ロード・オブ・サッカー(32)
舞台 ウルフ国立サッカー競技場
登場人物 F.W ジャレッド(大王ヘファイスティオン、戦争王ヴィタリー)
ブラッド(木馬アキレウス)
M.F コリン(大王アレキサンダー)
ジョナサン(大王カッサンドロス)
エリック(木馬ヘクトル)
エリオット(大王プトレマイオス)
D.F ニコラス(戦争王ユーリ)
イーサン(戦争王バレンタイン刑事)
フェレ(悪教育エンリケ)
ダニエル(悪教育マノロ神父)
キーパー ヴァルキルマー(大王フィリッポス王)
監督 オリバー(大王監督)
チアガール フランシスコ(大王バゴアス)
カマラ(悪教育パキート)
ゴート国チアガール ガエル(悪教育フアン、アンヘル、サハラ)
特別出演 イーモン(コリンの兄)
ワールドカップ優勝候補のはずだったウルフ国は一予選相手のジャッカル国に思いのほか手こずり、同点で試合終了となった。PK戦でどちらか勝った方だけが次に進める。決勝に進出する可能性の出てきたジャッカル国の選手達は興奮している。この国は実力がありながらも運悪く一次予選で強国と対戦し、敗退することが過去に何度も会った。やっと手が届きそうになったチャンス、粘り強さを見せるに違いない。さらに彼らはキーパーヴァルの目を見ずにゴールを決める方法を完全にマスターしていた。油断はできない。
「PKだ。誰が出る」
コリンがベンチに選手を集め、呼びかけた。オリバー監督の方をチラリと見ると、監督は新聞記者などとニコニコ話し、コリンの方を見て頷いた。
「監督は・・・・俺に任せたと言っているのか」
「キャプテンは信頼されているからな。あ、俺はまず抜けた。この足で蹴ることはできない」
「ジョナ、1度だけだ。どうしても無理か?」
「無理だ。この足はもう限界だ。試合が終わると同時に病院に駆け込む」
「俺が最初に蹴る、エリック、2番目を頼む」
すぐに名乗り出たのはブラッドだった。彼ならそう言うだろうとみな考えていた。だが、次に最も仲の悪いエリックを指名したのにはみな驚いた。この2人は遠い祖先が互いに殺しあった仇だそうで、今でもそれぞれの家系の者が結婚したり親しく付き合うということは決してない。
「ブラッド、なぜ俺を指名した」
「お前が外してこの試合で負けたら、お前の一族全員の恥となる。ウルフ国が決勝に出られないとなれば、何十年も恨まれるぞ」
「その逆もありうる。お前は映画スターよりも人気があると自慢しているが、それも今日で終わりだ。いくら顔がよくてもPKを外す選手など誰も振り向かない」
「ケンカはやめろ!他には・・・・俺とジャレッド、そして後1人だ」
「俺が蹴る」
地の底から響くような低い声にまたみんなが驚いた。声の主はヴァルキルマーだ。
「ヴァル、キーパーはお前以外には・・・・」
「もちろん俺がキーパーもやる。だが、俺の術はジャッカルどもに見破られた。こうなったらシュートも決めてあいつらを震え上がらせてやる」
「でも、キーパーのお前が・・・・」
「コリン、俺だってずっとキーパーばかりをやっていたわけではない。昔はもっといろいろなポジションをやっていた」
「だけどその目では、ボールの距離感が掴みにくい」
ヴァルキルマーは怪我をして、片方の目が全く見えなくなっていた。
「目は1つあれば充分だ。この目でずっとゴールを守ってきた。やらせてくれ」
「みんなどう思う?ブラッド、エリック、俺、ヴァル、ジャレッド、この5人が球を蹴る。それでいいか?」
ウルフ国の選手全員が頷いた。監督はまだ記者と話している。ジャレッドが不安そうな顔でコリンの方をチラリと見た。
「どうした、ジャレッド。幻の天才ストライカーが復活するには最高の舞台だぜ。もっとも失敗したら幻のまま消えてしまうけどな。もう2度とワールドカップには出られない」
