(58)プロメテウスの罰(***)
注 このページはかなり暴力的な表現が含まれています。でもあえて読まないでくださいとは書きません。
書きたいことを伝えるためにどうしても必要な描写と思い、ここまで読んでくださった方なら大丈夫だろう
と考えているからです。全然注意書きになっていませんが・・・
やがてアレキサンダーは抱きかかえていたバゴアスの体を寝台に横たえた。長い黒髪の間に指を絡ませ、梳ろうとした。
「お前はどんな時でも必ず身なりを整えて俺の側にいた。それなのに髪は乱れ、顔に泥をつけたままだ。それほどまでに慌ててヘファイスティオンを追いかけたのか?」
髪を丁寧に梳かし、顔の汚れを湿らせた布でふき取った。
「お前はペルシャの王宮で一番の美貌を誇った宦官だ。それにふさわしい死に方をしなければならない。心など必要ない。ただ奴隷として生きればよかった」
バゴアスの手を見た。アレキサンダーの顔が彫られた指輪は私の指にはめてある。それを外してアレキサンダーに手渡した。
「なぜそれをお前が・・・・」
「君に会えないまま死んでいくと思った。苦しくて君の顔がどうしても思い出せなかった。だからこれを手で触って・・・もう目も霞んでいたけど君の顔だけはどうしても思い出したくて・・・・彼も同じだ」
「こんな物渡さなければ、同情などせず最初から奴隷として扱っていればこいつも勘違いなどしなかったかもしれない」
「それが君なんだよ、アレキサンダー、君は戦いで多くの敵を殺した。でも本当は傷ついた者、弱い者を守りかばってやらずにはいられない、誰よりもやさしく傷つきやすい君が多くの者の命を奪ってきた。だからバゴアスを・・・・」
「ヘファイスティオン・・・・」
「バゴアスに嫉妬もした。でも僕は君の全てを愛している。だから彼を恨むことはできない」
アレキサンダーは指輪を受け取り、バゴアスの指にはめた。
「これをしっかり持って行け。冥界でマケドニアの王アレクサンドロスに仕えたと告げれば、さぞかしお前の待遇はよくなるであろう。今やこの世界で俺の名を知らぬ者はいない。冥界にも伝わっているだろう。イスカンダルではない、アレクサンドロスと発音するのだ。お前のその呼び方は俺を・・・・俺を夢の世界へ導いてくれた・・・・俺にはお前が必要だった・・・・」
彼は横たわるバゴアスの体にすがって泣き崩れた。私にはどうすることもできない。ただアレキサンダーを見守るしかない。体中に疼くような痛みが蘇ってきた。私は目を閉じ、唇をかみしめて痛みに耐えた。今この場所で呻き声をあげ、倒れることはできない。生き残った私がバゴアスを見送り、アレキサンダーを支えなければならないのだから・・・・
「今の俺にはお前しかいない。ヘファイスティオン、愛している」
「僕も同じ気持ちだ、アレキサンダー」
バゴアスの葬儀を済ませ、私の体の傷跡も目立たなくなった頃、アレキサンダーに求められた。強く押さえでもしない限り傷の痛みはほとんどなくなっているのだが、それでもアレキサンダーは私の背中を指でたどっては傷跡に触れると丁寧に舐めた。
「アレキサンダー、王である君がそんなことしなくても、もうすっかりよくなった」
「こうしたらかえって痛むか?」
「いや、そんなことはない。君に触れられればどんな痛みも忘れられる」
「本当か、それほど俺を愛しているのか?」
「もちろんだ、アレキサンダー。君とまたこうして過ごせるのなら、僕はもうどんな痛みにも耐えられる気がする」
「俺が怖れるのはお前を失うこと、ただそれだけだ。それ以上何も怖れることなどない。共に生きよう、ヘファイスティオン、同じ夢を見られるのはお前だけだ。お前の怪我がすっかりよくなったらバビロンに戻り、国を立て直さなければならない。忙しくなるぞ」
「もう僕の怪我はすっかりよくなった。今すぐ馬に乗っても大丈夫なくらいだ」
「だめだ、だめだ、どんな傷跡も俺はお前の痛みを感じ、腸が煮えくり返りそうになる」
「僕はもう忘れる。君も忘れてくれ」
アレキサンダーの手が私の下半身へと伸びた。荒々しい愛撫を繰り返し、容赦なく指を差し込んでくる。
