夢一夜
ファラミアは心細くなって辺りを見回した。
「どこに行っちゃったんだろう・・・」
ともに行軍してきた隊の年長者は「ここで待っていろ。」と言って行ってしまって戻ってこなかった。
もう日が暮れる。
ファラミアは、空を見上げた。
「隊に戻ってもいいかなあ・・・」
南の方角から来た。
太陽を左手に見ていけば帰れるはずだ。
この辺りは夜になるとオークが出ると聞いている。
「戻ろう。戻りますよ。」
誰にともなくそう言うと、ファラミアは立ち上がった。
15で国境遊撃隊に配属されて、これが初めての行軍だった。
だが、南に向かって歩きだした途端にオークに遭遇した。
「オーク・・・」
震える手で剣を抜いた。
それでも、歴戦の勇士である兄ボロミアに鍛えられた剣は、身体が覚えていた。
襲いかかってくるオークを次々に斬り倒していった。
だが、それは最初だけだった。
倒しても倒してもオークは現われる。
ファラミアも次第に息が上がってきた。
ファラミアが足元にあった石を気にした一瞬に隙が出来た。
「ああっ・・・」
左腕をオークの剣が掠める。
次の瞬間、どこからともなく飛んできた矢が左の腕に命中した。
「助けて・・・兄上・・・」
膝をがっくりと付いた。
涙が溢れてきた。
オークたちがファラミアを取り囲む。
(やっぱり・・・私は駄目な弟でした。兄上・・・)
意識がぼんやりとしていた。
すぐそこにある死を覚悟して眼を閉じた。
その時、微かに見えた。オークを倒す「黒い影」を。
群がるオークを倒すと、そこに一人の男が倒れていた。
男・・・と言ってもまだ少年だろう・・・
「お前は・・・」
意識のない彼の顔を見てストライダーはうなった。
そのくせのある髪はおそらくは父親似、その顔立ちは亡き母の面影をそのまま映していた。
以前にたった一度会ったことがある。彼が幼い頃に・・・
「ファラミア・・・・」
その左腕に刺さった矢を引き抜いた。
「毒矢か・・・この前は毒蛇だったな・・・」
ストライダーは苦笑した。
お前と私は毒で結ばれているらしい・・・
幸い、手当てが早かったので命は取り留めたらしい。
だが、その毒の為に熱を出していた。
その為かガタガタと震えていた。
野宿の為に毛布くらいは持っていたが勿論自分の分しかない。
「まったく・・・手のかかる奴だな。」
ストライダーは苦笑しながら、ファラミアの隣に横たわり、毛布を上から掛けた。
「これしかないんだから、これで我慢しろよ。執政の御曹司殿。」
ストライダーが呟いた。
ストライダーがうとうとと微睡んだ頃だった。
「兄上・・・兄上・・・」
耳元で譫言が聞こえた。
と、突然、ファラミアが擦り寄るようにしてストライダーにしがみ付いてきた。
「おいおい・・・」
それでも怪我人だ。手荒な真似も出来なかった。
縋り付いてきたファラミアを振りほどくことはしなかった。
ファラミアはストライダーの首に両手を回して抱きついた。
ファラミアは暗闇の中にいた。
ただ、怖くて、淋しくて、寒くて。
突然何か暖かいものに包まれていた。
「兄上?」
それは兄の温もりのような気がした。
母は物心付いた頃には起きているよりベッドに居る時間の方が長かった。
そして5才の時には逝った。
父は自分を疎んじていた。
兄だけがファラミアに温もりをくれた。
ボロミアだけいればよかった。
国境遊撃隊に仕官することになった。
ボロミアは心配そうにファラミアを見ていた。
その兄の温もりが欲しかった。
旅立ちの前夜、ファラミアはボロミアの腕に飛び込んだ。
兄もそれを受け入れた。
人に言わせれば「禁忌」
でも、特別な二人になった。
「兄上・・・」
そう呼ぶ声には微かな「色」が含まれていた。
そっと身体を撫でると、ぴくりと身体が跳ねる。
そして彼が漏らした溜息は、ストライダーさえも情欲するほどの「艶」を含んでいた。
それを本人が解っているかどうかはともかく。
あどけなさを残したその顔は、整っていて美しかった。
まだ大人になりきっていないすらりとした手足は、それだけで情欲を誘う。
