ロード・オブ・サッカー(22)

舞台 ウルフ国入国管理局とコリンの家

登場人物 ジャレッド(大王、ヘファイスティオン)
       コリン(大王、アレキサンダー)
       イーモン(コリンの兄、特別出演)
       ジョナサン(大王、カッサンドロス)
       ニコラス(戦争王、ユーリ)
       イーサン(戦争王、ジャック・バレンタイン刑事)
       ヴァルキルマー(大王、フィリッポス王)
       フランシスコ(大王、バゴアス)

「すみません、僕が間違えてジャレッドさんのパスポート持ってきてしまったので・・・・」

ジャレッドが入国管理局の係官に捕まって取調べを受けているというニュースを聞いて、ヴァルキルマー宅で行われていたウルフ国サッカー代表選手発表のパーティー会場は騒然となった。その騒ぎを聞きつけ、倒れていたフランシスコが慌ててパーティー会場に戻って来た。手にはジャレッドのパスポートが握られている。コリンがフランシスコの前に歩み寄った。

「これがジャレッドのパスポートか?亡命して不法なやり方でパスポートを手に入れた人間が、それをなくしたら命取りになる。間違えたで済まされると思っているのか!」
「すみません、申し訳ありません」

激しい音に会場にいた誰もが振り返った。コリンの手はフランシスコの頬を強く打っていた。

「もし、ジャレッドに何かあったら俺はお前を許さないからな!警察に捕まるよりもっと悪い・・・あそこは法律で守られない・・・拷問を受け殺されるか強制送還されるかもしれないんだぞ!」
「すみません、ほんとうにすみません」
「おい、コリン、落ち着けよ。ここでこいつを殴っていてもしょうがないだろう。それよりも早くこのパスポートを届けてジャレッドを助け出さないと・・・・」

ジョナサンがなおも振り上げているコリンの腕を掴んだ。コリンの兄イーモンも弟とフランシスコの間に入った。

「コリン、俺が悪かった。まさか入管のやつらがあの近くで取締りをやっているとは・・・俺がもっと注意していれば・・・」
「今は誰が悪いか言っている暇はない。すぐ入国管理局へ行こう。俺以外にコリン、ジョナサン、イーモン、フランシスコ、それでいいか」
「まて、俺も行く。俺もこういうことには詳しい」

ニコラスの言葉にイーサンはいやな気がした。どうもこいつとは合わない。それは個人の感情の問題ではなくて、仕事上何か引っかかるものがあるに違いない。だが本人が言う以上、何かジャレッドに関わる情報を持っているのかもしれない。

「俺も行くぜ・・・・いざとなれば催眠術で門に立っているやつに壁を壊させ、弓矢を使って・・・」
「ちょっとそれはまずいのでは、ヴァルキルマー」
「連れて行け、さもないとお前は車をまっすぐ運転できなくなる」
「わかりました、連れて行きますよ。でも何もしないでくださいよ。監督、そういう事情なので、ちょっと入国管理局まで行ってきます」
「ああ、いいだろう・・・・」

監督はニコニコして答えた。ウルフ国代表監督になって十年、この国の人間の性格も、選手のことも知り尽くしている監督は今更何が起きても驚いたりはしない。





入国管理局の係官は、代表選手の一団が乗り込んできたのに驚いたが、あくまでもにこやかに彼らを大使などを接待する貴賓室へと案内した。豪華な絨毯とソファー、大理石のテーブルなどが置かれた部屋に通され、悪い気はしないが、ジャレッドのことを考えるとコリンは気が気ではない。

「これがジャレッドのパスポートだ。ここにいるフランシスコのと間違えて持っていたらしい。取調べはもういいだろう。早く連れて来てくれ」
「かしこまりました。すぐにお連れします。お待ちの方はコーヒーなどどうぞ」
「飲み物なんかいいから早く連れてこいっていってるんだ!まさか連れて来れない状態では・・・」
「とんでもございません・・・ただ今・・・・」

係官は部屋を出て行った。

「あの慌てよう、あの男うそをついているな・・・ジャレッドは無事だろうか」
「おい、イーサン、わかるのか」
「無事でなければいっそうのこと・・・・」
「待て、催眠術は最後に・・・・」

