ロード・オブ・サッカー(27)

舞台 ウルフ国のとあるホテルと病院

登場人物 ガエル(悪教育、フアン)
       フェレ(悪教育、エンリケ)
       ダニエル(悪教育、マノロ神父)
       ジャレッド(大王、ヘファイスティオン、戦争王ヴィタリー)
       コリン(大王、アレキサンダー)
       フランシスコ(大王、バゴアス)

「もう、予選は近いんだろう。僕と会ってこんなことしていていいのか」
「ウルフ国が予選で敗れるわけないだろう。第一お前はどっちを応援する?」
「僕はゴート国のチアリーダーだ。もちろんゴート国を応援するさ。口ではな」
「そんな生活を続けていて、お前、頭の中おかしくならないか?」
「もうとっくに崩れているさ、これ以上崩れようがないほど・・・」

ウルフ国のあまり高級でないホテルの一室で、フェレは久しぶりに帰国したガエルの体をまさぐっていた。

「やっぱり君はうまくないな。そんなやり方じゃ、いつまでたってもちっとも感じないぞ」
「うるさいな、ゴート国では娼婦のように暮らしているんだろう。今までにどれだけの数の男と寝た?」
「数えてないさ。そんなこといちいち・・・一晩で二、三人ということもあるし・・・初めてのヤツは大抵驚くぜ。僕が手術をしていない、まったく男のままの体だということに・・・驚いて逃げた客も多い」
「こうして見ればまったく普通の男なのに・・・」
「君の前だけだよ・・・僕が男として生きられるのは・・・あ、そこじゃない・・・もう少しこっちを強く・・・初めてやった時と少しも変わらないじゃないか・・・君だって普段は男相手にやっているんだろう。決まった相手はいるのか?」
「感情は持ち込まずに、金の関係と割り切っている。後は気が合えば一晩だけということも・・・」
「僕と大して変わらないじゃないか」
「全然違うさ」

フェレは震える手でガエルの裸体をなぞった。普段割り切って付き合う相手と違って、ガエルが相手では自分の欲望は少しも湧きあがってこなかった。目の前にいるガエルが幻のように感じた。いつ消えてしまうかわからない。実際、彼は何度もフェレの前から姿を消していた。

「ダニエルのこと、まだ恨んでいるのか?」
「当たり前だ・・・あの男があんなことをしなければ・・・僕はずっとウルフ国で暮らすことができた・・・」
「もう忘れてもいいんじゃないか・・・あれから随分たった」
「あの時、僕はまだ15だった。男同士の関係なんて何も知らなかったよ。ただ君のこと好きで、いつも一緒にいたかったけど僕にはサッカーの才能がないから、ふざけてチアガールなんてやってみた。そしたらそれが受けてさ。みんなが喜んでくれるから、僕も張り切ってチアガールやっていたよ。僕は別に女装が趣味だとか、男が好きだとか、女になりたいなんてこと一度も考えたことがなかった。ただ僕の応援でチームが盛り上がってくれればと・・・でもそんな僕をあいつは全く別の目で見ていた」
「ダニエルだろう。彼はまじめな選手だよ。サッカー一筋で、結婚もせず、恋人すら作らない。修道士のような生活をしていた」
「それがどうして僕を襲うんだよ!15の、何も知らないチアガールの真似事をして喜んでいるようなガキだぜ。それなのに突然閉じ込められて・・・あんなことするなんてまったく知らなかった・・・恐ろしい体験だった・・・今でも夢にうなされる・・・」
「ガエル・・・・」
「君の前にいられなくて遠くへ行った。気がついたらゴート国にいて、女の格好をして体を売っていた。昔と同じようにチアガールもやっていた。なぜかだなんてわからない。僕の心は壊れ、理由なんてもうわからなくなっていた」
「ガエル、あの時はそうだったかもしれない。でも俺達はまたこうして会った。俺はお前を愛しているし、お前も俺を愛しているはずだ。俺達もう一度やり直せないか?もう充分遠回りをした。こうしてたまに会うだけでなく、一緒にまた暮らせないか?もしダニエルと一緒の国に暮らすのがそれほど苦痛なら、俺はよその国に移籍してもいい」
「それは無理だ、もし僕が君と幸せに暮らしたら、そこで復讐は終わってしまう」
「復讐?ダニエルに対してか?彼は彼なりにお前のことを気にして苦しんで・・・・」
「だからこそ僕は転落し続けなければならない。女として堕ち、たくさんの男の精液にまみれた姿であいつの前に常に顔を出さなければ復讐は終わらない」
「ガエル、俺はお前を愛しているんだ・・・そんなこともうどうでもいいじゃないか・・・」
「僕だって愛している・・・もう一度君に会いたい・・・それだけが生きる支えだった・・・いろいろな男に抱かれ、たくさんの体液が混ざり合えば・・・いつか海に落とした血ぐらいに薄まってわからなくなる、記憶も薄れていく・・・わからなくなってきれいになったらもう一度君に会いに行こうと・・・・」
「お前はもう充分きれいになっている。これ以上自分の体を汚してはいけない」
「フェレ、抱いて欲しい、もう何も言わずに・・・」
「明日になったらまたお前は何も言わずに消えてしまうんだろう。もうこういうことは終わりにしよう。一緒に暮らそう」
「君に抱かれている時だけ、僕は僕でいられる・・・でも壊れてしまった心では、それが長く続くと苦しくなるんだよ。君を愛している、誰よりも、だから苦しくてたまらない・・・わかってほしい・・・僕は本来の自分の姿に戻ることが苦痛なんだよ・・・だからわかってほしい」
「どうしたら、俺はお前を救うことできるのかな」
「ゴート国の応援をしながら、君のゴールを待っている」
「そしてお前はウルフ国の情報をゴート国のやつに教えるのか?」
「そんなことまで見抜いているんだね」
「当たり前だ、お前のことならなんでもわかる」
「君を愛している。それだけは変わらない、永遠に・・・」

