(6) 朝日に包まれて

朝の光がまぶしい。半分眠っている体で手を伸ばすと、触れる体がある。背中に手を置くと荒い息遣いが聞こえる。

「もっと側に来い。体が冷えている」
「まだ息が荒いからいやだ」
「走ってきたのか」
「そうだ、悪いか」
「お前のそういうとこ、大好きだよ」

俺はベッドの中でジャレッドを強く抱きしめた。

「早く脱げよ」
「もう、日がさしている。こんな明るいところでか」
「お前は明るい日差しの中で見ても充分美しい」
「そんなセリフ、男同士で使うな」

冗談を言い合いながらもジャレッドはすばやく服を脱ぎ、ベッドの上にうつ伏せになった。

「今日からスポーツクラブに行く予定だろう。変な場所に跡つけないでくれ」
「わかっている。ここしか攻めない」

俺は指にオイルをつけ、ジャレッドの体の中にすべり込ませた。いつものことだが、こいつはどこをどう触っても、どんなにゆっくりやさしく差し込んでも必ずギャーギャー悲鳴を上げる。よっぽど感じやすい体をしているのか、それとも声がでかいから喘ぎ声まで悲鳴になってしまうのかわからないが、防音設備が整った場所でしかやれそうもない。下手なところでやれば悲鳴を聞きつけて警官が飛んでくるに違いない。

「ああー、いい・・・・すごく・・・いい・・・・」
「まだ、指だけだぞ・・・それにお前感じているなら少しは体の力抜けよ。力を抜いて自然体になるというのは役者の基本だろう」
「こんなことされるときにどうして力を抜いていられる。俺、今大人だからいいけどさ、これがもし10歳位の子供で、体の大きな大人に無理やりやられるとしたら、随分辛いだろうな」
「そういう経験あるのか」
「今の俺にはない・・・・・でも、その前はわからない・・・・最近俺また変な夢を見るようになったし・・・」
「例の原始人とは別の人間か」
「そうだ、もっと悲惨な人生を送っているかも・・・・ちょっとまて・・・せっかくこうして楽しもうって時に暗い前世の話なんかしなくてもいいだろう」
「それもそうだ」

ジャレッドの中に入れていた指を引き抜き、代わりに自分のものを差し込んだ。ここでまた数分間絶叫が聞こえる。やっと静かになったころジャレッドがつぶやいた。

「あー、いい・・・・しばらく動かないでこのままでいてくれ」
「つながったままでか」
「そうだ・・・・しあわせだー・・・・最高だよ・・・・この世の中にこんなに気持ちのいいことがあるなんて知らなかった・・・」

うっとりと自分の世界に入っている。まったく変なやつだ。だけどこれだけはっきりとうれしそうな顔をされれば悪い気はしない。今日もまた最高の気分でフィニッシュを迎えた。





朝日に包まれて愛し合った後、俺達はシャワーを浴び、朝食を作って食べる。トータルでは女と暮らすよりも兄シャノンと暮らした年月の方がはるかに長いというジャレッドは、俺のアパートメントでも適当に何かすぐ作ってくれる。

「卵がなくなりそうだ、あとで買いに行こう。夕食はどうする?」
「きょうはスポーツクラブへ行く。大変だから外で食べた方がいい」
「そんなに大変なのか」
「ああ、覚悟した方がいい。この腕がアキレスになるためには・・・・」

ジャレッドの細い腕がアキレス並みになるためには相当ハードなトレーニングが必要に違いない。だがそれもまた楽しみの一つだ。筋肉痛でヒーヒー言っている時はどんな顔になるか・・・ジャレッドと一緒にいると楽しみは尽きない。

「夕食終わったら、早く帰らないと・・・・今日はマットとトモも来るっていうから」
「また仕事が入るのか」
「いや、当分ツアーはないけど、去年の年末、急に忙しくなったからお金の計算とかファンレターの整理とか全然してないから・・・」
「お前達、マネージャーとかいないのか」
「そんな金あるか、お前とは違う」
「俺だって姉貴がマネージャーさ。まあ、金はきちんと払っているけど、身内の方が結局は余計な心配せずに安心して任せられるからさ」
「まあ、そうだな、俺だって兄貴がいなければ、バンド活動なんてできなかった。お前と一緒に暮らせないのが残念だけど・・・・」
「いいさ、似たようなことをやっているから」

