(45)新しい世界へ

俺はよくコリンとのsexの後で気絶する。アイツがバカでかいモノを持っていて乱暴にやるから痛みで意識を失ってしまうと言えばそれまでだが、どうもそれだけではないような気がした。意識がさまよう数分間、俺は眠りとも覚醒ともつかぬ別の世界へ引きずりこまれる。言葉ではなく色彩と感情が体の周りを取り囲む。記憶の海を漂い、俺が掴まなければいけないものはなんなのか?






「彼とは子供の頃から王宮でよく会っていた。王宮から離れた場所で共に生活し、学問を学び訓練を受けた。私達はみなただの兵士となるべく育てられたのではない。王や大臣、そして将軍として何万もの兵士を動かし、国を形作っていかなければならない使命を与えられていた。あの頃、私達は信じていた。正しく学び、世界の神秘を知ることができれば世界を変えることもできると・・・・質素な生活の中で、ひたすら体を鍛え、真理を探究することに熱中し、理想に燃えていた。それが今、長年の宿敵を倒し巨万の富を手に入れた今、私達の理想はどこへ行ってしまったのだろうか?ある者は与えられた富を使い込み、あろうことか他の国と手を組んで王に反乱を企てようとした。そして今、私は最も親しい友人の一人であった彼を、王暗殺の疑いがあるという理由で拷問にかけ処刑した。彼は私に泣きながら助けてくれと懇願した。将軍の子と生まれ、人一倍プライドの高い彼がそれを言うのはよほどのことだろう。だが、そんな彼に私は酷い扱いをした。将軍である父親の関与を聞きだそうとしたが、それだけはどれだけの拷問を加えても決して彼は言わなかった。最後まで父の名誉だけは守って死んでいった。さぞ、私を恨んでいるにちがいない。それでいい、命令を加えた王を恨まず、私を恨んでくれればいい。だが、彼の恨みなど、世界を変えていこうとする私達の理想に比べれば小さなことに過ぎない。王は神の子、世界を変える力を持つ。何者もそれを邪魔することなどできない。お前もまたかって最高の哲学者から真理を学んだ者ならば、わかってくれるであろう。あの頃の私達はまだ子供で、師の話しなど半分も理解できなかった。今ならよくわかる。真理はどこにあるのか。世界を変えるためには何が必要か。あの頃どれほど多くの時を費やし、みなで話し続けてもわからなかった真実が、今私の目の前にははっきり見える。だが、今はもうそれを語り合える友は近くにはいない。王は私を避けて異国の少年ばかりを天幕に呼ぶ。私の顔を見れば別の友の顔が浮かんで辛いのだろう。今、私の周りにかってと同じように友と呼び、真理を語り合う者など誰もいなくなった。だからお前に語りかけるしかない。私を恨んでいい。だが、わかって欲しい。秩序を守るためにはどうしても必要なことだったと・・・・・共に偉大な師から真理を学んだのだからわかってくれるはずだ。なぜ拷問にかけられ、死ななければならなかったのか。わかってくれ、理解してくれ!・・・・・でなければ私はあまりにも辛い・・・・・」

もう目はほとんど見えなくなっているのに、コリンの声ははっきり聞こえた。ベッドに横たわり、ただ彼の声だけに神経を集中させた。

「ジャレッド、聞こえているか?もういいだろう、俺の言葉を聞いてくれよ」
「コリン、愛している。君と話したいことはたくさんある。でも、僕はこれを聞いて伝えなければならない。続きを読んで・・・・」
「何か薬を・・・・やっぱり医者を呼ぼう」
「もう無理だよ。王宮にいる何人もの医者が診て、首を振ったのだから。でも、それでよかった。そうでなければ一生あそこから出られず、君に会うこともなかった」
「せめて薬を・・・・」
「君が飲ませてくれるなら」

僕は力なく微笑んだ。彼の顔がかすんで見える。でも、唇の感触はきっと覚えていられるだろう。コリンは薬を口に含んだ。苦そうな顔をしているのがわかる。僕はそっと手を伸ばした。

