ロード・オブ・サッカー(9)

舞台 ゴート国立サッカー競技場観客席
登場人物 ジャレッド(大王、ヘファイスティオン)
       フランシスコ(大王、バゴアス)
       ニコラス(戦争王、ユーリ)
       ピーター監督(指輪、監督)
       ヴィゴ(指輪、アラゴルン)
       ドミニク(指輪、メリー)
       カール(指輪、エオメル)
       ショーン(指輪、ボロミア)
       イアン(指輪、ガンダルフ)
       

ゴート国立サッカー競技場でゴート国とバッファロー国の親善試合が行われた。バッファロー国はその名の通り、体の大きな選手が多い。だが体が小柄でもゴート国の選手は巧にボールを操り、ゴールを決めていく。特に今日の試合では新人カールの動きに観客の目は釘付けになっていた。

「あいつ、前半からあんなに飛ばして・・・いくら広い牧場で走っていたとはいえ、あれで持つわけがない。やっぱり後半戦から俺の出番かな」

観客席で見ているジャレッドがつぶやいた。

「やっぱりきのう、監督にあんなこと言わなければよかったかな。いやだめだ、俺はフォワード、ストライカーとして生きている。他のポジションに移るぐらいならサッカーなんかやめてやる!他のポジションに・・・」

グランドに目を移すと、選手達はジャレッドがいないことなど気にも留めずに試合を続けている。それどころではない、予想をはるかに超えたカールの好プレーに驚き、喜びを全身で表現している。あの合宿でのキャンプで、ジャレッドはカールと肉体関係を持ってしまった。二人だけが練習するために残っていたからだ。星の美しい夜、ジャレッドは自分では思ってもみないような行動をとってしまった。あの時欲しかったのは愛や男の肉体ではない。ただ自分は同じくらい激しい情熱をサッカーに注ぎ、確実に自分にボールを送ってくれるパートナーが欲しかっただけだ。だからあの行為は一晩だけで終わってしまい、その後は何もしていない。だれもいないキャンプ地ならともかく、競技場に併設された宿舎ではほかの部屋にいこうとしてもすぐ誰かに見つかってしまう。それにカールはチームのメンバーと仲良くし、プロ選手としての技術を身につけるのに、そしてジャレッドは個人練習に忙しくて、お互いわざわざ相手の部屋を訪ねたりなどしなかった。それに・・・

「あんな痛い思いをするなんて、俺やっぱりホモにはなれねえや、普通に女とやった方がいい・・・あーあ、カールのやつ、また点を入れた、おいヴィゴ、きょうはやけにカールにばっかり球をまわしているじゃないか。オーランドがふくれっつらしているのがわからねえか・・・まあ、俺には関係ないことだけどさ・・・そんな人のことなんてどうでもいい。俺はただサッカーさえできれば・・・なんであんなにムキになったのだろう。別にちょっとぐらいポジションが変わったって・・・サッカーができればいいじゃないか・・・サッカーさえできれば・・・・」

ジャレッドの目に映るグランドがだんだんぼやけてきた。自分のいないサッカーの試合、それを観客席で見るのはあまりにも屈辱的なことであった。





「次の試合ではカールをフォワードに入れようと思う。ジャレッドはミッドに下がり、カールをサポートしろ。ドミニク、悪いが今回は控えだ」
「わかりました」

バッファロー国との試合の前日、ピーター監督は選手全員を集めてこう言い渡した。ドミニクは素直に監督の言葉に答えたが、手が震え、何か余計なことを言ってしまわぬよう唇を噛みしめた。ドミニクとて日頃はビリーとふざけてばかりいるが、プロサッカー選手でありゴート国代表に選ばれているという誇りとプライドは人一倍ある。カールの実力は認めるとしてもなぜ自分が落とされたのか。自分は普段目立たないがどれだけ長い時間ボールに触れ、運んでいるか、まして次の相手はバッファロー国。体ばかり大きなあの国の代表との試合は俺のような小柄なヤツの方が、絶対小回りがきいていい。それをジャレッドと入れ替えろだと、ジャレッドにミッドができるものか!幻の天才ストライカーとうぬぼれて、ろくに走りもしないやつに・・・ただ球を待っているだけのあいつにミッドが勤まるわけがない。

「監督、俺はそのメンバー構成に反対です。カールは体力もあり、どのポジションもこなせる選手です。ドミニクもまたミッドとしてなくてはならない。俺はむしろ守りの方で、言っては悪いが高齢の選手のポジションをカールにやらせればいいと思う。今日も議会があるのか、ショーン」
「ああ、父上は国家予算を決めなければいけないので、今日は来られない」
「明日の試合はどうなんだ。大体一定の年齢を超えたら引退とでも決めなければ、いつまでたっても新しい選手が育たないじゃないか!こんなやり方をいつまでもしていたら、伝統あるゴート国サッカーは衰えるばかりだ」
「ほっほっほっ・・・・ヴィゴ、いつも冷静なお前さんが珍しく監督につっかかるとは・・・・わしのような年よりはさっさと引退して若い者にポジションを譲った方がよいのかな・・・」

