ロード・オブ・サッカー(7)
舞台 ウルフ国立サッカー競技場
登場人物 コリン(大王、アレキサンダー)
ブラッド(木馬、アキレス)
エリック(木馬、ヘクトル)
ジョナサン(大王、カッサンドロス)
エリオット(大王、プトレマイオス)
ニコラス(戦争王、ユーリ)
イーサン(戦争王、ジャック)
フェレ(悪教育、エンリケ)
ダニエル(悪教育、神父)
ヴァルキルマー(大王、フィリッポス)
オリバー(大王、監督)
カマラ(悪教育、パキート)
ウルフ国立サッカー競技場でジャッカル国代表との親善試合が始まった。観客席は通路までびっしり埋まるほどの大混雑、それでも入りきれない人で競技場の周りも一杯だった。
「えー、ホットドッグにコーヒーはいかがですか。それからブラッド選手のサイン入りポストカード。これは限定100枚、すぐに売り切れてしまいますよ。えー、ホットドッグとコーヒー」
「おい、ポストカードくれ!」
「俺は5枚まとめて」
「まとめてはだめです。限定販売なので1人1枚まで・・・ホットドッグとコーヒーは・・・」
「ほら、あそこよ、ブラッド選手のサイン入り写真」
「うれしーい、友達に自慢できるわ」
「他にもサイン入りポストカードいろいろありますよ。コリン、ジョナサン、エリック・・・キーパーヴァルキルマー選手なんていうのもありますよ。これはここでしか手にはいらない大変貴重な・・・」
「他の人はどっちでもいいわ。ブラッド選手のを1枚」
「私もブラッド選手」
チアガールのカマラがホットドッグと一緒に選手のサイン入りポストカードを売り出すとたちまち人だかりができた。みなブラッドのポストカードばかり買っていき、用意した100枚はたちまち売れてしまった。
「なんだ、ブラッド選手のはもうないのかよ」
「ごめんなさい、でもまだコリン選手とかジョナサン選手のがあるのよ。見て、この写真色っぽいでしょ・・・アタシこの人好きなのよね」
「他の選手のはいらねえよ。おい、もう始まっちまうぞ、今日は何点ゴールが入るかな」
「楽しみだよな、できればPKとかもやってくれねえかな」
「遠い場所からな・・・・それすげー楽しみだよ」
ウルフ国代表選手対ジャッカル国代表選手の試合が始まった。ウルフ国の守りは完璧だった。ディフェンダーのニコラス、イーサン、フェレ、ダニエルの4人、私生活では全く交友関係がなく、道で偶然会っても挨拶もしないなどと言われているがそれぞれの役割分担、的確な動きは見事であった。加えてキーパーのヴァルキルマー、巨大な体とただ一つの目に睨まれるとどこの国の選手も怖気づき、動きが固まってしまう。穏健なシープ国や臆病なラビット国の選手はもちろん、普段は勇猛果敢でチームワーク抜群のジャッカル国の選手でさえ、それは同じである。ヴァルキルマーの目、その目に睨まれてボールを蹴れる人間はいない、そうコリンは思った。相手国チームは目を合わせないように横の方や離れた場所からしかゴールに向かってボールがけれない、だがあいつなら、あの天才ストライカージャレッドなら真正面から入れられるかもしれない。あいつの目は周りの人間を見ていない。ただサッカーボールだけを見ている目である。あんな目を持つやつが欲しい。
「ファール!ウルフ国PK!」
そろそろ点が欲しいと思った矢先、相手国がイエローを出してくれた。だがこれも偶然ではない。ジョナサンの仕業だ。あいつはブラッドの見せ場を作るためにはいろいろ罠をはって相手にイエローを出させる。まあ、これもファンの心をつかむためにはしかたのないことかもしれないとコリンは思った。
「ちょっと待て、今のファール、悪いのは俺達のチームのジョナサンだ。審判!何見ている、イエローはこっちだ」
「おい、エリック!お前どっちの味方だ」
「俺はウルフ国の選手だ。だけどわざと作り出したファールは大嫌いだ。ジョナサンはよくそれをやる。しっかり見ていろ、審判」
エリックのやつ、人がせっかく盛り上げようと思っている時に余計なことを、とジョナサンは思った。ブラッドが点を入れてくれなきゃ、観客は喜ばない。それなのにあいつはブラッドの邪魔ばかりする。何百年か前の祖先の恨みとか言って・・・ああ、しらけたムードを盛り上げようとチアガールの応援が始まったけど・・・ダメだ、これは・・・チアガールでは完全に負けている。うちのチームのチアリーダーはカマラだからな・・・美しさとか華やかさなどというものは全く期待できない。むしろ俺がミニスカートはいて踊った方がずっと・・・いや、俺はあくまでもサッカー選手だ。