「ああ、アレキサンダー、やめてくれ、僕はまだ・・・・」
「まだどうだって言うんだ?お前の体のことは俺の方がよく知っている。どこを触れば感じやすいか」
「ああー・・・・ひいいー・・・アレキサンダー・・・・待ってくれ」
「体を楽にし、もっと足を広げて見せろ、俺に恥ずかしがることはないだろう。お前のことは誰よりもよく知っている」
「ああー・・・・そこは・・・・君がそんなこと・・・・僕は・・・・ひいいー・・・・」
彼の指は私の足の間のものを挟み、舌が襞に沿ってチロチロと進んだ。唾液を絡ませた指が私の秘部へと潜り込み、あまりの気持ちよさに喘ぎ声を何度も漏らした。
「ああー・・・・ひいい・・・アレキサンダー・・・・」
「おかしいな、これほど興奮しているのにおまえ自身がちっとも」
言われてハッと気がついた。いつもなら彼にこれだけいじられればすぐ熱を帯びて固くなる自分のものが少しも大きくはなっていなかった。それなのに彼の指が埋め込まれた場所は異様な熱をおび、びちょびちょ音をたてて彼自身を誘っている。私はうつ伏せになり、尻を高く上げた。
「なんだ、ヘファイスティオン、お前の準備がまだだというのにそんなに欲しいのか?」
「頼む、アレキサンダー、待ちきれない」
「そんなに腰まで振って、まるでバゴアスのようだ。彼はこの時だけは大胆だった。宦官は普通の男より感じやすいのかもしれない。自分のものがないからな・・・・ハハハ・・・・」
「やめて、お願い、それだけは・・・・」
「おいおい、こいつ自分が何されるかわかったようだぞ」
「さっさとやっちまわないからだよ。そう怖がるな、お前はこれだけの顔だ。いい家にもらわれて大事にされるぜ。運がよけりゃ、王宮に入れるかもしれない」
「そうそう、切ってある宦官の方がよっぽど感じやすいっていうしな、ちょっとの辛抱だよ」
私は仰向けの格好で手足を大きく伸ばして縛り付けられていた。周りの男達が手に光るものを持っている。真っ裸にされた私の下半身に男達の手が近づく。
「ぎゃああー・・・・あああー・・・・」
恐ろしい痛みに体を捩り絶叫した。私の男である印のものは男達の手で挟まれ、ゆっくり切り落とされていく。血まみれになり絶叫の中で意識を失った。
「ヘファイスティオン、お前がそんないい声を出して体をひねるとは・・・・ああ、俺はもうたまらない、いいか」
「ああ、アレキサンダー、僕はちょっと夢を見たようだ」
「お前が喜んでくれてうれしい、いいか」
彼の手は私の尻を押さえ、秘部をむき出しにさせた。
「おい、本当にやるのか?」
「死ぬぞ、そんなことをやったら」
「いいさ、俺達の仲間が、女や子供がどれほど殺されたと思うんだ。復讐だ、一番残酷で惨めな方法で殺せばいい」
「どうだ、お前の仲間の居場所を教えろ、さもないと真っ赤に焼けた鉄の塊をお前の体にいれるぞ、ここからだ」
「殺すなら殺せ、お前達に屈したりはしない」
「ぎゃあああー・・・・くう・・・・うわあああー・・・・」
すさまじい悲鳴を上げて暴れまわった。体の中に埋め込まれた熱い塊は肉と血を焦がした。皮膚は焼け爛れ、口から血を流し泡を吹く。絶叫が続き、喉がヒリヒリと痛い。熱い塊はゆっくり内部に入り、周りの皮膚を焼き焦がしていく。ドロドロとした液体と汚物が体から流れていくのがわかる。熱い、熱い・・・焼け死んでしまう・・・・拷問は果てしなく続く・・・笑い声が聞こえ、熱いかたまりは内部を動いては激しく突いてくる。
「うわあああー・・・・・ひいいー・・・・助けて・・・・何もかも話す・・・・やめてくれ・・・・」
「ははは・・・・もう遅い・・・・苦しみ続けて死ぬがいい」
「お願いだ・・・・ああああー・・・・・ひいいいー・・・・」
どれほど長い間のた打ち回っていただろうか。私はぐったりとして意識を失った。
目を開けると隣にアレキサンダーが寝ていた。体に痛みはない。下半身に手を伸ばすが血だらけでも焼け爛れてもいない。
「お前の体はどうもならない。それは幻なのだから」
