ロード・オブ・サッカー(14)
舞台 ゴート国のデヴィッドの部屋とウルフ国のコリンの部屋
登場人物 デヴィッド(指輪、ファラミア)
カール(指輪、エオメル)
コリン(大王、アレキサンダー)
ジョナサン(大王、カッサンドロス)
ジャレッド(大王、ヘファイスティオン)
イーサン(戦争王、ジャック・バレンタイン刑事)
フランシスコ(大王、バゴアス)
ゴート国のサッカー競技場の敷地内にある合宿所の宿舎でも、執政ノーブル家の次男であるデヴィッドの部屋は別の棟にあった。執政のノーブル氏と長男ショーン、次男デヴィッドの3人だけがその棟に入ることを許され、他の者は例え代表選手やキャプテンのヴィゴ、ピーター監督ですら入ることはできなかった。もちろん新人のカールなどはこの棟に近づいたことすらない。デヴィッドの後についてこの棟のエントランスホールに近づいたカールは不安そうに辺りを見回した。
「心配するな、今は父も兄も本宅にいてここには泊まっていない。ここを利用するのは試合がある時と強化合宿の時ぐらいだ。もっとも父は最近は強化合宿にも参加しなくなったが・・・・」
「もう引退を考えた方が・・・・あ、すみません、余計なこと言って・・・・」
「いや、俺もそう思っている・・・だが父はなぜか現役選手であることにこだわり引退しようと言い出さない。執政の仕事ですらもう引退を考えた方がいいほどの年齢なのに・・・・」
ノーブル家の家庭の事情やノーブル氏の心の内など、カールにはわかるすべもない。そこで少し話題を変えた。
「それにしても素晴らしい建物ですね。俺、こっちまで来たのは初めてなんですけど、まるで一流ホテルですね」
「一流ホテルか・・・・ハハハ・・・本宅はこんなものじゃないぞ。いくつもの棟が広大な庭やサッカーコートやプールの間に点在し、別の場所に行くのにカートが必要だ」
「素晴らしいですね。俺は友達の家に行くのに馬に乗っていましたが・・・・」
「どこも一流のホテルだよ、俺にとっては・・・・・どれも立派だがいる場所がない。一流選手で執政の父と一流選手の兄に囲まれて、俺は自分が何をやりたいのかもわからない。ただ言われるままに練習メニューをこなしてきた」
デヴィッドは自嘲的に話して笑った。二人がホールに入るとさっそく受付の者が近くに来た。
「デヴィッド様、今夜はこちらにお泊りですか?」
「ああ、いつもの部屋を頼む。後で軽く飲めるものとつまみを持ってきてくれ、それから彼のことは父には内緒だ」
「かしこまりました。いつでもお泊りいただけるようご用意しております。お荷物をお持ちしましょうか?」
「いや、自分で持っていく。ご苦労だった」
デヴィッドの部屋に入ってカールはまた歓声を上げた。ベッドルーム、リビングルーム、バスルームとまるでホテルのスウィートルームのようである。ベッドもソファーも趣味のよい高級品が並べられている。断っておくがここはホテルではなく競技場内の宿舎である。その部屋がこれだけの物で整えられているということにカールはもはや言葉を失っていた。
「きょろきょろしていないでそこに座れ。そう驚くな・・・・お前だって次のワールドカップが終わる頃にはこれだけの家に住むようになるさ。まあ、合宿所はそのままだろうけど・・・ヴィゴやオーランドだって宿舎はお前と同じような部屋だが、郊外にたいした家を持っている。この国でサッカーの代表選手に選ばれれば手に入らない物は何もない」
受付の男が持ってきたウイスキーのボトルをあけ、デヴィッドはコップに氷を入れた。
「アルコールには強い方か」
「あ、はい、まあ・・・」
「それならストレートで飲め、ある程度酔っていた方がいいだろう。こういう場合は・・・もっとも酔いが回りすぎて使い物にならなくても困るが・・・・」
「デヴィッドさん、俺・・・・」
「いまさらイヤだとは言わせないぞ・・・・そのつもりでついてきたのだろう。自分に素直になれ・・・初めてではないはずだ・・・」
デヴィッドはカールのすぐそばに座り、腰に手をまわしてきた。
「新しいストライカー誕生を祝って乾杯!」
「ストライカーって、俺・・・・ジャレッドさんのことは・・・・・」
「ジャレッドのことが気になるか・・・・あいつはもうこの国ではやっていけない。幻の天才ストライカー、そう言われてちやほやされる時期は長くは続かない。あの体がそのままである以上・・・・」
