8、奴隷
即位したアレキサンダーがまず最初に考えたこと、それは長年の宿敵だったペルシャとの対戦であった。フィリップス王から譲り受けた軍隊を彼はもう一度見直して、指揮官を新しくし、いくつもの小部隊に分けてそれぞれの隊に隊長つけた。プトレマイオスやカッサンドラ、そして私も小部隊の隊長に任命された。私はまだその頃戦歴も浅く、小部隊といえども隊長というのは荷が重すぎる気がして辞退しようとしたが、アレキサンダーはそれを許してはくれなかった。
隊の編成が決まると、毎日のように訓練が行われるようになった。小部隊といっても1000人以上、それもほとんどがフィリッポス王の時から仕えている年上の兵士達に対してどのように指揮を執ればよいのか、私には戸惑うことばかりであった。最初の数日間、兵士達は皆私の命令をよく聞き、訓練は順調に進むように思われた。だが日が経つに連れ、私の隊の兵士は思い通りには動かなくなってきた。アレキサンダーがいる前、彼らは一糸乱れぬ行動をとるが、彼の姿が見えなくなると途端にそれぞれ勝手なことをする。あっちの兵士に注意をし、こっちでのけんかに巻き込まれ、収集がつかなくなってアレキサンダーを探しに行こうとした時、兵士達の話し声が聞こえてきた。
「あーあ、あの男、あれでも隊長のつもりか、まったくだめだな」
「ヘファイスティオンのことか、あんな若くて実力もないやつが、どうしていきなり隊長になった」
「王のお気に入りの一人だろう。他にもプトレマイオスやカッサンドラなどが新しく選ばれたそうだよ」
「他の隊はまだいいよ、若くてもそれ相応の実力のあるやつがなっているから。だけどあいつはひどすぎる。あんなやつの下で働いたら、俺たちは全員敵に殺される」
「どうにかならないのか、訓練だって全くなっていない」
彼らの言葉を聞いて、私は乗っていた馬を止めた。だが、私の姿は他の兵士達に隠れて見えないのか、彼らの話し声は続いている。
「おい、こんなこと話していて、あいつどこかで聞いていないか。王に告げ口されたら大変だ」
「かまうもんか、気の弱い男だ。告げ口などできるものか」
「王はなんであの男がお気に入りなんだ」
「子供の時からの友人だそうだ」
「へー、子供の時からのね、あの黒い髪と目に惹かれたのか」
「それと褐色の肌、あの男にはいろいろな国の血が混ざっている」
「野蛮人か奴隷と同じ血だろう、それなのになんで俺たちはあの男の命令を聞かなければならない」
「王のお気に入りだからだろう」
「お気に入りって、奴隷みたいなものだろう。あいつの体には鞭の傷跡がたくさんある」
「それは本当か!よく見ているな」
「気にいらねえからな、なにかないかと思って後をつけていた」
「それで他にどんな話しがある」
「聞きたいか、ただでは教えられねえな」
「金貨一枚でどうだ」
「俺は二枚出す」
私は馬の向きを変えて彼らのところに戻った。
「何を話している。今はまだ訓練中だ」
「すみません、ヘファイスティオン様。この男が自慢話をしますので、ついみんな夢中になって聞いてしまって・・・」
「どんな話だ」
「たいした話しではありません。隊長にお聞かせするような」
「いいから話してみろ!」
「この男が最近買った奴隷がすごくいいという話で、目と髪が黒く、肌は褐色、一度抱いたら忘れられなくなるそうで、そんなにいいなら一晩貸してくれと、金貨一枚や二枚などと・・・」
「つまらない話をしていないで訓練を続けろ!」
「申し訳ありませんでした」
彼らは一応は私に対して丁寧な言葉遣いをし、頭を下げる。だが私がその場を離れた途端、彼らの間から下品な笑い声が聞こえた。そこまで言われているということは全く気がついていなかった。私が隊長としてふさわしい人間ではないことは自分でもよくわかっていた。だがそこまで言われているとは・・・王のお気に入り、王の奴隷・・・二つの言葉が胸に突き刺さった。
また何日か私は重い気持ちを抱えながらも訓練に参加していた。私の隊の様子にアレキサンダーも気づいたのだろうか。私の隊の方へ見回りにくることが多くなった。アレキサンダーがそばにいる間、彼らは決して行動を乱したり、話をすることはなかった。だがいなくなると、たちまち噂話が始まった。私は休憩の時はなるべく彼らから離れた場所にいくようにした。悪口は聞きたくなかった。自分だけならまだしも、アレキサンダーの悪口まで言われるのは耐えられないことであった。アレキサンダーと話したいと思ったが、彼はプトレマイオスと話している途中であった。