ブラッドとエリックの仲の悪さは有名だ。だがこれが俺達のチームに刺激を与えてくれているのかもしれない、エリオットは冷静に考えてそう思った。仲の悪い二人のフォワードをかかえ、コリンは苦労している。それは俺だけでなく皆が認めている。ジョナサンなどは自分がイエローを出す危険を犯してまでブラッドの見せ場を増やそうとしている。それもすべてコリンをサポートするためだろう。だがあの二人の険悪なムード、うちに秘めた激しい憎しみは俺達にも伝わってきて刺激を与えてくれる。これでいい、俺達のチームはどこかの国のように合宿でキャンプをやってはしゃいでいるような仲良しチームではない。みんな自分が活躍することばかり考えてボールを見ている。例外はキャプテンのコリンとそれを崇拝しているジョナサンだけだろう。監督はどう思っているのか・・・監督は黙ったままで何も意見はいわない。
「11対0、ウルフ国代表チームの勝ち!」
審判がこう告げると観客席から大歓声が沸き起こった。続いて選手達が旗を持ってサッカーコートをまわった。音楽が鳴り、チアガールの踊りも始まる。観客はそちらの方は見ていない。最優秀選手としてまた表彰されたブラッドの方ばかりを見ている。
試合が終わったあと、コリンは監督室を訪れた。
「やあコリン、きょうの試合はご苦労だった。期待通りのできばえだった。人数が1人足りないなどということを全く感じさせない素晴らしい試合だった」
「本当にそう思っているのですか。俺達は今日いい試合をしたと・・・確かにジャッカル国には圧勝しました。ブラッドの見せ場もたくさんあり、観客も喜んでいました。でもこれでいいのでしょうか?俺達はいつも試合で簡単に勝ってしまい、ぎりぎりのところで戦うということを忘れています。観客を喜ばせるために小細工したり、仲間同士でも憎みあったり、本当のサッカーは違うと思います」
「本当のサッカーか・・・・サッカーとはなんなんだろうね・・・それは本当の戦いらしい戦いはなんだという問いに似ている。古来人間は多くの戦いを繰り返してきた。その中でどれが本当に戦いらしい戦いだったのか。英雄に見える人間でも残虐な一面があり、また仲間同士での裏切りや憎しみあいがある。だがその結果で歴史は変わってくる。サッカーも同じこと、憎しみや小細工、見せ場作りをやっているように見えるかもしれない。だがそうやって一つ一つの試合をこなし、練習を続けていくことで、何か見えてくるのではないか。世界は広い、我々の想像もつかないような強い国、素晴らしい選手がこの先出るかもしれない」
「そうですね」
「コリン、君は選手としてもキャプテンとしても素晴らしい資質を持っている。ただあまりにも周りを気にし、みなのことを考えて自分のことを忘れてしまう。もっと自分を大切にしてもいいのではないかな」
「そうですか。俺は自分勝手な人間だと思っていましたが・・・・」
「人は思っている以上に置かれた立場に合わせて行動し、考えも変わってしまうものだ。王として生まれれば王となり、奴隷として生まれれば奴隷として生きる。君はもう一人のサッカー選手ではなく、チームのキャプテンとして生きている。だがもう少し力を抜いて生きてもいいのでは・・・・」
「そうですね、わかりました」
「君もいつかチームの皆を裏切ってでも守りたい相手が現われるかもしれない」
「なんですか、それは?」
「冗談だよ、冗談・・・・まあがんばりたまえ、キャプテン」
監督は高らかな声で笑った。コリンは部屋を出た。監督の言う言葉はわかるようでわからない。この俺がチームを裏切るなんていうことはあるわけがない。そう否定しながらも、なぜかゴート国のジャレッドの顔がチラリと浮かんだ。
−つづくー
後書き
ウルフ国の選手はみんな自分勝手で一人キャプテンという立場のコリンは孤独です。それを助けようとしている人もいるのですけれど・・・・
2006、4、6
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