ロード・オブ・サッカー(33)

舞台 ウルフ国立サッカー競技場とゴート国のホテル

登場人物 F.W ジャレッド(大王ヘファイスティオン、戦争王ヴィタリー)
            ブラッド(木馬アキレウス)
       M.F コリン(大王アレキサンダー)
            ジョナサン(大王カッサンドロス)
            エリック(木馬ヘクトル)
            エリオット(大王プトレマイオス)
       D.F  ニコラス(戦争王ユーリ)
            イーサン(戦争王バレンタイン刑事)
            フェレ(悪教育エンリケ)
            ダニエル(悪教育マノロ神父)
       キーパー ヴァルキルマー(大王フィリッポス王)
       監督  オリバー(大王監督)
       チアガール フランシスコ(大王バゴアス)
               カマラ(悪教育パキート)
       ゴート国チアガール ガエル(悪教育フアン、アンヘル、サハラ)
       特別出演 イーモン(コリンの兄)
       ゴート国 ヴィゴ(指輪アラゴルン)
             オーランド(指輪レゴラス)

ジャレッドの足元を離れた球は大きく曲がってゴールへ向かった。ジャッカル国のゴールキーパーはこれは入らないと判断し、手を出さずにいた。ゴールのネットが揺れた。ボールはネットの内側にしっかりからまっている。

「やった、入ったぞ!ジャレッドの球が入った」
「本当ですか」
「ああ、よかった。アタシもう恐くて目をつぶっていたの。で、ウルフ国が勝ったの?」
「まだ決まっていません。あと1人、ジャッカルの選手が蹴って決まります」
「ああ、もうダメ。アタシの大きな胸はドキドキして破裂しそう・・・・」
「なんでもかんでも詰め込むからそういうことになるんだ。フランシスコの胸を見てみろ。シンプルで自然だからこそ美しい」
「アラ、お兄さんはそういう子が好きなだけでしょ」
「静かにしてくれ、もう始まるぞ」
「ああ、どうかヴァルが次の球、止めてくれますように」
「頼む、キーパー、ここで負けたら弟の立場がない」

観客席で見ていたコリンの兄イーモン、チアガールのカマラ、フランシスコの3人は息を止めた。ウルフ国の選手と監督も一斉にゴール前にいるヴァルキルマーを見た。片方しかない目が微かに微笑んだがすぐに恐ろしい顔つきに変わった。選手たちは目をそらし、手を握りしめた。ただ1人、ジャレッドだけはヴァルから目を離さず、じっと見ていた。さっき蹴ったばかりで、心臓の鼓動が普段よりもずっと早い。子供の頃から同じことに神経を尖らせてきた。中間達が汗をかき、疲れたと不満を言う時、ジャレッドはまず自分の心臓の音を確かめた。早くなりすぎれば眩暈を起こして倒れ、もっとひどければ意識を失う。何度同じことを繰り返し、そのたびに医者からサッカーを禁じられたことか。これが最後かもしれないという恐怖にいつもつきまとわれた。

「これで終わりではない」

ジャレッドの耳元で叫んだのはコリンだった。

「なんだよ、そんな大声で」
「大声でなければ、今のお前には聞こえない」
「お前に何がわかる。俺はいつも球を蹴るのはこれで最後かもしれないと思いながらサッカーを続けてきた」
「この試合で負けたら、俺はもう二度とボールを蹴らない。お前と同じだ。今の俺達はもう結果を出せない。だから同じ望みをキーパーのヴァルに託し、同じことを祈っている。今まで神を信じたことなどなかった。それなのに今は祈っている」
「コリン・・・・キャプテン・・・・」
「もう一つ、神に祈らなければならないことがある。お前が、俺と同じように走れる日がくるように・・・・」
「それは無理だ」
「無理なことだからこそ神に頼る・・・・お、ヴァルが球を受け止めたぞ。やったああー!ウルフ国の勝ちだ。俺達が勝ったぞ」
「コリン、今日の試合、お前には不本意だろうけどな。なんだあの蹴り方は、今夜俺が球の蹴り方を教えてやろうか。その気になれば俺だってお前の球が使えなくなるようにして、自分の球をねじ込むことができる」
「やめてくれ、ジョナ、お前の強力な足で蹴られたら、俺はもう男でなくなる」

コリンは笑いながら自分の前を握った。

「キャプテン、なにふざけているんだ。さあ、最後の挨拶だ。しっかりやってこよう」

ブラッドに言われてウルフ国の選手は慌てて一列に並んだ。もちろんそこにはゴート人のジャレッドも並び、その様子はすぐさま他国にもテレビ放映された。






「ジャレッドはウルフの選手として復活したのか」
「さっきのPKはたいしたものだ。あんなに球を曲げてゴールに入れるとは・・・・やっぱりあいつは天才ストライカーだ」
「いや、こっちのキーパーは魔法使いだから、曲がった球はもっと曲げてゴールに入らなくするさ」
「魔法使いだからな。それくらいのストライカーがいたほうがやる気になってくれる。まったくあの爺さん、気分が乗らないとゴールからとんでもなく離れた場所でパイプをふかしている」
「それでも必要な時はちゃんと戻ってくるだろう。ああ、オーランド、そろそろいいかい。俺はもう我慢できない」
「そうくると思ったぜ、ヴィゴ。サッカーを見た後はいつもよりずっと燃えるというのは本当か?」
「本当だ。特にこういう試合を見た後はな。優勝候補のウルフが一次予選で負けるとは思ってなかったが」
「ああ、いきなり攻めてくるのか。待ってくれ、俺はまだ準備が何も・・・・」
「何を言う、オーランド。お前のここはこんなに熱くとろけそうになっているというのに・・・・やっぱり俺もお前もサッカー選手だ。いい試合を見ればそれだけで体の準備ができてしまう」
「ああーん・・・は・・・・はうーん」
「声を殺さなくていいぞ。感じるままに啼けばいい」
「ああ、ニュースに変わった。テレビはもう消していいか」
「いいぞ、相変わらずお前の体はしなやかでつやつやしている。汗もあまりかかない」
「森の精霊、エルフの王子だから」