「アレキサンダー、俺は部下としてではなく年上の友人としてお前に忠告しておく。ヘファイスティオンを隊長にするのはやめておけ、あいつが何言われているか知っているか、あれじゃあ彼がかわいそうだ」
「何を言われている!」
「いや、はっきりとは言えないが、彼はまだ戦歴も浅いし、気持ちがやさしいから大勢の兵士を力づくで抑えることもできない。それに彼は言いにくいがいろいろな国の血が混ざっている。そんな人間の命令は聞けないと兵士たちが騒ぎ出している」
「肌の色が違うと言うならカッサンドラだって同じではないか!どうしてヘファイスティオンばかり。あいつは俺の一番の親友だ。今までもこれからもずっと一緒にいたい」
「カッサンドラは実力があるが、ヘファイスティオンは何もない。そんな人間がいきなり上に立たされたらどういう目に合うか、親友だったら少しは考えてやれ」
「ヘファイスティオンは何もいってこない」
「言えるわけないだろう。お前は王なのだから。それにあいつはお前の気持ちに応え様とできないことでも無理してやってしまう。子供の時からずっとそうだった。一番愛しているのだろう」
「そうだ、俺は子供の時からずっとヘファイスティオンを愛していた。いつも一緒にいて、一緒に戦いたいと思っていた」
「ペルシャを倒しても、これから先まだまだ戦いは続く。彼だってそのうちに強くなる。だから今回は重荷を解いてやれ」
「わかった。そうするよ」
「王に対して言いたいことをいってばかりで悪いな」
「いや、本当のことを言ってくれるのは昔から一緒のお前とヘファイスティオン、カッサンドラ、この三人だけだよ。本当のことを言ってくれるのは・・・」
アレキサンダーに呼ばれて宮殿へ向かった。途中、こっそりと後をつけてくる者があった。それも一人ではなく数人、まあ私が宮殿に出入りしていることなど誰でも知っていることなのだから、気にしなくてもいいか。宮殿の中に入るとアレキサンダーは喜んで自ら出迎えてくれた。彼の部屋の中に入るとほっとする。此処での会話まで聞かれることはないだろう。
「ヘファイスティオン、少しやせたみたいだな」
部屋に入るなり、いきなり彼は私に抱きつく。そしてすぐに服の紐をほどこうとする。服の中に手を入れ、私の胸を触る。
「少しではない、かなりやせた。骨が手に触れた」
「待ってよ、アレキサンダー。僕は話があって・・・」
「こうして触れ合っていたほうが、話しがしやすい」
アレキサンダーは私の髪をなで、頬に口付けをする。ただそれだけのことで、私の体は熱くなり、そこは固く立ち上がる。服を脱がそうと軽く手が触れるだけで、胸の鼓動は早くなる。
「もっとぐったりしていると思ったけど、元気そうじゃないか」
「元気ではないよ」
「お前の言いたいことはわかっている。いきなり隊長とするには、お前には荷が重すぎたようだな。だけどただの兵士に落とされてもお前は俺についてくるかい」
「もちろんだよ」
彼は私をベッドに寝かせ、自分も服を脱いで愛撫を続ける。髪に触れ、耳を軽くかみ、胸の突起を捕まれ、体中どこを触られても私の体は異常なほどに反応し、ビクビクと震えていた。
「本当にいいよ。お前は最高だ」
ふと、王の奴隷という言葉が頭に浮かんだ。自分は王の親友ではなく奴隷として最もふさわしい人間なのではないか。一緒に戦うためには少しも役に立たず、ただこうして抱かれている時だけ、彼を喜ばせることができる。彼の手が私のものをつかむと、たちまちのうちに精液でベタベタになってしまった。その手を勢いよく私の穴の中に入れる。何度体験してもその瞬間、私の頭の中は真っ白になり、声をあげてしまう。アレキサンダーは中で乱暴に指をかき回す。その激しさに我を忘れて絶叫する。そして彼自身のものを入れられ、再びのた打ち回るほどの痛みが体中をかけまわる。私は狂乱の声をあげ、激しく腰を振り動かす。奴隷ならばそれにふさわしいだけの働きをして彼を喜ばせなければならない。自分は地位も名誉も欲しくはない。ただこうして彼と交わり、彼を喜ばせることができればそれで満足だと思った。彼らの言う通り。私は王のお気に入りであり、王の奴隷であってそれ以上の者には決してなれない。
−つづくー
後書き
結局彼は王に愛されている限りはそれで満足してしまい、ほかの事はどうでもよくなってしまうのでしょうか?
目次に戻る