ロード・オブ・サッカー(3)

舞台 ウルフ国代表チームの合宿所
登場人物 コリン(大王、アレキサンダー)
       エリック(木馬、ヘクトル)
       ジョナサン(大王、カッサンドロス)
       ニコラス(戦争王、ユーリ)
       フェレ(悪教育、エンリケ)

ここはウルフ国にある国立サッカー競技場。そのすぐ裏手には代表選手の合宿所と練習用のコートなどがある。夕食が終わっての自由時間、合宿所のコリンの部屋にエリック、ジョナサン、ニコラス、フェレの4人が集まった。

「なんだよ、明日はジャッカル国との親善試合があるというのに食後のミーティングに集まったのはたったの5人か」

コリンがイライラした口調で他の4人を見回して言った。

「5人集まればいいほうだろう。前のミーティングでは俺とお前の2人しかいなかった。まあ2人じゃ、ミーティングにはならない、だけどあの夜は最高だったぜ、コリン」

ジョナサンは意味ありげな目つきでコリンを見た。

「プライベートな話は今は抜きだ。俺達はミーティングをやっている。そうだろうコリン。お前達がどんなに熱い夜を過ごそうと勝手だが試合に勝てなければ困る」

フェレが冷静に言った。彼はプレイヤーよりも監督になることを目指しているらしい。また写真やビデオを撮るのも趣味で、遠征で他の国にいくたびに選手やチアガールの姿を撮っている。

「ジャッカル国なんてたいしたことないだろう。別に作戦を考えるまでもないさ。敵にボールは渡らない。もしボールを手にしてもヴァルキルマーに睨まれたら最後、一歩も動けなくなるんじゃないか」
「後は適当にブラッドの見せ場を作れば・・・客の大半はブラッド目当てだし・・・あいつが点を入れさえすりゃ、客は大喜びで盛り上がる、俺達の給料もグーンとアップするさ」
「ジャッカル国相手ならそれでもいいだろう。だが今の所俺達のチームは10人しかいない。点を入れているのはブラッドばかりだ」
「俺も一応フォワードだけどさ、遠慮してあいつに球をまわしてやっているんだ。俺がゴールを決めてももりあがらねえ。ちくしょう!なんであいつばかりが・・・・」
「エリック、お前はどっちかっていうとフォワードよりミッドだろう。チームポジションでは・・・」
「ああ、そうだけどさ、今代表チームにいねえだろ。フォワードできるやつ」
「そうだな」
「人数が欠けていて、ストライカーが1人しかいない。おまけにミーティングにもまともに顔ださねえ俺達代表、これでよく勝つよな」
「一人一人の技術が高いからだろう。俺達サッカープレーヤーは仲良しグループではない。それぞれの技術を磨くことを何よりも優先させなければいけない」」

フェレが答えた。ウルフ国代表チームは彼が言う通り、極めて自分勝手な個人主義の人間が集まり、練習やミーティングで全員が集まったことなど一度もない。それでも試合の時だけは全員協力し、滅多なことでは負けない。今年の6月に開催されるワールドアニマル国カップではゴート国と並んで最有力優勝候補国と言われている。

「ジャッカル国など問題ではない。・・・・心配なのはゴート国、あの国の代表は誰に決まった」

コリンが熱を帯びた口調で言った。そうこなくちゃ、俺を組み敷き、溢れるほどの情熱をぶつけてくるコリンも好きだが試合のことを話し、相手国に対して熱くなるときはもっといい、とジョナサンは思った。彼はウルフ国Uリーグでもコリンとは同じチーム、もっと遡れば故郷のジュニアチームに6歳で入ったときからずっと一緒にやってきた。コリンを目標にボールを蹴り、コリンと同じチームに入りたいがために必死に練習してきた。敬愛の情は誰よりも強いのだが、プライドの高い彼はそんなことは決して表面には出さない。意中の人と抱きあっているその瞬間ですら、自分の本心は隠していた。





「ゴート国代表メンバーの顔ぶれならこの前、シープ国と戦った時のビデオがある。ワールドカップでもこのメンバーで来るだろう。ほとんど変わってないさ」

それまで黙ってみなの話を聞いていたニコラスがやっと口を開いた。彼は自分の経歴や家族については決して誰にも言わない。ゴート国から亡命してきた、などという噂まであるほどだ。実際、男も女も頑強な体つきの人間が多いウルフ国の中で、どちらかといえばゴート人のような繊細な体つきをしているが、いくつものパターンを考えて先を読む頭脳プレーを得意とし、チームメートの信頼も厚い。

「それじゃ、ビデオを入れる」

ニコラスが部屋の隅にあったテレビにビデオを入れると、4人はしばらくの間画面に見入った。普段いい加減であっても優勝候補国のビデオを見れば、いやでもみな目つきは真剣になり、オオカミのように鋭くなる。

「オーランド、いいよなあー。まるでエルフのようなあの軽やかな身のこなし。繊細で優雅で美しい。ブラッドなんかとはまるで違う。こういう選手が俺達のチームにもいてくれればなあ」

