ロード・オブ・サッカー(29)

舞台 ウルフ国立サッカー競技場の売店と近くにある病院

登場人物 F.W ジャレッド(大王ヘファイスティオン、戦争王ヴィタリー)
            ブラッド(木馬アキレウス)
       M.F コリン(大王アレキサンダー)
            ジョナサン(大王カッサンドロス)
            エリック(木馬ヘクトル)
            エリオット(大王プトレマイオス)
       D.F  ニコラス(戦争王ユーリ)
            イーサン(戦争王バレンタイン刑事)
            フェレ(悪教育エンリケ)
            ダニエル(悪教育マノロ神父)
       キーパー ヴァルキルマー(大王フィリッポス王)
       監督  オリバー(大王監督)
       チアガール フランシスコ(大王バゴアス)
               カマラ(悪教育パキート)
       ゴート国チアガール ガエル(悪教育フアン、アンヘル、サハラ)
       特別出演 イーモン(コリンの兄)

ワールドカップ1次予選が始まった。ウルフ国の最初の対戦相手はジャッカル国で、ウルフ国立サッカー競技場で行われる。まだ予選だというのに、暗いうちから当日券で見ようとする人でごった返していた。サッカー場にはまったく似つかわしくない真っ赤なロングドレスを身につけ、派手な化粧をしたカマラが入場券売り場で観客を案内している。

「みなさ〜ん、当日券はこちらで買ってください。ブラッド選手のティーシャツ、サイン入りブレスレットなどもこちらにありますよ。キャプテンコリンのサイン入りライターなどいかがですか?ああ、そのプロマイドはジョナサンよ。今期待の若手選手で、この試合ではフォワードに入るのよ。プロマイド買うなら今がチャンスだから、フォワードのジョナサン、ブラッドと並ぶくらい点入れるかもしれないわ。明日になれば、値段もぐんと上がるわよ」
「あの、カマラさん。ジョナサンさんはコリン選手と同じ年で、あんまり若手ではないと思いますが・・・」

一緒に売店にいたゴート国から来たチアガール(男)のフランシスコが不安そうな顔をした。カマラに夜中にたたき起こされ、寝不足でもある。

「ちょっとあなた、忙しい時に余計なこと言わないでよ。年は同じでも、コリンはキャプテンだから貫禄を見せなければいけないの。一方ジョナサンは、最近けっこう外国の女の子の間で人気急上昇なのよ。ウルフ人には見えない繊細でエキゾチックな顔立ちがいいというのよ。あなたもゴート人の女の子なら、彼の魅力がよくわかるでしょ。フォワードをやればチャンスよ。ワールドカップ予選で点を入れれば、世界のアイドルになるかもしれないのよ」
「ジャレッド選手は・・・・」
「ああ、彼も同じゴート人だったわね。残念だけどこの試合には出れないわ。ドクターストップがかかったんですってね」
「もしこのままずっと試合に出られなかったら・・・」
「選手生命はお終いね。次のワールドカップは4年後よ。その間にウルフ国なら次々といい選手が出てくるわ」
「命がけで亡命したのに」
「しょうがないだろ、スポーツはそういうものだ。どんな事情があろうと勝つヤツは勝つし、負けた者は去るだけだ。どれほど汚いことをしようと、実力さえあれば残っていられる」
「あら、ガエル、あなた試合を見ていくの?」
「まあな。いい情報が得られればゴート国で高く売れる。あいつの弱点を見つけ、ウルフ国が徹底的に負ければ選手生命は絶たれる」
「負ければダニエルよりもフェレの方が危ないんじゃない。彼、いい人なんだけど、決定力がないのよ。個性的な人ばかりのウルフ国ではかすんでしまうわ」
「そう言えば、情報を流さないと思っているのか。女は甘いな。フェレのことはもう考えないようにしている。今は復讐のことだけだ」
「寂しい人生ね。アタシを御覧なさい。いつも誰かを愛しているからこんなに美しく・・・・」
「はいはい、ほら、がんばってプロマイドを売るんだろう。ほら、慣れないゴート人が困っているぜ」

ガエルの言うとおり、まだウルフ語が不自由なフランシスコが懸命にチケットや選手のグッズを売っていた。





同じ頃、コリンはジャレッドの入院している病院に向かった。まだ面会ができる時間ではなかったが、特別に頼んで病室に入れてもらった。ジャレッドの病室にはコリンの兄イーモンが一晩中つきそっていた。

「兄貴、すまない。ずっと寝てないのか」
「いや、彼が寝ている間ずっとソファーで仮眠を取った。医者に頼んで睡眠薬を処方してもらった。コリン、今日から始まるんだろう。ここに来ていていいのか」
「すぐに戻る、急にジャレッドの顔が見たくなって」
「そんなにほれているのか。実際かわいい顔をしている。ジョナとは別のタイプだが・・・」
「俺がほれているのはこいつの顔じゃない、この足だ」

コリンはベッドの上でよく寝ているジャレッドのふとんをめくり、片足を持ち上げてキスをした。

「この足は奇跡を起こす。俺は必ずこの足がどれほど素晴らしいか世界に知らしめてやる」
「あんまり思い詰めるな。選手はジャレッドだけじゃない。お前はウルフ国の選手全員を率いて戦わなければならないキャプテンだろう。一人への思い入れが強すぎれば、全体を破滅させる」
「俺はウルフ国が予選で敗れても、ジャレッドの足を世界に伝えたい」
「そこまで思っているのか」
「俺の足に・・・・何しているんだよう・・・」

