18、追跡

アレキサンダーは毎晩後宮に通った。彼は女よりもむしろ宦官に興味を持ったようである。そしてアレキサンダー以外の兵士達の多くも後宮の女に夢中になり溺れていた。私は一人悶々とした日々を過ごした。

「ヘファイスティオン、お前も一度宦官を試してみたらいい、あれは本当に素晴らしい」

アレキサンダーは私にも宦官と寝ることを勧める。

「ダレイオス王はあれだけ多くの女や宦官を集めて毎夜楽しんだというわけだ。王ならではの楽しみ、この世のものとは思えない快楽、宦官は愛の奥義、秘儀を知り尽くしている。男としてこれほど深い喜びがあるとは今まで知らなかった。お前も一度体験してみろ。愛とは何かじっくり堪能することができる」
「君はどうかしている。男同士の愛が尊いのは互いに尊敬し、高めあう気持ちがあるときだけだとミエザの学舎で学んだじゃないか。ただ欲望を満たすだけならそれは地に落ちる卑しい行為になると・・・」
「昔はそんなことを真剣に考えていたこともあった。ミエザの学舎にいたころは先生の教えや書物に書いてあることが世界のすべてであった。だけど今俺達はどこにいる?エジプトに行き、ペルシャを征服し、世界はあのころ信じていたよりも遥かに大きく豊かであることを知った。あのころ見ていた世界と今俺達がいる世界は違う。ペルシャには世界中の財宝が集められ、ここバビロンにはペルシャ中の快楽が集められている。王になるべき者がそれを受けて何が悪い」
「宦官だなんて・・・性器を切り取られた男と寝て何が楽しい!」
「お前は宦官のことを何もわかっていない。傷口はきれいに閉じられ、男でも女でもなくなった彼らは神ゼウスが愛した美少年と同じ美しさを保ち続ける。性を失った彼らは神や王に仕えるのにふさわしい存在となった。彼らを抱く時、俺は自分が神になったようにすら感じる」
「君はどうかしているよ!君だけではない。たくさんの兵士がここにきてからは女に溺れている。何のためにエジプトを離れここまで来たのかこれではわからない」
「もういい!ヘファイスティオン。お前には俺の気持ちはわからない」

彼は後宮の奥へと歩いていってしまった。




私は宮殿の広間へと戻った。そこではプトレマイオスとカッサンドラが話をしていた。

「アレキサンダーは後宮に入り浸りだな」
「だが、ダレイオス王をこのままほっておいていいのか?ペルシャは強大な帝国だった。王が地方に隠れ住み、密かに軍を集めれば数年後には再びガウガメラの戦いと同じぐらいの大戦になってしまう」
「早く、ダレイオス王を追い詰めた方がいい。だけどアレキサンダーは?」
「アレキサンダーだってことの重大さを知ったらここでのんびりしているわけにはいかないだろう」

ダレイオス王を追い詰める・・・私は王の二人の姫のことを思った。王が殺されれば彼女達の扱いはどうなるのか。

「ダレイオス王を見つけて和解を結べればよいが・・・」
「それが一番だが、それならなおのこと早く見つけ出さなければ」
「どのあたりに逃げているのか情報はあるのか?」
「だいたい検討はついている。いろいろ手配して調べさせた」
「さすがプトレマイオス、頭がいいな。よし、すぐにでも行動に移そう。ヘファイスティオン、王を動かすのはお前の役目だ。俺達の忠告などあいつは全然聞かないから」
「僕の言うことだって聞くかどうか・・・今は後宮で溺れているよ」
「そこをなんとか説得しろ、ヘファイスティオン」




すぐに兵士の中でもえりすぐりの者が集められ、軍隊は整えられた。私はほとんど何も言っていない。言わなくとも彼は彼なりに、ダレイオス王をこのままにしてはいけないと強く感じていたようである。久しぶりの宮殿ではなく天幕での生活。だが私はむしろほっとしていた。夜、アレキサンダーの天幕を訪れると彼は快く迎え入れてくれた。私はすぐに彼に抱きつき、口付けをした。懐かしい彼の匂い、彼の手触り・・・

「おい、ヘファイスティオン、そうあせることはないだろう。夜は長い」
「長い夜、僕はずっと一人で君を待っていた。君が欲しくてたまらなかった。愛している、アレキサンダー」

私は性急に自分の衣服を剥ぎ取るとアレキサンダーを寝台の上に押し倒し、彼の衣服も剥ぎ取った。彼に抱きつき、体のあちらこちらに口付けを落とす。

「おい、今日はまた随分積極的だな」
「君を待ち続けて眠れない夜を過ごした。宦官がどうやって君の相手をしているかと考えたら、嫉妬で気が狂いそうになった。僕のやり方は手馴れた宦官に比べたら子供の遊びのようなものかもしれない。でも君愛する気持ちだけは誰にも負けない」

彼のものに舌をあて丁寧に舐めた。たちまちそれは大きく固くなる。私は手で支え、自分の腰を彼の上にあてがい、体を沈めて勢いよく貫いた。激しい痛みで叫び声を上げた。アレキサンダーもうめき声を上げ、顔を歪めている。私はあわてて彼から離れた。

