ロード・オブ・サッカー(20)

この章は左のリンクからいける選手紹介のページを
参考にごらんください。

ゴート国でワールドカップ代表の最終発表があった同じ頃、ウルフ国でも密かに代表選手の発表が行われた。ただしこちらは新聞記者やテレビ関係者には絶対に気づかれないように場所を選んで秘密に行われる。

「本当に今日ここで代表選手の発表が行われるのですか?」
「そうよ、ホテルとかだとすぐわかってしまうでしょ」
「でも、ここヴァルキルマーさんの家はホテルよりももっと大勢の人が働いているのですけど・・・」
「人は多くてもみんなこわがって密告なんて絶対しないわよ。あ、お酒はもっと大量に運んでおいて」
「あの、僕も運ぶんですか」
「当たり前よ、この国は女の子も男の子と同じように力仕事をしないといけないの、でもこの細い腕じゃ無理かしら・・・」

ヴァルキルマーの家ではフランシスコとカマラという2人のチアガールがパーティーの準備をせっせとしていた。発表はあくまでも内密に行われるのでチアガールの彼女達も手伝わなければならないのである。

「おーい、バゴアス!準備なんてほかのヤツに任せてこっちへ来て酒を注げ」

ヴァルキルマーが大声で呼びに来てフランシスコの腕を掴んだ。

「ヴァルキルマーさん、この子はフランシスコという名前なのよ」
「バゴアスの方がこの顔にはぴったりだ。ほら、ペルシャの宮廷で踊っていた映画の・・・あのバゴアスはため息がでるほど美しかった。亡命してこんな間近で見られるとは・・・なんてきれいな手をしている、しなやかで美しく・・・」
「ありがとうございます」
「ちょっと、フランシスコ、いそいでこのお酒全部運んでよ。もう時間がないのよ。ここのチアガールは力仕事もしなければいけないの、わかった。それが終わったらビールね。ほら、ぼーっとしてないの」

カマラがあわててフランシスコの腕を掴んで大きな会場へと連れていった。

「あれ、何も持たずに来てしまいましたけど・・・」
「ばかね、あんたねらわれていたのよ。みんなが来る前に犯されるとこだったわ」
「そうなんですか?」
「ほんとニブイわね、あんたみたいなきれいな子、この国の男には格好の餌食なのよ」
「そうなんですか、国にはもっときれいな人、たくさんいましたけど・・・」
「ゴート国ではどうだか知らないけど、このウルフ国では男はみんなオオカミなの」
「キバとかあるんですか?」
「ちがう!襲われるの!あんたもしかしてまだ体験したことないとか」
「は、はい、まだです・・・やっぱりはやく体験した方がいいのでしょうか?」
「まあね、愛を知ったほうが女は美しくなれるけど、でも初めての相手はよく選んだ方がいいのよ。下手な相手で痛い思いをするとそれがトラウマになるから・・・特にあんたなんか体も細いし危ないわね」
「は、はい気をつけます」
「ほら、急いで、もうみんな集まってきたわよ」

ヴァルキルマーの家のホールにはウルフ国代表の選手が続々と集まってきた。





ワールドカップ代表選手の正式発表の日も選手達は余り気にせずに会場に来るなりどんどん酒を飲んだり料理を食べたりした。大金持ちのヴァルキルマーの家、何人もの専属コックや給仕がいて次々と料理を運んでくる。専属の献酒係りの少年もたくさんいるのだが、ヴァルキルマーの目はじっとフランシスコを見ている。フランシスコはあわてて目をそらし、キャプテンだと紹介されたコリンの方へ酒を注ぎに来た。

「コリンさん、どうですか」
「あ、いいねえ、もっと注いでくれ」

フランシスコが注いだ酒を、大きな杯で一気に飲み干したコリンの顔をフランシスコはじっと見た。なんて豪快で男らしい人なのだろう。この人のためなら命を捨てることもできる。そこまで考えてフランシスコははっとした。まだ会って数日でよく知らない異国の男に対してなぜそこまで考えてしまうのだろう。必死に否定すればするほど思いはあふれるように湧き上がって来て息苦しくなってきた。