俺達はまだ同棲生活はしていない。兄、シャノンに心配をかけないよう、朝ジャレッドが俺のアパートメントにやってきて、夕食を食べた後はまた帰るようにしている。半同棲とでもいうのだろうか?普通はこういう場合夜通ってきて朝帰るものだろうが、俺達の場合はそれも逆になっている。変な生活だが、朝日を浴びて愛し合い、役作りのため、ギリシャの哲学や叙事詩を語り、そしてスポーツクラブで汗を流す・・・・極めて明るく健康的な生活をしているのかもしれない。





外へ出る時はたいていこのアパートメント専用のタクシーを使う。ここは家賃も高いが、セキュリティーとプライバシーが完璧に守られるのが助かる。外部からは専用の鍵を持ち、暗証番号を知っている者しか入れない。防音も完璧で、ジャレッドが来る前に下の部屋の人間に聞いてみたが、どんなに大声を出しても声は聞こえないと言われ、安心した。一つの階に一世帯しか入れないので、部屋も極めて広くゆったりとした作りになっている。同じ敷地内に似たようなアパートメントがいくつかあり、レストラン、スーパー、コンビニエンスストアなどなんでもそろっているので快適な生活ができる。収入の半分以上が家賃でなくなってしまうが、それもしかたがないだろう。ジャレッドと一緒にタクシーに乗り、スポーツクラブへと行く。途中でマスコミに囲まれるという心配はまったくない。

「なんか、すげーよな、一ヶ月いくらぐらいする?」
「一万ドルぐらいだ」
「俺、一緒に暮らすようになっても半分出せないぞ」
「収入にあった金額だけ出してくれれば充分さ。いつかは逆転するかもしれないし・・・・第一お前の兄貴が・・・・」
「それが一番の問題だ。今まで気づかなかったけど、あれほど激しくゲイを嫌うとは・・・・」
「普通はそうだ、俺の兄貴が異常なんだよ」

すぐにスポーツクラブに到着した。ここもまた入り口で厳しいチェックがあり、会員とその知り合い以外は絶対に中には入れない。

「ファレル様、マネージャー様がロビーでお待ちです」

受付で登録をすると、さっそくそう伝言を伝えられた。マネージャー、つまり姉のクラウディーネがもうこっちに来ているのか。まだオフなんだから俺のことは心配しないで、自宅でゆっくりしていてくれればいいものを・・・・特に今はジャレッドもいることだしあんまり管理されないで好きにやりたかった。それでもしかたなくロビーへと足を運んだ。

「おーい、コリーン!こっちだー」

大声で手を振っているのは兄のイーモンだった。なんで兄貴までこんなところに・・・・

「これが、ジャレッドか・・・・写真よりも実物の方がずっといいじゃんか・・・・髪の毛なんかサラサラでなんかこう華奢な感じが・・・」
「どうしてここにいるんだ」
「なんだ、コリン、俺がここにいちゃまずいか?」
「ああ、まずいよ!仕事はどうしたんだよ。ダブリンのバーでやっていた仕事は・・・・」
「ああ、それならとっくにやめたよ。こっちの方がお前や姉貴がいるし、お前すごい大作に出るんだろう。兄弟でそろってサポートしてやるからさ」
「必要ない!ダブリンに帰ってくれ」
「お前、兄貴に対して随分冷たいな」
「当たり前だ、今までどれだけたくさんのものを取り上げられたり、金を取られたり・・・・」
「わかっている、俺は悪い兄だった。反省している。でも俺はお前の恋人取ったことは一度もないだろう」
「ちょっとまって!恋人って・・・コリン、あなた・・・まさか・・・・」

