ロード・オブ・サッカー(30)

舞台 ウルフ国立サッカー競技場

登場人物 F.W ジャレッド(大王ヘファイスティオン、戦争王ヴィタリー)
            ブラッド(木馬アキレウス)
       M.F コリン(大王アレキサンダー)
            ジョナサン(大王カッサンドロス)
            エリック(木馬ヘクトル)
            エリオット(大王プトレマイオス)
       D.F  ニコラス(戦争王ユーリ)
            イーサン(戦争王バレンタイン刑事)
            フェレ(悪教育エンリケ)
            ダニエル(悪教育マノロ神父)
       キーパー ヴァルキルマー(大王フィリッポス王)
       監督  オリバー(大王監督)
       チアガール フランシスコ(大王バゴアス)
               カマラ(悪教育パキート)
       ゴート国チアガール ガエル(悪教育フアン、アンヘル、サハラ)
       特別出演 イーモン(コリンの兄)

ウルフ国対ジャッカル国の試合が始まった。ジャッカルの選手は小柄だが、チームプレーを得意とする。特別目立つ選手はいないのだがいつのまにかボールをとらえ、巧にゴール近くまで蹴っていく。ウルフ国の守りはニコラスとイーサン、フェレとダニエルの二組四人の選手がそれぞれ相手を嫌い、せっかく奪ったボールも嫌いな相手には絶対渡さない。それはブラッドとエリックに関しても同じである。実力はあるのになかなかウルフ国の選手にボールはまわらず、何度もヴァルキルマーがボールを止めた。

「ああ、また入れられそうになった。ディフェンダー、何やっているんだよ!」
「ジャレッド、あんまり興奮するな。騒いだだけでもお前の心臓には負担になる。なるべく平常心を保つよう心がけた方がいい。まったくコリンのやつ、病人を連れ出さなくてもいいのに・・・・」
「俺がコリンに頼んでここへ来た。ああーまた入れられる。しっかり走れよ!何やっている!」

一番よく見える特別席にジャレッドとコリンの兄イーモンが座っていた。ウルフ国選手の動きにジャレッドはイライラしっぱなしだった。それはキャプテンのコリンやオリバー監督も同じであろう。コリンは何度も大声で怒鳴るのだが、選手の動きは中々変わらない。片目のヴァルキルマーの睨み付けでゴール前のジャッカル国選手の動きが一瞬止まり、力強く蹴れなくなってしまうのでまだ点は入ってないが、そうでなければもう5、6点は入れられていただろう。

「ああ、コリンがボールを取った。行け、コリン、走れ、ようしいいぞ、ああ、囲まれた、ブラッドはだめだ、最初からマークされている。俺のポジションにいるやつにボールを渡せ!」

ジョナサンが敵の目を巧に欺いて一歩前に出た瞬間、コリンはそちらに向かってボールを蹴った。片足で受け止めたジョナサンが体をひねり、ボールは大きく空を飛んだ。

「行け!ゴールだ!」

だが、ボールはゴールの枠にぶつかってはねかえり、敵の足元に落ちた。わずかなチャンスをジャッカルの選手は見逃さなかった。すぐさまボールはゴール前まで進み、フォワードの選手が大きく足をあげた。

「ああ、ゴールだ1点取られた」
「そんなバカな。ヴァルキルマーの壁を破れるわけない」
「でも点は入った。1対0だ」
「どうやって点を・・・・」
「また取られた。2点目だ。ディフェンダー、何やっている。きちんと守れ!」
「大変なことになった。ウルフはガタガタだ・・・・」
「まだ大丈夫。これからだよ。ほら、チアガール達も一生懸命踊っている」
「あのチアガール、ほんとうに役に立っているのかな。ゴート人のフランシスコはいいとして、カマラの踊り、俺が選手なら絶対テンションが下がる」
「それはジャッカルの選手も同じだ。敵のテンションを下げる効果があるかもしれない。ああ、あんな短いスカートはいて足を高くあげ、おい、油断してたらもう1点取られたじゃないか」
「3対0か、これはちょっとヤバイかもしれない」