「ジョナ、自分が出ないからといって、ジャレッドを動揺させるな」
「コリン、お前は間違っている。ゴールを決めたヤツ、PKに出るヤツだけが戦っているわけではない。ここにいる全員、そして監督やチアガール達、一緒に戦っていることには変わらない」
「悪かった、お前だって好きででないわけではないのに・・・・」
「コリン、必ず次に続けろよ。俺はまだ満足していない」
「わかった、行ってくる。ジャレッド、行くぞ」
「・・・・・」
「不安にならなくていい。今までの結果がこの試合に出る。今までやってきたことに満足しているなら、この結果も満足のいくものになる」
「俺は満足できるほど練習したことなど1度もない」
「ならば今練習しろ。お前の目指すサッカーはもっと遠くにある。この試合ですべてが終わってしまうようなサッカーをお前はやってきたのか。違うだろう。お前のサッカーをしたならば、結果はもうどうでもいい。俺を信じろ」
ジャレッドは頷き、黙ってコリンの後ろを歩いた。小柄なゴート人であるジャレッドよりもコリンの方がかなり背が高い。だが今日の彼は特別大きいようにジャレッドには思えた。
「あーついにPKか。俺、PKって一番嫌いなんだよな」
コリンの兄イーモンが観客席のベンチの間をウロウロと歩いた。
「あー、コリンとジャレッドが出るなんて、胸がドキドキする。心臓が止まりそうだ」
「まあ、お兄さんも胸がドキドキしているの?アタシもそうなのよ。ちょっと胸を触って見て」
カマラがイーモンの手首を掴んで、自分の胸にぐいっと押し当てた。
「ちょっと、何するんだ!」
「あら、お兄さんの場合は気にしなくていいのよ。タダで触らせてあげる」
「俺はお前の兄ではないし、俺が好きなのは普通の男だ。オカマには興味ない」
「そんなこと言わないで。アタシも元は男だったのよ。色白の美少年、そう、あそこに座っているフランシスコみたいな感じの・・・・」
「そんなわけないだろう。とにかく俺はオカマはダメなんだ。早く手を離してくれ」
「冷たいのね。アタシはダメでもフランシスコはいいの?」
「まあな、でも彼には好きな男がいるんだろう」
「よくわかるわね。あなたの弟のコリンよ。でもコリンは難しいわね、競争率高いもの」
「何言っているんだ!少し黙ってくれ。始まるぞ!」
「ああ、胸がドキドキしてきた。あら、あの子は随分冷静な顔をして。フランシスコ、どうしてあなた、こんな時にそんな涼しい顔していられるの?」
「僕だって心配しています。もともとこういう顔なのです」
少し離れた席に座っていたフランシスコ、カマラとイーモンの会話はしっかり聞こえていた。これで負ければ決勝進出がかなわなくなるというPK戦、ドキドキしないわけがない。
「一番はアタシのブラッドね。頑張って、愛しているわよ!」
「愛されない方がいい結果が出ると思うけど・・・・」
「イヤーン、お兄さんたら本当のこと言って、乙女の夢を壊さないで・・・あ、入ったわ」
「ブラッドなら間違いないだろう。次はエリックか」
「エリック、頑張って!愛しているわ!ブラッドに負けないで!」
「少し静かにしてくれ。そのヒラヒラの袖、高く上げたら見えないだろう」
「これは情熱の赤なのよ。ここで手を振ってもよく見えるわ。キャー、エリックも決めたわ。さすがブラッドのライバル、永遠の仇役・・・・」
「ちょっと、永遠の仇役はないだろう」
「あら、いいのよ。あの2人はいがみ合うほどいい結果を出すんですもの。次はコリンね。キャプテンはまあ、PKぐらい決めるでしょう。コリーン、頑張って!外したらもう2度とアタシのお尻に触らせないわよ」
