HORY NIGHT

12月24日から26日までの3日間、決して仕事を入れるなとコリンに言われた。クリスマスといえばコンサートのかきいれ時、プライベートでデートもしたいし、26日は俺の誕生日でもある。確かにあいつとは肉体関係を持ったし、今も会えば必ずやっている。共演する前は同棲もした。だが、今は別々に住んでいるのだし、お互い別の男や女と付き合ったりもする。それなのになんで一番大事な3日間をあいつのために使わなければいけないのか。

「なあ兄貴、そろそろクリスマスコンサートの予定を入れようぜ」
「今年はコンサートは中止だ。俺達は充分すぎるほど働いた。その3日間は俺もプライベートに使いたい」
「アイルランドに行くのか?」
「人の勝手だろう。弟といえども俺のプライベートに口出しするな」
「わかった、わかった。好きにしていいよ」
「お前も好きにしろ。ただ、俺よりもお前の方がハリウッドスターとしてはるかに顔を知られていることを忘れるな。どこでクリスマスを過ごすか、マスコミに知られたら大騒ぎになる。そのあたりをよく考えろ」
「わかっている。兄貴にも内緒にしておく」
「それがいい。俺は口が軽いからすぐにしゃべっちまう」





そして12月24日の朝、俺は飛行機に乗ってアイルランドに向かった。兄貴は1日前に行っている。兄弟でかちあわないよう時間と滞在場所をうまくずらしてくれとコリンに連絡しておいた。兄貴達は兄弟や家族の間でオープンになっているが、こっちはいまだに秘密のままである。もう付き合っているとは言えない関係になってしまったのだから話してもいいのだが、こういうことはタイミングをずらすと打ち明けにくい。おそらく兄貴は一生俺がゲイであることは知らずにいるのだろう。俺自身コリンに会わない時は女と付き合っているから自分がゲイだということを忘れてしまう。撮影前のあの情熱、それはもう過去のものになりつつある。

「よく来たな、ジャレッド」

空港ではコリンが出迎えていた。その手につかまる小さな子はコリンの息子ジェームズだ。俺はかなりむっとした。幼い子供に罪はないとはいえ、ジェームズが生まれたことが俺達が別れる原因の一つになったことは間違いない。大事なクリスマス休暇にわざわざアイルランドまで呼び出しておいてこの無神経さはないだろう。だが、コリンはニコニコしてジェームズにはなしかけた。

「ジェームズ、これがいつも話しているジャレッド叔父さんだよ」

ちょっと待て、叔父さんはないだろう。俺はお前の兄弟じゃないし、もしそうだとしても俺の方が年上じゃないか!

「なんだよ、その叔父さんて」
「ジェームズにはいつもそう話している。パパが一番好きなのがジェームズで、二番目がジェームズのママ、三番目がジャレッド叔父さんだって」
「俺は三番目か」
「sexの相手としては一番さ。お前は最高だよ」
「子供の前で変なこと言うな。それにお前、どこかにカメラマンとかいるかもしれないぞ」
「撮影の後、俺とお前が上半身裸で抱き合ってメダルを交換したシーンはしっかり写真に撮られているだろう」
「パパ、抱っこして・・・」

ジェームズがコリンの目をじっと見た。疑うことを知らない無垢な天使の瞳、これでは俺も文句は言えない。

「お前に言いたいことは山のようにある。ベッドの上でな」
「ああ、楽しみにしている」





外は雪が降っていた。コリンと俺、そしてコリンの息子の3人はタクシーに乗り込んだ。ジェームズは今4歳ぐらいだろうか。撮影の時にできた子だからと俺は年を数えた。4歳にしては体が小さく、しゃべることもたどたどしい。車に乗ってすぐコリンの膝の上を占領したから、俺は全く手がだせない。もっともタクシーの中で手を伸ばして欲情されても困るが・・・