エリックがため息をつく。彼は同じチームのブラッドを余り好いてはいない。7代か8代前の祖先の間で争いがあり、ブラッドの祖先にエリックの祖先が殺されたと彼は強く主張しているのだが、他のチームメートはそんな昔のことにはあまり関心をもってはくれない。

「あのチアガール、今まで見てきたのとまるで違う。あの踊り方、衣装はまるで古代ペルシャのようだ。なんて優雅でエキゾチックな踊りだ。なんて名前だ」

フェレがうっとりしながら言った。

「さあな、選手はともかくチアガールの名前なんてよく知らないさ。何百人もいて、しょっちゅう変わっているんだから。あ、ほらまた違うのが映った。こっちは名前を知っている。ガエルっていってこいつ男だぜ。男なのにこんなに妖艶な女の姿で踊っている」

ニコラスがなげやりに答えた。

「ガエル・・・どっかで聞いたような名前、幼馴染でそんな名前のやつがいたかな・・・・あー思い出した!フランシスコだよ!さっきのペルシャ風はフランシスコ!間違いない、映画にも出てた」
「え、どんな映画」
「ストーリーはよく覚えていないけどさ、ある国の王様が敵と戦って旅をするんだ。そしてあのフランシスコが旅のお供で、行く先々で王様の前で踊りを踊る。あんまり素晴らしいから、名前を覚えていた。ゴート国はいい国だよ。男でも女でもきれいなやつがほんと多い」
「そうだよな、それに比べてうちのチアガール!ちっとも華やかじゃねえ」
「おい、ちょっと待て!このさいチアガールはどうでもいいだろう。俺達はゴート国代表選手の顔ぶれを見て作戦を考え・・・おい!ちょっと待て、巻き戻しをしろ!今の所、すぐにだ!」
「なんだ、コリン、お前の気に入りの女が見つかったか」
「静かに!・・・もう一度・・・もう一度巻き戻しだ!・・・天才ストライカーと名前は有名だったけどまさかこれほどとは・・・」
「おい、キャプテン!なにそんなに興奮しているんだよ」
「頼む、もう1回巻き戻しを・・・・ジャレッド・・・そうだジャレッド、そういう名前だ・・・天才ストライカー、お前達にもわかるだろう、こいつがどれだけすごい技をもっているか」
「ああ、知っているけどさ、でもジャレッドってあんまり動かないし、滅多に点入れてないだろう」
「それは他のやつがまともにこいつにボールを送ってないからだよ。このプレーを見ろ。足元に球を吸い寄せ、一度自分の中に取り込み、球に命を与えて外に送り出している。こいつの足にふれた瞬間、球は命をもって動き出した。見ろよこのカーブ、確実にキーパーを避け、ゴールに向かって進んでいる。この勢い、球の威力、やっぱりこいつは天才だよ。おい、どうして次の球をオーランドに送るんだよ!違う、そうじゃない、ジャレッドに渡せ!」
「ジャレッドはマークされている。下手に渡したら球を取られる」
「マークなんか関係ない。それぐらいあいつはくぐり抜けるさ。あ、また別のやつにまわした。ちくしょう!見てられねえ、どうしてジャレッドにまわさないんだよ。俺だったら確実にあいつの足元に球を入れてやる。あいつは球に命を与え、奇跡を起こす。同じチームでプレーしていてどうしてそれに気づかないんだよ!」
「珍しいな、コリン、お前がよその国のチームのビデオ、そんなに真剣に見て興奮するなんて」

ジョナサンだけではない。誰もがコリンの興奮ぶりに驚いていた。

「ジャレッド、お前はゴート国にいてはいけない。俺達の仲間になれ。俺達ならお前の真価を、その本当の才能と力を世界中に知らしめることができる。俺のそばに来い、ジャレッド」
「正気か、コリン!こいつはゴート国の代表選手だぞ、ああ、もうビデオ鑑賞は終わり!明日の試合にそなえてさっさと寝ようぜ!」

ジョナサンが叫んでも、他の4人はビデオの画面を直視したままだった。

「コリン!俺はもう自分の部屋に戻るからな」
「待ってくれ、ジョナサン、そう怒るなよ。まだ夜は長い。じゃあ、今夜のミーティングは終わり、明日は9時にグランド集合だ。いいな!」
「今、ここに来てないやつにはどう伝えるんだ」
「掲示板に書いておく。9時集合、遅刻厳禁、強力なライバル出現、とでもな」
「ライバルってまさか・・・・」
「ジャレッドだ。あいつは間違いなく俺のところにくる」
「ほんとかよ、コリン」
「じゃあな、おやすみ」

皆は口々に言ってコリンの部屋を出て行き、ジョナサンだけが残った。

「しかたねえ、お前、抜いておかないと試合で力が出せないんだろう。これも仕事だ。相手してやるよ」
「愛している、お前は美しい」
「そんな言葉は俺たちには必要ない!」

ジョナサンはすばやく自分の唇をコリンの口元に押し付けた。


                                               −つづくー



後書き
 ウルフ国の合宿所風景、ゴート国と違って自分勝手な一匹オオカミ選手がそろっています。素直になれないジョナサン、でも強引に誘い、やることはやらせています。
2006、3、9



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