言葉の錬金術師(3)

兄貴に口をふさがれて俺は何も考えられなくなってきた。キスをしていると頭には酸素がまわらなくなってくる。ボーッとしてきて何がなんだかわからなくなる。気がつけば俺も舌を絡ませて喘ぎ声を漏らしている。

「ヴィタリー、お前は感じやすいんだな。今まで女の子に触れたこともないなんて・・・お前ならその気になればいくらでも・・・」

俺の太ももに兄貴の手が伸びる。どこをどう触られても未経験の俺の体は反応してしまう。どうして今まで一度も女の子と付き合ったことがなかったのだろう。好きだと告白してくれる女の子は身近にいくらでもいた。でも俺はどうしたらいいのかわからないままでいた。自分で何かを決めるのは苦手だ。誰かに決めて欲しい。

「ヴィタリー、力を抜いて横になれ・・・・そうだ・・・いい子だ。少しも怖がることはない。ただ少しだけ我慢すれば・・・・」





大きな船に乗ったのを覚えている。今にも雨が降りそうなくらい空、灰色の海は何もかも飲み込んでしまいそうな怖ろしさだ。俺は隣にいる兄貴の手を握りしめた。この手を離してしまえばどこに連れていかれるかわからない。

「ヴィタリー、いい子だ。泣かなくていい。俺がそばについているから」

船の中で走って転んだ俺の足から真っ赤な血があふれ出した。真っ赤な血は後から後から出てきて止まらない。すぐにどこかの部屋に運ばれた。薬の匂い、足に巻きつけた布も赤く染まっている。

「助けて!ユーリ・・・助けて・・・・」
「しっかりしろ、ヴィタリー・・・力を抜いて・・・そうだ、いい子だ。少しも怖がることはない。ただ少しだけ我慢すれば・・・・」

なぜかその時の記憶に父と母の姿はない。ただ兄貴だけが心配そうに俺を見ていた。死ぬほどひどい怪我をしたと思ったのに、両親はそのことをちっとも覚えていないし、兄貴ですら後で聞くとかすり傷程度で、自分で薬をつけてやったと笑って言う。子供の時の記憶はちっとも当てにならない。ウクライナを出たその日の空も兄貴はよく晴れた青空だと言っている。





「ウクライナを出た日に俺は怪我をして血だらけになった」
「何を言っている。ちょっところんでかすり傷を負っただけなのに・・・・」
「今にも雨が降りそうな寒い日だった」
「そうか、よく晴れた日だと俺は思っているが・・・・」
「うちの料理、ボルシチがやっぱり一番うまいよな」
「あれが最悪だ。俺はまだ他のものの方が・・・・」
「兄貴は大学を出て頭もいいんだし・・・・」
「そうかもしれない、違うかもしれない」
「アアー痛い、ちょ、ちょっと待ってくれよ・・・何する・・・く、くるしい」

最初その痛みがどこからくるかもわからなかった。経験したことのない異様な痛み。それもそのはずだ、尻の穴の中に指を入れられているのだから・・・・俺の身につけていた服もいつの間にか脱がされていた。

「やめてくれー、何するんだよーああー、痛い・・・・ちょっと待って・・・くうー!」

穴の中で指を動かされ、俺は変な叫び声をあげた。だが兄貴は俺の上にまたがり、片手で口を押さえる。

「静かにしろ。外に聞こえるぞ。兄弟でこんなことしているところ見つかったらどうなる。お袋はショックで寝込み、親父はありえないことだとののしって教会に駆け込む。そうはなりたくないだろう。愛しているんだよヴィタリー」
「もうやめようよ・・・・やっぱりこんなこと・・・」

