言葉の錬金術師(4)
やがて私はある仕事をみつけた。それは会社といっていいのだろうか?何人ぐらいの人間がそこで働いているのかはまったくわからない。事務所に出向くといわくのありそうな美術品や骨董品をその商品の説明を書いた紙と顧客リストと一緒に渡される。仕事は顧客リストに載っている人の家に出向き、商品を見せて説明し、売れれば手数料が入る。自動車のセールスとやり方は大して変わらない。ただ商品と事務所の名前は他人に明かしてはいけないという条件以外は・・・・
私は美術や骨董品に対して深い知識があるわけではないので、説明書に書いてあるとおりのことを覚え、客の前でそのまま説明した。それが本当かうそかということはわからない。わからないでしゃべっているから信用されるのかもしれない。思った以上にたくさんの商品が売れ、多額の手数料を受け取ることができた。そのお金の一部を使って店のレイアウトを替え、椅子やテーブル、カーテンなども新しい物にした。なかなか腕のいいコックも新しく雇い入れた。そのことで客が急に増え、店は大繁盛というわけにはいかないが、そこそこ舌にあったものを食べられるのはありがたい。そこで夕食を食べることも多くなった。
「兄貴、やっぱり腕のいいコックが入ると違うよな。味がぐんとよくなった」
「そうだろう、やっぱりお前でも違いはわかるか。勉強の方はどうだ」
「よくわからねえ。俺やっぱり数学は嫌いだよ。今夜教えてくれる?」
弟がちょっと甘えた鼻に掛かった声で聞いてきた。数学を教えて欲しいと言うのは私達二人の暗号だ。
「宿題たまっているのか」
「ああ、いっぱいたまって死にそうだ。頼むよ兄貴、なんとかしてくれ」
「わかった、わかった。今夜は仕事の予定もない。ゆっくり相手をしてやるよ」
「ユーリ、しっかり教えてあげてね。また試験も近いし・・・・」
「ああ、まかせておけ」
母の声に適当に返事はしているが、私の体はヴィタリーの甘えた声を聞くだけでほてって熱くなってくる。あの日以来密かに私達は体を重ねる関係を続けてきた。断っておくが決して私はゲイとかバイセクシャルなどと呼ばれる種類の人間ではないと思う。男同士で抱き合い、キスをするなどもってのほか、握手さえいやいやながらしているほどの私である。男同士でのそのような行為など考えただけでもぞっとする。決してそれはないだろう。それなのになぜ実の弟と関係を持ったか、これは相手がよくしっている弟だから、としか説明がつかない。小さな時から一緒に育ち、その体に触れていた弟だからこそ、安心して触れ、体を絡め合うことができる。それはよく知らない女を抱くよりももっと深い安心感がある。
「兄貴、やっぱりこのボルシチも口に合わないのか」
「いや、そんなことはない。随分よくなっている」
「さっきからぜんぜん口にしてないけど・・・」
「ちょっと考え事をしていた」
「なにを?」
「お前のことだよ。お前のような弟がいてよかった」
ほんの少し手を触れただけでヴィタリーの体ははじけそうなほどの反応を見せた。
「ちょっとまって、今触られたらそれだけでいきそうだ」
「しばらく俺の仕事が忙しかったからな。お前、自分では出せないのか」
「自分で出したってちっとも気持ちよくねえ。ずっと兄貴を待っていた」
私の体もすぐに反応を示した。不器用な弟は自慰もまともにできないし、もちろん女に触れたことも一度もない。ただ私だけに全てを許し身を任せてくる。
「なあ、ヴィタリー、お前ガールフレンドぐらい作った方がよくないか、このまま俺とばっかりやっていたら女とできなくなるぞ」
「大丈夫だよ、その時はその時さ。ああー、早くきてくれ。もうたまらない」
弟の甘い声はどんな女よりも私を奮い立たせ興奮へと導いてくれる。声だけではない。甘えた上目遣いの目つき、滑らかな肌触り、腰から足にかけてのライン、何もかも申し分ない。私は弟をうつ伏せにし、ゆっくりと挿入を始める。
「ああー・・・いい、気持ちいい・・・すぐにでもいきそうだ・・・・」
「まて、そう急ぐな・・・・おちついて・・・ゆっくり息をすって・・・・」
言いながら私もゆっくりとした呼吸を始めた。実の弟と交わり欲望を吐き出すこの行為は実際は汚く醜いことであるはずなのに、なぜ私はこんなにも甘く幸せな気分に浸っていられるのだろうか。すべてが偽りと嘘に満ちたこの世界の中で今この瞬間だけは生きている実感がある。弟の肌から直接伝わる感覚が限りなく私の心を高揚させていく。
「ヴィタリー、愛している。俺の大事なかわいい弟」
私達は充分愛し合って満足し、そして互いの体液を吐き出した。すべてが終わり、欲望をなくした後でも、やはり同じように弟に対して限りない愛おしさを感じる。本気で愛してしまったのだろうか・・・・
「今月も君が売り上げは一番だ。何か秘訣でもあったら教えて欲しいくらいだ」
「いえ、私など何も知らなくて、ただ説明書どおりのことを言っているだけです。それがうそなのか本当なのか自分でもよくわかってないのです」
「それにしては君の態度は何もかも知り尽くしているようにすら見える。その若さで君はどうやってそれだけのものを身につけた?」
「わかりません。私はただいつも目の前にある仕事をこなしているだけです」
私に深い考えはない。ただ目の前にあるものを淡々と・・・・ヴィタリーとの関係は・・・・今そのことを考えるのはやめよう。それが罪だということは充分別っているが、それで結果がよい方に進めばよいのではないか。不器用な弟は私が相手でもしてやらなければ悶々と欲求不満を溜め込み、勉強など手につかなくなって、散々な成績を取るだろう。私だって、以前の私なら今の仕事での成功はありえない。それがきっかけとなって、みながよい方向に動き出した。そう思うことにしよう。父だけは相変わらずユダヤ教会に通い、私達とはまったく別の世界で生きているが・・・・
−おわりー
後書き
この話はこれで終わりです。最後の最後まで自分の感情がよくわからず、なんとなくごまかしているユーリです。きっと兄はずっとこういう感情をもてあましていて弟を引きずっていたんだろうな、などと思いつつ、ひとまずこれで区切りをつけます。この先ずっと曖昧な関係でこの兄弟は戦場に行き、船に乗り、危険と背中合わせの体験を通して絆を深めていく、いやそういう映画ではなかったです。相手が死ぬほど好きな純愛もいいけど、こういう曖昧な話も関係もいいかもしれないと思ってみたり、ゆう様、珍しいリクエストありがとうございました。
2006、3、2
目次に戻る