戦士の契り(3)

ステリオスが隊長の息子アスティノスの個人指導をするようになって2年が過ぎた。もともと体の大きなアスティノスの背はさらに高くなりステリオスを追い越した。スパルタの少年は食糧を少ししか与えられないためかなり痩せているが、アスティノスの体はふっくらとしており、まだ完全に固くなってはいない筋肉は弾力がある。何よりステリオスを驚かしたのは彼の体には傷跡がほとんどないということだった。スパルタの子供は鞭で打たれることに慣れている。幼い頃から動きが悪い、盗みに失敗したなど何かと理由をつけられてどれだけ鞭打ちの罰を受けたかわからない。泣き声を出したり悲鳴を上げればもっとひどく打たれるから小さな子供でも歯を食いしばって痛みに耐えてしまう。だが、アスティノスの体にはそうした鞭の跡がほとんど見られない。よほど運がよかったか、それともデキがいいのか、多分後者であろう。ステリオスがいくら厳しく訓練を行っても、彼は失敗してしかられるようなことはまるでしなかった。槍を持つ手つき、盾の構え方、動きの素早さ、何をやらせても完璧である。いや、ステリオスだってまだ訓練生のころ与えられたことをやるくらいは簡単だった。だが彼の場合当たり前にできても次の瞬間には体に痛みが走った。なんの落ち度もないのに一方的に一人だけ鞭で打たれ、フラフラになってから同じ年の相手と戦うことを命じられた。それでもステリオスは勝った。戦うことは彼の本能であり、どれほどの痛みや傷も彼の動きを妨げることはない。

「今日はこれから何をやりますか?」

ぼんやりと山の頂を見つめるステリオスにアスティノスが声をかけた。

「もうすぐお前も成人の儀式だな」
「はい」
「自信はあるのか?」
「もちろんです。スパルタ人は成人の儀式を終えてこそ一人前の男です」

若いアスティノスの顔は自信に溢れている。生まれてから一度も傷ついたことのない明るい笑顔、父の才能を受けついた彼は護衛隊長の息子という立場がなくても教官から酷い罰など受けはしなかったのだろう。何もかもうまくできそしてこの笑顔、酷い扱いなど受けるわけもない、自分のように・・・・





まだ成人の儀式に行く前のこと、ステリオスは訓練と称して数人のスパルタ軍兵士に呼び出された。教官は彼らの目的を知っていたが、止めたりはしなかった。彼は兵士の宿舎に連れていかれた。

「これが有名なステリオスか。よく見るとかわいい顔をしている」
「おい、下手に近づくと危険だぞ。こいつはフラフラになったと見せかけて仲間を倒したことがある。素手でやったのに、相手は一ヶ月寝込んでしまったと・・・」
「俺達に対してそんなことはできないさ。こいつはまだ成人の儀式も終えてない。一人で山にいる時、武器を持った俺達数人に襲われたらどうなる?雪の山に助けなど誰もこない。運悪くオオカミの餌食になったと誰もが思うさ」
「オオカミの餌食となって死なないためには何をすればいいのですか?」

ステリオスは冷静に言った。どうせ年上の兵士の気まぐれか、俺に倒されたヤツの兄弟が腹いせでやるんだろう。鞭で打つか手足を縛って互角でない状態で戦いをさせられる。俺が負け、跪いて許しを請う姿が見たいだけだ。

「ほう、随分素直じゃないか」
「こういうことには慣れていますから。同等では戦えない卑怯者が俺に傷をつけた上で倒そうとする」
「確かに少し大人しくさせるためにも傷つけた方がいいかもしれない」
「わかりました、好きなようにしてください」

ステリオスは肩にかけていたマントを取り、宿舎の太い柱の前に立って腕をまわした。子供の時からずっとそういう格好で鞭打たれている。

「床に横になれ。意識を失って倒れれば、その綺麗な顔に傷がつく」
「俺は気絶などしません」
「大した自信だな。だが今にこの顔が歪み許しを請うようになる。だが、そうではないかもしれない・・・」
「案外こういうヤツほど一度やれば病みつきになるかもしれないからな」
「だが、本当に大丈夫か?もしバレたら俺達だってただではすまされない」
「誰がそれを話す?こいつは一生隠し通すさ。そんなことが知られれば一生正規軍には入れない」
「楽しみだ。早くやろうぜ」
「まあ、待て、途中で抵抗できないよう少しは傷つけておかないと」

ステリオスは目を瞑り、唇を噛み締めた。背中に鋭い痛みが走る。こんなことは慣れていると自分に言い聞かせた。俺はスパルタで誰よりも強くなる。強くなって最高に名誉な死を手に入れる。オオカミの餌食になるわけにはいかない。こんなことには慣れている。

「これくらいでいいだろう。気絶させたら起こすのに時間がかかる。おい、四つん這いになれ」
「・・・・」

耳元で何を言われたか、ステリオスはとっさに判断できなかった。

「四つん這いになれと言っただろう。聞こえないのか、ステリオス?」
「驚いて口も利けないのか?」
「無理もないよな。男として最大の屈辱だからな」
「今、何を・・・・」

ステリオスはようやく言われたことの意味を理解した。彼らは自分を陵辱しようとしている。男として最大の屈辱、だが一人雪山にいる時に武器を持った何人もの兵士に襲われたら命はない。