係官がジャレッドを連れて入ってきた。その顔色は青白く、目は虚ろで誰もが驚いた。コリンは立ち上がって係官の近くに来た。

「お前達、ジャレッドに何かしたのか」
「遅くなって申し訳ありません。ちょうど取り調べの最中で・・・」
「取調べって大げさに言うほどのことは何もしてないさ、有名な選手だからね・・・・後はずっとサッカーの話で盛り上がっていた。やっぱりいいよな、サッカーには国境がないもの・・・あんまり興奮してしゃべっていたから息苦しくなって眩暈がしたけど・・・」
「ジャレッド・・・・」
「彼がこのパスポートの持ち主のフランシスコさ。パスポートに余計なこと書いているけど、人を騙せるようなタイプの人間じゃない。考えてもみろよ、普通男か女かどっちかを適当に書いておくぜ、それをバカっ正直にどちらでもない、中性と書くなんて・・・男か女か、ゴート人かウルフ人か、本当はそんなことどうでもいいんだ。俺達二人は自分達が生まれた国ではうまく生きられなくなったからこの国に来た。何か悪いことしようと思ったわけじゃない。ただこの国なら生きられるかもしれない、そう思っただけだ」
「おい、まさか二人を強制送還する気か」
「いえ、そのようなことは・・・方法はどうであれ、きちんと二人ともウルフ国のパスポートを持っているのですから、こちらでこれ以上何かすることは法律に・・・・」
「法律に詳しいやつが対応してくれてよかったよ。さあ、用がないんなら、もうジャレッドは帰っていいんだな」
「ちょっと待て・・・・正直に言え!ジャレッドに何をした!」

真っ赤な顔をして怒るコリンの腕を引き、ニコラスが耳元で囁いた。

「怒りたい気持ちはわかるがコリン、ジャレッドの立場を考えてやれ。ここで騒ぎを起こしたら、逆に強制送還になってしまうかもしれないんだぞ」
「だからといって、そのまま知らん顔するのか。来た時の顔、見ただろう。サッカーの話で盛り上がっていたわけじゃない」
「そんなことはわかっている。だけどな、ジャレッドはもしここで拷問されたとしても、この国に残ってサッカーを続ける道を選ぶさ。俺にはわかる。だからこのまま黙って・・・・ジャレッドのことはお前に任せる・・・・」
「ニコラス、お前まさか・・・」
「大事な天才ストライカーだ。キャプテンのお前がきちんと面倒を見ろ。あいつが次の試合を左右する」
「わかった・・・・」

選手達はみな入国管理局を後にした。ただ一人どうも納得できないヴァルキルマーが、遠く離れた場所から弓を撃ち、建物の屋根のてっぺんに矢を突き立てた。





コリンは自分の家にジャレッドを連れて行き、ベッドに寝かせた。外はまだ明るい。

「今日はもうこのまま休め、俺がずっとついていてやるから。俺には本当のこと話してもいいだろう・・・あそこで何をされた・・・」

ジャレッドは寝たまま横を向いた。その目から涙がこぼれ落ちた。

「想像している通りだよ・・・・ふくしゅう・・・・復讐を手伝ってくれるか?」
「復讐する気か?それなら全ての試合が終わってからにしろ。お前はウルフ国代表選手だ」
「試合の時、俺の足元にボールを蹴ってくれ・・・・・」
「・・・・・・」
「俺は心臓が弱いから他のやつのように自分で敵からボールを奪うことができない。思いっきり走ることもできない。ただ足元に来たボールをゴールに向かって蹴るだけ・・・・その瞬間・・・俺は神となり、見るものを驚愕させる。奇蹟を見て自分の目を疑い、俺の前にひれ伏すようになる。ロード・オブ・サッカー・・・・それが俺に与えられる称号・・・あいつらは思い知るさ、自分がどれだけの罪を犯したか・・・それが俺の復讐だ。手伝ってくれ・・・俺がロード・オブ・サッカーになれるよう・・・・」
「ジャレッド、お前、泣いているのか・・・・」
「泣いているさ・・・・長い間捜し求めていたものをやっと見つけられたのだから・・・・手伝ってくれるか?」
「褒章はなんだ」
「俺の全てを差し出す」
「いいだろう、契約成立だ。ロード・オブ・サッカー、サッカーの王」
「まだなっていない」
「俺が必ずお前をその名前で呼ばせてやる」

ベッドに横たわっているジャレッドの手をコリンは固く握り締めた。

「その褒章はお前の全てだ」


                                           ーつづくー



後書き
 22話を書き始めて辻褄が合わなくなったので、20話の後半を書き換えました。日にちがあくと別の方向に話が発展してしまったためです。でもおかげで「ロード・オブ・サッカー」の言葉も21話から出せるようになりました。ジャレッドが決意した復讐が素晴らしいです(誰も褒めてくれないので自分で言っています)

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