俺は半分泣きそうになっていた。やっぱりこれは普通ではない。だからこんな異様な痛みが・・・・

「ヴィタリー、悪かった。お前は初めてだというのにいきなり興奮して、泣かなくていい、もっとやさしくするからさ、ほらこんなに涙を流して・・・お前はかわいい弟だ。この泣き顔が見たくて俺は子供の頃泣かしてばかりいたけど・・・・素直じゃないんだな・・・本当は好きでたまらなかったのに・・・・ヴィタリー、俺の気持ちをわかってくれ。けっして痛い思いはさせない。お前を苦しめることも・・・ただ愛しているから・・・」

俺はこっくりうなずいた。兄貴は自分の服を脱ぎ俺をベッドにまた横たわらせた。





「痛かったら言ってくれ。無理はしないから」

兄貴はクリームのようなものを指につけ、またゆっくりと俺の尻の穴に指を入れた。さっきとはまるで違うやさしくいとおしむような手の動き、今までに感じたことのない快感に襲われた。俺のものも立ち上がって膨らみ、無意識のうちに快感を求めてシーツにこすりつけていた。むしろ強い刺激を欲しがっているのに兄貴の指の動きは穏やかなままである。

「まだだよ、まだいってはいけない。そう、ゆっくりと感じるままに動いてもいい。だけどいくときは同時にだ。ヴィタリー、気持ちいいだろう、これを罪だと誰が決めた。もしお前がいやがるなら最後まではやらない。兄弟で交わることが罪だと思うならば・・・」

自分の体が自分のものではなくなっている。兄貴の手は俺をじらしながら、欲しくてたまらなくなるように巧に導いている。

「俺達は血を分けた兄弟だ。兄弟だからお前の考えも、今お前の体がどうなっているかも手に取るようにわかる。さあどうする。ここでやめるか、俺を受け入れるか・・・」
「ユーリ・・・どうしたらいいかわからない・・・・」
「お前の答えはわかっている。俺が決めてやる」
「ああーくううー・・・・ツウー・・・・ああー・・・・や、やめて」

再び激しい痛みに襲われた。指などとは比べ物にならないその痛みで俺は泣き叫んだ。

「ヴィタリー、我慢するんだ。これがお前が長い間求めていたものだ」

長い間求めていたもの、確かにそうかもしれない。その異様な痛みで叫びながら同時に笑い声も上げていた。激しい痛みでありながら同時に始めて経験する気持ちのよさ、激しく突かれ、鋭い痛みが起きるたびに俺は笑い声をあげてしまう。今俺の体はどうなっているのか?自分自身のものはとっくにどろりとした液体を流し終わった後だったが、ふたたび回復し次の刺激を求めている。狂乱の声をあげ、自ら腰を動かしていた俺はいつ兄貴の液体を体に受け入れたのかも気がつかないでいた。





「ヴィタリー、さあ試験勉強だ。数学のテキストを出してみろ」

自分と俺の体を手早くぬれタオルでぬぐった兄貴は、服を着て当たり前のようにこう言った。

「勉強って、今から・・・・」
「そうだ、お前もすっきりしたはずだ。勉強もはかどる」
「・・・・・・・」
「次が欲しかったら死に物狂いで勉強しろ。お前も大学ぐらいは出ておいた方がいいぞ。コックはどうも危ない」
「わかったよ」
「テストで成果があがったらまた褒美にやってやる」
「・・・・・・」
「まさかお前がここまで夢中になるとは思わなかったが、まあ予想外の結果が出てうれしい。俺もすっきりした」

兄貴は笑っている。その笑顔を見るとなんだか俺もつられて笑ってしまった。大変なことをしたはずなのに気分よく感じるのはなぜだろうか?

「やっぱり、ウクライナを出たあの日は晴れていたよね、ユーリ・・・・」
「やっと思い出したか・・・・だから俺がいつも言っているだろう」



                                                 −つづくー



後書き
 この兄貴はかなりうそつきという設定です。子供の時からいい加減なことばかり言って弟をだまし混乱させている。でもそれが当たり前になってしまい、兄の言うことはいつのまにか無条件に受け入れてしまう弟です。
2006、2、23



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