「ありがとう、君の何もかもをずっと覚えている」

唇が重なり、苦い液体が僕の口に流れ込んだ。これが最後の口付け、手を伸ばし、彼の顔がもっと近づくようにした。あごに当たる髭が心地よい。薬を飲み込み口を開いた。彼の舌の感触を確かめると、唇は離された。

「これでいい。お前は助かる。死んだりなんかしない。王宮にはロクな医者がいない。街の方が古くから伝わる薬がある、呪い師もいる、きっと元気になる。ここで静かに暮らすがいい」
「少し力が出てきたようだ」
「そうだろう。絶対に助かる。もう少しこの本読んでやろうか。でも、無理はするなよ」
「ありがとう」

僕は精一杯の微笑を浮かべて答えた。もう目は見えていない。まもなく音も聞こえなくなるだろう。だが、不思議と心は穏やかで恐怖はない。

「私が命を落とすのはおそらく戦場であろう。敵の槍が刺さり、矢を受けての死を怖れたりはしない。ただ、できれば自分の体が見分けがつかないほど辱められる前に王のそばに運んでほしいと願う。その時息があるならば、手を握り愛していると伝えよう。もし息をしてないとしても、私の口からはきっと同じ言葉が流れ出るだろう。愛している、ただそれだけが伝えられればいい。そして王の心が悲しみで気も狂わんばかりにならないことを祈りたい。悲しまないで欲しい、私の魂はいつも君のそばにいるのだから・・・・」
「悲しまないで欲しい・・・・僕の魂は・・・・」

最後に聞こえた言葉を繰り返した。もう自分の声が彼に届いているかどうかもわからない。

「へんなとこ読んでしまったな。ジャレッド、少し眠るといい・・・・・」

途切れ途切れに聞こえる彼の声、そして髪をなでる手の感触を感じる。僕の体は少しずつ冷たくなっている。でもそれを言葉にしてはいけない。コリンは信じている、僕はただ眠りにつくだけだと・・・・もう少しこのまま髪を撫でていて欲しい・・・・悲しまないで・・・・僕の魂は君のすぐそばに・・・・






目を開けた時涙が滲んでいた。

「よかった・・・・最後に会うことができた」
「はあ、お前何言っているんだよ。もう飛行機の時間だぞ。兄貴達見送りに来てくれるんだろう。乗る本人が遅れてどうする?」
「今日は何日だ?」
「何寝ぼけているんだ。さっさとしたくをしろ。お前・・・・泣いているのか?」
「なんでもない。おい、お前別の部屋へ行っていろ。着替えをする」
「いいだろう、俺達はもう何でも知っている仲だから」
「でも着替えは見られたくない」
「しょうがないなー」

コリンはプリプリしながら部屋を出て行った。涙の理由など話したらまたややっこしくなる。とりあえず今は飛行機に乗らなければならない。走って空港へ行くと兄のシャノンとコリンの兄イーモンが待ち構えていた。

「遅いぞ、お前ら何やっていたんだ」
「時間を勘違いしていた」
「どうせ台本でも夢中になって読んでいたんだろう。ジャレッド、役作りもほどほどにしておけよ。お前は熱中すると周りが見えなくなる、コリンにあんまり迷惑かけるなよ。俺達は家族も同然だからといって・・・・」
「家族同然って・・・・」
「だって俺達が付き合っていれば、お前達も家族みたいなものだろう、まあ、正式な結婚はできないが・・・・」
「あ、そうか」

シャノンにバレたかとドキリとしたが、そうではなく兄貴はあくまでも自分達を基準に考えていた。

「おいジャレッド、お前アメリカに戻ってマットやトモに会うよな」
「もちろん会うけど、それがなにか」
「俺たちのこと、どう話すんだ?」

兄貴はマットとトモが付き合っていることも知らない。つまりバンドの中で自分だけゲイになって男同士で付き合っていると悩んでいるわけだ。

「どうって、内緒にしておいてもいいけど」
「いや、ちゃんと話してくれ。具体的なことは俺が帰ってから詳しく話す。お前はその、軽くサラリと、あいつらにあまりショックを与えないように話してくれ」
「意気投合したし、アイルランドでインスピレーションが沸きそうだからしばらく一緒に旅するとでも・・・・」
「そこまでごまかすな!ゲイということを言ってもいい。ただ、あくまでもサラリと・・・・」