「大きいおうちに行くの?」
「ああ、今日はじーじとばーばの住む大きなおうちには行かない。パパの住んでいる小さなおうちだ」

お前の借りているアパート、小さくはないだろうと心の中で思ったが黙っていた。普段ジェームズは母親と暮らしている。コリンは結婚はせずに子供だけ作ったというわけだ。しかもアレキサンダーの撮影中に・・・・そのことが俺の心の中にずっとひっかかっている。撮影中にジェームズの母親と付き合っただけではない。よりによって母親役のアンジーまで口説いていた。撮影中、俺がどれだけコリンが演じるアレキサンダーを愛したかと思うとこの裏切りは今でも許せない。

「兄貴、来ているのか?」
「ああ、イーモンは恋人だとしっかり紹介した。おふくろ、いやばーばなんか張り切ってご馳走作っていたぜ」
「ジェームズもばーばのおうちにいって、ご馳走食べたかった」
「新年のホリディーには連れていってやるさ」
「だったら最初から俺なんか呼び出さなければよかっただろう。子供を連れているのは予定通りの行動なのか、それとも母親が別の男とデートしたくてお前に押し付けているのか」
「予定の行動さ。普段会えないし、ジェームズはもうクリスマスはパパと過ごすと決めている。それを裏切るわけにはいかないだろう」
「ほんと、お前のことはよくわからないよ」
「わからなくてもいい。さあ、教会に着いたぞ」
「教会?お前にはこの一年間の間、さぞかし懺悔しなければならないことがたくさんあっただろうな」
「俺は一生懺悔を続けなければいけないさ。お前と一緒にな」
「どうして俺も一緒に・・・・俺達はもう別れて・・・・そりゃ、会えばたまにはせ・・・あ、そうそうたまに会ってはいるけど・・・」
「男同士で本気で愛し合った。これはキリスト教徒として最大の罪だ。だが俺の気持ちは今でも変わらない。だから一年に一度くらいは真剣に祈ろうとお前を誘った」

俺の手を握るコリンの目はいつになく真剣だった。

「パパ、やっぱりジャレッド叔父さんが一番好きなの」
「ああ、そうかもしれないな。こんなパパでごめんな、ジェームズ」
「僕、三番目でいいよ」

ジェームズの声は澄んで美しかった。俺は正直言って子供はあんまり好きじゃない。自分に子供ができればまた変わるのかもしれないが、今のところギャンギャン騒ぐ子供の声なんて耳障り以外のなにものでもない。でも、今の彼の声は全く違っていた。全てを包み込む天使の声、ふと周りを見渡した。教会から賛美歌が聞こえた。聞きなれた歌も別の国で聞けば全く違って聞こえる。雪も降り出した。ホワイトクリスマス、コンサートの賑やかな夜とはまるで違う。





教会で一通り賛美歌を聞き、祈りを捧げると外はもう暗くなっていた。街のイルミネーションが美しい。教会ではコリンの膝でウトウトしていたジェームズもすっかり元気になってはしゃいで歩いている。たまにしか会えないからだろうか。コリンは目立つ店に次々と入り、クマのぬいぐるみや積み木などのおもちゃを買い始めた。それも店にある一番大きなものばかり買い、荷物は全部俺に持たせた。

「やい、コリン、もうそのくらいでいいだろう。別の時にもおもちゃ、買っているんだろう」
「ああ、そうさ。でもお前がいるのは今だけだ。ジャレッドと一緒のクリスマス、ジェームズに最高の思い出を作ってやらなければならない」
「別に俺は来年のクリスマスだってお前と過ごしてやってもいいぜ」
「来年のことはわからない。さあ、ジェームズ、このジャレッド叔父さんは力持ちだからいくらでもプレゼントを持てる。好きなもの買っていいぞ」
「わー、うれしい!」
「コリン、少し宅配にまわしてもいいだろう。こんなに俺に持たせるな」
「だめだ、子供の記憶は正直だからな。ジェームズにはお前のこと、サンタクロースのように印象付けたいんだ」
「サンタクロースだってこんな大きな包みなんて持ってないぞ」
「あ、それもくれ、ジャレッド、一番上に乗せるからな、しっかり歩けよ」
「もう足元が見えない。それに腰が痛くなる」
「もう少しだ、がんばれ!」

