ロード・オブ・サッカー(26)
舞台 ウルフ国立サッカー競技場
登場人物 ジャレッド(大王、ヘファイスティオン)
コリン(大王、アレキサンダー)
ジョナサン(大王、カッサンドロス)
フランシスコ(大王、バゴアス)
カマラ(悪教育、パキート)
ヴァルキルマー(大王、フィリッポス王)
ガエル(悪教育、フアン、アンヘル、サハラ)
フェレ(悪教育、エンリケ)
ニコラス(戦争王、ユーリ)
ウルフ国でも、いよいよワールドカップへ向けての代表選手強化練習が行われるようになった。日頃はいい加減な練習をしているウルフ国選手だが、やはり強化練習となれば自然と力も入る。そしてフランシスコ、カマラといったチアガール達も練習に参加して、マネージャーのような仕事をこなしていた。
「遅いわよ、アンタ、飲み物は朝一番に会場まで運んで!それからタオルの用意も・・・昨日使ったユニフォーム、もう洗濯は終わったの・・・」
ベテランチアガールのカマラが、新入りのフランシスコに怒鳴っている。別にマネージャーや使用人が何人もいて、それぞれ洗濯は洗濯、飲み物運びは飲み物運びと役割が決まっていたゴート国とはかってが違うフランシスコはとまどうばかりである。休憩時間になり、選手達が一斉にベンチに戻って来た。
「ほら、早くみんなにタオルを渡して、それから、飲み物、飲み物、ぼんやりしているんじゃないの・・・」
「は、はい・・・」
「まずは、ヴァルキルマーにタオル持っていって、あの人怒らせると怖いから」
「ええ!僕がですか・・・」
「おい、カマラ、あんまりフランシスコを苛めるんじゃないよ。ヴァルのところへはお前がタオル、運べばいいだろう」
キャプテンのコリンが口を挟んだ。彼は常にチーム全体の様子を見ている。そのはっきりとした態度に、フランシスコは大きな感動を覚えた。ジャレッドとパスポートを間違えた時、コリンはフランシスコの頬を強く叩いた。だが、今ここでは彼をかばってくれた。
「何をもめているんだ、タオル一つぐらいで、俺が運ぼうか」
俺がと言う太い男の声でみなが振り向くと、そこには艶やかな姿の女、いや女装した男が立っていた。
「ガエル!」
「いつこっちへ来た!」
「やっぱりウルフ国がよくなって戻ってきたのか?」
「違うわよ、ただフェレに会いたくて・・・やっぱりゴート国の男に比べるとウルフ国の男は粗野で乱暴ね。この国で食べていくのは難しいわ」
今度は声もしゃべり方もまったく女らしくなってガエルが答えた。
「ヴァルにタオル持っていって、汗ふいてあげればいいんでしょ。お安い御用よ。その後の約束はできないけど・・・あら、あなたは確かゴート国でチアガールをしていた、なんていったかしら・・・」
「フランシスコです」
「そうそう、フランシスコ・・・急にいなくなって心配したけど、ウルフ国に来ていたのね」
「誰にも言わないで下さい。お願いします」
「いいわよ、別にそんなこと言わないわよ。ところで、あなた、もう男はできたの?」
「い、いえ、まだです」
「早くいい男捕まえた方がいいわよ。ウルフ国の男なんて、オオカミばかりだから、早く優しい男を捕まえてその人のものになってしまわないと、誰に襲われるかわからないわよ。もしよかったら適当に紹介してあげましょうか」
「い、いいえ、いいです。・・・僕には好きな・・・」
言いかけてフランシスコの顔は真っ赤になった。尊敬してやまないキャプテンコリンはすぐ目の前にいる。だがその名前を口にすることなど、今の彼にはとてもできないことであった。
「そこの女ども、しゃべってないで、早く飲み物とタオルを持ってこい!」
遠くからヴァルキルマーのよく響く怒鳴り声が聞こえた。
「正確に言うと、あたし達みんな女ではないのよね。カマラはもう手術済んだの?」
「ええ、身も心も、あたしはもう100パーセント女よ。もう誰にもオカマなんて呼ばせないわ」
「でも、見た目はどう見ても女ではなくてオカマなのよね。アタシは手術なんてしてないけど、よっぽど女らしいでしょ」
「そ、そうですね。やっぱりカマラさんよりも・・・」
「ちょ、ちょっとあんた、先輩のあたしに何言っているのよ」
「すみません」
「あなたも手術はまだよね。でも本当にきれいで魅力的だわ。あなたなら女にならなくても、充分今のままで男に愛されるわね」
「僕は女になるつもりはありません」
「そうよ、その方がいいわよ。男のままで、女に見えるっていうのが、一番いいかもしれないわ。どちらの性も都合よく生きられるんですから」
「僕は男としても、女としても生きるつもりはありません」
「ええ!ど、どういうことなのよ?・・・詳しく聞かせてよ。あなたいったい何を考えているの」
「考えているだけでなくて、僕は実際男でも女でもない存在として生きています。僕は手術を受けて、男であることをやめました。でも女になるための手術は受けていません」
「キャー!!・・・それって、どういうことなの?ねえ、詳しく教えて・・・興味あるわー・・・やっぱり手術の時は麻酔かけたのよね。でも麻酔が切れたとき・・・」
ガエルとカマラの二人はフランシスコの話に夢中になり、周りの人間のことなどはもうすっかり忘れていた。
そのころジャレッドがヴァルキルマーにタオルを渡していた。彼は怖いが、そのゴールキーパーとしての才能は確実なものであった。シュート練習をするには、ぜひ彼の力を借りたい。
「あの、ヴァルキルマーさん。強化練習が終わったら、シュート練習の相手をしてもらえますか?」
