戦士の契り(4)

「お前を愛している」

そう言ってステリオスはアスティノスの口に自分の唇を重ねた。愛していると言葉で言っても、まだどうしたらいいかわからないアスティノスの唇は固く閉じられたままだった。もう彼の方が背は高いくらいだったが、髪を短く刈られた坊主頭がアスティノスを年齢よりもずっと幼く見せていた。髪を伸ばし、一人前の戦士と認められるためには成人の儀式を終えねばならない。ただ一人森や山に暮らし、獣を狩り、スパルタ人以外の者が住む村で食べ物を盗み、時には村人を殺してでも生き延びなければならない。ずば抜けた才能と力を持つ彼であるが、まだ人はもちろん獣さえ自分の手で殺したことはない。

「アスティノス、本当にいいのか?」

唇を離し、ステリオスはもう一度彼に尋ねた。

「このことが知られれば、お前はスパルタ戦士とは認められなくなるかもしれないぞ。女のように男を受け入れるというのは一番の屈辱、誰かに知られれば軽蔑され、男とみなされなくなる。もしお前の父が知ったらどうする?さぞ嘆き悲しむだろうな」
「父には僕以外にもたくさんの息子がいます。一人ぐらい男でなくなっても、別の弟を跡継ぎにと考えます」
「いやなら逃げていいんだぞ。お前ならもう個人指導は必要ないくらいだ」
「逃げたらあなたの隣で戦えなくなります。僕にはそれが小さい頃からの夢でした」
「お前は俺がどういう人間かまだわかってない。俺はお前が思っているよりもずっと・・・」
「知っています!あなたがどんな思いをして生きてきたか・・・だから僕も同じように・・・」
「なぜ、それを知っている!」

ステリオスの顔色が変わり、アスティノスの肩を強く掴んだ。

「知っています。あなたに何があったか・・・・」
「誰に聞いた!場合によってはお前を生きて帰さないぞ!」
「誰にも聞いていません。でも僕はそれがわかってしまって・・・あなたと同じようになりたい・・・尊敬しているから・・・」
「わかりもしないでよくそんなことが言えるな。口付けの仕方もわからない子供のくせに・・・どうやって扱って欲しい?アテネの哲学者や詩人のように甘い言葉を囁いて快楽に導いて欲しいのか?」
「あなたと同じように・・・」
「後悔はしないな」

アスティノスは頷いた。あたりは暗く彼の顔もよく見えない。ステリオスはもう一度アスティノスに唇を重ね、閉じた唇を舌で刺激した。本能的に口は開かれ、二人の唾液が混ざり合った。血の臭いや屈辱を感じない初めての口付け、ステリオスは夢中で彼の甘い唾液をすすった。体が異様なほど熱く火照ってきた。初めての彼よりも自分の方が遥かに興奮しているとステリオスは感じた。





スパルタでは男同士で口付けしたり抱きあったりは普通に見られる光景だが、実際の行為は固く禁じられていた。それは奴隷や女に対して行う行為であり、相手が男の場合は互いの手を使ったり足の間で慰めあうのが普通である。だから当然彼らはアテネ人のような技法は何一つ知らない。あらかじめ油や唾液を入れたり指で解かすということは一切なく、カラカラに乾いたその部分を無理やりこじ開けて挿入するのだから双方共に激しい苦痛が伴う。だが、痛みに慣れたスパルタ人は自身の苦痛を歓喜とし、本能に従ってますます激しく腰を打ちつけ、身悶えする相手に興奮していく。ステリオスはそのような体験ばかりしていた。鞭で打たれるのとは比べものにならない激しい苦痛と屈辱、それでも耐えたのは生き延びて名誉ある最高の死を手に入れたいという強い望みがあったからだ。

「アスティノス・・・・」

草の上に広げられたマントの上に身を投げ出した、アスティノスの背中に手を触れた。よく訓練された体は引き締って固いのだが、自分や他の多くのスパルタの男のように傷だらけでガサガサしていない。滑らかな肌は傷一つないと言ってもいいだろう。今彼は自分の前に体を投げ出し、どんな屈辱や苦痛にでも耐える覚悟でいる。同じことをしていいのだろうか?