部屋の明かりを消し、フェレは静かにガエルと体を繋ぎ合わせた。苦痛を取り除くための準備も、快楽を得るための工夫もなにもしなかった。ただ痛みに耐えながら体を深く沈め、そのまま固く腕をまわして目を閉じた。体を密着させると互いの鼓動がはっきり聞こえた。そのまま深い眠りへと入った。






病院のベッドで目を開けたジャレッドはすぐそばにコリンが座っているのを見てうれしくなった。だが、わざと乱暴な口調で話した。

「やい、キャプテン!予選はもう近いんだろう。練習に出ないでこんなところにいていいのか?」
「もう練習時間ではない。お前が眠っている間に真夜中になった」
「ずっと俺が目を覚ますのを待っていてくれたのか?」
「いや、目覚めるまで寝ていた」
「大丈夫だ、心臓は止まってないようだから、もう帰った方がいいんじゃないか」
「今夜はここに泊まると言ってある」
「だったら控え室で寝れば、明日朝から練習だろう」
「どんなに夜寝なくても、練習にきちんと出られるのが俺の自慢だ」
「そうか、体が丈夫なのが自慢なわけだ。いいよな、そういうやつは・・・ちょっとぐらい無理しても体は平気なんだろう。だったらさっさと帰れよ。その丈夫な体を俺に見せつけて自慢したいのか!」
「自慢だなんて、俺はそんな、ただ・・・・」
「結局、体が丈夫なやつなんて、弱いやつの気持ちなんて少しもわからないさ」
「ジャレッド、そう怒るなよ・・・俺はお前が心配で・・・・」
「試合に出られない選手のこと心配してどうする?俺はそういう体なんだよ。少し無理すればすぐ心臓に負担がかかって苦しくなる。下手に一生懸命走れば死にそうになる。サッカーなんてスポーツやるべきじゃない。もっと大人しく別の絵とか描くことに熱中すればいい。子供の頃からずっとそう言われ続けてきたよ。いくらでも走れるやつに、こんな気持ちはわからないだろうな。俺だって走りたいよ、自分でボールを奪って、自分でゴールが決められたらどんなに気分がいいか。一回でいい、サーカーコートを隅から隅まで思いっきり走り回ることができたら・・・・でもそれは夢でしかないんだ。お前にはわからないだろうな!」
「ジャレッド・・・」
「腹が立つんだよ!腹が立ってしょうがねー!・・・どうして才能あるやつが、いくら走っても死なないやつが、中途半端に練習して、試合に勝ったといって喜んでいるんだ!才能があるなら、体が丈夫なら、もっとそれを生かせよ!俺が納得するぐらいのすごいプレーを見せてみろよ!そうじゃなくて、中途半端なとこで満足しているヤツが、優秀選手として注目される」
「ジャレッド、お前だって注目されているじゃないか」
「幻の天才ストライカーだろ!幻になんの価値がある!走れないサッカー選手になんの価値もないだろう。どうして俺だけこんな心臓を持って生まれたんだよ。もし俺の心臓が普通のヤツと同じだったら・・・」
「それは違うな、ジャレッド、お前はその心臓を持って生まれたからこそ・・・・」

