13、分岐点
アレキサンダーの周りには、カッサンドラ、プトレマイオス、フィリップス王の時から仕えているセレウコスなどが集まっていた。ペルシャのダレイオス王は大軍を率いて撤退した。このままダレイオスの軍を追って東へ進むか、それとも一度マケドニアに戻るかで意見は分れていた。
「ペルシャ軍をこのまま逃がしてしまえば、ダレイオス王はまたすぐに軍隊を立て直してしまう。王を殺し、軍を全滅させるまで追い詰めた方がいい」
カッサンドラはあくまでも最後までペルシャ軍を追うことを強く主張している。
「今度の戦では我が軍にも大きな犠牲が出て、長い遠征で兵士達も疲れている。一度マケドニアに戻って兵士たちを休ませて苦労をねぎらい、その上でまた軍を立て直して新たにペルシャを攻撃すればよいのではないか」
「そんなことをしていたら、あっという間にペルシャ軍はまたもとの勢力を取り戻してしまう。一度戻って兵士に休息を与えるだと・・・何を考えている。故郷に帰って休息など与えたらもう二度と彼らはそこを離れなくなってしまう。いまこの勝った勢いのまま先へ進まなくては・・・」
「そうだ。我が軍には神がついている。圧倒的多数だったペルシャ軍をこうして打ち負かした。戻るなどということは考えられない。東に向かって進め!このままどこまでも!」
「これで決まりだな。アレキサンダー大王は東へ進軍することを望んでおられる。東へ向かってすすめ!」
「おおー」
大きなどよめきと歓声が沸き起こった。アレキサンダーの言葉に誰もが賛成して東に進み、最後までペルシャ軍を追い詰めるのではないかと誰もが思った。だがこの時それま黙っていたプトレマイオスが静かに口を開いた。
「まて、このまま東に進み、ペルシャ軍を追い詰めたら我が軍の兵士は長い遠征で不満も高まり、反乱を起こす者が出るかもしれない。かといってこのままマケドニアに戻っても戦利品が何もなく、再び兵士をこれだけの数集めることができるかどうか」
戦利品と聞いて私の頭にある国の名前が思い浮かんだ。砂漠の中で長い間高度な文明を誇ったその国は、今は治める王の力も弱まり衰退していると聞いている。アレキサンダーも強い憧れを持っているその国へ、私達の軍が行って治めることはできないだろうか?その国は昔の栄光と平和を取り戻し、我が軍は兵士に分け与えられるだけの充分な富を手に入れることができる。
「エジプト、そうだエジプトへ行こう」
アレキサンダーが目を輝かして大きな声で叫んだ。
「エジプト!なんで今別の国へ行くことを考える!我々が今まで戦ってきたのはペルシャだ。長い間の宿敵ペルシャを倒さずになぜ突然エジプトに行こうとする。戦利品などペルシャを倒せばいくらでも手に入る」
「私はペルシャとの戦いをあきらめてエジプトへ行こうとしているのではない。ペルシャと戦うためには・・・」
アレキサンダーの言葉が詰まった。私は彼が何を言おうとしているのかよくわかり、話を続けた。
「この先、ペルシャを倒しさらに東へと遠征を進めて行くためには多くの富が必要だ。エジプトにはそれがある。過去の偉大な文明から引き継がれた多くの富と高い文化。だが残念ながら今エジプトは王の力が衰え、衰退の一途をたどっている。エジプトの民と彼らの信仰する太陽神は待っている。その地に再び強力な力を持つ王が現れ、昔の栄光を取り戻すことを・・・アレキサンダー大王こそ、彼らが待ち望んでいた王になり、エジプトに再び昔の栄光と平和を取り戻すことができるただ一人の王である」
「ヘファイスティオンの言うとおりだ。まずはエジプトへ行くのが一番いいように思われる」
「私もそう思う」
プトレマイオスとセレウコスはすぐにアレキサンダーと私の意見に賛成してくれた。だがカッサンドラだけは違っていた。
