(9) しあわせ
自分のアパートに戻るとマットとトモが来ていた。今日、バンドのメンバーで集まる予定にしていたので当たり前だが、奥の部屋からは白熱した議論が聞こえる。
「あー、面倒くさいなー、本当にこのレシート全部整理して帳簿を書くのかよ」
「しょうがねえだろう、去年の売り上げが急に増えて、何も出さないと、税金でたくさん持ってかれるぞ!」
「そんなに売り上げあったのか」
「ああ、詳しく計算してないが、少なく見積もっても相当ある」
「高額納税者リストに載るほどか」
「そんなわけねえだろう。やっと普通並みに分け前を出せるくらいだよ」
「そんなもんか」
「だから、去年一年に買った物のレシート、家にあったらなんでももってこい。弁当やジュース代、もちろん洋服代なんかも入れていい。俺達も有名になって、身につける物にも気を使うようになったから・・・・」
「雑誌代とかもいいのか」
「ああ、なんでもいいさ、とにかく持って来い」
俺がその部屋に入っていくと、想像したとおりテーブルも椅子の上も紙切れやノートがちらかしっぱなしになっていた。これではしばらくこの部屋で食事もできない。
「ああ、ジャレッド、帰ってきたのか」
「なんだよ、この部屋は!」
「去年の売り上げをざっと計算して驚いた。まともに帳簿つけて税務署に持っていかないと大変なことになる」
「今までそんなことやってなかっただろう」
「今までとは桁が違う」
「だったらマネージャーでもやとったら」
「そうしたいけどさ、俺達しばらくはお前の撮影で活動中止になるんだぜ。そんな都合よく必用な時だけ来てくれて、面倒な仕事だけ片付けてくれるようなやつがいるか」
「そうだな」
マネージャー志望といえば心当たりがないわけでもない。コリンの兄のシーモンがまさしく俺達のマネージャーをやりたがっていた。だがそこには大きな下心がある。コリンの兄が100パーセントのゲイで俺の兄貴をねらっているという話を何度か聞いた。俺の兄貴は100パーセントストレートな人間で、ゲイなどは大嫌い。そういう人間は全く別の世界に住んでいると思っている。自分で言うのもなんだが、俺とコリンの関係は男同志ということを越えて、前世からの深い繋がり、純粋でピュアな関係だと思っている。その俺達のすぐ隣で100パーセントのゲイと100パーセントストレートの人間が接触したりしたらどういうことになるか、そのすさまじい破壊力で、俺達の関係など吹き飛ばされてしまうに違いない。
「やい、ジャレッド、お前何ニヤニヤ笑っているんだよ。この事態の深刻さがわかっているのか」
「わかっているよ、わかっているけどさ・・・」
俺は笑いをこらえるのが必死だった。100パーセントの人間同士がぶつかりあう恐ろしさに比べたら、こんな紙切れの山、どうということはない。
「何がおかしい!」
兄貴はそうとういらだっている。
「兄貴、そう怒るなよ。俺達は結局売り上げが上がってもうかっているから悩んでいるんだろう。これはすごくいいことじゃないか、いいことなんだからそんなにあせらず、しばらくこの紙切れを見て楽しんでいればいいじゃないか」
「ジャレッド、お前随分楽天主義になったな」
「新しい恋人でもできたのか」
兄貴だけでなくマットとトモも次々に突っ込んでくる。
「ああそうだよ、新しい恋人ができて俺の人生観は変わった。今は何を見ても、何が起こってもハッピーに感じる」
「そう言えばジャレッド、一緒に暮らしたい女ができたと言っていたな。彼女のことはどうなっている」
「もちろんちゃんとつきあっているさ、忙しくてなかなか会えないけど・・・・」