ジャレッドが寝ぼけた声で言った。彼の目はしばらく宙をさ迷い、ようやくコリンに焦点を合わせた。

「コリン、来たのか」
「ジャレッド、お前に会いたくてな」
「俺はしばらく前から厳重に見張られているよ。ここを抜け出すか、それとも自殺でもするかと思われたらしい。睡眠薬も必要な量だけ渡され、飲んだか確認するまでそばに医者がついてくる。抜け出してどこへ行く?またよその国へ亡命してサッカーやるか。こんな体でどこの国が使ってくれる」
「ジャレッド、お前は今回の予選はだめだが、まだ次の試合がある。それまでに無理をせず、体調を整えろ」
「次の試合までに俺の心臓が治っているのか。ますます悪くなるばかりだ。ゴート国にいた時の方がもっとずっとよく走れていた。この国は俺の体に合わないのか。そうかもしれないな。俺はゴート国でずっと生まれ育った。亡命なんかしなければよかった。大人しくゴート国にいれば、選抜選手に選ばれなくても、補欠ぐらいになってボールを蹴ったかもしれないのに・・・・ワールドカップでゴールを決める、子供の頃からの夢だった」
「ワールドカップ、今回がダメでも、また4年後がある」
「4年後まで、俺は生きてない!」

ジャレッドの叫び声に、イスでウトウトしていたイーモンまで飛び起きた。

「ジャレッド、お前・・・・」
「自分の体のことだからよくわかる。もともと俺の体は二十歳まで生きるのも難しかった。医者が話しているのを聞いたんだ。でも、体を騙しながらここまでやってきた。それなのに、なんの結果も出せないまま、死ななければいけないのか!」
「ジャレッド、お前には最後のワールドカップなのか」
「どうして普通に走れるやつが、しっかり走らない。サッカーを続けてなんの問題もないやつが、練習をさぼってばかりいる。ワールドカップが終わるまでの数十日だけでもいい。もしどれだけ走っても倒れない体が与えられたなら、俺は朝から晩までずっとサッカーをやっているよ。それで命が尽きてもいい、死ぬ前にただ思いっきりサッカーをしたい」
「ならば、お前にサッカーをやらしてやる。競技場へ行こう」
「コリン、前からお前はサドっぽいと思っていたけど、そこまで酷いヤツとは知らなかった。俺は今サッカーができない。それなのに競技場へ行って、お前達のプレーを見るのか。よくやった、ファインプレーだと誰かがゴールを決めるたびに歓声を上げ、拍手をするのか。そこまで思いやりのないヤツとは思わなかった」
「そうだ、コリン、いくらなんでもそれは酷すぎる、今のジャレッドには残酷だ」
「残酷ではない。いいか、ジャレッド、もしお前が心からサッカーを愛し、誰よりもサッカーが好きだと言えるなら、自分が出ることのない試合も目の前で見れるはずだ。俺だって子供の頃、試合に出させてもらえず悔しい思いをしたことは何度でもある」
「それとこれとは違うだろう、バカ」
「俺はバカだよ。サッカーのことに関してはトコトンバカになる。だからお前と一緒だ、ジャレッド。見ていて欲しいんだよ。お前の眼差しを感じれば、俺は普段よりずっといいプレーができる」
「そういうセリフは女に言ってくれ」
「女よりももっとお前の方がいとおしい」
「コリン、俺はトイレに行ってくる。5分で戻ってくるからな」

イーモンは立ち上がって病室を出た。コリンはジャレッドの足を撫でた。

「俺はこの足にほれ込んでいる。奇跡を起こす天才ストライカーの足に・・・・」
「キスは足じゃなくて口にしてくれ、たったの5分だろ」

コリンはジャレッドの瞳を見た。ゴート人に多い青い瞳に自分の黒い目が映っている。肩を抱き、目を閉じて唇を近づけた。男同士のキスなどコリンは何度もしたことがあるのになぜか震えてうまく唇に届かない。

「へたくそ、何を迷っている」

ベッドに座ったままのジャレッドの方が顔をぐいと近づけてきた。二人の唇は合わさり、そっと舌を差し込んだ。強い生命力のあるウルフ人の唾液と混ざり合えば、少しは自分の体もよくなるだろうか、そんなことを考えながら、口内にたまった唾液を飲み込んだ。下半身がピクピク反応しているのがわかる。コリンは口を離し、勢いよく反応しているジャレッドのものに手を伸ばした。

「必ず俺がお前のここに特大の球を入れ、お前の才能を世界に知らしめてやる」
「もういいよ、お前の活躍を楽しみにする。完全にプレーができなくなったら、お前のプレーを見る」
「ジャレッド・・・・」
「コリン、俺が死んでも、お前だけは俺のことずっと覚えていてくれるよな」
「当たり前だ。絶対に忘れない」

ジャレッドがコリンの広い胸に抱きついた。コリンはその頭をなでた。イーモンが病室に入ってきたが、顔を赤らめ、そっと静かにしておいた。

「ジャレッドさん、朝の検温の時間です」

病室の外からドアをノックする音が聞こえた。

「おい、コリン、誰か来るぞ、早く離れろ。なんだお前、涙ぐんでいるし、口から涎まで・・・・ホラ、ティッシュ、ティッシュ・・・・」

あわてふためくイーモンの声に、ジャレッドとコリンも現実にもどった。外はもうすっかり明るくなっている。

                              
                                −つづくー




後書き
 試合よりも、前後にいろいろやるシーンの方が楽しくて、なかなか試合が始まらないです。次回はジャッカル国と対戦させます。
2007、6、12



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