ロード・オブ・サッカー(5)
舞台 ゴート国立キャンプ場
登場人物 ジャレッド(大王、ヘファイスティオン)
カール(指輪、エオメル)
「結局本当にサッカーが好きなのは俺達だけだよな」
「でも、皆さん本当にいい人ばかりですよ。新人の俺にもこんなに親切にしてくれて・・・」
「お前に親切にするってことは、それだけ自分のポジションを守ろうっていう気がない証拠さ。あいつら結局合宿だって遠足かキャンプのように考えている」
ゴート国代表選手の合宿2日目、ジャレッドとカールだけが同じ場所に残ることになってしまった。他のメンバー、そして監督はボートで川くだりをして場所を移動しよう、ということで意見が一致したが、ジャレッドだけはそれに激しく反対した。自分はサッカーをやるためにこの合宿に参加した、川くだりなんてことをやって遊んでいるなら俺は帰る、と言い、みんなと別れて別行動をすることにしたのである。それを見ていたカールが自分も残ると言い出し、2人だけベースキャンプに残ることになった。
「ジャレッドさん、もう暗くなってきましたよ。夕食はどうしますか」
「ああ、俺は適当になんか食べるからいい。暗闇の中でも俺にはボールが見える。お前、俺に遠慮しないでなんか食べていていいぞ」
「じゃあ、簡単に何か用意しますね」
そう言うとカールはその場を離れた。ジャレッドは1人でボールを蹴り続けた。暗闇の中、木に向かってボールを蹴れば、それはまっすぐ彼の元に戻ってくる。何度も何度も同じ動作を繰り返した。どれぐらい時間が過ぎたのだろうか。カールが戻って来た。だがすぐには声もかけられない。暗い森の中、ボールが足に当たる音と木にぶつかる音だけが聞こえる。同じ木に向けてボールを当てているのではない。自由自在にいろいろな木にボールを当て、外れることはまったくない。歩くことさえ難しい、星明りだけの暗闇で彼はそれをやっているのである。目を閉じると規則正しいボールのリズムが聞こえる、それが自分の方へ向かってきた時、思わずそれを足で止めた。
「よく止めたな。お前もなかなか勘がいい」
「ジャレッドさん、食事の用意が・・・・」
「わかったすぐいく」
珍しくジャレッドが素直に言うとボールを手に持ち、カールの後をついていった。実はこの時ジャレッドの頭の中にはある計画が浮かんでいた。
カールは湖の近くで焚き火をし、肉や野菜を串に刺して焼き始めた。
「こんなことしかできないんですけど」
「いや、うまいじゃないか、お前、前はキャンプ場ででも働いていたのか?」
「いえ、家が牧場をやっていて、夏の間は放牧に行くんです。隣の家の友達と一緒に・・・・キャンプしながら昼間は羊や馬を追ってついでにボールも追っていた。だけどその友達は街で仕事を見つけてそこに住むようになり、そこの家は季節労働者に仕事を任せるようになった。サッカーができなくてつまらないと思っていた時、たまたまGリーグの選手募集の案内を見て、だめでもともとと思い受験したんです」
「そうか、俺はずっと1人でサッカーをやっていた。5,6歳の頃、年の離れた兄貴と一緒にボールを蹴っていた記憶があるが、いつのまにか兄貴と親父がいなくなっていた。今考えれば離婚して兄貴だけ連れて親父が出て行ったのだろうけど、俺は兄貴がいなくなってパニックになっていた。母親に聞いても遠くに住んでいるからもう会えないと言われるばかりでさ、遠くってどこだよって聞いても何も教えてくれないんだ。それからはずっと1人でボールを蹴って遊んでばかりいた。俺にとってサッカーをやること、ボールを蹴ることは息をすることと同じぐらい大切なことなんだ。お前はわかるだろう。お前も同じタイプの人間だ。有名選手になりたいとか、金持ちになりたいとかそういうことじゃない。ボールに触れていないとたまらなく不安になるからそうしているだけだ」
「わかります、よくわかります。でも肉も食べてくださいね。サッカー選手は体力勝負の仕事です。バランスのよい食事を取らないと・・・」
「わかっているさ、俺だって食事には気を使っている。サッカーをやるために・・・」
2人はしばらく黙って肉を食べた。春とはいえ、山のふもとにあるキャンプ場は夜は冷え込む。次第に2人は焚き火の方へ近づき、距離が縮まっていく。