「アスティノス・・・・」
「どうしたのですか?」
「わからない・・・・俺は今何をしようとしているのか・・・・」
「あなたと同じようにしてください」
「同じようにか・・・・」

ステリオスはなおも滑らかなアスティノスの背中をさすった。自分は何度鞭打たれ、痛みと屈辱で眠れぬ夜を過ごしただろうか。ただ一人でいい、このように背をさすってくれる者が一人でもいたらどれだけ救われたであろう。だが周りにそんな者はいない。子供の時ほど強すぎれば皆を敵に回すことになる。自分が鞭打たれ、呻き声を上げるたびに周りの子供はクスクス笑い、自分でなくてよかったとほっとしていた。たった一人でいい、眠れぬ夜に背をさすってくれるものがいたならば・・・ステリオスの目から涙がこぼれ落ちた。

「あの、僕はどうすれば・・・」
「そのままじっとしていればいい」
「はい・・・」

ただ背をさすっていては本当に泣き出しそうになってきた。ステリオスは指の先に唾液を集め、アスティノスの足を開いた。ビクンと跳ねた片足を片手で押さえ、手の指を後肛の襞にあてがった。力を入れて指を滑りこませると、また滑らかな体が大きく動いた。

「あ、・・・・アアアー・・・・」
「じっとしていろと言っただろう。声は出すな」
「は、はい」

ステリオスに知識は全くなく、ただ本能でアスティノスの体の内部に埋め込んだ指を動かした。彼を傷つけたくはない、あらゆる力、スパルタの掟から守ってやり、自分の隣に立たせたい。唾液を集め、何度も指の間に絡めた。

「あああー・・・・フウウウーン・・・・あー・・・・ひいい・・・」
「どうだ、気持ちがいいか」
「そんな・・・・もう・・・やめて・・・・」
「いい声を出している、アスティノス。いいか、いやなことはみんな忘れてしまうんだ。この俺がお前に最高の快楽を教えてやる。辛い時には俺を思い出して耐えろ」
「ああ・・・そこは・・・・もうやめて・・・・」

アスティノスは体をくねらせ、喘ぎ声を出した。ステリオスは何度も唾液を含んだ指をアスティノスに入れ、内部の固さを確かめた。

「これは屈辱ではない・・・・本当は何よりも大きな・・・・だからこそスパルタでは禁じられてきた。みなが快楽に溺れ、戦いを忘れては困るから・・・・大きな屈辱であると思い込ませ・・・・そうか、そういうことだったのか・・・俺はもう何も怖くはない!」

森中に響き渡るのではないかと思うような声でステリオスは叫び、笑い声を上げた。アスティノスも笑った。だが次の瞬間鋭い痛みに体を貫かれた。

「あああー・・・・ヒイイイー・・・・やめて!・・・・痛い!・・・・」

体をくねらせて抵抗するも強い力で押さえつけられていた。いくら唾液で湿らされ、指で慣らされていたとしてもその部分の感覚は他とは違う。頭の先まで貫くような痛みに絶叫した。

「もうすぐだ、アスティノス、すぐによくなる」

いくら泣き喚いても一度始まった欲望が途中で止められるわけでもない。アスティノスは体を捩り、少しでも楽な姿勢をとろうとした。体全部の神経が下半身に集中し、熱がそこに集まっている。ふと手を伸ばすと自分のものが固く膨らんでいるのがわかる。

「手で押さえるな。俺がやる」
「ああ・・・我慢できない・・・・もう・・・」
「我慢しろ・・・・ギリギリまで耐えろ」

後肛からの強い刺激と体の一番敏感な部分に自分のものではない手が添えられたことで、アスティノスは完全に理性を失っていた。突かれるたびに悲鳴を上げるのだが、自分の体が自分のものではないと思うほど柔らかく溶けていくような気がした。痛いのに痛みとは別の感触、そして体中の液体がそこに集まったかと思うほど敏感な部分は膨れ上がりはちきれそうになった。

「ああーーーもう・・・・だめ・・・・」

鋭く突かれ、我慢の限界を超えた。アスティノスはステリオスの手の中に精液を吐き出し、ぐったりとした。もう何もかもどうでもよくなり意識も手放した。何も怖いものはない。自分のすぐそばにステリオスがいるのだから・・・・





「これくらいで気絶するなんて、お前はまだ子供だな」

意識を失ったアスティノスの体を抱き起こし、口付けをした。

「いい加減に起きろ!俺はこういう人間だ、何をするかわからないぞ!」

アスティノスの口元が緩み、かすかな微笑みを浮かべた。

「まあいいか、もう少しこのままでも・・・・お前のようなやつは・・・・俺も初めてだ・・・・これがこんなにも・・・」

隣に座ったステリオスは自分の下半身を見て慌ててそれを皮のパンツの中にしまった。頬が赤くなったがそれを見る者は誰もいない。アスティノスの口元からは心地よさそうな寝息が聞こえた。



                                        −つづくー




後書き
 非常にひねくれて育ってしまったステリオスと苦労知らずのアスティノスです。純情なアスティノスを見ているうちに自分の過去の傷も癒されていく、そんな部分を書きたいと思いました。

2007、12、11





目次へ戻る