ロード・オブ・サッカー(18)

舞台 ウルフ国立サッカー競技場

登場人物 FW ジャレッド(大王、ヘファイスティオン)
          ブラッド(木馬、アキレウス)
       MD コリン(大王、アレキサンダー)
          エリック(木馬、ヘクトル)
          ジョナサン(大王、カッサンドロス)
          エリオット(大王、プトレマイオス)
       DF ニコラス(戦争王、ユーリ)
          イーサン(戦争王、ジャック・バレンタイン刑事)
          フェレ(悪教育、エンリケ)
          ダニエル(悪教育、マノロ神父)
       GK ヴァルキルマー(大王、フィリッポス王)
       監督 オリバー(大王、監督)
       チアガール(オトコ) フランシスコ(大王、バゴアス)
                    カマラ(悪教育、パキート)

「あの、こういう場合僕達もやっぱりチアガールとして応援した方がいいのでしょうか?」

ゴールキーパーヴァルキルマーとジャレッドの対決が始まりそうになり、フランシスコは不安になって慌てて先輩チアガールのカマラに聞いた。チームワークを何よりも大事にするゴート国では、公式戦はもとより、ちょっとした練習試合やチーム内でのゴール練習ですらチアガールがにぎやかに応援をしていた。

「やりたければ勝手にやっていいわよ、あんた。でもどっちを応援する気なの?知っている、ヴァルキルマーってすごい大金持ちで、お城のような邸宅に住んでいるのよ。彼に気に入られて献酒係りとして住み込みで働くようになれば、チアガールなんかやっているよりもずっといい生活ができるという噂よ。まあ夜は大変だろうけど・・・」
「大変ってどんな風にですか?」
「一晩ベッドのお相手をすると、三日間は痛みで歩けなくなってうなされるわね。まあ、その間いい物食べて、お肌をきれいにしてゆっくり休めるんだからいい生活と言えないわけでもないけど・・・」
「え、そうなんですか、すごいですね」
「あたしのことじゃないの。これはお友達から聞いた話よ。あたしはいやよ、いくらいい生活ができるといったって、こう見えてもとってもあたしデリケートなのよ。あたしたちのあそこってとっても繊細で傷つきやすいから、普通の女の子以上にやさしく扱ってくれる人じゃなきゃ・・・・ブラッドみたいにね。彼、サッカーをやっている時はたくましくて荒々しいけど、ベッドではとってもやさしいの・・・」
「ブラッドさんが恋人なのですか?」
「今は違うけど、近いうちにきっとそうするわ。ところであんたどっちを応援するの?」
「もちろんジャレッドさんです。一緒にゴート国から亡命してきたし・・・・」
「そうね、あんた達ゴート人だと一週間は寝込むことになりそうね。彼なんてウルフ人に比べて本当に繊細そうだし・・・」

「なに!一週間寝込むだと・・・・冗談じゃない、公式戦が始まってしまうじゃないか、すぐにやめさせろ!」

フランシスコとカマラの話を聞くともなしに聞いていたコリンは、寝込むという言葉に思わず怒鳴り出した。そのコリンの腕を隣にいたジョナサンが慌てて引っ張った。

「いいじゃないか、おもしろそうだ。あのジャレッドがどれくらい実力があるか見てみたいものだ」
「相手はあのヴァルキルマーだぞ。一睨みで相手国の選手が石のように固まって動けなくなってしまうという・・・そんなやつに負けて無理やり相手をさせられたらどうする!一週間寝込んでしまうんだぞ」
「大げさだな、たかがそれくらいで一週間も寝込むわけないだろう。そうだとしたら俺なんて一年中寝込むことになる。お前の大きさと勢いはウルフ国一だからな」
「とにかくだめだ!許せない!」
「自分の見つけた獲物が他のヤツに横取りされるのがそんなにくやしいか、オオカミオトコ!お前が襲わずに我慢した相手だからな」
「おい、ジョナ!それ以上言ったらただじゃおかないからな」

コリンは思わずジョナサンの胸元を掴んで握りこぶしを構えた。ジャナサンはニヤリと笑った。

「お前を怒らせて殴られるっていうのもいいけど、俺たちがこうしている間に、あのバカ、ヴァルキルマーのゴールの前でうれしそうにリフティングなんかしているぞ。ほんと、怖いもの知らずだ」
「まあ待て、そんなに心配せずにここで見ていろ。あいつは目を閉じたままでもシュートを決められるここでゆっくり見物しようぜ。コリン、ジョナを殴るのはベッドでやれ。キャプテンのお前が人前で選手を殴ったとなればまずいだろう」

イーサンに止められて、ようやくコリンは掴んでいたジョナサンの胸元を離した。






ジャレッドは落ち着いた顔でリフティングをしていた。目は半分閉じている。ヴァルキルマーの片方だけの目に睨まれると石のように固まって動けなくなると聞いたから、顔を直接見ずに目を閉じてゴールを決めるつもりだった。リフティングをしながらさりげなく目を少しだけあけてヴァルキルマーの大きさとゴールとの隙間を計算した。彼が次の瞬間どう動いてもあの位置に入れれば届かないはずだ。足元に戻ったボールをゴールに向けて力強く蹴った。