ここゴート国でも明日にシープ国との予選をひかえていたが、そんなことを気にせずにキャプテンのヴィゴとオーランドが愛し合っていた。






ウルフ国の選手は勝った祝いに久しぶりに全員で祝杯をあけることになった。会場にはヴァルキルマーの家が使われる。そこなら取材に来る者もなく落ち着いて朝まで飲めるからである。だが、ジョナサンはヴァルの家に先に来ているはずのフランシスコがいないことに気がついた。ジャッカル国との試合が行われた競技場に戻ると、ほとんど人のいない夕暮れの観客席にただ1人でポツンと座っている。

「どうした?みんなもうとっくにヴァルの家に集まっているぞ。彼の家に行くのはイヤなのか?」
「あ、すみません。いつの間にかこんな時間になってしまって、カマラさんに怒られます」
「はは、気にしなくていい。今日は祝いの席でコックやウエイターを何人も招いている。お前達も踊りで疲れただろう。気にせず楽しめばいい」
「はい、あの、やっぱりあなたはコリンさんのことを・・・・」
「愛しているかと聞きたいのか?もちろん愛しているさ。俺は子供の頃からずっとコリン以外の人間を気にしたことはなかった。幼馴染の彼と同じ幼稚園に行き、サッカーチームに入ったと聞けば、どうしても同じチームに入りたいと3日間泣き喚いた。学生の時、プロになってからもサッカーよりも彼と一緒にいられることを最優先した」
「でも今は・・・・」
「ジャレッドのことだろう。今でも泣き喚いてコリンの心が取り戻せるなら、俺はそうしていただろう。だけどあいつは俺なんかよりずっとサッカーを愛していて、同じくらいサッカーしかないジャレッドを愛してしまった。俺が愛していたのはコリンだけで、サッカーはどうでもいいことだったのかもしれない」
「でもあなたはあんなに素晴らしい選手で・・・・」
「選手としては一応成功した。だが、人間としてこれから何を目標に生きていけばいいのか見当もつかない」
「僕は自分が人間として生きていけるかどうかさえ不安です。そのまま男として生きるのがイヤで手術を受けました。でもだからと言って女になるのも不安で・・・・」
「お前、カマラを手本にしなくていいからな。男から女になったヤツがみんなああなるのかと思えば、そりゃ不安にもなるさ。あいつも性格がいいことはわかっているが、とにかく何か勘違いしているから・・・・」
「いえ、カマラさんに会ったからではなく、ゴート国には男から女になって本当の女の人よりずっときれいな人がたくさんいます」
「そうかもしれない。ゴート人は男でも俺達ウルフ人よりずっと繊細できれいな顔をしているから」
「でも僕はそうやって女になるのも、何か違うと思ったのです」
「そう直感したならば、そう生きればいい。だいたいジャレッドだって、変なヤツだよ。心臓が悪くて走ってはいけないと言われていながらどうしてサッカーをやる?音楽とか絵とか、もう少し心臓に負担がかからないことやればいいのにさ。それが危険だとわかっていながら、それでもやらずにはいられないんだろうな、アイツはサッカーを・・・・そんなジャレッドをコリンは愛した」
「あなたはコリンさんのこと、誰よりもよくわかっているのですね」
「当たり前だ。他のヤツのことはわからなくても、コリンのことは・・・・」
「僕もコリンさんを愛しています。報われないとわかっていても、他に気持ちを向けることはできません」
「ならばどこまでも愛せばいい。それで傷ついても・・・・俺なんか本当にこの先どうしたらいいかわからないけどな」
「サッカーをやめてしまうのですか」
「すぐにはやめない。だが、やがて引退しなければならなくなる。俺は自分の最盛期を過ぎてまで、昔の栄光にすがって選手であり続けようとは思わない。ゴート国の連中のように・・・・」
「それは難しい問題ですね」
「悪かった、お前もゴート人か」
「今はウルフ人です。試合の時、心からウルフ国を応援していました」
「ならば一緒に勝利を祝おう。まだワールドカップは予選が始まったばかりだ。これからもっと厳しい戦いになる。チームが一丸とならなければ・・・・」
「僕達もですか?」
「もちろんだ。チアガールも選手の一員だ」
「わかりました」

2人がふと空を見上げると、もう星が見えていた。

「急ごう。あ、ベンチの間は狭いから気をつけて、転ばないように・・・・」
「あなたは本当に親切な人ですね」
「俺は親切じゃない。コリン以外の人間に興味がないから、適当にうまくあしらっているだけだ」

そう言いながらもジョナサンはフランシスコの手を取って歩いた。その手首があまりにも細いのに、アッと声を出しそうになったが、冷静さを装いツバを飲み込んだ。他の人間になど興味はない、そう自分に言い聞かせながらジョナサンは彼が転ばないよう気をつけて歩いた。


                                             −つづくー



後書き
 PK戦、つい数日前もテレビで放映していましたが、あれは普通の試合以上に緊張すると思います。プレッシャーでいつもは蹴れる選手が失敗したり・・・・コリンも他の人間を心配するあまりに自分が失敗してしまうのだろうと思います。ジョナサンは目的がはっきりしていて冷静だからこそ、それがかなわぬと知ってからは痛々しいです。ああ、ジョナサン大好きなのに・・・
2007.7.25



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