ロード・オブ・サッカー(17)

舞台 ウルフ国立サッカー競技場
登場人物 FW ジャレッド(大王ヘファ、戦争王ヴィタリー)
          ブラッド(木馬アキレウス)
       MF コリン(大王アレキサンダー)
          エリック(木馬ヘクトル)
          ジョナサン(大王カッサンドロス)
          エリオット(大王プトレマイオス)
       DF ニコラス(戦争王ユーリ)
          イーサン(戦争王ジャック・バレンタイン刑事)
          フェレ(悪教育エンリケ)
          ダニエル(悪教育マノロ神父)
       GK ヴァルキルマー(大王フィリッポス王)
       監督 オリバー(大王監督)
       チアガール(オトコ) フランシスコ(大王バゴアス)
                    カマラ(悪教育パキート)

ウルフ国立サッカー競技場に珍しく代表選手が全員集合した。普通練習でも試合でも全選手が集合するのは当たり前のことであるが、ここウルフ国に限っては、本番の試合以外に全選手が集合するというのは極めてまれなことなのである。だが今回ただの練習に全員集まったのにはわけがあった。みなの目は見慣れない二人のゴート人、ジャレッドとフランシスコに注がれている。監督が目で合図すると、コリンはみんなの前に立って話し始めた。

「もう知っている者も多いと思うが、彼はゴート国のストライカージャレッドだ。わけあってこのウルフ国に亡命してきた。もうワールドカップの一次リーグまであまり日がないが、さっそく今日からこのウルフ国代表選手として練習に参加してもらう」

事情を知っているジョナサンとイーサン、そして亡命を手助けしたニコラス以外の選手は一斉に騒ぎ出した。無理もない、ウルフ国代表選手の選考はずっと前に行われ、補欠や交代選手まではっきり決まっていた。急に欠員が出た場合でもまず補欠選手が繰上げで登録され、次の補欠がまたUリーグ(ウルフ国プロサッカーリーグ)の有力選手から選ばれる。補欠として選ばれるだけでも大変な競争を勝ち抜かなければならない。それがなぜ、いくら天才ストライカーと評判になっていたとはいえ、よその国の選手をいきなり代表に選んでしまうのか。

「キャプテン!これは監督とお前ですでに決定したことなのか?」

真っ先に口を開いたのはFWのブラッドであった。彼は自分こそウルフ国のサッカー人気と点を上げてきた一番の功労者であるという自負がある。

「これは決定したことだ。話をしたのは私とコリンだけだが、この決定で間違いはない。必ず一次リーグを突破して決勝戦に残れる」
「監督の決定ならしかたがない。俺はそれに従うよ。まさかこの俺をFWから降ろしてかわりにそいつを使うというのでなければ・・・」
「それはないさ、ブラッド、君がいなくてはこのウルフ国のサッカーは成り立たない。だが逆に君はあまりにも多くの国にマークされすぎている。ジャレッドなら比較的マークはつきにくいだろう」
「だけどさ、つい最近までゴート国の代表選手だったのだろう。ジャレッドの名前や顔ぐらい世界中に知れ渡っているぜ。それをすぐウルフ国代表として出させて、規定なんかにはひっかからないのか?」

エリオットが質問した。彼はいつでも敵味方両方を冷静に観察し、記録をとっている。

「それは大丈夫だ。ゴート国の代表選手の最終提出名簿にジャレッドの名前は載っていなかった。今ジャレッドはウルフ国のパスポートを持ち、ウルフ国民として登録されている。他の国の選手が帰化して別の国の代表になることは珍しいことではない」

秘密警察にいて、亡命や帰化についても詳しい情報を持っているイーサンがすぐに付け加えた。だが彼のこの冷静な発言がそれまで黙ってみなの意見を聞いていたジャレッドに深い絶望感を与えた。ゴート国代表選手の最終提出名簿に自分の名前は載っていない・・・ゴート国を出たのはほんの数日前である。自分は何度も練習をサボったり、いや体の調子が悪ければ本番の試合だってすっぽかしたことがある。自分の体のこと誰かに知られてはマズイ、だからわざわざ遠くの病院にまで通っていた。試合のある日にちょうど発作を起こし、病院に運ばれたことも数回ある。そんな時はいつも翌日何食わぬ顔で練習に出て酒の飲みすぎで倒れていたと誤魔化した。だから数日練習に出なくたって仲間はきっとあのバカ、また飲みすぎたのか、しょうがないやつだ、などと言いながら待っていてくれる筈だった。でも現実はそうではない。何年も一緒のコートで練習し、ほとんど生活すら共にしてきたのに、たった数日で名簿から名前を消されるとは・・・ジャレッドの目から涙がこぼれそうになった。

「おい、ジャレッド、お前まさかゴート国に未練があって、もうホームシックになったんじゃないだろうな」

ニコラスが小声でささやいた。

「そうじゃない、ただゴート国代表選手名簿に名前が・・・・」
「それは俺が手をまわしておいた」
「どうしてそんなことを!」
「静かにしろ!声がでかいぞ・・・・理由は後で話す・・・」