「お前も飲むか?」
「いえ、僕は・・・・」
「酒に弱いのか・・・真っ赤になっている」

コリンの手がフランシスコの頬に触れた。心臓が爆発しそうなほど大きな音をたて、息が苦しくなって彼はその場でうずくまってしまった。

「どうした、気分でも悪いのか?」
「は、はい・・・・すみません・・・・」
「おーい、ジョナ!気分が悪いんだって・・・お前ちょっと見てやれよ」

コリンに呼ばれればどこにいてもそばにきてしまう自分が腹立たしいと思いながらも、やっぱりジョナサンはすぐに来てしまった。

「どうした、コリン?」
「気分が悪いようだ。別の部屋で面倒見てやってくれ」
「なんで俺が?」
「俺は今日のパーティーでキャプテンとしていろいろ話さなければならないからな」
「俺はどっちでもいいのか」
「お前は俺から後で話をすべて聞けるだろう、頼む、愛しているからさ」
「ちぇっ・・・・」

耳元で囁くように言われたら断ることはできない。しぶしぶフランシスコを抱きかかえて別の部屋に行き、服を緩めてベッドに寝かせた。彼は苦しそうに息をしている。慌てて胸元のボタンをはずすと男でありながら少女のように微かに膨らみのある胸があらわになった。見てはいけない、こんな時に興奮してどうする・・・慌てて目をそらした。

「あなたはコリンさんと・・・・」

消え入るような小さな声でフランシスコは尋ねた。ああ、そうだよ、恋人同士だよ、俺達は長いこと愛し合っている、そう答えたかったが余りにも悲しそうなフランシスコの顔を見て、その言葉を飲み込んだ。

「子供の時からの親友だ」
「あの人は・・・・いい人ですよね・・・・」
「ああ、いいやつだ。あんないいやつはいない。男からも女からも本当によくモテる」
「すみません、僕なんかのつきそいをさせてしまって・・・・」
「お前、コリンに一目ぼれか?」
「いえ・・・・そんなことはけっして・・・・」
「顔を見ればすぐわかる。あいつはモテるから競争率高いだろうけど、まあ、がんばれよ」

わざと笑顔を作ってごまかした。まったく俺は本当にお人良しだ。だからいつまでたっても・・・しょうがないか、男同士だから・・・

「本当にあんたってお人良しねえ、あたしだったら好きな人、絶対譲らないわよ」
「カマラ・・・いつの間に・・・」
「そっとわきに忍び込むのも女の子には必用なわざなのよ、ジョナ、あんたよく見ればコリンよりよっぽどいい男なのにどうしてそう損な役ばかり引き受けるの?」
「ほっといてくれ、お前はブラッドがいいんだろう?」
「そうよ、でもね、彼がだめならジョナ、あなたもいいかなって時々・・・」
「俺にはそういう趣味はまったくない!」
「だってあなたもゲイでしょ?」
「ゲイはゲイでも種類が違う!俺はただ純粋にコリンを愛しているだけだ」
「しー、静かに・・・大きな声出すとあの子に聞かれてしまうわよ。あの子、コリンがちょっと触っただけで呼吸困難になったのよ。かなり重症ね」
「あー、もういい!お前ここであいつの様子見ていてくれ。俺は会場に戻る。選手の発表が始まってしまう」
「そうね、いいわよ、ここはあたしに任せて」
「ありがとう、頼む・・・・」
「お礼のキスは?」
「俺はコリン以外とは何もしたくない」





「フォワード、ブラッド、ジャレッドの2人、ミッド、コリン、ジョナサン、エリック、エリオットの4人、守りはイーサン、ニコラス、フェレ、ダニエルの4人、キーパーはヴァルキルマー、以上が代表選手だ」

ジョナサンがいそいでホールに戻ると監督がつまらなそうに選手発表をしていた。ほとんどが4年前と同じ選手で監督もその場でマイクも持たずにしゃべったし、他の選手も食べながらなので誰も拍手はしない、あるいは自分の名前を呼ばれたときにシーンとしているのがいやでその時だけ拍手する者など、みな自分勝手なことばかりやっている。盛り上げ役をかってでるはずのチアガール2人、フランシスコは倒れてベッドに寝ているし、カマラはつきそいなので会場にはいない。あまりにも静かではいけないと、給仕役や献酒係りの少年が、ワンテンポずれて拍手をしたりした。