「今度俺達にもちゃんと紹介しろよ。どうせならなるべく目立つレストランで、あらかじめ雑誌記者に情報をばら撒いておけばいい。そうすれば変な雑誌にジャレッドの名前が載ることもなくなる。おいマット、今月も1位だったのか」
「ああそうだよ、6ヶ月連続トップだ。これは素晴らしい快挙だと書いてあった」
「俺はゲイのやつの心理がどうもよくわからない。どういう基準で相手を選んでいるんだか。まあジャレッドはともかく、俺達3人を選ぶような男は絶対いないよな。もしこの世界にそういう悪趣味なやつがいたら逆にぜひ会ってみたいものだ」
身近な場所に実はいるのだが、これは絶対話さない方がいい。
「シャノンは大丈夫だよ、俺が保障する。シャノンのようなタイプは絶対男は逃げていく」
マットのやつ、まだゲイの世界に足を踏み入れたこともないくせに、いい加減なこと言うな。この世界はお前が思っているよりも遥かにいろいろなパターンの人間がいるんだ。俺だってまあ、つい最近足を踏み入れたばかりの初心者で偉そうなことは言えないが・・・・
「俺、先に寝てもいいか、明日早いんだ」
「あ、そうだ、忘れていた。お前、トレーニングに行っているんだものな。気にしないで先に寝ていろ。がんばれよ」
俺は自分の部屋に入って寝たが、その後も3人の話は延々と続いていた。
翌朝、まだ暗いうちに目が覚めてしまった。食堂のノートや紙切れの山はそのまま、リビングルームのソファーの上で3人がそれぞれてきとうな格好で寝ている。ヒーターはつけっぱなしにしてあったからいいけど、寒い冬にこんな所で寝てかぜでもひかないか心配だ。俺は自分と兄貴の部屋のベッドから毛布を持ち出して3人にかけ、そして外に出た。ようやく日が出てきた。いそいでタクシーを見つけ、目的の場所へと急ぐ。
「ジャレッド、大丈夫なのか、こんなに朝早くから」
「目が覚めちまった。なんか体中が痛くてよく寝られなかった。マッサージしてくれる約束だろう」
「9時までまだ時間がある。喜んでしてやるよ」
俺が裸になってベッドの上に横になるとコリンはさっそくまたがって体のあちらこちらを触ってくる。痛い部分を見つけ出すと喜んでその場所をもんだり、強く掴んだりする。俺はそのたびにギャーギャー騒いだ。マッサージとしてどれくらい効果があるかはわからないが、前戯としては抜群の効果がある。俺もコリンもたちまち欲望に満たされてきた。俺はうつぶせになり、足を折り曲げ腰を少し高くした。この格好なら挿入の時相手が力が入れやすく、痛みがストレートに伝わってくる。俺は喜びにガクガク震えながらその瞬間を待った。
「直接入れていいのか」
「ああ、その方が痛みがストレートに伝わって気持ちいい」
「お前、本当に好きだよな」
「じらすなよ、早くしてくれ」
コリンの手が俺の尻を押さえて開き、勢い欲中にこん棒を突き刺した。俺はまた耐え切れずにギャーギャー騒ぎ出す。わざと足を広げ、腰を高くして力の入れやすい方向を探り当てる。
「おい、ジャレッド、あんまり興奮するなよ。気絶したら困るだろう」
「ああー、気絶させてくれよー・・・すごくいい・・・幸せだ・・・・」
「お前ってやつは悲鳴と嬌声が同じに聞こえる」
「俺はマゾだからな、これ以上の幸せはないさ・・・・もっと強くやってくれ・・・・」
悲鳴を上げながら、俺は最高潮の幸せを感じ、そして意識を失った。
にぎやかなパーティーの会場で、僕は食べ物やワインの入った器を何度も運んでいる。10歳の僕には大人の人の間を潜り抜けて食物をこぼさないように運ぶのも大変な仕事だ。しばらく働いていると、招待客の何人かが僕の手を掴んで、この家の主人のところに向かった。みんな金貨を取り出している。
「この子はまだ初めてだ。1枚ではだめだ」
「では10枚ならどうだ」
「いいだろう。初めてだからあまり無理なことはしないでくれ」