「いいだろう、ゴートのお前も、ウルフ人に混ざって練習すれば、少しはいいシュートが打てるかもしれない」
「俺のシュートはもう完成されている。ただそれを取れるキーパーがいるかいないかだけだ。確実に点を入れるためには、キーパーが取れないシュートを入れなければ・・・・キーパーとディフェンスの動きが知りたい」
ジャレッドは、自分自身に言い聞かせるようにつぶやくと、すこしドリンクを飲んでまたグランドへと向かった。
「あのバカ!何やっているんだ!自分の体力の限界がわかってないのか!・・・ジャレッド!戻れ!少しは休め!」
ニコラスが大声で叫んだ。その声を聞いてコリンがグランドへと走った。
「おい、ジャレッド、キャプテンの俺の命令だ。勝手な練習はするな!」
「ああ、コリン、そばへ来てくれたのか。蹴ってくれ、俺の足に向かって思いっきり強く球を蹴ってくれ・・・さあ、早く・・・俺の体が持ちこたえている間に・・・・いやだ!・・・止めないで・・・・僕はもっともっと走れるよ・・・お兄ちゃんと同じサッカー選手になるんだ。あそこにボールがあるんだよ。止めないで・・・あれは僕のボール・・・大丈夫、倒れたりはしないから・・・いやだ!薄汚い手で俺の体に触るな!俺は王、サッカーの王になってみせる・・・・ロード・オブ・サッカー・・・早く球を蹴って・・・」
コリンは見た。ジャレッドが叫びながらボールに向かって走る様を、そして手を伸ばし、空を掴もうとしている姿を・・・・慌てて走り寄るコリンの腕にジャレッドは倒れ込み、意識を失った。すぐに救急車が呼ばれ、ニコラスとコリンがつきそってジャレッドは病院へと運ばれた。
「ジャレッドの様子はどうだった?」
病院から戻ってきたコリンに、ジョナサンがすぐに話しかけた。
「意識は取り戻したが、しばらくは入院が必要だ。ニコラスが付き添っている」
「もうワールドカップ一次予選まであんまり日がないぜ。ジャレッド抜きでチーム編成を考えるか」
「ああ、最悪の場合は考えないと・・・それからニコラスも・・・」
「付き添いは、他のやつに頼めばいいだろう。ニコラスまで抜けたら大変だぜ」
「わかっている。だが、あの二人は実の兄弟だ・・・」
「え?・・・・・そうだったのか・・・彼が話したのか?」
「いや、彼は何も言わないが間違いない。兄弟一緒に試合に出られるチャンスだったのにな」
「なんだ、ウルフ国代表は亡命者の集まりか。それじゃあ純粋なウルフ人は・・・」
「ジャレッドもニコラスもウルフ人だ。この国でサッカーをやっていこうと決めた時から、彼らはウルフ人だった。体を流れる血が何人のものか、そんなことはどうでもいいことだ。いやむしろ、遠く国境を隔てながら、俺達は一緒にサッカーをやるために出会った」
「なんだ、それはジャレッドに対する愛の告白か。昔からの恋人である俺は結局捨てられるのか」
「捨てるわけないだろう。俺にはこの代表チームの全員が必要だし、愛している。一緒に寝るかどうかは別にして・・・」
「それなら、もうひとりのゴート人はどうだ?パスポートに中性だかなんだか、わけのわからないことを書いたやつ・・・あいつのお前を見る視線の熱いこと・・・まさか気づいてないとは言わせないぜ」
「もちろん気づいているさ。彼のことも愛している」
「ちぇ、都合のいい人間だ」
「もう俺から離れるか?お前も相当いい男だ。その気になれば、男でも女でもいくらでも相手は見つかるさ」
「お前以外、ちっともその気になれないから困る。ウルフ人の中でもとりわけいい加減で、浮気っぽく・・・」
「続きは二人きりになった時話そうぜ。まだ練習の途中だ」
「わかった。それにお前の考えもわかった。当分ジャレッドなしでも練習して、あいつをポジションからはずすつもりはないんだろう。でもうかつなことしゃべるなよ。ガエルがいる」
「あいつはどっちの味方だ。ゴート国にこっちの情報を提供しているのか?」
「さあ、わからんな。あいつが何を考えているなんてさっぱり・・・・」
「しかし、あいかわらず綺麗だった・・・うちのオカママネージャーよりもずっと・・・」
「まあ、コリン、あたしに何か用?」
いつの間にか、カマラはコリン達のすぐ近くに来ていた。
「あ、いや、世界中いろいろなチアガールを見たけど、カマラほど美しい・・・・」
「オカマのチアガールはいないって言いたいのでしょう。わかっているわよ。あたしだって自分がどう見てもオカマだってことぐらい。悔しいわ。ガエルの方がよっぽど綺麗なんですもの。でも彼女には気をつけた方がいいわよ」
「わかっているさ、さあ、もう少し練習を続けるぞ」
「随分熱心だな、キャプテン」
「ジャレッドはあてにできない。俺達が確実に球を回し、守備を固めなければ・・・」
「結局あいつの話か」
「ああ、俺はあいつを輝かせるために、今までサッカーを続けてきたのかもしれない」
「それだけ言えば充分だろう。早く練習始めようぜ」
ジョナサンがグランドへと走った。コリンもその後を追った。いろいろあるけれど、今は練習を続けなければならない。
−つづくー
後書き
久しぶりのサッカー物語でのウルフ国、最近ガエル君の話をいくつか書いていたらそっちも登場させたくなって、ますますわけがわからなくなってしまいました。ジャレッドはちょっと走るとすぐ倒れるし、無事ワールドカップが始まるのか心配です。
2006、11、21
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