ロード・オブ・サッカー(31)

舞台 ウルフ国立サッカー競技場

登場人物 F.W ジャレッド(大王ヘファイスティオン、戦争王ヴィタリー)
            ブラッド(木馬アキレウス)
       M.F コリン(大王アレキサンダー)
            ジョナサン(大王カッサンドロス)
            エリック(木馬ヘクトル)
            エリオット(大王プトレマイオス)
       D.F  ニコラス(戦争王ユーリ)
            イーサン(戦争王バレンタイン刑事)
            フェレ(悪教育エンリケ)
            ダニエル(悪教育マノロ神父)
       キーパー ヴァルキルマー(大王フィリッポス王)
       監督  オリバー(大王監督)
       チアガール フランシスコ(大王バゴアス)
               カマラ(悪教育パキート)
       ゴート国チアガール ガエル(悪教育フアン、アンヘル、サハラ)
       特別出演 イーモン(コリンの兄)

「ちくしょう!あいつらなんでしっかり走らないんだよ!5点も取られたぞ。相手はジャッカルじゃないか。まだ予選だというのに・・・・」
「ジャレッド、あんまり怒るな。興奮すると心臓に負担がかかる。今のお前は体に爆弾をかかえているようなものだから」
「走れないだけでなく、興奮してもいけないのか!いっそうのことこんな体、爆発させて木っ端微塵にしてしまいたい」
「落ち着け、ジャレッド・・・・大丈夫だ、ウルフ国にはいい選手がそろっている。前半は思いがけず点を入れられ、ペースが乱れた。だが後半きっととりかえす」
「何がいい選手だ。キーパーばかりを頼って、守りがなってない。みんな自分のことばかり考えてチームワークがメチャクチャだ。俺はゴート国にいた頃、合宿でもなんでも補欠のヤツまで連れていってキャンプなんかやり、さあみんなで仲良くしましょうという雰囲気が大嫌いだった。子供じゃあるまいし、いつもいつも集団行動しなくてもいいだろう。だけどこの国のやり方はなんだよ。同じチームにいながらいがみあって、中には互いに顔も見ないような連中がいる。普段どんなに相性が悪く嫌っていようと、同じチームにいる限り協力してゴールを目指す、それがサッカーっていうもんだろう」
「ジャレッド、理想はそうだけどさ、彼らは皆複雑な事情があって・・・・」
「複雑な事情?走ることができない俺以上に複雑な事情を持つヤツがいるのか?俺は同じチームに入ったら、どんなに嫌いなヤツだろうと協力して戦うことができる。必要なら足を広げ、そいつの球を受け入れてもいい。サッカーのためなら、どんなことでもできる」
「ならばジャレッド、後半戦から一緒に戦おう」
「おい、コリン、いつの間に・・・・」

観客席に走ってきたコリンを見て、ジャレッドとコリンの兄イーモンは驚いた。

「監督の命令だ。ジャレッド、試合に出ろ」
「でも、医者が言うには・・・・」
「必要最低限しか動かさない。その分はジョナやブラッドに走り回ってもらう」
「あのプライドの高いジョナにおとりをやらせるのか」
「あいつのプライドの高さはよくわかっている。だが、それ以上にあいつもまた誰よりもサッカーを愛している。自分がスター選手になることより、今この試合で点を入れ、確実に先に進むことを望んでいる」
「コリン、本当に俺が出ていいのか。前半よりもっと悪い結果が出たら・・・・」
「お前が出て悪い結果になどなるわけがない。ジャレッド、お前はサッカーをやるために生まれてきた。天才とは、生まれつき優れた才能を持ったヤツのことを言うのではない。そこに至るまでの苦労を苦労と感じないヤツ、そのためにどんな犠牲を払うこともでき、それを続けることが幸せだと言い切れるヤツ、それが天才だ。ジャレッド、誰も真似のできないほどサッカーを愛しているお前は間違いなく天才といえる。この体を数十分俺に預けてくれ。お前の力をこの会場にいるすべての人間に見せ付けてやる」
「コリン、お前いいこと言うな。俺の弟だということが信じられないよ」
「ユニホームに着替えろ。今日この競技場で新しい伝説が生まれる。ゴートの生んだ幻の天才ストライカージャレッドは、ウルフの奇跡の星となって復活し、チームを勝利へと導いた。今日の試合は記録に残るぞ」





