ロード・オブ・サッカー(23)
舞台 ゴート国、執政ノーブルの邸宅
登場人物 デヴィッド(指輪、ファラミア)
ショーン(指輪、ボロミア)
ノーブル(指輪、デネソール)
(デヴィッド、ショーンの父であり、ゴート国の執政)
「お前と二人っきりで話すのも久しぶりだな」
「そうですね、父上がいる時は特に用心しますから・・・・」
昔の王宮を改装したノーブル家の邸宅は部屋の一つ一つから廊下、階段、そして庭の隅々まで特別の趣きがある。もちろん昔のままでなく、どの部屋にも電燈や空調設備などが整い、快適に暮らせるようにしてあり、庭には広いサッカーコートやシャワールームなどもあるのだが、それらは広大な庭の目につかない部分にバランスよく配置され、部屋の窓からは数百年前と変わらぬ景色を眺めることができる。執政ノーブルの長男で跡継ぎでもあるショーンにはこの大邸宅の中でも特別に広く見晴らしのいい部屋が与えられていた。
「ワールドカップ、ゴート国代表入りを祝って、これはお前が生まれた年に作られたワインだ」
「そんな古いのがまだ残っていたのですか?」
「そう言うな、我が家で一番若いお前が・・・最近は顔色もいいようだな」
ショーンは弟の頬にそっと触れ、髪を掻き揚げた。耳に軽く触れた手にもデヴィッドはピクリと反応した。
「ショーン・・・・」
「大丈夫だ、父上は今シープ国での国際会議に出かけている」
「どんなに遠く離れていても父上にはわかってしまう」
「わかってもいいだろう、俺は父の望みどおりサッカー選手として活躍し、来年の春にはシープ国の王族の血を引く娘との結婚も控えている。今まで何一つ自分の思い通りにはならなかった」
「ショーンはサッカー選手になったことを後悔している?」
「いや、後悔はしていない。サッカーは俺に与えられた使命だ。俺は引退するまでは精一杯自分の役割を果たしたい。だがどうして父はいまだに現役を引退しない?執政家に生まれついてその職につき、日々忙しく国内外を飛び回っている。それで充分じゃないか。それなのになぜ?もう昔のような活躍はできず、本人が引退の意志を示さない限り、監督だって降ろすことができないほど最高の位についてしまったから・・・だけどゴート国の人間が陰で何を言っているか、俺は知っている」
「それは僕の方がずっとよく・・・・」
「そうだな、お前の方が子供の時からずっと感受性が強く、人の心がよくわかっていたからな・・・本当はお前、サッカー選手よりも・・・」
ショーンはもう一度弟の頬をなでた。サッカー選手とは思えないほど白く滑らかな肌、腕も太腿も自分とは比べ物にならないほど細い。
「あの時俺はお前に嫌われたいと思った。お前が俺を軽蔑し、サッカーなんか止めてしまえば、自由になって楽になると思った。余りにも苦しそうで見てられなくて・・・・」
「軽蔑なんてできるわけがない。僕はサッカーは正直いやでたまらない時期もあった。でもショーンを嫌いになったことは今まで一度もなかった」
「お前は血の繋がった実の弟だ。それなのにあんなことをしてしまって・・・・お前はまだ何も知らない年齢だった。俺のせいでお前は・・・」
「大丈夫です。ショーンがあの時それをしてくれたから、僕は生きることができた。サッカーを続けることもできた。僕にとってサッカーは目的ではなく、手段でしかない・・・兄上のそばにいるための・・・」
「デヴィッド・・・・」
デヴィッドはショーンの大きな体に腕を廻した。自分がスポーツ選手に向かないことはよくわかっていた。それでも兄ショーンを見ていたい、いつもそばにいたいという思いだけでずっとサッカーを続けてきた。父はこのことに気づいているのだろうか?自分よりもさらに勘のいい父ならば、子供の時からの自分達兄弟の関係も気づいているに違いない。だが父は気づかない振りをして、ただデヴィッドのことを嫌い、遠ざけていた。人の心が読めるデヴィッドも、この父の心だけはまったく読めずにいた。
「お前は小さな時から、よく俺のベッドにもぐりこんで来たよな」
「ショーンの側にいると安心した。何も聞こえなくなるから・・・いつもいろいろな声が聞こえてうるさくてしょうがなかったから・・・」
「今もそうか?」
「今も続いている。自分で多少コントロールはできるようになったけど・・・・」
「他のやつではだめなのか・・・」
「だめだった・・・いろいろな声が聞こえてしまって・・・黙っているのがつらい・・・」
「他のやつともいろいろやったんだろう。カールなんかどうだ。あいつは若くて・・・」