選手達はしばらくの間またざわざわとした。

「なあ、コリン、ジャレッドの方はいいとして、そこにいるもう一人の子も紹介してくれよ。彼は選手じゃなくチアガールだろう」
「ああ、そうだな、フェレ、紹介しておくよ。彼・・・ちょっと待って、それでいいのか」

コリンはフランシスコの方をチラリと見た。こういう場合、彼と言った方がいいのか彼女と言った方がいいのか、本当に判断に困り、ややっこしい。男でも女でもなく、そしてこれだけの美貌の持ち主であるので、さすがのコリンすら目のやり場に困って顔が赤くなったりする。

「どちらでも、好きなように使って紹介してください」
「か、彼はフランシスコだ。ジャレッドと一緒にゴート国から亡命してきた」
「フランシスコ・・・・やっぱりあのフランシスコか・・・・」

フェレはフランシスコの名前をうっとりした口調でつぶやいた。あのビデオで見た本人が目の前にいる。ビデオなど問題ではない。遥かにあでやかで美しい顔立ちの男・・・どちらかよくわからないが彼と紹介した以上は一応男だろう・・・が立っている。この完璧なまでの美しさの前では他のことは何もかもむなしく思えるほどだった。だがフェレはまた同じ熱い思いでじっと見ているもう一つの目に気がついた。ダニエルの目だ。彼は昔、フェレの恋人だったガエルを騙して犯したことがある。そのショックのためか、ガエルはすっかり人柄もかわり、ゴート国に行ってチアガールをするようになってしまった。いやな男だ。同じチームの選手でなければきっと復讐していただろう。そのダニエルが今度はまたフランシスコの方に熱い視線を送っている。

「もう転換手術はすませたの?」

カマラが聞きにくいことをはっきり聞いた。彼はもう数年前に転換手術を完全に済ませている。

「いえ、まだ途中です」

フランシスコは小さな声で答えた。

「そう、よかったらあたしがいいとこ紹介してあげるわよ。あなた元がいいのよね。うらやましいわー、あたしなんて元がよくなかったから今でもこんなだけど、あなただったらガエルに負けないぐらいきれいになるわ・・・ガエルは全く手術してなくてあれだけきれいなんだけど・・・」
「僕はもうこれ以上手術をする気は・・・・」
「そう、それでもこんなにきれいなのね・・・・うらやましい・・・くやしいわ〜・・・神様ってなんて不公平なのでしょう・・・あたしはこんなに努力して美しい女になろうと・・・・」

カマラはかなり大声で叫び、泣き声なども出していたが、選手はそれぞれ自分の胸にある考えをまとめるのに夢中で、この芝居のようなおおげさなセリフはほとんど誰も聞いてはいなかった。





「俺は納得できない!そんなひょろひょろした吹けば飛ぶような男をウルフ国の代表選手にするなんて・・・」

それまで黙っていたヴァルキルマーが突然大声をあげた。サッカー競技場が一瞬地震のように揺れ、声は生き物のように競技場の隅々にまで響き渡った。

「ヴァルキルマー選手、どうしたら納得してくれる?」

オリバー監督も、このヴァルキルマー選手だけは恐れていた。片目の彼の顔は見るからに怖ろしく、相手国の気の弱いFW選手などは、見えるほうの目で睨まれただけで動けなくなってしまうという。

「この俺のゴールに一度でもボールを入れたら認めてやろう。チャンスは、そうだな、10回のうち1回でも入れたら・・・」
「俺は10回ボールを蹴れば必ず10回入る。他のDFはいないんだろう」
「おもしろい、それなら10回のうち5回でいいだろう。もし入らなかったらどうする」
「好きなようにしろ」
「もし入らなかったら代表選手としては認めない。俺の献酒係りにでもなれ、きれいな男は周りに何人いてもいい。お前は気も強くなかなか楽しめそうだ・・・・」
「へ、10回に5回だろ、簡単じゃないか」

二人の話を聞いていたコリンの目にヴァルキルマーに襲われるジャレッドの姿がはっきりと見えてしまった。これはマズイ、なんとしても阻止しなければ・・・・

「おい、ヴァルキルマー、へんな賭けをするのはよせ、ジャレッド、いいか、彼は普通のキーパーとは全然違うぞ。あの目で睨まれたら石のように固まって動けなくなる」
「それなら顔を見なければいいんだろう、あの魔法使いのイアン爺さんと同じじゃないか。俺はそういう魔法とか念力とかそういうのにはかからないさ」
「だいじょうぶか、負けたら・・・・」
「献酒係りだろう。酒を注げばいいのか」
「それだけじゃ済まないぞ」
「俺が負けるわけがない。ちょうどいいチャンスだ。どうせ他のやつらも俺の実力を疑っているんだろう。よく見せてやるよ」
「ジャレッド、いいのか、俺は責任持たないぞ」
「平気だって・・・・どこでやる?あっちのゴールでいいか?・・・・ボールを蹴る位置は・・・」

ジャレッドはうれしそうにヴァルキルマーにいろいろ尋ねた。負けるなどということは全く考えていない。



                                                          −つづくー



後書き
 自分のシュートに絶対の自信を持っていて負けるなどということは全く考えていないジャレッドです。いろいろな登場人物が出てくると、誰をどこでしゃべらせたらいいか、ちょっと混乱してしまいます。
2006、6、28


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