ロード・オブ・サッカー(24)
舞台 ゴート国ノーブル家直営レストラン
登場人物 ショーン(指輪、ボロミア)
ドミニク(指輪、メリー)
デヴィッド(指輪、ファラミア)
ビリー(指輪、ピピン)
ノーブル(指輪、デネソール)
ヴィゴ(指輪、アラゴルン)
オーランド(指輪、レゴラス)
イライジャ(指輪、フロド)
サム(指輪、サム)
カール(指輪、エオメル)
見るからに高級そうなレストランに案内されてドミニクは緊張した。普段ビリーや他の仲間とは決して来ないような高級ゴート料理レストラン、チームメイトのショーンにちょっと食事でもと誘われてラフな格好で来た自分に後悔した。ここはどう見ても、ちょっと食事でもといって気軽に入れるような店ではない。
「そう固くならなくてもいい、ここはノーブル家の直営レストランの一つだ。今日は個室を予約してある。誰も気にしたりはしない」
ノーブル家の長男、ショーンはにこやかな笑顔でドミニクに答えた。この人はなんていい人なのだろうとドミニクはいつも思う。本当は執政家の跡継ぎという手に届かないような高い身分の人なのに、少しも偉ぶったりおごっているところがない。キャプテンのヴィゴも好きだけど、彼とはまた違った親しみやすさがショーンにはある。そして代表に選ばれたとはいえ、決してずば抜けた才能をもっているわけではない自分やビリー、イライジャといった仲間に対して、実によく面倒を見てくれる。
「こ、こんな高級レストランでなくても、僕はいつも行っているような居酒屋で充分だったのに・・・」
「ハハハ・・・いつもの居酒屋でもよかったんだが、今夜は君に特別の話があって・・・いつものところには必ず知っているやつが来るだろう。今夜は君と二人だけで話したいと思った」
特別な話はなんだろうと、ドミニクは緊張した。も、もしかして、彼は自分に特別な感情を抱いているのだろうか?ゴート国のスポーツ選手の間では、男同士の恋愛関係は特別珍しいことではなかった。ヴィゴはオーランドとの関係を公認のものとしているし、ショーンは弟のデヴィッドと、そしてそのデヴィッドは新しく入ったカールと関係があるのではないか、という噂が流れていた。イライジャはサムと、ドミニクはビリーとそれぞれ合宿以外自宅にいる時も一緒に暮らしている。もっともドミニクとビリーの間には肉体関係はまったくなかった。いつかはそういう関係になるかもしれないと予感はしていても、お互い今の関係を崩すのが怖くて、その話題には触れないようにしていた。それはイライジャとサムも同じである。もしショーンにそのようなことを求められたらなんて答えればいいのか、もちろん彼のことは深く尊敬して信頼していた。だからこそそのような恋愛感情をもつわけにはいかない。たとえ相手がどんなに求めてきても・・・それにショーンが心の底から愛せるのは弟のデヴィッドだけのような気がする。もしそうなら一時の気まぐれで抱かれたら、自分の感情がコントロールできなくなってしまうかもしれない。
「好きな物、なんでも注文していい、飲み物はビールがいいかい」
「は、はい・・・」
「いつものドミニクらしくないな」
「いつもの店とは違いますから・・・大事な話ってなんですか」
「まあ、いいからビールでも飲んで・・・君にはショッキングな話かもしれないが・・・・」
ショッキングな話、やっぱりそうなのか・・・で、でも自分にはまだ心の準備というものが全然できていないし・・・初めての相手はビリーだと信じていた・・・けれどもショーンのこの人懐こい笑顔・・・かなり年上なのにそれを感じさせないボール扱い、大きな体で敵を圧倒させる試合展開、やっぱり自分は試合中、キャプテンよりもこの人を見ていた。この人のようになりたいと願い、憧れ、恋焦がれ・・・やっぱり恋していたのだろうか?
