7、疑惑
アレキサンダーが即位してから数日後、さっそく私は彼の部屋に呼ばれた。なんのために呼ばれたのかよくわかっている。即位して王となった彼は宮殿に住むようになった。もう昔のように気軽に訪ねることはできない。城門を開け、護衛の前を通り、いくつものドアを開けてやっとアレキサンダーのいる部屋までたどり着く。部屋の中も驚くほど広い。私は恐る恐る中に足を踏み入れた。
「どうした、ヘファイスティオン、この部屋に来るのは初めてだったか」
「そうです。宮殿の奥の部屋に入るのも、王になった貴方を近くで見るのも初めてです」
「そんな家臣みたいな言い方はしないでくれ。お前とは子供の時からずっと一緒だった。王になったからといって俺は何も変わってはいない。だからお前も今までと同じように俺に話してくれればいい」
「でも、貴方はマケドニアの王なのですから・・・」
「それならば、王として命令する。お前は今までと同じ話し方をしろ。二度と家臣のようなしゃべり方はするな」
「わかったよ」
私は思わず笑ってしまった。彼も笑っていた。
「これでいいよ。王になってからというもの、周りの人間の話し方も態度も全く違ってしまった。お前ぐらいは前と同じでいてほしい。何か飲むか?」
「ぶどう酒を少しくらいなら・・・」
「やっとお前とゆっくり話せるようになった。即位してからというもの、儀式だの祝宴だの、堅苦しいことばかりでいい加減うんざりしていた。みな俺のことを王として褒め称え気を使う。だがいないところではいろいろなうわさ話が出ている。父上、前の王がどうして死んだかとか・・・」
「前の王を殺した犯人はもう死んでいる。いまさらどんな噂話が・・・」
「それをお前に聞きたいと思っていた。お前は知っているのだろう。誰が父上を殺そうとしたのか、本当のことを」
「僕は何も知らないよ」
「お前までそう言うのか!」
アレキサンダーの顔色が変わった。激しい怒りと悲しみの顔。
「プトレマイオスもカッサンドラも何も話してはくれなかった。愛していると言いながら、結局大事なことは俺には話さず黙っている。でもお前は違うと信じていた。俺とお前の間には隠し事など決してないと・・・」
「僕も君に隠し事などしたくないよ。でもこのことを君に話すわけにはいかない」
「力ずくでも話させる。服を脱いで、ベッドに横になれ!俺はこの国の王だ。その王が前の王が死んだ原因もわからないなんてそんなこと許されるか!」
「この床の上でいいよ。王の寝床を血で汚すわけにはいかないから・・・好きなだけ打てばいい」
「ちょっと待て、俺は別にそんなつもりで言ったわけでは・・・お前が俺に素直に話してくれれば・・・」
「話すわけにはいかない!君には決して」
「それなら望みどおりのことをしてやる!そこに四つん這いになれ!」
私は服を脱ぎ言われたとおりの格好をした。アレキサンダーは部屋に念入りに鍵をかけ、鞭を手にして近づいてくる。私は覚悟を決めて目を閉じた。鋭い鞭の音とともに、背中に激しい痛みが走った。悲鳴を上げるまもなく何度も打たれ、そのたびに叫び声をあげていた。叫びながらも、倒れたりはしないよう手足に力を入れていた。痛みに身をよじり、少しでも楽になろうとするが、彼は同じ場所を続けて打ってくる。体中が熱くなり、悲鳴を上げ続けて声もかすれてくる。
「どうだ、これで話す気になったか」
「何も話さない」
「意外と強情だな、それとも感じているのか」
私は思わずうなずいた。そうかもしれない、打たれるほど私の体は熱を帯び、そこは固くなっていた。彼は私の体に指を入れた。そこは鞭の刺激で充分湿り、指だけでも喜びに震えていた。
「そんなに欲しいのか、お前も変わっているな。鞭でこんなに感じるとは・・・」
彼のものを差し込まれた。私の穴の中は今までにないほど湿って柔らかくなり、喜んでそれを受け入れていた。もっと刺激がほしいと言わんばかりに腰を激しく動かした。彼もそれに答えて激しく腰を打ちつけてくれる。私は狂乱の声を上げた。わけがわからなくなるほどの快感の中で、ただ四つん這いになった姿勢だけは決して崩さないよう耐えていた。彼を支えられるのは自分しかいない・・・そう確信した時体がふっと軽くなり、意識を失っていた。
気がつくとベッドの上にうつ伏せに寝かされていた。背中がひどく痛くて熱い。アレキサンダーが布を水で冷やして背中にのせてくれた。その心地よさに私はため息をもらす。
「悪かった、ひどいことをした。許してくれるか」
「いますごく気持ちいいよ。熱い体が冷やされて・・・でもこのベッド、僕の血がついたら・・・」
「そんなこと気にしなくていい」
「これで少しは楽になった?」
「それは俺が言う言葉だろう。本当にひどいことをした、お前に対してこんなことしてしまうなんて・・・本当は薄々知っていた。誰が父上を殺す計画を立てたか・・・だけどそれを認めたくなくて、やりきれなくて、いつかこのことは他の誰もが知ってしまうのだろうか。そうしたら俺は母に対してどんな処罰を与えなければならないのか。実の母でも処刑しなければ秩序は保てない。どうしたらいいのか・・・」
「それはただのうわさ話だろう。うわさ話など、いつかは消えてしまう。君がもう一度戦いに出て大きな勝利をつかんだら、誰も前の王のうわさ話などしなくなるよ。みんな君の話を聞きたがり、前の王がどうして死んだかなど誰も話さなくなる。もう少しの辛抱だよ」
「ヘファイスティオン」
「君は王だからみんなの前で泣くことも怒る事もできない。だから僕を利用してくれればいいよ。泣きたい時には僕の前で泣き、怒りたい時は僕を鞭で打てばいい」
「でもお前は・・・」
「鞭で打つといっても君は手加減しているから、そんなに痛くはないよ。僕は大げさだから悲鳴を上げているけど、実際は大したことない。かえっていつもよりずっと・・・ずっとよく君と愛し合うことができたよ」
私は無理をして笑顔を作った。アレキサンダーは手加減などしてはいなかった。もしあれが他の者に打たれていたのだったら、間違いなくもっと早く意識を失っていただろう。でも私は必死になって自分の姿勢を保ち、意識を保ち続けていた。
「そんなによかったのか」
「でも、少しは痛かったよ」
「もうあんなひどいことはしないよ」
彼は笑顔を見せた。なんの曇りもないさわやかな笑顔。この笑顔さえ見られれば私はどんなことでも耐えられる。
「ずいぶんうれしそうだな」
「うれしいよ、君に笑顔が戻ってこんなうれしいことはない」
後書き
こういうタイプの人間をMというのかな(笑)。痛い思いをするほど感じてしまい、相手の役に立てればそれがもう無上の喜びになってしまう。こういう人を書くのがとても好きです。
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