白い粉の記憶(1)

私はおそらく非常に順応性の高い人間なのだろう。何を見ても、何を感じても私は私のままでいられる。だからこそいくつもの偽名を使いいくつもの国の人間になりすますこの仕事を続けることができた。だが、弟のヴィタリーはそうではなかった。弟は自分の目の前の出来事をすべて自分のことに感じてしまう。

「貝は食べられない。何度言ったらわかるんだ」
「あらそう、でも今日は貝が安く手に入ったのよ」

ウクライナを出る時、私の家族はユダヤ人だと偽った。その方が都合がよかったからだ。だが、偽りであるにもかかわらず、父はユダヤ教にはまり、その教義を忠実に守るようになったから貝は食べない。そんな父にカトリックの母は苛立った。

「今日の夕食は貝か。うれしいな」
「お前、よくそんなまずいものが食える」
「他には何もないよ」
「向かいの店に偵察に行ってくる」

弟は母に合わせてなんでも食べ、コックになって店を手伝うようになった。両親が何を望んでいるか、言葉に出さなくても彼にはわかってしまう。ただし、その腕前は母以上にひどいものだった。兄の私が言うのもなんだが、弟はかなりのハンサムで、一目見ようとする女の子で店はそこそこにぎわった。そうでなければとっくにつぶれていただろう。私はよい仕事も見つからず、苛立っていた。私達家族が住む町、リトルオデッサは移民がたくさん住んでいる。同時にロシアからのマフィアもたくさんやってきた。暴力事件など日常茶飯事だ。ただ運良くそこに巻き込まれなかっただけ、いや、一度目の前で見て私の人生は変わった。

「世界には銃を必要としている人間がいる。兵器が大量に余っているところもある。必要な場所に必要なものを届ければ、それは商売として成り立つ」
「でも、そうとうヤバイんじゃないか」
「俺は大きな仕事をしたい。お前だって一生コックのままくすぶっていたくはないだろう」
「そうだけど・・・・でも・・・・」
「信頼できる相棒が必要だ。ヴィタリー、弟のお前しかいない。俺の戦友になってくれ」
「戦友か・・・・わかった」

初めての商売は拍子抜けするほどうまくいき、弟を相棒に誘うのも簡単だった。ヴィタリーは、自分が必要とされている限り決して断ることはできない。悲しいほどに彼は必要とされることを求め続けている。私はどうなのか?人から必要とされたいのか?そんなことはどうでもよかった。





目の前で人が殺されるのを見た。まだ十代の少年達が壁の前に並ばされ、一斉射撃を受ける。取引がうまくいかなければ、殺されるかもしれない。絶え間なく聞こえる銃弾の音、その度に体は反応し、神経をすり減らされていく。私はヴィタリーに適当に女を与え、報酬として手に入れた麻薬も適当に二人で楽しむことにした。弟は戦友として、できる限り忠実にその役割を果たした。だが、南米で突然彼の緊張の糸は切れ、私の前から姿を消した。私は何日もかけて弟を捜さなければならなくなった。ボリビアの小さな村のみすぼらしい小屋で彼を発見した。テーブルの上に麻薬の白い粉を出し、何か形作っている。

「ヴィタリー、こんな所で何をしている」
「やあ、兄貴、紹介しよう、兄貴のユーリだ」

ベッドにはほとんど裸の女が2,3人重なって寝ていた。

「まだ、かすかに覚えている。ウクライナを出た時のことを・・・・ここがオデッサで、船はここから出た」
「何をやっている。こんなもの!」
「ああー、何をする・・・・」
「やめろ!こんなことしていたら死んでしまう」
「もうとっくに死んでいるさ。この体にいくつ銃弾がぶちこまれたか、数えられないほどな・・・・体中穴だらけで蜂の巣のようになって、それでもまだ生きている。俺は不死身だー」

私がテーブルの白い粉を撒き散らすと、ヴィタリーは汚い床に這いつくばってそれを吸い込もうとした。

「やめろ!ヴィタリー、やめるんだ!」
「ああ、いい気持ちだ。誰も俺を殺せない。俺は不死身の体を手に入れたー、さあ、兄貴、早く仕事に戻ろうぜ。しばらく消えちまって悪かった。まだ戦友として認めてくれるよな」
「ああ、お前は大事な戦友だ。だからこのままでは危ない。これ以上薬を使うな」
「ケチケチしないでくれ、これを使ってやったら最高だぜ。兄貴も試してみろよ。どれでも好きな女、金は前払いしてあるからさ」
「試してやるよ。ただし、女はすぐ追い出せ」
「ちょっと待ってくれ、女がいなくてどうやって最高の気分になれる?」
「俺がお前に最高の気分を味あわせてやる。だから約束しろ。もう二度と薬は使うな」
「まさか、兄貴・・・・・」

ヴィタリーの顔色が変わった。

「戦友とはそういう意味もある。昔、どこかの国で男同士の恋人ばかり集めた軍隊が作られた。その部隊は世界最強と恐れられたそうだ」
「でも、俺達は兄弟だし、そんな昔の時代と違って今はモラルもある。神の教えに反する行為を・・・・」
「さんざん薬でおかしくなってメチャクチャなことをやったお前に、何がモラルだ。そこまでしっかりしていれば大丈夫だ」
「兄貴・・・・」
「俺にはお前が必要だ。戦友としてこれからもずっと・・・・」

