ロード・オブ・サッカー(11)
舞台 ゴート国立サッカー競技場と港
登場人物 カール(指輪、エオメル)
デヴィッド(指輪、ファラミア)
ジャレッド(大王、ヘファイスティオン)
フランシスコ(大王、バゴアス)
ニコラス(戦争王、ユーリ)
試合が終わっての打ち上げ、新人選手カールの大活躍もあってゴート国の代表選手はみな気分よく酔っていた。だがカール自身はどうしても気になることがあって、心のそこからその宴会を楽しむことはできなかった。眠くなったからと言って一足先に合宿所に戻れば練習コートにまだ明かりがついている。こんな遅くまで一人で練習しているのは彼しかいない。カールは喜んでコートに近づいた。正確なパスの音、人が走るときの荒い息遣いと足音、だがそこにいたのはジャレッドではなかった。
「デヴィッドさん!あなたが練習していたのですか」
「カールか、今夜はお前のための打ち上げだろう。途中で抜けていいのか?」
「ちょっと気になることがありまして・・・・」
「ジャレッドのことだろう・・・あいつなら飲み会やミーティングには出なくても、自主練は必ずやる、そう思って来たのだろう、それなのに俺なんかが練習しているからびっくりした、そうだろう」
「は、はい」
デヴィッドには人の心を読める特別な能力があった。いつも誰でもというわけにはいかないが、自分が心を寄せたり気になっている相手が何を考えているかなどは大抵わかってしまう。試合中も敵の選手がどこへいこうとしているか、誰にパスしようとしているか、わかってしまうから、先回りして止めることもたやすいことであった。
「俺がここで自主練をするのは久しぶりだ。子供の頃から家に広いコートが何面もあり、兄もいればサッカーを教えてくれる専属コーチまでいた。いまでも我が家には専属トレーナーが父、兄、俺とそれぞれ一人ずつついていて練習メニューから基礎トレまで全てアドバイスしてくれる。わざわざここに来て一人で自主練をやる必要など全くない」
「専属コーチやトレーナーまでいるんですか?すごいですね。俺なんか牧場で羊の群れに当てないように気をつけてボールを蹴っていたから・・・羊なんかまだいいですけど、うっかり犬にボールを当てたりなんかしたらもう大変ですよ。犬に追いかけられながら羊の群れの間をすり抜けて、ほんと、そんなことばっかりしていました」
「俺はもの心ついたときから、勉強よりも先にサッカーの練習をするよう言われていた。毎日決まったメニューがあって、それをこなさなければ、食事も食べさせてもらえなかった。そんなに長くやっている割には結局俺にはサッカーの才能はないんだよな。ショーンのような強い意志も父のようなねばり強さもない。お前はノーブル家の恥さらしだとよく言われた」
「でもデヴィッドさんは長い間代表選手に選ばれて・・・・」
「それも実力ではない。兄や父の手前、とりあえず選ばれただけだし、同じ理由で試合に出してもらえない、なんていうこともない。だけど活躍もしないでただ敵に点を入れられないよう守っているだけだ」
「デヴィッドさんの守りは素晴らしいですよ。まるで相手の選手が次にどう動くかわかっているかのように先回りして球を奪っている」
「ハハ・・・先回りは得意だよ・・・・相手がどう動くかなんて一番わかりやすい・・・父と同じ能力を俺も持っている。だけどそれで球を奪ってなんになる?父にいつも言われているさ、お前は小賢しい能力を使って球を奪っているだけだ。ショーンのように実力で勝負しているわけではないと・・・・」
「そんなこと言われているのですか」
カールはデヴィッドの整った顔をじっと見つめた。比較的感情を表に出して喜んだり悔しがったり泣いたりする選手が多いゴート国代表チームのなかで、デヴィッドは一番クールで感情を表に表さない選手だった。その彼が自分や家族のことを話すのはめったにない。
「おっと、俺のことはどうでもいい。カール、お前のことが気になってここで待っていた。必ずここに来ると思って・・・」
「俺のことがですか・・・・」
「正確に言えばジャレッドのことを気にするお前が気になって待っていた」
「ジャレッドさんのことですか・・・・そうですね・・・まさかあの人が試合からはずされて俺が代わりに出るなんて事・・・・」
「幻の天才ストライカー、ジャレッドはそう呼ばれている。その意味がわかるか?」
「滅多にいない、他にはない特別の才能を持った人だから、そういう意味でしょう」
「それもある。だが別の意味でもそう呼ばれている。ジャレッドはきまぐれだ。波に乗れば誰もが驚くようなシュートを放つが、そうでないときは全く役に立たない。あいつは自分で敵のボールを奪うこともしなければ、チャンスをねらって他のフォワードに球を回すこともしない。無理な位置だとわかっていてもパスをしないで自分でシュートしてしまう。波に乗ったほんの一瞬以外はチームの邪魔にしかならない。だから幻の天才ストライカーだよ。あいつを使いこなそうとするのは本当に難しい。それでも監督は違った働きもできるようにとあえてお前をフォワードに入れ、ミッドに回そうとしたら、それをいやがって出て行ってしまった。困ったやつだ・・・」