随分たくさんの荷物を抱えさせられてイルミネーションの街を歩き回った。こうなるともう明りが綺麗だとかそんなことはどうでもよくなる。ただ荷物を放り出して楽になりたい。

「知っているか、ジャレッド、キリストは磔になる前、自分の体よりはるかに重い十字架を背負って歩かされた。自分を殺すための道具だ。それでも彼は自分をののしり、苦しめている者のために祈った」
「俺はキリストじゃないぞ」
「同じだ。アレキサンダーにとってのヘファイスティオン、ヘファイスティオンにとってのアレキサンダー、彼らは互いに相手が神になった」
「あの映画は終わった」
「俺にとってはまだ終わっていない。お前も同じはずだ、早く歩け!いいか、ジェームズ、ジャレッド叔父さんはパパより小さいけどこんなにたくさんのプレゼントを運べる。どうしてだかわかるか?」
「すごいね、パパ」
「叔父さんはお前のこと大好きなんだよ。だからこんなにプレゼントを運べる。もし、お前のパパが病気で死んでしまったとしても、こんなにお前のこと愛している人間がいるんだ。それを忘れるな」





かなり疲れるほど歩き回り、ようやくタクシーに荷物を乗せて俺は苦役から解放された。まさかクリスマスイブにキリストと同じ体験をさせられるとは思わなかった。手や腰がジンジン痺れて痛い。俺が訴えるような目付きで見ると、コリンはうれしそうに笑った。昔から俺を痛めつけて喜ぶところがある。そしてレストランで食事をし、やっとコリンの住むアパートに入った。ジェームズは一番大きなクマのぬいぐるみだけ包装紙を破いて中身を出し抱きしめた。

「そいつの名前はジャレッドだ。前にうさぎのぬいぐるみにも同じ名前をつけていた」
「お前の部屋には俺の名前のぬいぐるみばかり置いてあるのか」
「ああ、お前の名前をつけたやつを彼女の部屋に置くわけにはいかない」

部屋の隅には薪を入れる大きな暖炉があった。コリンは手馴れた様子で薪に火をつけた。

「ヒーターもあるけど、こっちの方が雰囲気が出るだろう」
「まあな」
「ジェームズは寝てしまった。ジャレッド、クマのジャレッドと一緒にベッドに運んでやってくれ」
「わかったよ。それでサンタクロースの今日の仕事は終わりだろうな」
「ああ、それで終わりだ。自分で言うのもなんだが、ジェームズは天使だ」
「お前がそこまで親ばかとは知らなかった。確かにかわいい子ではあるけど・・・・子供嫌いな俺でも思わず抱きしめたくなる」
「ジェームズは普通の子とは違う。天使だ」
「ああ、本当にかわいいよ」
「お前、ずっと一緒にいて気がつかなかったのか!ジェームズはずっと天使のままだ。普通の子と同じにはならない。俺がいけないのか?酒ばかり飲んで男とやって病気を持っているかもしれないのに子供を作ったから、それでこんなことになったのか!」