「ヘファイスティオン、お前にも俺と同じペルシャ人の血が流れている。ダレイオス王が憎くないのか!今ここでペルシャ軍を倒さなければ・・」
「ペルシャ軍は必ず倒す。先にエジプトへ行ってもいいではないか」
「お前は何もわかっていない。同じ血が流れていながら・・・早く王を倒してペルシャを開放しなければ・・・」
「カッサンドラ、ヘファイスティオンと何を話している。お前はエジプトに一緒に来るのか。それとも一人でも兵を率いて東へ進み、ペルシャ軍と戦いたいのか、そのどちらだ!」
「王がそう決めたなら仕方がない。一緒にエジプトに行く。だがこの選択は後できっと後悔することになる。特にヘファイスティオン、お前にとっては!」
カッサンドラは私とアレキサンダーを睨み付けて、強い口調でそう言った。
「ヘファイスティオン、お前と俺は考えていることも、理想としていることもぴったり一致している。うれしかったよ」
アレキサンダーの天幕の中、彼に背中を口付けされ、私はうっとりと目を閉じた。体中どこでも彼の手と唇が触れるとき、私は喜びに打ち震える。彼の指が、私の秘部に刺激を与え、ゆっくりと解かしていく。
「やっぱり、お前が一番いい。戦いの前は強いカッサンドラに憧れてあいつばかり抱いていたが、今はお前だけだ。カッサンドラはお前に何を言っていた」
「同じペルシャ人の血が流れていると・・・」
「確かにお前やカッサンドラにはペルシャ人の血が流れているかもしれない。お前たちは目や髪の色が違う。でもそれでお前たちが敵の国の人間だと思ったことは一度もない」
「僕だって自分がペルシャ人だと思ったことは一度もないよ。祖先はそこから来ているかもしれないけど、僕自身も父も母もずっとマケドニアに住んでいたのだから・・・」
「それに俺はお前のこの褐色の肌の色がたまらなく魅力的だ。お前の髪が、肌の色が、俺を無限の喜びに誘い出してくれる」
私の体は強く押さえつけられ、彼自身を秘部にあてがわれ、挿入されていく。その鋭くも甘美な痛みに私はたちまちあえぎ声を上げる。
「いい声だ、ヘファイスティオン、お前は本当にすばらしい」
鋭い痛みとともに体はこすりあわされ、徐々に一つになっていく。二人の呼吸は一つになり、痛みの中上り詰めようと出口を求めている。だがこうして結ばれている時に私はカッサンドラのことを考えていた。なぜ彼はあれほどペルシャ軍をすぐに倒すことにこだわっていたのだろうか?私と彼にだけ流れる異国の血。それがどこのものかは理解していない子供の時から向けられる好奇心と軽蔑のまなざし・・・それは自分が指揮官として人に命令する立場になった時、いやというほど思い知らされた。髪や肌の色故の激しい中傷と軽蔑のまなざし・・・カッサンドラは誰よりも強く、指導力があったため、私と違って最後まで上の地位を守り通したが、私と同じように壮絶な思いをしたに違いない。その記憶はペルシャ王に対する激しい憎悪として現れている。王を憎み、それを倒して新しい国を作ることに全てをかけている。彼の鋭いまなざしはそんなことを訴えていた。
「お前、今なにを考えている、これじゃ物足りないか?」
アレキサンダーの声に我に返った。彼は激しく腰を打ちつけ、攻めてきた。もう何かを考える余裕はない。激しい苦痛と快楽に身を任せた。
「一緒にいこう、どこまでも」
私は強くうなずいたが、その声はあえぎ声に消されてしまった。果てしない苦痛と快楽に我をわすれて声をあげ、やがて私は意識を失った。
−つづくー
後書き
この章の内容はこの話の設定にあわせて、エジプトに先に行こうとしたり、異国の血が流れていたりと映画や歴史的事実とは全く違っていますので、けっしてうのみにはしないでください。
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