「アウト、ヴァルキルマーがボールを取った!」

少し時間を置いて目を大きく開けたジャレッドはヴァルキルマーの手にボールがしっかり握られているのを見て強い衝撃を受けた。どうして取られたのか・・・・信じられない。一瞬の判断であの位置まで手が届くわけがない。

「どうした、驚いたか・・・・お前が眼を閉じて俺を見ないようにしていても、お前の心の動き、どこへボールを蹴るかは俺には手に取るようによくわかる。あと9発だ・・・どうする?少し休んで作戦でも考えるか」
「続けてやる!今のはまぐれだ!俺の球を2回続けて止められるわけがない」

ジャレッドは続けてボールを蹴った。2回、3回・・・彼の動きはすぐヴァルキルマーに見破られ、ボールの方に手を伸ばして簡単に取られてしまった。それならばとヴァルキルマーの動きをよく見ようと目を大きく開けば、たちまちその片眼の魔力に飲み込まれた。ジャレッドの蹴る球は威力を失い、簡単に取られてしまう。4回、5回目、10回のうち5回までが取られてしまい、ジャレッドはゴールを決められない。

「俺の姿をまともに見て、球を蹴れるだけでもたいしたものだ。だがしょせんは俺の相手ではない。どうする?泣いて謝れば一晩相手をしただけで許してやってこのチームに入れてやってもいいんだぜ。まあ、10回のうち1回でも入ればいいぜ。それとも先に謝ってしまうか?どっちにしろ今夜はたっぷり楽しめそうだ。ゴート人は初めてだからな・・・その青い目と気の強そうな口がますます意欲を掻き立てるぜ・・・・わ・ハッハッハッハ・・・・」
「待て、ジャレッド、お前自分で球を上げるより、人から蹴ってもらった方がいいだろう。俺がボールを渡してもいいか」

突然ニコラスが前に出た。

「お前はディヘンダーだろう。フォワードに球を送るのはミッドの役目だ。俺が蹴る」
「いや、俺の球の方がジャレッドは確実に蹴れる」
「本当か。それならやってみろ」

ジャレッドはニコラスの顔をよく見た。自分を亡命に誘っておきながら、結局同じ船に彼は乗ってはいなかった。その船に乗り込んできたイーサンが自分とフランシスコの世話をして、パスポートの写真から、他の選手への紹介と何から何まで面倒を見てくれたのだった。そのニコラスがボールを蹴る。不安だった。この男は何を考えているかまったくわからない。俺が負けて恥をかき、この片目の大男にベッドで組み敷かれるのを望んでいるのだろうか。誰も信じられない、信じられるのは自分だけ、ならば大きく目を見開いて彼の送る球を見るだけである。







考えるより先に足が反応した。ニコラスの球はジャレッドの足の間をねらって吸い込まれるように飛んできた。片方の足を軽く動かしただけで球は大きく向きを変え、ゴールへと飛んだ。

「ゴール!ゴールだ!・・・・・ジャレッドがゴールを決めた」
「今のはまぐれだ。ほかのやつが入ったからつい油断した。次は本番だ」

ジャレッドは驚いた。このニコラスというのはいったいどういう男なのか。ジャレッドが望むとおりのスピードと角度で球を送ってくる。彼はただそれを軽く足で受け止めるだけでよかった。新たな力を得た球はゴールキーパーの脇をかすめ、次々とゴールへ飛び込んでいく。

「5回続けて入った。もう1回だ・・・すごい!6回めも入った」

オリバー監督がニコニコしながら出てきた。

「これでこのジャレッドの実力がみんなよくわかっただろう。今日からウルフ国代表チームの正式選手として一緒に練習をする」

みながいっせいに拍手をした。勝負に負けたヴァルキルマーも一緒に拍手をしていた。彼はフランシスコの方を見た。負けたのは悔しいが、むしろこっちのゴート人の方がより繊細で美しいかもしれない。こちらに狙いを定めようと決心した。もっとも同じような目でフランシスコを眺めている選手は他にも大勢いるのだが・・・・

ジャレッドはじっとニコラスの顔を見た。あの球の蹴り方、自分はどこかで彼と一緒にサッカーをやっていたことがある。体が、足がそのことをちゃんと覚えていて、自然に反応してくれた。彼はウルフ国の選手だ。敵として戦ったことはあってもチームメートになるはずはない。それなのにどこで彼の球を受け止めていたのか・・・わからない・・・顔もどこかで見た覚えがある・・・自分には年の離れた兄がいた。激しい運動を禁じられていたジャレッドの足元に確実に球を送ってくれ蹴らせてくれた兄・・・まさか・・・いやそんなはずは・・・

「ジャレッド、なにぼんやりしている。もう練習は始まっているぞ。お前は走らなくていいけど・・・」

コリンの声に我に返った。選手達は皆、ランニングや柔軟体操を始めている。全員が同じ事をやるというのはけっしてなく、走っている者、ベンチで寝ている者、柔軟体操をしている者とてんでんバラバラである。このような練習光景にまたまたゴート人のジャレッドとフランシスコは驚いた。



                                              −つづくー




後書き
 なんとかピンチを逃れてヴァルキルマーの献酒係にならずにすんだジャレッド、彼を救ったニコラスは実は・・・(言わなくてももうわかりますよね)
2006、7、6



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