コリンが急に怒鳴り出した。

「ちょっと待ってくれ。ジェームズをベッドに運んでくるよ」
「丁寧に扱えよ。天使だからな」
「わかっている」

ジェームズをベッドに運び、もどってみるとコリンがコップも出さずに瓶からアイリッシュビールを飲んでいた。

「コリン、コップくらい出せよ」
「注ぐのが面倒だ。今夜は思いっきり飲むから」
「そんなに飲んでできるのか?」
「今夜はやらない。聖なる夜くらい・・・・」

なんだよ!俺はそれを楽しみにここまでやってきたんだぜ、という言葉を慌てて飲み込んだ。

「お前は俺をさぞかし勝手な男だと思っているだろうな。撮影の時だってお前がいながら別の女と付き合い、子供まで作った」
「もういいさ、俺達はそれぞれ別の人生があるずっと一緒に生活するわけにはいかない」
「古代のギリシャなら、ずっと一緒に生きられただろうにな」
「あの頃と時代も習慣も違いすぎる。同性愛になんのタブーもなかった時代だ。今同じことをやったら、互いに仕事を失う」
「怖かったんだ。撮影の時、自分が自分ではなくなっていた。俺の魂にアレキサンダーがのりうつり、ヘファイスティオンを心の底から愛してしまった。自分の立場も俳優の仕事ももうどうでもよくなった。お前と一緒にいられればいい、だが、そうすればお前を殺してしまう」
「俺も薄々感じていたよ。撮影が終わったら、俺達は別々に暮らした方がいいって。でもどうして子供まで・・・」
「失敗したわけではない。結婚は考えなかったけど、どうしても他に愛する対象が欲しかった。でなければ俺は気が狂っていたかもしれない。お前にはバンドがあるが、俺は俳優以外に何もできない。しかもどんな役をやってもあれからはお前の影から離れられない。何もできなくなってしまった。自殺を考えたこともある」
「どうして俺に話してくれなかった。自殺なんて・・・・・あれだけ一緒に寝ながら、お前は肝心なこと何もしゃべってないのか!」
「俺を失うことは辛いか?」
「当たり前だ。一緒に暮らさなくても俺達はずっと一緒に生きてきた。その相手を失うことは自分が死ぬより辛い」
「何も言わずに黙っていこうとした。お前の人生までメチャクチャにしたくはなかった」
「もうメチャクチャにしているだろう。わかっているのか、俺達同性愛者は罪を犯している。天国にはすんなり入れてくれないぞ」
「そうか、俺がお前を誘ったのか」
「俺はお前以外の男とはできない。自殺なんかしたら承知しないからな。こっちが狂い死にしてしまう」
「他の男とはやってないのか?」
「当たり前だろう。お前だから・・・・魂がつながっていると信じられるからあんなことができる。罪だということはわかっているさ。でも、他の生き方はできない。お前と一緒なら永遠に重荷を背負ってもいい」
「俺はいろいろ背負ってしまったぞ。ジェームズだって・・・・」
「あの子は天使だ。お前を救ってくれたんだろう・・・・」
「まあな、こんな俺でもパパ、パパとなついてくれるし・・・・おふくろやおやじも喜んでくれた」
「どうしてお前が今夜俺を誘ったか、わかってきた」
「何もしないぞ、聖なる夜だからな」
「ただ、こうしていればいい」

俺はコリンの隣に座った。手を繋いで指を絡ませれば、それだけで互いの心が伝わってくる。

「彼らはどれくらいの時をこうして過ごしたのかな」
「戦いの前夜も、雪山や砂漠の行軍の時も必ずそばに寄り添っていた。俺が死にたくなったら、今度はお前かけつけてくれるか?」
「コンサートをキャンセルして飛んでくるさ」
「お前も俺の守護天使だ」
「俺は天使にはなれない。お前を悪の道に誘い込んでばかりいる」

俺は片方の手をコリンの足の間にしのばせた。このまま朝まで手を繋いでいるだけでもいいし、二人で罪を犯してもいい。罪を犯さずにはいられない人間がいることも、神様はちゃんとわかってくださるだろう。それを罪と決め付けたのも人間なのだから・・・・




                                           −完ー




後書き
 クリスマスの夜、彼らは何をしているのかなあと想像して書いてみました。罪とはわかっていてもそうせずにはいられないのが人間だし、罪という概念もその時代に合わせて作られた、ただそのことで本質が曲げられたり生きていけなくなる人間が出るのは悲しいのでそれを救えるのが神であってほしい、そんなことを考えました。

2007、12、25




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