今度は姉のクラウディーネの顔色が変わった。俺とジャレッドの顔を交互に見比べている。

「恋人って、あなた男の子と同棲していたの!ちょっとどうするのよ!ママは新年の挨拶に来た日とみんなにコリンは今年中に必ず結婚するってしゃべっていたのよ。急いで戻ったと思ったらまた男同士で・・・・ママが知ったらどんなに悲しむと思うの!イーモンだけでなくコリンまでがゲイだなんて!・・・・ねえ、コリン、目をさましなさい、あなたは女の子でも大丈夫でしょ。そっちにしなさい」
「ちょっと待ってくれ!兄貴も姉貴もジャレッドに対して失礼だろう。まったくなんだ!会ってすぐに勝手なことばかり言って、ジャレッドごめん」
「俺は別にいいよ」
「紹介するよ、彼の名前はジャレッド・レト。映画に何本も出演しているし、バンドを組んでライブツアーも行っている」
「あんまり聞いたことない名前だわ」
「これから有名になるんだよ!」
「俺知っているぜ、雑誌で1位になったことあるから・・・なんていう雑誌だっけ」

余計なことを言いそうになる兄貴を蹴飛ばして、俺はクラウディーネに話を続けた。

「今度、一緒の映画に出るんだ。それでここのスポーツクラブを紹介した。別に俺達は恋人とかそういう関係ではない。ただの共演者だし、一緒に暮らしているわけでもない」
「まあ、ごめんなさい、私はてっきり・・・・本当になんて謝ったらいいか・・・・イーモンがいけないのよ、コリンに新しい男の恋人ができたなんて言うから・・・まったく、気を引きたくてひがんでいるのね。ごめんなさい、コリンの姉でマネージャーのクラウディーネです。よろしくね。コリンは遊んでばかりいるように見えるかもしれないけど、映画の仕事にはすごく真剣で役になりきろうといつも必死なの。それに若い子の面倒見もいいの。私も応援するから、わからないことがあったらなんでも聞いてね」
「は、はい、よろしくお願いします」
「私はちょっとコーチの先生と打ち合わせしてくるわね。イーモン、新人の子にあんまり変なこと言うんじゃないのよ。コリン、イーモンが余計なことするようだったら私に話して、すぐにマネージャー役を首にするから・・・・」
「え、やっぱり兄貴もマネージャーに・・・」
「一応今度の撮影が終わるまでは・・・海外ロケも多いんでしょ、私一人では手が足りないし、どうしても手伝いをしたいっていうから・・・・じゃあね、コリン、またあとで・・・・」

クラウディーネは行ってしまい、俺とジャレッドと兄のイーモンが残された。

「姉貴には秘密にしておいた方がいいな。ばれたらすぐママの耳に入りそうだ」
「兄貴がいけないんだろう、余計なこというから」
「でもあれ、絶対勘違いしているぜ」
「何を?」
「彼の年齢だよ。お前より年上だろう」
「5歳年上だ」
「俺や姉貴よりも上なのか、これは驚いた。絶対にそんな年齢には見えない」
「どうせ、俺は新人にしか見えないよ」

今度はジャレッドがふくれっつらをした。だいたいなんで俺たちがせっかくうまくやっている時に兄貴や姉貴が割り込んでくるんだ。

「いつから一緒に暮らしている。やっぱりクリスマスの後すぐか」
「一緒に暮らしてはいない」
「うそをつけ、さっき二人で歩いている雰囲気でわかった。朝から愛し合ってベタベタしていたんだろう」
「あー、俺達は確かに朝から愛し合っていたよ。なんか文句あるか。しょうがねえだろう、いろいろ事情があって同棲はできないからしかたなく・・・・」
「通い婚をしているってわけか・・・・それもいいなあ・・・・名残おしく別れの言葉を告げてまた次の日・・・・」
「カヨイコン!なんだそれは!・・・・勝手に名前付けるな・・・・どうだっていいだろう!」

俺は頭が痛くなってきた。ジャレッドの兄の心配だけでなく、俺の兄のことまでこんなに心配しなければならないとは・・・・



                                                        −つづくー




後書き
 新年の第一作、明るく健康的な愛の話を書きたかったのですが、やっぱりギャグになっていますね。それでも今年もよろしくお願いします。2006、1,5




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