いつの間に現れたのか、イアン爺さんもみなの話を聞いて、愉快そうに笑っていた。

「あなたのことではありませんよ。俺が言っているのは、ショーンやデビッドの前では言いにくいけど、執政家のノーブル選手のことだ。執政の仕事が忙しければそれに専念すればいいだろう。何を無理していつまでも現役にこだわる」
「わしは現役になぞこだわっておらんぞ。早く引退して余生を楽しく暮らしたいと思っている。旅に出るのもいいかもしれん。どうだ、イライジャ、サム、わしと一緒に旅にでも・・・・」
「イアン爺さん。魔法使いと呼ばれるあなたが引退したら、とてもあのウルフ国のキーパーに対抗できませんよ。余生を楽しむのは今年のワールドカップが終わってからにしてください」
「それもそうじゃな」
「話を元に戻すぞ。いろいろ不満があるようだが、明日の試合はカールがフォワード、ジャレッドがミッド、ドミニクは控え、それでいいな」
「よくない!どうして俺がミッドでカールがフォワードなのですか!」

あまりのショックに声も出せずにいたジャレッドがようやく口を開いた。

「何事も経験が大事という監督の考えじゃないか、ジャレッド。わしも50年前はキーパーではなく、ストライカーじゃった。あのころは実に身軽に走り回っていたものだ。まさか50年もの長い間現役でいられるとは思ってもみなかった。それもこれも、ボジションを固定せず、さまざまな経験を積んだおかげじゃ」
「俺は他のポジションもいらないし、50年も現役でいようとは思わない。ただ俺はストライカーなんだ。ゴールを決めるために俺は生まれてきた。カールなんかミッドでも守りでもなんでもできるだろう。俺はストライカーとして生まれてきた。フォワードができないくらいならサッカーなんかやめてやる!」

みなの声が聞こえ、一斉にジャレッドの方を振り向いた。だがジャレッドはその場を離れ、走り去ってしまった。





その後どこで何をしていたのか、ジャレッドにはほとんど記憶がない。多分夜の街に出て、酒を浴びるほど飲んだのだろう。記憶がないからセックスなどもしているかもしれない。目がさめたのが、宿舎のベッドの上だったから、誰か親切な人が部屋まで運んでくれたのかもしれない。時計を見ると試合開始時刻が過ぎていた。

「誰も起こしにもこなかったのか。完全に見捨てられたか」

二日酔いで頭はガンガンし、足元はまだふらついたが、それでもジャレッドの足は自然とサッカー競技場に向かっていた。そして観客席でぼんやりと試合を見ている。

「ジャレッドさん、どうしたのですか、今日は試合に出ないのですか」

目の前に一人の髪の長い男が立っていた。見た目は確かに男だと思うのだが、声はまだ少年のように高く、顔立ちも整って美しかった。

「ああ、今日は試合には出ない」
「僕、ジャレッドさんのこと好きでした。もしかしたらゴート国代表選手の中で一番好きかもしれません。ジャレッドさんの足に触れた瞬間、ボールは命を吹き込まれ、輝き出すんですよね。僕はジャレッドさんにボールが行った瞬間、自分の踊りも忘れてしまうんです。チアガールとしては失格ですよね。でもいいんです。あなたのプレーを見られるだけでも幸せです」
「へー、俺のことそんなにほめるやつは珍しい・・・チアガールってお前男だろう。まあ、どっちでもいいけどさ」
「今、チアガールはけっこう男でもやっているんです。ほら、ガエルさん、あの人も・・・」
「え、あれも男だったのか・・・・」

チアガールになどまったく興味のなかったジャレッドでも、最近チアリーダーになったばかりのガエルの名前は知っていた。ガエルがチアリーダーになってからは、サッカーに興味がなくても、その踊りを見るためだけに来る観客まで大幅に増えた。もっともジャレッドは試合中サッカーボールしか見ていないから、チアガールがどんな踊りをしているかなど全く知らないし目の前にいる男のことももちろん知らない。

「ジャレッド!フランシスコ!まさかお前達二人に観客席で同時に会えるとは!これは運がいい。二人に会って話したいことがあった」
「話したいことってなんですか」

ジャレッドは相手の男をジロジロと見た。自分よりかなり年上だ。サッカーの観客にはふさわしくないビジネススーツを着て、手にはアタッシュケースを持っている。どことなく自分に似ていてどこかで会った事があるような気がするが思い出せない。

「あ、悪い、こっちはテレビでよく知っていても、二人は知らないか。俺の名前はユーリ、本名はニコラスっていうがこの国ではユーリの方を使っている。怪しい者じゃない。二人にぜひ話したいことがある。試合が終わったらこの店まできてくれ。聞いて損はさせない話だ」
「待ってください、話しとは・・・・」

ジャレッドが話しかけた時にはもうその男は名刺だけ渡してどこかに消えていた。

「バー、リトルウルフ・・・オーナー、ユーリ・オルロフ・・・聞いたことがない名前だ。住所と電話番号は書いてあるが・・・」

目の前にいる髪の長い男も同じようなことを考えているらしく、その名刺をじっと見ていた。

「あ、あの僕はフランシスコといいます。よろしくお願いします」
「俺は知っているだろうから名のらなくてもいいか」
「はい・・・・」

ジャレッドはもう一度その名刺を見つめた。小さなヤギとオオカミの絵が描いてある。この絵もどこかで見たことがあるような気がした。




                                                   −つづくー





後書き
 フォワードにこだわり過ぎたために試合に出られなくなってしまったジャレッド。でもこういうこだわりのある人が好きです。
 2006、4、27






目次に戻る