「ジャレッドさん、どこか体に悪いところでも・・・・」
「誰にも言うなよ・・・・あいつの心臓には欠陥がある。日常生活にはさしさわりないが、サッカー選手としては致命的だ。余りにも激しく走り続けたら血管が破れ命を落とす。そのことがわかっているからあいつは決して全力では走らない」
「みんな、知っているのですか」
「誰も知らない・・・監督でさえも・・・知られたら代表どころかプロサッカー選手としてもやっていけなくなる。それがわかっているからあいつは隠し続けた・・・自分の性格が極度にきまぐれで協調性のないふりをして・・・・」
「どうしてあなたはそのことを知っているのですか!」
「俺は人の心が読めるから・・・未来のことも少しならわかる」
「それならどうして監督に言わないんです!そんな心臓に欠陥があるならミッドは無理です。最前線にいてシュートを決めるだけのポジションに!ジャレッドさんならそれでも充分やっていけたのにどうしてあなたは見て見ぬふりをして!」
「見てみぬ振り・・・・・そうかもしれないな・・・・先のことがわかってしまうと、見てみぬふりがどうしても必用になる・・・ジャレッドを愛していたのか・・・・」
「わからない、あれが愛だったのかどうか・・・でもあの人のサッカーの技術と情熱は俺よりはるかに上だ」
「情熱が上だなんて誰が決める?俺なんてさぞかし情熱も技術もなくただ父と兄の力でやってきた人間に見えるだろうな。そんな俺の本心を誰がわかる!・・・・・心配するな・・・・ジャレッドも今頃は乾杯している・・・あいつは新しく生きていく場所を見つけた」
「もうサッカーをやめてしまうのですか?」
「それはわからない、ただ新しく生きていく道を見つけた。俺にわかるのはそれだけだ。すべてがわかるわけではない」
「あなたはずるい人です。・・・・・人の心を読み、翻弄していく・・・俺はどうすることもできず、ただあなたに絡み捕られるばかり・・・」
「俺を絡み捕るのはお前の方だ・・・・・初めて会った時からそのことを感じていた」
「デヴィッドと呼んでいいですか?ずっと年下で後輩である俺が・・・・」
「年齢や先輩後輩はいまこの時には関係ないだろう」
「デヴィッド、俺はあなたのことを・・・・・」
「言葉はもういらない・・・・俺はお前が欲しい・・・・借り物の人生を送ってきた俺に情熱を呼び覚ませるほどの熱い心と体を持つお前が欲しい・・・・今すぐに・・・・」
デヴィッドは目を閉じ上を向いた。それは祈りの姿勢にも見えた。あの夜と同じ姿をした男を目の前にしてカールの心は激しく揺れ動いた。体の中心から湧き上がる激しい欲望と懸命に戦いながら、カールは自分の唇をデヴィッドに押し付け、我を忘れて舌を動かし始めた。
「遅い!何やってんだ・・・・こっちはせっかくの楽しみを45分で切り上げて残り15分で後始末もしたのに何で来ないんだ!」
約束の時間を5分も過ぎるとコリンはもうイライラして部屋の中を歩き回った。イーサンが1時間後にジャレッドとフラなんとかという若い男をつれてくるというから、せっかくのジョナサンとの行為も急いで終わらせて、慌ててシャワーを浴び、ホテルの部屋のベッドもきれいに整えた。やってくるのがイーサン1人ならここまで気を使わないだろうし、おそらく追い返していただろう。だがジャレッドがいるとなると話はまったく別になる。ビデオで見たジャレッドの素晴らしいプレー、神業とも思えるシュート・・・その本人がすぐ近くにいるのだ。興奮せずにはいられない。早くその実物をこの目で見て、できればその足に触れてみたい、コリンの心はジャレッドの方に急速に傾いてしまった。ジョナサンとの行為を続けながらも、ジャレッドの足や腰はこれより細いかどうだろうか、などと余計なことが頭をよぎってしまうのである。ビデオで見る限りジャレッドの体はかなり細い、だがサッカーをやっている以上もものあたりにはほどよく筋肉がつき、引き締まった足首は・・・・などと妄想が止まらないのである。
「おい、キャプテン、気になるならケータイを使えよ。遅刻常習犯ばかりの俺達のチーム、ケータイは義務として持たせてあるだろう」
あまりにもイライラと歩き回るコリンに呆れ顔でジョナサンは声を書けた。
「さっきかけたらイーサンのやつ、電源を切っていた」
「レストランにでも入っているのだろう」