「誰だ?なんのためにこんな幻覚を見せる?」
「お前にとってもはや幻覚ではないだろう。実際拷問を受け、その記憶が残っているのだから」
「そうだ、でもそれはもう終わった」
「終わってはいない。お前はこの男と愛し合うたびにそれを思い出すであろう。あの宦官がそのたびに切られた痛みを思い出したのと同じように・・・・」
「バゴアスは、いつもその痛みを思い出していた」
「そうだ、お前はあの宦官の命と引き換えに戻ってきた。どうだ、生き延びたことを後悔するか?彼はお前への復讐を果たした。永遠に続く痛みという・・・・お前はその男を愛するたびにタイタロスに落とされた神と同じ苦しみを味わう。あるいは生きながら肝臓をついばまれるプロメテウスと同じようにな・・・・どうした、おじけづいたか?あの宦官のように毒でも飲むか?」
私はアレキサンダーの顔を見た。微笑を浮かべて眠っている。
「彼は、アレキサンダーは何も知らないのだな?」
「もちろんこの男は知るよしもない。お前が喜んで興奮し、意識を失ったと信じている。お前の悲鳴も激しい苦痛の絶叫もこの男の耳には届かない」
「よかった、彼に知られないのならそれでいい」
「愚かな人間め、愛し合うなどと言いながら、お互いに憎み、殺しあう。だから滅ぼそうとしたのにあのプロメテウスが・・・・岩山で鎖に繋がれさぞ後悔しただろう」
「プロメテウスは後悔などしていない。彼は縛られている間も喜びを噛み締めていた」
私の口から思いがけない言葉が出た。
「鷲に肝臓をついばまれる苦痛などどうということはない。彼は生きていることに大きな喜びを感じていた。愛する人間に火を与え、人間は寒さに震えることがなくなった。愛する人間が繁栄し、神に感謝する声が彼にも届いていたはずだ。肝臓をついばまれるその瞬間、苦痛に耐えながら彼は自分がいかに人間を愛していたか思い出した。自分の体をついばむ鷲すら彼には愛する存在となり、その頭をそっと撫でたであろう。生き延びることができて愛する者の繁栄を見届ける、これほど幸せなことは他にはない」
私は隣に寝ているアレキサンダーの頭に手を触れた。
「ヘファイスティオン、お願いだ。もうどこにも行かないでくれ。俺を一人にはしないでくれ」
「アレキサンダー、僕は必ず君のそばにいる。だから安心して」
彼は夢うつつだった。それでも私の手を握り、安心して深い眠りについた。その頭をそっと撫でた。
「愛する者のそばにいる、これほど大きな喜びはない」
「愚かな人間め、愛など苦痛を与えるだけのものだということがまだわからぬのか」
「どれほど脅されようと、私はかれのそばにいる」
「ハハハ・・・・それもいいだろう。どこまでお前が耐えられるかそれも見ものだ。プロメテウスは三万年耐えた。お前はどれくらい耐えられる?」
「永遠に、彼と一緒ならば・・・・」
「覚えておこう。愚かな人間の言葉を・・・・」
「ヘファイスティオン、夢を見ていた」
「どんな夢?」
「ミエザで、朝の訓練が終わって草むらで寝転んでいた。お前の膝に頭を乗せ、アキレウスのことをしゃべっていたらいつの間にか眠っていた。あの頃も今も、俺にはお前が必要だ」
「アレキサンダー、よく聞いて。僕は一度は死にかけ、ステュロス河のすぐそばまで行った。この体ではいつ死ぬことになるかわからない。でも僕の魂はどんなことがあっても永遠に君のそばにいる。だから何があっても悲しまないで・・・・」
「そんなこと言うな。お前は今ここにいるじゃないか」
「そうだね、僕も君のそばにいれてうれしい」
私はアレキサンダーの体をしっかり抱きしめた。
「君のそばで生きている。これ以上大きな喜びはない」
−つづくー
後書き
クリスマスシーズンですが、私にはアレキサンダーが神、ヘファイスティオンがキリスト、バゴアスがユダのようにも思えてきます。宗教というものは信じられないけど、一人一人の心の動きや思いで神にも裏切り者にもなれてしまう、彼らはそれだけ強い精神を持っていてそれを書くことで自分なりの神というものが見えてくるような気がします。
2007、12、13
目次へもどる