「なんてやり方をするんだ。もし奴隷にこんなことをされたら立ち上がれなくなるほど鞭で打ってやる」
「ごめん、僕は何度やってもうまくならない」
「お前はいつも俺の方ばかり見て、自分の体のことは少しも考えていない。あいつはやる前に自分で香油ぐらい入れて準備しているよ。彼らは王に仕えるためだけに生きてきた。でもお前は違う。お前は宦官や奴隷ではなくて、俺と対等の人間だ。あいつには決してやらないこともお前にだったらできる」

彼は私をうつ伏せに寝かし、尻の穴に指を入れた。指を巧に動かして穴を押し広げ、舌を差し込んできた。私は余りの気持ちのよさに嬌声をあげた。

「どうだ、気持ちが良いだろう。こんなことあいつにはけっしてしない。お前との行為は快楽を求めるものではなく、尊敬し、高め合い、そして一つになるための儀式だ。俺はお前を誰よりも愛している。宦官や後宮の女などに嫉妬するな。お前と俺はもともと一つなのだから・・・」

舌で充分湿り気を与えた後、彼は穴の中に香油を注ぎこんだ。入りきれずに溢れた油が体に伝わるのを感じる。彼はその香油を手のひらで私の体に塗りこめた。手の圧力を少しずつ体の中心に集め、それから指を穴の中に埋め込んでいく。ぬるぬるとした感触の中、穴は押し広げられ、彼のものを欲しがって震えた。

「これで大丈夫だろう。もう一度やってみろ」
「でも、また君に痛い思いをさせたら」
「お前とだったらどれだけ痛い思いをしても大丈夫だ。俺はお前なのだから・・・」

もう一度彼の上にまたがり、入り口にあてがってから勢いよく体を沈めた。まだ少し痛みはあるがそれはなんと心地よいものか。前後に少しずつ腰を動かした。私はまだ女との経験は一度もない。だけど女を愛する時はきっとこんな感じに違いない。彼のものを体の中に入れ揺さぶりながらいつしか女を抱いているような感覚にとらわれた。私のものは大きく立ち上がり、喜びにふるえている。それを私は彼女の中に入れ、強く抱きしめた。ステラ、私はお前を陵辱し、奴隷のように扱おうとは思っていない。お前を愛し、妃として向かえ、一生お前を大切にする。だから今私がお前にすることをどうか許しておくれ。私はお前を愛している。愛しているから抱いているんだ。

アレキサンダーの体の上で腰を振り続けながら、私はいつの間にか別の夢想に包まれていた。ダレイオス王の姫、ステラ、愛する女を夢見ながら体を動かし続け、そして果てた。

「アレキサンダー、僕達はもう昔のように一つにはなれないのかもしれない。愛し合っているときですら、僕は彼女の顔を思い浮かべてしまった。僕は君だけを愛している・・・ずっとそう信じていたのに何かが違ってきている。僕達はこれから離れ離れになってしまうのかもしれない」

私は隣で寝ているアレキサンダーを強く抱きしめた。私達は今、すぐ近くにいる。それなのにとても遠くにいるようにも感じる。




ダレイオス王はあちらこちらに場所を変え、転々と移動しているらしい。私達の追跡も長く続いた。途中何度か敗残兵の待ち伏せに遭い、何人かの仲間が殺された。敗残兵と遭い、殺し合いになるたびにアレキサンダーの苛立ちはつのり、早く王を捕まえろと兵士たちをけしかけた。私の心は複雑だった。早くダレイオス王が見つかればよいが、殺したくはなかった。私達が王を殺せばステラと結ばれることは永遠にない。王が降伏してくれることを強く願った。だが私のはかない夢はダレイオス王の死であっけなく幕を閉じた。

「アレキサンダー王、来てください。ダレイオス王と思われる遺体を発見しました」
「どこでだ」
「向こうの岩の陰です」
「王一人か」
「一人だけです。そばに他の人間はいなく、死体もありません」
「わかった、すぐ行く」

ダレイオス王の遺体はすぐに見つかった。ボロ布にくるまれていた。布をひらくと何箇所もさされた裸同然の遺体が出てきた。装飾品は全て奪われていたが、その顔立ちは間違いなくダレイオス王だった。

「盗賊にでも襲われたのでしょうか」
「いや、それだったら争った形跡があるはずだが、ここには他の者の死体はなく、王だけが殺されている。おそらく味方であるはずの兵士や家来が王を襲って殺し、財宝を奪って逃げた。そういうことだろう」
「酷いことを・・・」
「ダレイオス王の体はきれいな布に包み、手厚く葬ってやれ。強大な帝国の最後の王だ。それなりの礼儀をつくさねば・・・それから我が軍は王を殺した者を追ってさらに東へと向かう。王と一緒に逃亡した者、全てを見つけ出し、処刑するまで決して引き返すことはしない。進め!裏切り者を草の根を掻き分けても探し出し、必ず生きたまま捕らえるのだ。主君を殺すという大罪を犯した者にはそれ相応の裁きを受けねばならぬ!探せ!探すのだ!」

余りにも激しいアレキサンダーの怒りの表情に驚いた。私も他の者も彼に近づくことはできなかった。数日間、ほとんど休む間もないほどの強行軍が続き、王と一緒に逃げた者はすべて命令どおり生きたまま捕らえられた。



                                          −つづくー


後書き
 ヘファイスティオン、本当に不器用です。アレキサンダーを愛しているのについ別の女性を思い浮かべてしまい、そのことで自己嫌悪に陥ってしまう・・・一人を抱きながら他の人間の名前を呼んだり、人にまで宦官を勧めたりするアレキサンダーとは随分違います。




2005 9、15




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