ジャッカル国に5点入れられてようやく前半戦が終わった。ウルフ国の選手は誰もが非常に不機嫌な顔で戻ってきた。

「ディフェンダー、何をしている。5点も入れられるなんて、今までなかったぞ」
「俺達だけの責任か」
「どうしてゴールに球を入れられる。ヴァルキルマーの力は・・・・」
「あいつら、ゴール前では足元の地面だけを見て、絶対ヴァルキルマーと目を合わせないようにしていた」
「それで球が蹴れるのか」
「わかっていて、そういう練習もしたんだろう。一人や二人じゃない。ディフェンダーにいたやつも、チャンスがあればどんどん前に出てゴールに球を入れていた」
「全員フォワードができるというわけか。俺達も少しポジションを替えた方がいいかもしれない。ブラッドは完全にマークされていて、ボールを渡せない」
「だからジョナに渡したんだろう。せっかくのチャンスを・・・・あれで俺達の調子が狂った」
「すまない、もしこの試合で負けたら、俺の責任だ」

日頃プライドが高く決して自分の非を認めないジョナサンが珍しく頭を下げた。コリン以外は気付いていないのだが、肉離れをした足がかなり痛くなってきていた。普通の選手なら自分の不調を訴え、試合には出なかっただろう。だが、ジョナサンはコリンにさえ自分の痛みは打ち明けなかった。

「よし、今回の試合、ブラッドはディフェンダーにまわってくれ。ヴァルキルマーの術が使えないとなると、お前の並外れた足の速さと勢いが必要となる。敵をゴール前に行かせるな。ニコラス、イーサン、フェレ、ダニエルはそのままディフェンダーを続けろ。お前達の間に何があったか知らないが、その憎しみを自分の活躍という形で見せろ。点さえ入れられずに守りぬけば、どれほど他の選手を嫌おうとかまわない。むしろ憎しみや競争意識もまた士気を高めるモチベーションとなる。そしてフォワードにはジョナサンとジャレッドを入れる」
「監督、ちょっと待ってください。ジャレッドにはドクターストップがかかっています。ジョナも足を・・・・」
「コリン、何も言うな!」
「そんなことはわかっている。ジャレッドは走ってはいけないし、ジョナサンはボールを蹴らない方がいい。だが、逆のことなら二人ともできる。ジョナサンは徹底的に走って相手の目を引き付け、ジャレッドがさりげなくゴールを決める。それでいこう」
「なんだ、俺はおとりか」
「ああ、そうだジョナサン。お前はブラッドと同じスター性をもっている。観客も敵もそういう選手ばかりに注目してしまう。だから実際にはなかなかゴールに入れるチャンスが来ない」
「俺はスターよりも確実に点を入れられる選手になりたい」
「人には向き不向きというものがある。実力があるのにどうもファンが少なくスターになれないというやつが・・・コリンなどそのいい例だ。顔は悪くないし、キャプテンを務めるほど力があるのに、女にはもてない。エリオットやダニエルもそうだ。なくてはならない強烈な個性を持ちながら、どうも名前を忘れられてしまう。だが、いろいろな個性の選手がいる。それこそがウルフ国のサッカーだ」
「監督、俺は女にモテないのではなく、女に興味がないだけです」
「ああ、そうだったなコリン、男には結構人気があったな。もう時間だ。ジャレッドを呼んで来い」
「監督、本当にジャレッドを出すのですか」
「そのためにわざわざここまで連れ出したのだろう」
「でも、俺は今回はただ試合を見せるだけだと。あいつが本当にサッカーを死ぬほど愛しているなら、自分が出ることのない試合を見ることも耐えられるだろうと」
「キャプテン、早くジャレッドを呼んで来い。試合が始まるぞ」

ジョナサンがジャレッドの肩に手を置いた。

「ジョナ、お前の足は・・・・・」
「俺は自分が一番大切だという種類の人間だ。無理はしない。それでも俺はブラッドのように目立ってしまう。この顔と持って生まれたスター性があるから・・・・」
「こいつ・・・」

コリンはジョナサンの頭を抱きかかえた。

「早く行け。お前はジャレッドの足の間に球を入れたくてたまらないんだろう。この数万人に囲まれた観客の前でそれをやってみせろ。きっと俺達は勝つ」

ジョナサンの言葉を最後まで聞かずにコリンは走って観客席に向かった。ジャレッドの魅惑的な足の間にどうやって自分の球を入れるか、そんなことを考えて自然に顔がニヤけてきたが、彼はそんなことは少しも気付いていない。



                                   −つづくー



後書き
 個性的なチームというのは一度崩れるとボロボロになるのだろうな、と思いました。自尊心が強く失敗を知らない人間ほど、その自信が崩れた時のショックは相当なものでしょう。それに比べて自分の欠点や弱さを常に自覚して克服しようとしている人間が本当の強さを身につけられるのではないか。そんなことを考えてみました。次回ジャレも試合に参加させます。
2007、6、20


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