アラゴルンはファラミアの身体に手を這わせる。
胸の摘みをそっと愛撫すると、はぁ・・・と熱い吐息を吐いた。
そっと抱き締めると縋り付いてきた。
「兄上・・・」
ファラミアはアラゴルンを兄と間違えているのだろう。
それでも良かった。
縋り付いてくるファラミアが愛しかった。
「ファラミア・・・」
耳元で名前を呼ぶとふわりと嬉しそうに笑った。
「ファラミア・・・・」
その声に目を開けた。
「兄上・・・ベレゴント・・・」
起き上がろうとしたファラミアをボロミアが慌てて止めた。
「まだ動くな。」
「でも・・・隊に戻らないと・・・」
ファラミアが言った。
「誰が手当てしてくれたんだ?」
ボロミアに尋ねられて、ファラミアは初めて助けてくれたのが兄でないことを知った。
「解りません・・・」
とにかく身体がだるかった。
「熱があるな・・・」
そう言ってボロミアはファラミアを抱き上げた。
「あ・・・兄上・・・」
ファラミアは驚いてボロミアを見た。
「ベレゴント!」
ボロミアがベレゴントを呼んだ。
「はっ。」
「私が弟を甘やかしていることは内密に・・・。」
そう言ってボロミアはニヤリと笑った。
ベレゴントは鹿爪らしく敬礼をして「了解しました。」と言ってからファラミアを見てクスッと笑った。
その笑顔にファラミアもつられて笑顔になった。
「近衛隊の駐屯地の方がここから、近いから、そこに連れていこう。」
ボロミアが言った。
「私は隊の方に戻って報告しておきます。」
ベレゴントが言った。
「頼む。」
「ファラミア・・・」ボロミアがファラミアの顔を覗き込んだ。
「はい?」
「辛いか?」ボロミアが尋ねた。
「え?」
「お前がここに一人で置き去られたことくらい見れば解る。私もやられた。」
そう言ってボロミアはクスッと笑った。
「兄上も?」
「ああ。お前を近衛隊に入れられれば良かったのだが。」
ボロミアがため息を吐いた。
「すみません。だらしのない弟で。」
「何を言う。立派だよ。怯む事無くオークと戦った。」
そう言ってボロミアはファラミアの頬に口付けた。
「頑張れるな?」
「ベレゴントが・・・優しくしてくれます。」
「そうか。」
今はまだ頑張れる、と思った。
もう命がないと思ったのに、何かが・・・「黒い影が」・・・自分を守ってくれたのだから。
なぜかずっと昔、「黒い影」に守ってもらったような気がした。
ストライダーは、物陰からボロミアに抱かれて立ち去るファラミアを見つめていた。
「俺としたことが・・・・」
ストライダーは苦笑した。
あんな少年のような年若い彼に欲情した。意識もない少年に・・・。
欲情して・・・抱いた。
「まあ、いいか。向こうは覚えていないようだ。」
ストライダーが一人ごちた。
「運命・・・なのかな・・・」
いつか、彼と自分の道が交わりそうな・・・・そんな気がした。
「いつか・・・会えるかな・・・ゴンドールで・・・」
そんな日が来ることを自分が望んでいるのかも解らなかった。
ただ・・・
「もう一度・・・」
そう思った。
どうしても彼と・・・もう一度・・・と。
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「ストライダー」とファラミアが出会って結ばれるまで・・・というNIMAさんのリクです。
この2人については、一応、今までの話の中で、いきさつとか関係を書いてしまったので、
ファラミアの側からは「夢」ということにして書きました。
まあ、野伏は何でもあり、何してもOKってことで(おいっ)
これが私の一杯一杯です。
いかがでしょうか?
04.11.21 Jeroen
以前Jeroen様にリクエストしたお話しを、相互リングの記念ということでいただきました。ほんとうに夢のように美しく余韻の残る作品で、少年ファラミアの艶っぽさ、さりげなく見守るストライダーのかっこよさにため息をつくばかりです。ありがとうございました。
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