「だったらマナーモードにしておけよ。ちょっと席を立ってかけなおす暇ぐらいあるだろう」
「それってレストランで同席している相手に対して失礼じゃないか」
「何が失礼だ!大体俺達はその・・・あれをやっている最中だったんだぞ!それを中断させてそれ以上のマナー違反がどこにある!それなのにあいつ時間が過ぎてもちっとも来ないじゃないか!」
「珍しいな、お前がそんなにイライラするなんて・・・・よっぽどジャレ・・・・」
言いかけて慌ててジョナサンは口をつぐんだ。ジャレッドという名前に本能的に強い拒否感が走った。
「煙草でも吸って待っていろよ」
「そういえば、俺さっきから全然煙草吸ってないな。いつからだ?」
「やり始めてからずっとだよ・・・・」
「そうだった・・・煙草でも吸っていれば・・・・」
コリンは煙草を吸い始めたが半分も吸わないうちにそれを灰皿に置いた。
「こうしてはいられない。俺ちょっと外を見てくるよ」
「すれ違いになるぞ」
「ホテルの入り口で待っている。それならいいだろう」
言い終わらないうちにコリンは部屋を飛び出してしまった。ジョナサンは灰皿を見た。吸いかけの煙草がまだ煙を上げている。思わずそれを口に加え、激しく咳き込んであわてて離した。彼は煙草など吸ったことは一度もなかった。ようやく咳が静まると、その煙草の吸殻を拾い、灰皿の上に念入りに押し付けて火を消した。それでも彼の手はなかなか吸殻を離さず、何度も灰皿の底にこすりつけた。
「ジャレッド・・・・あんなひ弱そうな体のやつに、この国でサッカーができるわけない。ゴート国のやつがウルフ国の人間と対等にやっていけるわけない・・・・」
特殊警察での仕事をしているイーサンは各界の重要人物と極秘に会うことも多く、そのための隠れ家的レストランもたくさん知っていた。今つれている2人はもちろん重要人物でもなければ極秘で会う相手でもないが、一応ゴート国からの亡命者である。ジャレッドもフランシスコもおそらくニコラスが用意したのであろう、ウルフ国のパスポートを持っていた。だがその写真はかなり本人とは違う。ウルフ国とゴート国では写真の技術がかなり違うので、ゴート国で撮った写真をつけておいては、ウルフ国のものでないとすぐにバレてしまう。だからニコラスは写真はウルフ国についてから撮るように、と言ってまだ変えてなかったのだろう。貨物船で闇に紛れて上陸したので入国審査を通過せずこのようなパスポートでも入国できたのだが、万が一にも警察に事情徴収などされ、このパスポートを見られたら、すぐに入国管理局に連れて行かれ、ゴート国に強制送還ということになってしまう。写真を撮ってパスポートの物と貼りかえるまではなるべく目立たないところにいた方がいい。もっともフランシスコはともかくジャレッドのようなゴート国代表のサッカー選手、ウルフ人でないことぐらい誰にでもすぐわかってしまうのだが、パスポートさえ持っていれば警察も入国管理局も彼らを捕えることは決してできないのである。いろいろ考えてイーサンはもっとも人目につかない隠れ家的レストランに2人を案内した。
「貨物船の中ではロクの物食べてないんだろう。俺のおごりだ。好きなもの食べろ」
「え、本当ですか?」
「ありがとうございます」
無邪気に喜ぶ2人を見てイーサンも悪い気はしなかった。だがこの2人、体は細いのに数日まともに食べていなかったためか、驚くほどよく食べた。隠れ家的レストランは当然値段も高いことが多い。仕事の時は付けで払ってもらえるが今回は当然自腹である。だんだん合計金額が気になってコリンと約束した1時間などとっくに過ぎていることにはまったく気がつかないでいた。目の前のゴート人、ジャレッドとフランシスコはその繊細な顔立ちからは想像もつかないほど、豪快なたべっぷりで、高級料理を次々に注文した。
−つづくー
後書き
合宿所の宿舎にもホテル並みの建物を持っている家族とか、パスポートさえ持っていれば大丈夫、という話、これらは全部うそですから本気にしないでください(笑)うそなんだけど本当らしく書くにはどうしたらいいか、いろいろ考えました。
2006、6,7 ワールドカップ開幕まであと2日ですね。ワールドカップが終わるまでにはこの話、完結しそうもありません。
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