「俺はデヴィッドと違って遠まわしにうまくいうことができない。単刀直入に言おう。ドミニク、君はしばらくビリーと離れた方がいい」
「は、はい、そうです・・・あ、だめです・・・ビリーと別れることなんてできません。僕とビリーは兄弟のように育ち、いつも一緒だったのです。まだそういう関係にはなっていませんが、僕が愛しているのはビリーだけです。僕はショーンさんのこと大好きです。尊敬しています。愛しています、あ、でもすみません。ショーンさん、あなたとはできません。ごめんなさい・・・僕が愛しているのはビリーだけで・・・」
「君がビリーを愛しているのはよく知っている。君たちがいつも一緒にいることも・・・でも・・・だからこそお互い今は離れた方がいい、ワールドカップが終わるまでは・・・」
「だめです、できません・・・ビリーは代表の正式選手には選ばれていませんが、補欠に入っています。一緒にワールドカップに行きます。あいつが見ているから僕は活躍できるんです。それにショーンさんと僕は年も離れているし、身分も違うからだめです。絶対にそれはだめです。僕はそっちじゃないんです!体は小さくても・・・だからショーンさんとは無理です」
「ビールをお持ちしました」
ウエーターが来て、ショーンはほっとした。ドミニクは何か勘違いをしているらしい。
「さあ、とりあえず乾杯しよう。ドミニク、俺の言い方がまずかったようだな。俺は別に君たちの仲を裂いて君をどうこうしようなどとは少しも考えていない。ただ、サッカー選手として、次のワールドカップで結果を出すためには君達は離れていた方がいい、そう伝えたいだけだ」
「なぜです?僕はビリーとは子供の時からずっと一緒で・・・・」
「俺も同じだ・・・俺も子供の時からデヴィッドばかり見てきた。あいつは俺にだけはなんでも話す。君とビリーが離れていた方がいいと言い出したのもデヴィッドだ」
「デヴィッドさんがどうして・・・・」
「あいつはだれよりも鋭い神経を持っていて人の心が読める。それだけでない、未来のことまでわかってしまう。あいつが俺にこう言った。ドミニクがいまのまま、ビリーだけを思ってプレーを続けていたら、あいつの成長は止まってしまう」
「成長が止まるって・・・だってサッカーは仲間同士励ましあい、助け合うスポーツでしょ・・・どうして仲間と仲良くしてはいけないんですか?」
「君はまだ自分のサッカーを確立していない。仲間同士励ましあうのはいいことだ。だが未熟な者がいつも一緒にいることは足を引っ張るのと同じことだ」
「ビリーが僕の足を引っ張るなんて・・・そんな・・・ビリーはそりゃ、サッカーは下手だけどいいやつです。あんなに明るくて陽気で一生懸命なやつ、他にはいません。それなのにちょっと下手だからって足を引っ張るなんて、僕達はずっと励ましあって仲良くやってきたんです。もしそうやって愛し合うのがいけないなら、キャプテンやショーンさん、あなたはどうなのですか!」
「自分が例外だとは言わないよ、ドミニク、俺もいつかはデヴィッドと、いやノーブル家の長男という足かせから抜け出して一人にならなければ、と思っている。でもそれは今ではない。言い訳に聞こえるかもしれないが、俺とデヴィッドは今、離れてはいけない。互いを見ていることで、サッカーで結果を出せる。ヴィゴとオーランドもそうだ。イライジャも初めからサムはマネージャーだったから、コートでは一人だった。だけどドミニク、君はビリーという極めて未熟な相手をパートナーに選んだ」
「ビリーはそんなに下手ではありません。言ってはいけないと思いますが、ノーブル氏よりもずっと速く走って活躍することができます。前にいたジャレッドだって、ろくに走れもしないくせに幻の天才ストライカーと騒がれたばかりにいつも代表に選ばれていた。ビリーは運がないだけです。チャンスがあれば、必ず僕と同じくらいには活躍できるはずです」