「まさか、コリンが・・・・弟はそんなに悪趣味では・・・・」
「アタシの夢だけよ。みーんな片思い・・・・えーどうしたの!ゴールに入ってない。そんな・・・・コリンが外すなんて・・・・」
「どうなっているんだ!今のよく見てなかったぞ、お前のせいで・・・・」
「アラ、コリンが外したの、アタシのせいじゃないわよ」
「ジャッカルは、今までの3人、全員ゴールを決めている」
イーモンは深いため息をついた。よりによって弟のコリンがゴールを外すとは・・・・だが、イーモンは少し離れた場所に座ったフランシスコの目から涙が流れているのを見た。イーモンは立ち上がり、フランシスコの隣にそっと座ってハンカチを手渡した。
「涙は拭いておけ。まだ試合が終わったわけではないぞ」
「はい、でも今のが外れたら・・・・」
「まだ2人いる。ヴァルキルマーとジャレッドか」
「この試合で破れたら、ウルフ国の代表も随分変わるんでしょうね。ジャレッドさんも僕ももう今更ゴート国には戻れない・・・」
「試合は終わってない。必ず勝つ。お前はコリンのこと好きなのか」
「はい、でもコリンさんは他にも・・・・」
「それはそうだ。それでもお前がコリンを好きだという気持ちに変わりないだろう。コリンはな、残念ながら誰か1人の男だけを愛するということができない。あいつが唯一ずっと愛し続けたのは人間ではなくサッカーだ。サッカーのために必要な人間を愛し、必要なければさっさと離れていく。そういうヤツだ、弟は・・・・」
「僕はもう男ではないからサッカーはできない。コリンさんにとって必要な人間になることは不可能ですね」
「そんなことはないさ。サッカーをやるのに必要な何かをお前が持っているならば、弟はお前を愛する。男であるか女であるか、弟にとってそんなことはどうでもいいんだ。サッカーができるかどうかでもない。もっとこう深いところで理解しあえるなら、弟はその人間を愛する」
「僕は男でも女でもありません」
「そんな生き方があってもいい・・・・おお!ヴァルキルマーが決めたぞ。すごいぞ、ゴールキーパーが蹴って、すぐにまたゴール前に入った。なんだ、ジャッカルのあの球は・・・あれぐらい俺でも受け止められるぞ。簡単に止めてしまった。ジャッカルのヤツら、動揺して乱れているぞ。キーパーが蹴るとは思っていなかったのか。これでジャレッドが入れ、向こうが外せば逆転だ。最後の1人はジャレッドか」
「ジャレッドさんの心臓、かなり早く動いていますね。大丈夫でしょうか」
「わかるのか」
「わかります。心臓の音、僕の耳にも聞こえます」
「俺にも聞こえる。俺たちだけじゃない。ジャレッドの鼓動、ウルフの全選手に聞こえているハズだ。頑張れ、ジャレッド、お前はもう1人ではない。全員がお前の鼓動を聞いている」
「どうしたのよ、お兄さん。いつのまにかアタシの隣からこっちに来てしまって・・・」
カマラがイーモンの横にドカンと座り、腕を掴んだ。
「今いいところなんだ、静かにしてくれ。ジャレッドが球を見ている。彼の頭に描いたボールのコースが見える。足を蹴り上げた。球は足先に吸い付き、命を与えられた・・・・足元を離れた・・・・大きく曲がった・・・・」
−つづくー
後書き
PK戦というのは、普通の試合以上にすごくプレッシャーがかかると思います。コリンが失敗したのは他の人のことを考えすぎてしまったのと、彼自身プレッシャーには案外弱い性格だからかもしれません。スポーツ選手というのは極限の緊張状態にいつも身をさらしていて、それでも努力が皆報われるとは限らない世界なのでやっぱり大変だろうな、と思いました。
2007、7、17
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