「わかっている。このジャレッドはそのうち店の商品よりよっぽど稼げるようになる。いい奴隷を手に入れたな」
「ジャレッド、この人の言うとおりにするんだ。もし少しでも逆らったら鞭で打つ」
「はい、わかりました」
僕は何も知らないまま、その人の後について別の部屋に入った。部屋の中は豪華なベッドやソファーなどが置いてある。服を脱いでベッドに横になるように言われ、僕はそのとおりにした。
「鞭の跡が酷いな。こんなにきれいな顔と体なのにもったいない」
その人は僕の体をゆっくりと触り始めた。僕の体は震えだした。
「どうすればいいのですか」
「心配しなくてもいい、じっとしていればすぐに終わる。鞭で打たれるよりよっぽど楽だ」
「はい」
大きな手が僕の体をあちらこちら触り、そして信じられない痛みに襲われ悲鳴を上げた。始めは何をされたかもよくわからなかった。僕のお尻の穴にこの人の指が入っている。
「痛い・・・やめてください。お願いです・・・」
僕は泣きながら訴えた。あまりの痛さと驚きで僕の目からは涙がぼろぼろこぼれている。
「大人しくできないならこうしてやる。逆らえば鞭を使ってもいいと言われている」
「逆らいません。お願いです。やめてください」
僕の願いは聞き入れられず、手足を広げて縛られ、ベッドの枠にくくりつけられた。口にも布を巻かれ、声も出せない。数回鞭で打たれた後、またあの痛みに襲われた。指よりももっと太く硬いものを差し込まれ、僕は悲鳴を上げた。縛られた手足をバタバタさせ必死にもがくが、痛みは激しくなるばかりだった。激しく打ち込まれ、泣き叫びながらようやく僕は意識を失った。
気がつくと、いつも僕が寝ているみすぼらしい奴隷小屋のベッドの上に寝かされていた。鞭で打たれた場所とそのことをされた場所がひりひりと痛んだ。なんでこんな目に合わなければならないのか。涙が後から後から溢れてきた。
「随分酷い目にあっているみたいだな。それでお前はいつも俺の夢に出てくるのか」
見たこともない服を着た男の人が僕のすぐ側に立っていた。
「あなたは誰ですか」
「俺はお前だ。ずっと後の世界でのおまえ自身だ」
「誰でもいい、助けてください・・・こんなことばかり続いて・・・・」
「俺はお前を助けることも、お前の人生をどうこうすることもできない。ただお前の言葉を受け取るだけだ。辛いことばかりあるようだが、お前にはお前の役割がある。それがやがて俺にも繋がってくる」
「僕の役割・・・・・」
「ああそうだ、お前には見えただろう。今よりずっと前の人生が・・・・お前は一人ではない」
「一つだけ聞いてもいいですか?あなたは今しあわせですか?」
「俺はすごく幸せだ」
「よかった」
僕もまた微笑を浮かべた。
「一つだけ聞いてもいいですか?あなたは今しあわせですか?」
「俺はすごく幸せだ」
「よかった」
「おい、ジャレッド、時間だぞ!起きろ。全く困ったやつだ。気絶して夢見ているんだからな」
コリンに起こされて目が覚めた。怖ろしくはっきりした夢で、彼の恐怖や痛みまではっきり覚えている。
「俺は今すごく幸せだ。お前は辛いだろうけどとにかくがんばれ」
「なにか言ったか」
「いや、俺はお前と一緒ですごく幸せだって」
「わかったからいそげよ!遅刻すると姉貴に怒られる」
「俺は幸せだ」
「いい加減にしろ!」
幸せだ、幸せだと騒いでいる俺の口はコリンの口でふさがれた。
−つづくー
後書き
ものすごく不幸せな前世とすごく幸せな今のジャレッド。どんなに辛いことがあっても希望が見えれば人はきっと生きていけるでしょう。
2006、1、27
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