「あ、流れ星が・・・俺その友達によく話していたんですよ。流れ星を見るたびに、願いが1つだけかなえられるならサッカー選手になりたいって・・・」
「願いはかなっただろう。Gリーグ選手になれて代表にも選ばれたんだから、次はよいポジションを得て花形選手になることだろう。お前なら体力もあるし、パスも正確、敵からボールを奪う技術もある。どこのポジションでも狙えるだろう。ミッドのドミニクの位置辺りから始めて、最終的にボランチを狙えば・・・・」
「ボランチはキャプテンのヴィゴさんのポジションじゃないですか。そんなキャプテンのポジションを狙うなんて・・・・」
「確かにヴィゴはいい選手だが、もう年だし、引退も考えている。ここだけの話だが、彼は王族の末裔だ。いずれ政治の方で活躍するんじゃないか」
「え、王族ってあの何代も前から失われたゴート国エレスサール王家の生き残りなんですか」
「余計なこと話すなよ。それはそれでいろいろ複雑だから・・・」
「わかっています。ところでジャレッドさんの願いは・・・・」
「俺の願いは自分の足元に正確に球を入れてくれるパートナーを得ることだ。今のキャプテンはみんなに平等に球を回す。俺だけを見ているわけではない」
「でもそれはキャプテンとして当然のことでは・・・・」
「俺は勝ち負けもどうでもいい、ただ確実に俺の足元に正確な球を入れてくれるボランチが欲しい。よい球さえ入れてくれれば俺は確実にシュートを決めることができる。シュートが決まる瞬間はお前も知っているだろう。すべての力を球に込め、自分の思い通りに動いてくれるあの瞬間を・・・俺は幻の天才ストライカーじゃない。ボールさえ与えられれば、確実にそれを生かすことができる。カール、お前が俺をもう一度幻ではない生の天才ストライカーにしてくれ・・・・」
「でも、ヴィゴさんだって・・・」
「あいつはだめだ、あいつが求めているものはチーム全体の勝利と愛するオーランドが有名になること、俺を天才として生かすことなど、あいつが一番に考えていることではない。俺は自分のことだけを考えてくれるパートナーが欲しい」
「ちょっと待ってください。俺にはヴィゴさんを超えて・・・・」
「できるようにしてやるさ」
ジャレッドはいきなり立ち上がると、カールの唇に自分の唇を押し付けた。
「ちょっと待ってください。俺はそんなあなたと・・・・」
「牧場の友達とは何もしなかったのか」
「ただの友達でした。それ以上のことはなにも・・・・」
「俺も同じだ。男に対して好意を持ったことなど一度もなかった。だけどお前は特別だ・・・」
「待ってください、俺はゲイではなく普通の・・・・ジャレッドさんは先輩として尊敬しています。素晴らしいサッカー選手だと思っています」
「それだけか、それだけの気持ちでお前は俺と2人残ったのか。ゴート人というのは普通いつも人と一緒にいたがる。羊やヤギの群れと同じだな。人と一緒にいて群れていないと安心できない。人のこと考えてしまうからなかなか他人を蹴落としてまで自分が這い上がろうとは思わない。代表選手もみんなそんな連中だった。だけどお前は違う。俺と一緒に残って練習することを選んだ」
「そんな・・・俺はただ自分が新人で誰よりも練習が必要だと思ったから残っただけです」
「練習したいと思って残る、そんなやつを俺は求めていた。安心しろ、俺もゲイではない。全く初めてだ・・・何もかも・・・」
もう一度ジャレッドはカールの口に自分の唇を押し付けた。今度は深く舌を差し込もうとした・・・
「俺も同じだ、何も知らない・・・でも俺はお前の球が欲しい・・・幻ではない・・・本物の天才ストライカーになるために・・・俺が生きるために・・・・お前が欲しい・・・お前が欲しい・・・」
ジャレッドはカールから離れて跪き、天を仰いで途切れ途切れに言葉を吐き出した。彼の目にはいくつもの流れ星が見えていた。
−つづくー
後書き
2人とも別のカップリングで予定していたのに、なぜかここで情熱的になってしまいました。これからどうしよう(笑)
2006、3、23
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