「それは無理だ。君とビリーでは生まれつき持っている能力がまるで違う。仮にビリーの能力が1、君の能力が10あるとしよう。ビリーは君を見習い、君に追いつこうと努力を重ね、3の能力を発揮している。だけど君はどうだ?10ある能力のうち、7ぐらいしか出してはいない。ビリーと遠く隔たることをおそれ、決して10の能力を見せたりはしない」
「僕とビリーはそんなに差はありません。僕が6ならビリーは5、その程度の違いです。ビリーは努力家です。そんな違いなんかすぐに乗り越えて、僕を追い越すかもしれない」
「能力1の者は努力で3になるかもしれない。でもそれが限界だ。決して5や6、ましてや10にはならない。それがスポーツというものだ。それに比べて君は無意識のうちに能力を抑えてしまっている。自分でも迷いがあるんじゃないか」
「そんなことはない。僕だってそんな高い能力はない、ビリーと同じだ」
「そう信じて、力を発揮しないままワールドカップを終わらせる、それでいいのか?」
ショーンの目が鋭く光った。見たことのないショーンの険しい表情にドミニクは言葉を返すことができなくなった。それに表情だけではない。どこかで自分は今までプレーを抑えていたかもしれない。自分が活躍しなくても、他に活躍する選手はたくさんいる。活躍してファインプレーをすれば、点など入れてしまえば、ビリーとの距離がますます広がってしまうかもしれない。サッカーは大好きだった。いつも仲間と一緒にプレーができるから・・・でもその仲間がいない世界に一人ほうり込まれたら・・・・
「自分を確立し、真のプレーヤーとして目覚めろ、ドミニク。君にはその力がある」
ショーンの声には驚くほどの威厳と迫力があった。これが執政家の跡継ぎとして国を背負う立場にある人間の声なのだろう。いつもの親しみやすいショーンはそこにはいない。
「自分でもわかっているはずだ」
「でも、どうやって・・・・」
「ビリーには君と離れてもらうために別の任務を与えよう。ちょうどデヴィッドが今頃ビリーと話しているところだ」
「僕はビリーと離れてあなたを目標にすればいいのですか?」
「いや、俺ではだめだ。俺は偉そうなこと言っているけど、実際は弟のデヴィッドがいなければ何もできない。そういう人間だよ。カールがいい。あいつは何も考えてないけど、とにかくよく走る、ボールを奪うことができる。サッカーにはそれが大切だ」
「カールさんですか」
「君よりも後から入団した彼を目標にするのは不服か」
「い、いえ、カールさんは僕より年上ですし、サッカーをした年月も僕よりずっと長いはずです」
「そうだな、よくわかっている。まずはこのワールドカップを目標にしろ。ここで自己を確立できれば、ビリーとの関係も変わってくる。その後で君達はお互いが高めあう真のパートナーになれるはずだ」
「真のパートナーですか・・・・」
「おいおい、そうまじまじと顔を見つめないでくれ・・・俺が今までしゃべったことの半分以上はデヴィッドが言っていたことだ。あいつはいろいろ見えすぎてしまい、苦しくなってくる。だから俺が代わりに君に伝えただけだ。俺自身がそこまでいつも考えているわけないだろう」
「そうですね。いつものショーンさんと違いましたから・・・」
「ハハハ・・・正直にそういうなよ。ビールもう一杯飲むか・・・どんどん食べろ。話は終わりだ・・・」
「は、はい」
ショーンの顔はいつもどおりの人懐こい笑顔に戻っていた。ドミニクは安心して、ジョッキのビールを飲み干した。
−つづくー
後書き
ちょっと別の登場人物を出して、最近考えていたことをしゃべらせてみました。主人公と別の人物というのも、ストーリーとは直接関係ないことをしゃべらせることができるので便利です。案外それが主題となってしまうことも・・・そうやって次々関係ない話を入れていくから長くなってしまうのですけれど・・・
2006、9、15
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