ロード・オブ・サッカー(16)
舞台 ウルフ国のホテルの一室
登場人物 ジャレッド(大王、ヘファイスティオン)
フランシスコ(大王、バゴアス)
コリン(大王、アレキサンダー)
ジョナサン(大王、カッサンドロス)
イーサン(戦争王、ジャック・バレンタイン刑事)
ベッドの上に気持ちよさそうに眠るジャレッドとフランシスコを見てコリンは生唾を飲み込んだ。サッカー選手とは思えないほどの華奢な体つきのジャレッド、男でも女でもない神秘的な体つきのフランシスコ、どちらもかなりコリンの好みのタイプである。どちらか一方と二人きりでホテルの部屋に入り、相手が亡命して来たなどという複雑な事情さえなければ、すぐにでも裸にして襲い、思う存分楽しみたいところである。けれども今は複雑な事情もあるし、ジョナサンやイーサンも目の前にいるのだから下手なことはできない。ただじっと見つめることしかできない。
「おい、コリン、ジョナサン、3人でここでボーッと寝顔を見てることもないだろう。俺に任せてお前ら2人は宿舎に戻った方がいいんじゃないか。明日はオフなんだし、2人でゆっくり楽しめよ」
「お前がこいつらを襲う可能性は?」
「俺はストレートだ。100パーセントない」
イーサンは胸を張って答えた。もっとも彼の場合はストレートといっても女性に夢中になった経験もない。秘密警察の仕事が非常に忙しくまたそれにやりがいも感じているので、深い関係どころか女性と話すことさえ難しい。
「そうか、俺だって15まではストレートだったぜ。そんなものはいつかわるかわからねえ、これだけのやつが目の前にいれば誰だって襲いたくなるだろう」
「確かにそうだ。この俺ですら見ていると妙な気持ちになってくる」
ジョナサンも答えた。今までコリンだけを一途に思っていたジョナサンですら、この2人には別の感情を抱いてしまうほど、あまりにも魅力的であった。
「無理だな、誰か1人が側にいるとどんな男でも危ない。3人で見張ってようぜ」
「こんなにくっついて見張っていることなんか今までなかったな」
「おい、犯人じゃないんだぜ、イーサン、お前の目つき険しすぎないか」
「俺はもともとこういう顔なんだよ。うるせえな、お前こそいつも物欲しげな目つきでコリンを見ているじゃないか・・・・おい、コリン、お前なにやっているんだよ!」
イーサンは大声を出した。ジョナサンと言い争っている間に、コリンがジャレッドの胸に耳を押し付けているのを目撃してしまったのである。
「やい!このオオカミ男め!・・・さっき襲うなと自分から言ったくせに・・・」
「しー、静かに・・・目をさますだろう」
ジャレッドの顔と腕が少し動いた。イーサンとジョナサンはドキリとした。こんなふうに襲われそうになっていることがわかれば、彼は逃げ出してしまうかもしれない。
「ジョナサン、悪いけどちょっと胸を開いてそこに横になってくれないか」
「コリン、なに考えているんだよ。複数の人間と同時にやるの、俺はイヤだぜ」
「静かに!目を覚ましてしまうだろう。お前がイヤならイーサンでもいい」
「わかったよ、胸を開けばいいんだろう。俺の胸の方がこいつよりずっと大きいぜ。わざわざ開いて見なくても」
「いいから早くしろ!起こすなよ」
不信に思いながらもコリンの言葉に逆らえないジョナサンは上着を脱いで胸を張り出すような格好でベッドに横になった。コリンの耳が近づいてくる。くしゃくしゃの髪が胸に押し付けられた。嗅ぎ慣れた髪の匂い、体の重み、ジョナサンの期待は高まり、胸の鼓動は激しくなった。
「お前じゃだめだ!やっぱりイーサンの方がいい」
「俺のどこに不満があるんだよ」
「お前の鼓動はすぐ早くなる。比較にならねえ」
「悪かったな!俺は反応が早いんだよ」
「おい、コリン、お前こうして欲しいんだろう。早くやれよ」
コリンとジョナサンが言い争っている間にイーサンはさっさと上着を脱いでベッドの別の場所に横になった。
「俺はジョナと違っていくらお前に体を触られても反応しないぜ。比較するにはちょうどいいだろう」
「ああ、始めからそうしていればよかった」
半裸のイーサンの体の上にコリンがうれしそうに飛び乗った、というふうにジョナサンには見えた。体の中に熱い固まりができてムカムカし、一気にそれを言葉として吐き出してしまった。
「いー加減にしろ!お前ら何やっているんだ!」
「どうしたんですか?何かあったのですか?」
ジャナサンの大声にフランシスコが目を覚ましてしまった。