ジャレッドに激しい怒りが湧き起こった。目の前にある花瓶をコリンめがけて投げつけた。

「ふざけるな!わかったような言い方しやがって!帰れ!さっさと帰ってくれ!・・・頼むよ、これ以上俺に惨めな思いをさせないでくれよ・・・・いいから帰れ!帰ってくれ!」

コリンは近くにあったサッカーボールをジャレッドの足元にそっと投げた。ジャレッドはボールをコリンの顔めがけて蹴った。コリンの顔の真正面にボールは命中した。

「はは、何やっている。プロのサッカー選手がボールを顔に当てるとは・・・・」
「俺がよけたらこの球は窓ガラスを壊していた」
「病院でサッカーの真似事なんかするからいけない」
「俺が思った通りだ。お前の足はボールを的確にとらえる。それがどこであろうと」
「だからどうした・・・」
「やっぱりお前は天才ストライカーだ。この俺の顔をよく見ろ。病人とは思えない、大した威力だ。もう少しで鼻の骨が折れるところだった」
「お前の鼻があんまり高くなくてラッキーだったな」
「ワールドカップが終わるまで、この俺にお前の体を預けろ。練習メニューから食事、睡眠時間まで医者と相談して俺が全部管理してやる」
「そうしたら、試合に出られるのか?」
「ああ、出られる」
「大した自信だな。俺の体のこともスポーツ管理者のこともよくわからないくせに・・・・少しは勉強した。お前のために・・・」
「そうか、そこまで言うんならお前にまかせるよ。おい、鼻血が出ているぞ。手当てしてもらえよ、ここは病院なんだから」
「いい、自分でティッシュでもつめておく。お前ボールはしまっておけよ。病室にこんなもの持ち込んでいるのがバレたら怒られるぞ」
「俺は倒れて運ばれたんだ。持ってきたのはお前だろう。こうなることを予測していたのか」
「いや、とにかくお前にはボールを見せることが何よりの励ましだと思ってね」
「お前の球でもいいぞ」
「ああ、優勝したらたっぷり見せてやる」

そこへドアをノックして、フランシスコが入ってきた。

「コリンさん、お夜食を持ってきました。ジャレッドさんの具合はいかがですか。ど、どうしたのですか、コリンさん、鼻が血で真っ赤に・・・・すぐに誰か呼んできます」
「いいんだよ、フランシスコ、あんまり大騒ぎするな」
「だって鼻血が・・・・」
「ああ、これはね、互いに球を見せ合って・・・恥ずかしいから人には言うな。もうお前は帰って休んでいろ。兄貴が世話をしてくれるだろう」
「はい、でも僕はやっぱりコリンさんが・・・」
「わかっている、フランシスコ。愛しているから・・・・」
「ところで球ってなんですか?」
「あ、いや、お前は気にしなくていい。お前がそのことを深く考えると話はややっこしくなるから、じゃあ兄貴によろしくな」
「わかりました・・・」

フランシスコは素直に出て行った。

「コリン、知っているか?あいつは手術して・・・」
「ああ、知っているよ」
「なんで知っているんだ。もうやったのか?」
「いや、まだやっていない」
「あいつのことも愛しているのか」
「ああ、愛している」
「さっき、俺の体をお前に任せろと言ったよな。そのすぐ後でよくもまあ他のヤツに愛していると言えるよな」
「俺は体が丈夫だからね。その気になれば一晩に何人相手をしても・・・・」
「そういうやつは嫌いだ。帰って勝手にやっていろ」
「そうはいかない、またお前がヤケをおこしていろいろ投げたら困る。俺が身元引受人になっているんだ。壊した物の請求書は全部俺のところに来る」
「迷惑だったか」
「迷惑じゃないさ。お前に出会えたことは、俺の人生の一番の奇蹟だ」
「調子いいやつだ、俺はもう寝るからな。気分よく寝られるよう、寝る前にしてくれ」
「おい、病室でやるのはちょっとまずいだろう。俺達はかなり有名人だし、いつ見回りのナースがやってくるか」
「バカ、キスだけだ」

コリンは微笑み、ジャレッドの口にそっと唇を重ねた。

「本当にお前に任せていいんだな。もしそれができたなら、お前に会えたことは、俺の人生の一番の奇蹟だ」


                                 ーつづくー


後書き
 いろいろ事情がある二組の恋人の話です。傷が深すぎる場合、愛する人の側にいるのはかえって辛いかもしれないし、自分ができないことを目の前にいる人間が平然とやっているのは腹立たしいかもしれない、なんてことを考えながら書きました。球はやっぱり玉と書くべきかもしれないのですが、彼の場合は球の大きさだろう(笑)と球の漢字を使いました。
2006、12、7





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