割を果たすために王宮に行かなければならなかったんだよ」
「お前の役割・・・・こんな本とモザイクのために・・・・お前は自由だけではない、男として生きることも奪われた。王のきまぐれのためにどれだけの苦痛を味わったことか・・・・」
「僕は自由だよ。それに男として生きてきた。大切なモノを失ったけど、でも僕はこの絵を見てこの王様がどれだけ深く悲しんだかわかるし、この日記を読んで男として生きることができた。僕には全く知らない世界だけど、でも彼の喜びや悲しみは僕と同じだった。少しも変わらない」
「ジャレッド・・・・・」
「僕がもっと長生きできるなら、君といろいろなこと話したかった・・・・でも今は胸が一杯で何を話したらいいかわからない」
「ジャレッド、お前は死んだりはしない・・・・もっと生きるんだ!」
「なんだよ、人がせっかくいい気持ちになっていたのに、いきなり大声を出して・・・・」
「夢を見ていた・・・・お前と同じ、前世のだ・・・・」
「やっぱりヘファイスティオンの手記はあっただろう。俺が見つけたんだぞ。ところでそこには何が書いてあった?」
「わからねえ」
「ちょっと、なんだよー!せっかく夢で見て、内容を覚えてないのかよ」
「お前が一方的にいろいろしゃべって、本を見る余裕がなかった」
「次はいつ見る?いいか、もう時間がないんだ。今度夢を見た時にしっかり中身を見ておくんだぞ」
「無理言うなよ。夢の話だろう」
「俺にとっては現実だ。そこでいろいろヤラレタから、今の俺の性格が形成された。ああ、それよりもヘファイスティオンだ!お前と違って資料が少ないんだよ。しっかり読んでおけ!」
「そうは言っても、実在のものではないし・・・・」
「いやある。絶対にあるはずだ。俺の記憶に間違いはない。そうだ、捜しに行こうか!」
「おいお前、なに馬鹿なこと言っている。もうすぐ合宿だぞ」
「そうだ、撮影だ!絶対イランとか砂漠でもやるはずだ。監督はCGは嫌いだからできるだけ現場に行って撮影すると言っていた」
「そうだな、それなら撮影の時に期待して・・・・」
「だけど俺は他にも準備しなければならないことあるんだよ!」
「衣装の整理か?」
「違う!どうしたらお前とのsexで叫ばず、翌日に痛みを残さないでできるようになるか。ああ、もう時間がない」
「もう1回やってもいいんだけど、そろそろ俺達は飛行機に乗ってアメリカに帰らないと・・・・」
「忘れてた。ああ、飛行機の時間は何時だ!どうしてそれを早く言わないんだよ!ああ、時間がない・・・・」
ジャレッドはブツブツ文句を言いながら飛び起きた。まあ、ギリギリまでいろいろ騒いでいても本番には強いヤツだから大丈夫だろう。パートナーの俺はこいつにリズムを乱されてはマズイ。俺は主役をやるんだから、自分のことを真剣に考えなければいけない。
−つづくー
後書き
時間がないとあせって書いた一遍です。どうして時間がないかというと・・・・次でパートナーはラスト、そして今度は撮影の時の話を書きたいと思っています。
2007、10、4
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