後半戦が始まった。足の速いブラッドがコート狭しとディフェンダー方面まで走り回り、ジャッカルチームのボールを奪った。コリンは自分自身はあまり動かず、誰がどこにいるか絶えず確認した。ディフェンダーから中央へと、ボールは確実にウルフ選手の間をまわった。個人の恨みや好き嫌いは忘れ、ただボールを味方にまわすことだけに意識を集中した。ジョナサンがゴール前、敵を挑発するように何度も回った。ジャッカルの選手が何人もジョナサンを取り囲んだ。コリンは彼の表情を見た。いつもの涼しい顔ではない。流れ落ちる汗を拭おうともせず、顔をわずかに歪めている。あの強情なジョナがあんな表情をするなんて、肉離れした足が相当痛むに違いないとコリンは思った。そして目立たぬ位置にジャレッドが立っている。小柄な彼にはマークは誰もついていない。幻の天才ストライカーと一時は各国で話題になったジャレッドであったが、ウルフ国に亡命しているとは知られてないのだろう。コリンの足にボールが来た。チャンスだ。だが、まだジャレッドは使わない方がいい。ジョナ、頼んだぞ!

「ゴール!ウルフ国1点入りました。入れたのはジョナサン選手です。ジャッカル国の大勢のマークを振り切って、見事ゴールを決めました。5対1、おや、ブラッド選手が素早くボールを奪いました。ま、まさかあんな離れた位置から、は、入りました。ブラッド選手、ウルフ国に2点目を入れました。ジョナサン選手とブラッド選手、抱き合って喜んでおります」
「やったー、ウルフ国に2点入った!」
「やっぱりアタシのジョナサンとブラッド、決める時には決めるのよ。ちょっとフランシスコ、なにボヤっと感動しているのよ。こんな時こそチアガールの出番なのよ。さあ、踊って踊って・・・・ウルフ、がんばれー」

チアリーダーのカマラの踊りはかなりひどいなあと思いつつも、フランシスコも踊り始めた。2人の踊りは雰囲気もテンポの衣装も何もかもチグハグだったが、側にいた観客を盛り上げるには役に立った。

「ああ、今度はジャッカルにボールが渡ったわ。ほらウルフ、みんな走って走って・・・・」
「がんばってください!」
「どうしたのかしら、急にあのジャッカル選手走るのが遅くなったわ。あ、ダニエルがボールを奪った。あの人嫌いだけど応援しちゃうわ。走れーあ、エリオットにボール渡したわ。そう次はコリンね。え、またジョナサンに、あー入ったわ。あーアタシのジョナサン、なんて素敵なのかしら」
「カマラさん。しっかりしてください」
「アタシ、興奮しすぎて踊れなくなったわ。フランシスコ、後はあなたが頑張って踊ってちょうだい。まだ後2点入れなければいけないのよ」
「は、はい」

カマラは観客席に座り込み、仕方なくフランシスコが1人で踊った。観客の視線はコートに集中し、チアガールの踊りを見ているものなど1人もいなかったが、それでもフランシスコは踊り続けた。この観客席の盛り上がりがウルフの選手1人1人へ力を与えている。男でも女でもない人間として生きる決意をした自分はサッカーの試合に選手として出ることは決してない。ここウルフ国は生まれ故郷のゴート国からは遠く離れている。それでも今ここで踊っていると、異国の選手と一緒に戦っているように感じる。同じゴート国から亡命したジャレッド選手はどこにいるのか。彼は静かにコートに立っている。だが、その神経は研ぎ澄まされ、ボールが来るのを待っている。