「あ、何でもないよ、フランシスコ君。俺達はその、つまり裸になって・・・・あ、そうそうマッサージをやっていたところだよ。サッカー選手はいつも筋肉を最高の状態に保つためにはマッサージが欠かせないんだ」
「それなら僕がやってあげましょうか?マッサージ得意なんですよ。正式に習ったこともあるんです。チアガールだけだと食べていかれないかもしれないから手に職をつけようと・・・」
「そうか、それならぜひやってほしいが、お前も疲れているだろう。今夜は俺達でお互い適当にやっているから明日から頼むよ」
「わかりました」
フランシスコは頷くとまた静かに横になって目を閉じた。だがこの騒ぎの中、ジャレッドは少しも目を覚まさずにぐっすり寝ていた。ただ神経が図太いだけなやつならいいがもしかして・・・コリンはジャレッドの体の状態にある疑いを感じてしまった。それでわざわざジョナサンやイーサンを裸にして胸の音を聞いていたのである。
「やっぱりそうだ。普通寝ているときは心臓の鼓動はこれぐらいの早さだよな」
「俺は普段から鍛えているから全力で走ったって心拍数はそう変わらないぜ」
「フランシスコはどうだ、ねているか」
「ああ、こっちも寝てしまえば暴睡だ」
コリンは起こさないようにそっとフランシスコの胸に耳を近づけた。今まで嗅いだことのない微かな異国の香りがコリンの官能を刺激した。ひたすら耐えて目を閉じその鼓動のリズムを聞くことに神経を集中させた。続いてもう一度ジャレッドの胸にも・・・明らかに鼓動のリズムが違うし、ザーザーという聞きなれない音が聞こえる。
「コリン、もう口をきいてもいいか?さっきから何やっているんだよ」
「ジャレッドの胸の音、他の人間と少し違う。ジョナサン、お前も聞いてみるか」
「俺は遠慮しておく」
「代わりに俺が証人になってやる」
イーサンもコリンと同じことをした。その違いはイーサンの鋭い耳にはすぐにわかった。
「コリン、今お前が思っていることと俺が思っていることはおそらく同じだ。俺の口から言おうか?」
「ああ、お前の方がよくわかるだろう」
「ジャレッドは心臓に病気を持っている」
「心臓に病気!本当かよ」
一番驚いたのはジョナサンであった。病気について詳しいことなど何も知らない。だが病気を抱えてスポーツ選手になりトップにまで登りつめることがどれほど大変か、彼にはよくわかっていた。その気持ちはコリンやイーサンも同じである。
「こいつ、自分で知っているのか?」
「おそらくな、・・・・わかった!だから自分であんまりボールを取りにいかないんだ。なるべく走らずにただゴールだけを決めようと・・・」
「天才ストライカーにそんな事情があったとは・・・・」
「いいか、このことは俺達3人だけの秘密にしておこうぜ。病気のことがバレてしまったらいくら天才ストライカーでも代表には選ばれないだろうし、Uリーグのプロ選手になるのさえ難しい」
「でも、それで大丈夫なのか・・・もしもの時は・・・・」
「俺達3人でカバーしてやればいい・・・・なるべく走らせないようにうまくボールをまわしてやれば・・・・もしもの時・・・たとえもしものことがあっても、こいつはそれがわかっていてもサッカーを続けるんじゃないか」
「コリン、どうしてそんなことがわかる」
「あれだけの技術・・・短期間で身につくものじゃない。自分の体の状態に怯え、気を使いながらも彼はあれだけの技術を磨いてトップ選手に躍り出た。どれだけ苦労したか、俺にはよくわかる・・・俺だけではない、サッカーを愛し、トップ選手になろうとした者だったら誰でもわかるんじゃないかな。いいか、俺達は秘密も守り、一緒にワールドカップに行こう」
「ワールドカップまでもうあまり日がない。大丈夫か」
「うまくやれるよう、いろいろ作戦を考えよう」
3人の目は輝いた。自分達ウルフ国の代表がこれほど熱くなって1人の選手について話し合うなど今までなかったことだとジョナサンは思った。バラバラだった1匹オオカミたちが少しずつ集まりやがてひとつの大きな群れとなる、そんな光景が3人の目にそれぞれ浮かんできた。
−つづくー
あとがき
ジャレッドとフランシスコはほとんど何もせずただ寝ているだけです。2人を取り巻く3人のオオカミたち、何か困難なことやきっかけがあってこそ、人はよりそのことに命をかけたり、仲間と協力したりするようになるのでは、と思います。
2006、6、21
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