「言われたとおりにする・・・だから・・・誰にも・・・」

自分の唇を強く噛んだため、口の中に血がたまっている。少ししゃべっただけで口から血が出た。

「言わないでいてやるよ。おいおい、綺麗な顔に血がついているじゃないか」

兵士の一人が無理やり唇を近づけてきた。ステリオスは目を閉じた。逆らえば殺される。自分の死に場所はここではない。





「ああーひいいいー・・・・やめて、それ以上は・・・・・あああー・・・」

四つん這いになったステリオスの腰布が外された。彼の体を隠すものはもう何もない。男達の手が彼の秘部をこじ開け、代わる代わる指を入れてきた。

「思った通りだ。これだけ感じやすい男は滅多にいない」
「無事戻ってこい、ステリオス。戦場での大きな楽しみになる」
「本当に初めてか?それにしてはいい声出しているじゃないか」
「教官が先に味見しているかもしれない。罰と称して夜中にこっそり・・・・」
「ほら、ここがいいのか」

今まで感じたことのない痛みにステリオスは悲鳴を上げた。今まで嫌がらせや鞭打ちの罰は何度も受けたが、それとは本質的に違う体の中心を貫く痛みは声を出さずにはいられない。

「ほらほら、ここをこんなに膨らませて。お前、ひょっとして戦いよりもこっちの方が向いているんじゃないか」
「今までかわいがられたことないから反応も抜群だな」

個人指導を行う者と恋人のような関係になることはよくあることだった。直接の行為はスパルタでは厳しく禁じられているが、似たようなことはほとんどの者が経験している。だが、ステリオスにはそのような経験はまったくなくいつも一人だった。

「いい顔している。気持ちいいだろう・・・・」
「あああー・・・・ふうーん・・・・・うわあああ・・・・あああ・・・・」

何人もの手がステリオスの腰に伸び、敏感な場所を激しく攻めた。彼は四つん這いでいられなくなり、体を崩してうつ伏せに倒れた。自分の体の中心に向かって液体が勢いよく流れている。腰の後ろの痛みが薄れ、ビチャビチャと音がしている。

「そんなに気持ちがいいのか。今、入れてやるぞ」
「やめて・・・それだけは・・・スパルタ戦士の資格がなくなる・・・」
「お前の体はそんなことはどうでもよくなっている」

差し込んでいた指が引き抜かれ、もう一度秘部が指で大きくこじ開けられた。激しい衝撃を感じた。信じられない痛みに我を忘れて絶叫し、体を捩った。

「あああー・・・・痛い・・・・・やめて・・・・・あああー・・・・ひいいー・・・・」

鋭いこん棒で幾度も打ちつけられた。もう皮膚は裂け血が出ているに違いない。体の中心からもドロリとした液体が流れ出た。

「こんなこと・・・・いやだ・・・・」

意識がすっと遠くなった。ステリオスは意識を失っていた。





「どうしたんですか?」
「え、なにが・・・・」
「あなたのことです。さっきからずっと黙って・・・・」
「昔のことを思い出していた。俺がお前と同じ年頃の・・・・」
「あなたの強さは特別だと父がよく言っていました。自分が若ければこういう若者を育てたかったと・・・スパルタ人の中でもこれほどの力と才能を持つ者は滅多にいないと言っていました」
「お前という立派な息子がいるのにか?お前は才能があるし、何よりその笑顔を見せられたら何もできなくなる。俺もお前のようだったらあんなことはされずに・・・・」
「どんなことですか?」
「いや、いい、独り言だ。いいか、お前は力も才能も申し分ないほどある。だが、お前は今まで苦労したことがない。鞭で打たれたこともほとんどないだろう」
「はい、僕は苦労知らずだと父によく言われます」
「スパルタではそれでうまくいくかもしれない。だが、成人の儀式で戦う相手は人間ではない。自然の寒さと野生の獣だ。お前がいくら隊長の息子で才能があろうと、そんなことはお構いなしに自然はお前を襲ってくる」
「わかっています。命を落とす覚悟もできています」
「本当にそうか?お前は今まで死の恐怖や痛み、屈辱などとは無縁で生きてきた」
「そうかもしれません」

アスティノスは頷いた。なんて素直な子なのだろう。彼は痛みや苦痛などまるで知らない。だがそれでは森へ行って本当に生きて帰ってこれるのだろうか。

「俺が教えてやるよ」
「はい、成人の儀式がある前に、しっかりいろいろなこと教えてください」
「武器の使い方や身のかわし方で俺はもうお前に教えられることなど何もない。俺が教えようと思っているのは痛みと屈辱だ」
「教えてください。僕はあなたからあらゆることを学びたいです」
「誰にも言わないと誓えるか。お前の父にも」
「はい、誰にも言いません。僕はあなたが好きです。成人の儀式が終わって、一人前の戦士になった時隣にいるのはあなたです。ずっと憧れていました。憧れていただけでなく、本当に好きに・・・・」
「それ以上何も言うな。俺もお前が好きだ・・・・これは欲望や復讐ではない・・・・ただ、愛しているから・・・・」

ステリオスはアスティノスの腕を取った。自分の肩に彼の手を回し、顔を近づけてそっと唇を重ねた。

「お前を愛している、ただそれだけだ」

もう一度唇を重ね、アスティノスの体を自分の胸に抱き寄せた。彼は今微笑んでいる。顔は見えなくてもいつもよりももっと幸せそうに・・・顔は見えなくてもステリオスはそう確信した。



                                         −つづくー




後書き
 ステリオスにトラウマとなるような過去をつけくわえました。どうも彼は暗い方へと想像したくなります。逆にアスティノスは太陽のような明るい笑顔が魅力です。きっと父に大切に育てられ、デキもいいので苦労せずにスパルタ教育を終えてしまったのでしょう。
2007、11、30

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