真剣な兄貴の表情に俺は噴出しそうになった。コリンが俺のわき腹をつついた。もう搭乗手続きの時間だという合図だ。

「わかったよ、兄貴はサラリとしたゲイになったと言っておく」
「頼んだぞ、ジャレッド。あんまり大袈裟でない、いい言葉を選んで伝えてくれよ。だいたいお前の作る詩は世界の果てとか俺を殺してくれとか大袈裟なものばかりだから」
「わかったよ、じゃあな、兄貴」
「ジャレッドも元気で・・・・」

兄弟だしまたいつでも会える。俺達はあっさり別れて搭乗ゲートへと向かった。






「ジャレッド、お前また前世の夢を見たのか?」

飛行機の座席に着き、シートベルトを締めるとさっそくコリンが話しかけてきた。

「ああ見たさ。おそらくこれからも何度も見るだろう。やっぱりヘファイスティオンは手記を残していた。ロケ地に行ったら撮影の合間に調べてみよう」
「そんなもの本当に出てくるのか。二千年以上も昔だろう」
「実物が出てこなくても、俺は確かに前世でそれを読んだのだから」
「大した自信だな。じゃあちょっと何が書いてあったか俺に教えてくれよ」
「ああいいさ、ええっと・・・・・」

今朝見た夢は鮮やかだった。コリンに触れられた唇の感触、声の様子、死んでいくときの体の冷たさまでもがリアルだった。それなのに何が書いてあったか、そこだけ記憶が抜けて穴が開いている。

「だめだ、穴が開いていてそこをふさがないと・・・・」
「ああ、お前のケツの穴、飛行機から降りたらすぐにふさいでやる」
「どうしてお前はそういうことしか言わないんだ!確かに記憶はあるんだよ、それなのに思い出せない」
「まあゆっくり思い出せばいいさ。そのうち実物が見つかるかもしれない」
「そんな悠長なこと言っていられるか!ロケはもうすぐ始まるんだぞ」
「確かに映画のロケはすぐ始まって撮影、編集、という手順で完成し、全世界で公開される。でもそこで終わりではない。映画の公開は始まりに過ぎない。お前はヘファイスティオンの手記をずっと捜し続ければいい。俺はアレキサンダーの足跡を追い続けるさ。撮影が終わっても・・・・・二人の魂は永遠に結ばれ、死も別つことができなかった、そうだろう?」
「ああ、そうだけど・・・・ヘファイスティオンの手記か、やっかいなものを拾ってしまった」
「一緒に捜そう。俺達はパートナーなんだから・・・・」
「新しいカップルの弟同士でもあるし・・・・ああ、それにしてもバンドの仲間にはなんて話そう。マットもトモも自分のこと以上に驚くに決まっている」
「驚かせないようにサラリとだろう」
「お前、聞いていたのか!」
「俺達はパートナーだ。なんでも知っていないと・・・・」

俺の頭の中はゴチャゴチャしてきた。考えなければいけないことは山のようにあるけど、とにかくアメリカに戻って準備をして合宿先に行かなければならない。ロケ地に近い場所でトレーニングを始めると聞いた。きっと過酷なものになるだろう。監督はCGが嫌いだから、なるべく役者を使って表現するという。つまり、俺達がかなり大変な思いをするわけだ。それもまた新しい体験だから、俺はワクワクもしている。マゾというのはけっこう人生を楽しめると最近は思うようになってきた。



                                      −完ー




後書き
 パートナー、これで完成です。途中で間があいて、その間にジャレッドの状況やバンドのメンバーも変わりましたが、最初のイメージで最後まで書き終えました。前世やら本の内容やらが出てきてわかりにくい話を最後までお付き合いくださった方、本当にありがとうございます。この話の続きとして、次は撮影現場でのトレーニングやいろいろな役者さんとの葛藤を書いてみたいと思います。「ヘファイスティオンの手記」この連載の中では部分的にしか書けなかった(しかも前後がほとんどつながってない)ので、また彼らと一緒に捜していきたいです。
2007 10 5


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