「体力も抜群だ・・・牛や馬と一緒に走っていたからスタミナがまるで違う・・・意識が遠くなって目が覚めたときまだ続いていた」
「おいおい、普通そういうことまでしゃべるか」
「ゴート人としては珍しいよ。あれだけのスタミナがあれば、ウルフ人相手でも最後まで持つだろう」
「ベッドの上でか・・・・」
「サッカーの試合の話だ・・・」
「なんだ、お前やっぱりサッカーのこと気にして・・・・」
「父上の機嫌が気になるから・・・今回ウルフ国に勝って優勝すれば、父上だって満足して引退を決意するんじゃないかな、新しい王が現われない限り・・・・」
「なんだ、新しい王って」
「ゴート国の伝説であるんだよ。昔ゴート国がウルフ国との間で大きな戦いがあった時、ゴート国の男がほとんど殺されたり怪我をしてもうどうしようもなくなり無条件降伏をした。国が滅び、全員奴隷にされるところを一人の男が・・・」
「知っているさ、その男がある剣を手にして戦ったところ、たちまち形勢は逆転し、ゴート国は救われたっていうんだろう。その後、その男が王となり、ゴート国には長い間平和な時代が続いた。ゴート人なら誰でも知っている話さ・・・」
「その伝説の王の子孫が今も生きているとしたら・・・?」
「それはないだろう。数千年前の伝説だぜ。まさか父上はその伝説の王を恐れて、いつまでも引退せずにいるとか・・・」
「そうかもしれない、新しい王は剣ではなく、足でこの国を支配するであろう・・・・」
「なんだ、それは・・・」
「最近見つかった古文書の一部にそう書いてある」
「古文書、言い伝えか・・・ハハハ・・・足で支配するとは・・・・・」
「ショーン、笑わなくとも・・・・」
「言い伝えは言い伝え・・・俺達は今はこうやって・・・・デヴィッド、お前はいつも考えすぎなんだよ・・・」
「もう何も考えない・・・・」
「何も考えなくていい・・・力を抜いて楽になればいい、デヴィッド・・・・」
ベッドに横たわるデヴィッドの体の上を、ショーンの大きな手が少しずつ滑り降りていった。いつの間にか服は全て脱がされていたが、それにも気がつかないほど、ショーンの手の動きは自然であった。人に触れられて激しく反応する場所に来ても、彼の手だけは自分の手よりも当たり前の物に思えた。血の繋がった実の兄弟だからだろうか?触れられる手に全てを委ねて、うつ伏せになり、軽く足を開いた。その行為に伴う鋭い痛みに喜びを噛み締め、軽くシーツを握った。この瞬間があるからこそ、厳しい練習にも耐え、父の冷たい視線にも耐えることができた。デヴィッドが執政に疎まれていることを知っているコーチ達は彼にだけ特別に厳しくしていた。練習でフラフラになった後に彼だけまた走らされたり、ゴール前に立たされて鋭く蹴ったボールを全身に当てられたこともあった。そんなことを思い出し、彼は微笑んだ。どんな痛みもこの瞬間に繋がっていると思えば耐えることができる・・・今までも、そしてこれからも・・・あえぎ声をもらし、より強く痛みを感じられるよう腰を高く上げた。サッカーのプレーでは決して興奮することのないデヴィッドは今こうして兄との交わりで歓喜に震えている。自分にとってサッカーは目的ではなく手段に過ぎない・・・・兄を得るための・・・
「ジャレッド・・・・」
思いがけない名前がふと口から出てしまった。
「ジャレッドが気になるのか、あいつはウルフ国へ亡命したらしい。お前の方がよく知っているだろう」
「彼は自分とは正反対だ」
「そうかもしれない、だが動機はなんでもいいじゃないか?大事なのは目的ではない。勝つことだ。勝って栄冠を手にすることが明日へつながる。お前も俺も代表に選ばれた以上、そうだろう!」
ショーンの激しい攻撃が続いた。デヴィッドの体は浸入を防ごうとでもするかのように激しく抵抗した。攻撃する者と抵抗する者のせめぎ合いは長く続き、デヴィッドの喘ぎ声は叫び声になっていた。
「ゴート人はスタミナや体力ではウルフ人に負けている。だけどテクニックでは遙かに上をいく。ウルフ国との対戦が楽しみだ」
ショーンの低く力強い声が部屋中に響き渡った。
−つづくー
後書き
今回はゴート国での話です。この国だとどうしてもデヴィッド視点で書いてしまいます。ゴート人、体力ではウルフ人に負けてもテクニックでは決して負けない(サッカー、それともベッドの上で?)そうです(笑)
2006、9、8
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