「いいぞ、ニコラス、ボールを奪ったか。ジャレッドに回すつもりか、その距離では無理だ、1度俺のところに・・・・」

コリンの足元にボールが入った。ジャレッドは息を止め、球が来るのを待った。コリンの足の動きを見れば球が自分の体のどこに入るか見当がついた。勢いのついた球をふわりと受け止め、足の向きを変えた。

「ゴール!今ゴールを決めた選手は、見慣れない選手ですが新人でしょうか。いや、違います、これはジャレッド選手ではありませんか。かってゴート国で天才ストライカーと騒がれたジャレッド選手、ウルフ国に来ていたとは意外でした」
「あの解説目!余計なことベラベラしゃべりやがって」
「コリン、ジャレッドのことは伏せておいたのだろう」
「監督がそう解説者にも伝えたはずなのに、あの裏切り者!」

ジャレッドの周りに何人ものジャッカルの選手が集まった。今度はブラッドやジョナサンよりもジャレッドの方がマークされている。

「ジャレッド、お前もマークされた。無理せずに俺達に任せろ。あと1点だ。誰が入れるかなんてもう関係ない。俺達は次に進もう。お前は絶対に倒れるな!」

ジョナサンが大声で叫ぶとジャレッドも大きく頷いた。再びボールがコリンの足元にまわってきた。ゴール近くにいるジョナサンとジャレッド、どちらもマークされている。コリンは二人の真ん中、誰もいない場所にボールを蹴った。ジョナサンは素早く走った。コリンの足からボールが離れる前に彼がどこに球を送るか見当がついた。

「ジャレッド!」

ジョナサンの声より先にジャレッドも前に飛び出した。足先がボールを捉えた。勢いをそのまま生かせば力を使わずに・・・・

「ゴール、天才ストライカージャレッドがまたゴールを決めました。驚きです、ウルフ国、ジャレッド選手が前半出ていなかったのは、これも作戦だったのでしょうか。5対5、同点です。しかしウルフ国、少し作戦ミスがあったのでは・・・・もう時間がありません。ウルフ国、逆転のチャンスは・・・・ああ、時間です。試合終了!ウルフ国対ジャッカル国の試合はPK戦に持ち越されることになりました」

「ねえ、フランシスコ、アタシ最後の方はよく見えなかったの。今なんて言ったの?どっちが勝ったの?」
「5対5の同点で、PK戦になるみたいです」
「えーPK戦だなんて・・・・アタシもうダメ、予選でこんなに疲れるなんて・・・・PK戦、アタシ一番嫌いなのよ」
「しっかりしてください。別にカマラさんがボールを蹴るわけではないでしょう」
「そうだけど、見ているだけでこの大きな胸が破裂しそうなほどドキドキしちゃうのよ」
「僕の胸は小さいから、破裂などしません。でも大丈夫です。ゴールキーパーがヴァルキルマーさんですから」
「そうね、こんな時のためにヴァルがいるのよね。でもやっぱりダメだわ。アタシの胸、ほら触ってみて、ドキドキ音がしているでしょう」
「間にいろいろ詰まっているようで、心臓の音は感じません」
「うるさいわね。あんたみたいに胸がペッタンコの子にいろいろ言われたくないわ。ああ、神様どうかウルフ国を勝たせてください」

カマラは跪いて、なにやらブツブツと祈りの言葉を唱え始めた。試合に出ていた選手たちはベンチに戻って飲み物を取り、呼吸を整えている。PKに誰を出すか。同じことを考えてコリンと監督は視線を交わした。


                                   −つづくー





後書き
 やっと試合が始まりましたが、試合の臨場感を出すのは難しいです。サッカーのルール、よくわかってないし(笑)
 2007、7、6





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