「でも、ジャレッドさんの気持ちもわかります。ずっとフォワードでやってきて、いきなりポジションをかえろと言われたらショックを受けるのもしかたがないと思います。俺なんかまだ新人でポジションもなにもとにかくプロとして試合に出れるだけでもうれしくて何も言いませんが・・・」
「ジャレッドに特別な感情でも抱いているのか・・・」
「あ、いえ、俺は別に・・・」
カールはどきまぎして答えた。あの合宿の夜のできごと、カールには初めてで特別な体験であった。少し思い出しただけでも体が激しく疼き、いてもたってもいられなくなる。
「こんな所で話す内容でなくなってきた。続きは俺の部屋に来い」
「デヴィッドさん、俺は何も・・・・」
「お前の心、俺には手にとるようによくわかる。ジャレッドとの間に何があったか・・・・今のお前の心がどう揺れ動いているか・・・自分でも気がついていない心の奥深くにある欲望・・・・みんな俺にはわかってしまう」
「やめてください、デヴィッドさん。俺はそんなことは聞きたくない。もう行きます」
「まて!それは特別なことではない。この代表メンバーの中にもそんなカップルはたくさんいる。ヴィゴとオーランド、ドミニクとビリー、まああいつらは一緒に暮らしていても何もしていないかもしれないが・・・俺とショーンだって・・・」
「ちょっと待ってください・・・ショーンさんとあなたは兄弟では・・・」
「ああそうだ、血の繋がった実の兄弟でありながら愛し合っている。もう二十年以上も続いている」
「やめてください。そんな話は聞きたくありません」
「お前の頭がいくら否定してもお前の心と体は求めているんだろう。カール、おれの部屋に来い」
背の高いカールの顔を見上げているデヴィッドの青い瞳はその輝きを増した。カールは目をそらすことができない。その瞬間にも自分の心が読まれているであろう居心地の悪さと、不思議な陶酔感で眩暈を起こしそうになりながらも、カールもまたその目をじっと見つめた。
夜の港にジャレッド、ニコラス、フランシスコの三人が現れた。ジャレッドとニコラスは大きなカバンを抱えているがフランシスコはほとんど何も持っていない。
「荷物はこれで全部か。サッカーボールと着替えが少しだけか」
「これだけあれば充分だ。ゴート国の名前が入ったコップやユニホームはいらねえだろう。これから亡命するんだから」
「僕も一人暮らしだったのでそんなにたくさんの荷物は・・・・」
「急がせて悪かった。ウルフ国に向かう貨物船が急に今夜出港することになった。まだ出港まで日があると思っていたが警察の一斉手入れが明日から始まるらしい。それで急いでこの国を出ることになった」
「何か警察に捕まるようなことでも・・・」
「お前達は余計なこと気にしなくていい。その貨物船に何が積まれているかなど・・・正規の方法では亡命などできない。何かしら理由のある船だからこそ隠れる場所もある」
「わかりました」
「家族に別れはすませたか」
「俺は置手紙を残してきた」
「まあこれで生涯の別れになるというわけでもないから・・・その気になれば家族がウルフ国に会いに来るのは簡単だ。ウルフ国は観光だけならいくらでも外国人を受け入れてくれる。ただその国の人間になるのは非常に難しい・・・」
「本当にウルフ国でもサッカーができるのか」
「できる。代表メンバーにもなれる。これは俺が保障する。何も心配しなくていい」
「ならそれでいい。サッカーさえできるならどこへ行こうと・・・・」
「また何か忘れた物があったら、俺は数ヶ月後にまたゴート国へ戻ってくる。その時にまた・・・」
「ゴート国の物はほとんど持っていきません・・・・この国のことはもう・・・忘れたい・・・」
「そう言うな。今まで何があろうと、いくら別の国で受け入れられようと、自分が生まれた国のことは一生忘れられない」
目に涙を浮かべていたフランシスコの肩をニコラスはそっとたたいた。
「さあ、行こう。今のうちに乗り込んで隠れていないと人が大勢やってくる」
「それって、もしかして密航と言うのでは・・・密航は犯罪ですよね」
「大きな声出すな・・・手段は悪いけど向こうに着いたらうまくやる。何も心配するな」
「おい、フランシスコ、いまさら犯罪とかなんとか言うならお前一緒に来るな」
「そんなこと言わないでください。ただびっくりしただけで・・・行きます・・・ついていきます」
「俺はあんまりついてきて欲しくないんだけどな・・・・」
「静かに、明かりは消して、いくぞ・・・」
「はい」
三人は暗闇に紛れてこっそりと大きな貨物船へ近づいた。
−つづくー
あとがき
いよいよ密航、亡命をします。ここまでくるのに思ったよりずっと長くかかってしまいました。
2006、5、18
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