「なんだ、なんだ、この男ばかりのパーティーは・・・かわいい子が全然いないじゃないか。ゴート人はどこへ行った?」

かなり酔っ払ったヴァルキルマーが騒いでいる。このメンバーでは次に狙われるのは自分の可能性があると思って、ジョナサンはあわてて隅に隠れた。この国ではどんなことが起きても不思議ではないのである。ゴート人がいないと聞いてホールの中を見回した。確かにジャレッドがいない。

「おい、コリン、ジャレッドが来てないぞ」
「知っている、どうせあいつはギリギリまで練習しているんだろう。兄貴が迎えに行っているから、そろそろ来るだろう」
「お前の兄・・・イーモンて確か・・・・」
「ああ、ゲイだよ。それも女はまったく受け付けない、100パーセントのゲイだ」
「危険じゃないのか?」
「フランシスコと一緒に俺の家に泊めて兄貴に見張りをさせている。間違っても手は出すなとよく言い聞かせている」
「それならいいけど」

そこへコリンの兄、イーモンが息を切らして会場に入ってきた。

「ジャ・・・・ジャ・・・・ジャレ・・・あのゴート人・・・」
「なんだよ、兄貴、落ち着いて話せよ、ビールを飲むか」
「い、いや、水でいい・・・・大変だ・・・・」
「何かあったのか?」
「ジャ、ジャレッドがいなくなった!」
「本当か?あのバカ、どこへ行ったんだ。ろくに道も知らないくせに・・・」
「俺は練習場の周りをくまなく捜した。だけどどこにもいない」
「なんだ、なんだ、行方不明か、それなら俺の出番だな」

どこにもいないという言葉を聞きつけて、すぐにイーサンがイーモンとコリンの近くに来た。彼が秘密警察で働いていることは、本当はほとんどのメンバーが知っているのだが、あえてそれを口に出してとやかく言う者は誰もいない。

「状況を説明してくれ、イーモン。どこまでジャレッドと一緒にいた?」
「朝、家を出る時は一緒で、彼を練習場に置いて、先にフランシスコをここに連れてきた。その後迎えに行ったらいなくなっていたんだ」
「そのことは誰が証明できる?」
「な、なんだよ、俺を疑うのか」
「捜査では関係者全員を疑う。コリンの兄イーモンがジャレッドに目をつけ、どこかに監禁して行方不明になったと嘘の証言をしているかもしれない」
「俺がそんなことするわけないだろう!」
「兄貴はうそをついたりはしない」
「一応その説ははずして、それならジャレッドが自分でどこかに行く可能性は?ウルフ国に知り合いとか・・・」
「俺達以外にはいないだろう。それにあいつは人見知りが激しい。見ず知らずのウルフ人に簡単について行ったりはしない」

ニコラスが答えた。こいつはなぜかジャレッドのことをよく知っている。何か関わりがあるに違いないとイーサンは睨んだが、それはひとまず置いておくことにした。

「そうか、とすると残る可能性は何者かに無理やり連れ去られた。ちょっと聞き込みに行ってくる」
「俺達も行こうか」
「いや、一人の方がやりやすい。ジャレッドは練習場からそう遠くまで行かないはずだ」

イーサンはすぐに出て行った。





みんなが会場で騒いでいる間に、イーサンは目撃情報を集めて戻って来た。

「聞いてくれ、ジャレッドは入国管理局の係官の取調べを受けて連れていかれたそうだ」
「入国管理局?何のために・・・パスポート持っていただろう」
「それが・・・違うゴート人のパスポートを持っていたらしい」
「おい、それって・・・・」
「危なくないか、あいつ亡命したんだろう」
「すぐに助けに行かなくては・・・・」
「入国管理局だな・・・いざとなればこの俺が催眠術を使って係官を眠らせ、門を壊して・・・」
「ヴァルキルマー・・・それはちょっと・・・・」
「とにかく助けに行かなくては・・・ジャレッドのパスポートを持って・・・・誰が持っている?」
「もしかしてフランシスコが間違えて・・・」
「よし、呼んでくる」

パーティー会場は騒然となった。もう代表発表のパーティーどころではなくなっていた。誰もが入国管理局に捕まったというジャレッドのことを考えていた。

                                                     −つづくー


後書き
 選手発表の場面でも勝手なことをしているウルフ国の選手達、檻の中にいるウサギを助けにいくことになったら途端にはりきりました。
2006、7、27

この章の後半は21、22との関係で後半かなり書き換えをしました。きちんとプロットを考えていないので後から辻褄が合わなくなってきて、すみません。

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