私は粉だらけで白くなったヴィタリーの顔に自分の鼻を近づけた。目を閉じて勢いよく息を吸い込むと、頭がクラクラした。口のまわりについた粉を手で拭い、唇をそっと合わせると、ヴィタリーの手が私の肩を掴んだ。

「恐いよ、これは相当ヤバイことではないか」
「お前は恐がらなくていい。地獄に堕ちるのは俺一人だ」





寝ている女達を叩き起こして外へ追い出し、私はヴィタリーを抱き上げてベッドまで運んだ。何日もまともに食べていなかったようで、ビックリするほどその体は軽くなっていた。

「ユーリ、恐いよ、もう少し吸ってもいいか」
「だめだ、お前はこれ以上やると命が危ない」
「銃弾の音が聞こえる。みんな殺される時声も出さないんだよな。あんな小さな子供まで、泣き叫んだりせずに黙って死んでいく。俺にはできそうもない」
「ヴィタリー、もう忘れるんだ。お前や俺にはどうしようもない」
「殺される時は恐いだろうな」
「だから人間はいろいろなことを考えるのさ。天国とか愛、忠誠・・・・・なんだっていい、理由があれば恐怖はなくなる。ヴィタリー、愛している」
「俺を助けるためだろう」
「違う、これは愛さ。俺はずっとお前を愛していたのかもしれない」

ハンサムなお前に嫉妬しながら、と言いかけてやめた。ヴィタリーは裸になって私に抱きついてきた。私も衣服を脱ぎ捨て、甘えるように体を舐めてくるその感触を楽しんだ。

「ユーリ、恐いんだ。いつも人が殺される夢ばかり見てしまう。俺は戦友として失格だ」
「そんなことはない。俺はお前がいたからこそ・・・・」

また途中で口をつぐんだ。弟がいたからこそ、この仕事ができたのか。そうとも言えるしそうでないとも言える。だが、考えるよりも先に私の弾丸が固くなり、それをいつどこで発射させるか以外何も考えられなくなった。ヴィタリーの体を横たえ、その中心にゆっくり指をまわすようにしてねじ込んだ。

「ああー!・・・・うううー」

ヴィタリーの体は激しく反応してのけぞり、顔を苦しげに歪めた。そのためのものなど何も用意はしていない。だが、私の弾丸は今にも弾けそうなほど固く大きくなっている。

「苦しいか」
「大丈夫、戦友だから、どんなことでも耐えられる」
「本当にいいんだな」

私は自分の弾丸に唾液をたっぷりとつけ、ヴィタリーの体のその場所に近づけた。もう私の意志とは関係なしに弾丸は激しい勢いで体内に打ち込まれ、その度に悲鳴が聞こえた。私は弟の体を押さえ、何度も衝撃を加えた。

「やめて、ユーリ、痛いよ」
「少しぐらい我慢しろ、お前は大げさだ」
「ああ、我慢できない、痛いー」

弾丸を締め付ける熱い肉の塊と弟の泣き声に、私は今だかってない興奮と快感を味わっていた。女が相手では、けっしてこうはならないだろう。麻薬の影響も少しはあるのだろう。だが、私の弾丸は強さを増し、肉の壁を崩して柔らかくしている。ヴィタリーの声が悲鳴から嬌声に変わった。弟の体もまたかってない興奮に打ち震えているのがわかる。私はさらに激しく弾丸を体内へと埋め込んだ。一際大きな呻き声を上げ、ヴィタリーはだらりと手足を伸ばして意識を失った。





その後、どうやって私がヴィタリーを連れて空港までたどりついたのか、記憶はほとんど残っていない。見つけ出してから何日が過ぎたのかもわからない。一袋のコカインを二人で全て使ってしまったらしい。何日同じ小屋に閉じこもっていたのか、弟と何度そのような背徳行為を行ったのか、まったく覚えていない。記憶に残っていなく、私達以外にそれを告発する者もいないのだから、それは罪とは言えないだろう。ただ、その間の数日、あるいは数ヶ月が深い快楽と幸福感に満ちていたことは間違いない。それはフラフラと私に頼ってしか歩けなくなったヴィタリーにとっても同じであろう。



                                     −つづくー



後書き
 2周年記念のピヨ様からのリクエスト、「戦争王で麻薬に溺れるヴィタリーと兄ユーリの関係」(ちょっと違うかもしれない)ということで書き始めました。リクエストを書くのが遅くなってすみませんでした(もう5月になっている)でもこうしてリクがあると、前に見た映画を見直してまた新しい発見があるのでとてもうれしいです。今回考えたのは、せっかく立ち直りかけたヴィタリーを何故ユーリはまた相棒に誘ってしまうのか、ユーリがどうしてそこまで弟を必要としてしまうのか、そのあたりを話を書きながら考えてみたいと思います。リクエスト、ありがとうございました。
2007、5、8


目次に戻る