旅立ち(ボロミア20歳、ファラミア15歳10歳、デネソール68歳45歳、ダムロド90歳60歳)
僕は城門の近くでボロミアの帰りを待っていた。最近は大きな戦いもなく、ボロミアはほとんどミナス・テリスにいた。ごくたまに遠くへ行ってもオスギリアスに見回りに行くぐらいだから2,3日で帰ってくる。でも僕にとってはそのたった2,3日でも待ち遠しくてたまらない。15歳にもなってこんなに兄にべったりくっついてと他の人は思うかもしれない。でも僕はいくつになっても兄の後ばかりついていた。寝るときも同じベッドで寝ていた。しかも裸になって抱き合って寝ていた。僕はまだそのとき、大人の人がどうやって愛し合うか全く知らないでいた。知らないからそんな大胆なことができたのだと思う。でもすでにもう経験のあるボロミアはどんな気持ちだったのか。きっと大変だったに違いない・・・
兄を待つ場所を決めると、今度は周りを見回して、父がいないか確認した。僕はどんな時でも父がそばにいるか、そして機嫌がいいかどうか顔色を伺うようになっていた。父の前で下手なことをすれば鞭で打たれる。だから人前ではなるべく自分の感情を出さないようにしていた。兄が帰ってきてうれしくてもすぐには飛びつかず、まず父がいるかどうか確かめ、いないとわかってやっと安心して兄に近づいた。
兄はなかなか戻ってこない。城門が開いて、魔法使いのような人が一人で入ってきた。杖を持ち、濃い緑色の服を着てフードをかぶっている。かなり年をとっているように見えるが、腰は曲がっていなく、歩き方もしっかりしている。いつも来る灰色の魔法使いとは別の魔法使いに違いない。僕はうれしくなって、すぐにその人の前に飛び出した。
「すみません。あなたはなんていう名前の魔法使いですか?」
「魔法使い!おかしなことをいう子供だな。お前名前はなんという」
「ファラミアです」
「ファラミア!お前が執政デネソール公の子のファラミアか、思っていたよりずっと小さい。年はいくつだ?」
「15歳です。でもだれもそう思ってはくれません」
「10ぐらいにしか見えない。だがそれでこそヌメノールの血が濃い証。夢はよく見るか」
「見るけど、ほとんど大変なことが起こるとか、そんな夢ばかりです」
「捜し求めていた者にこんなにすぐに会えるとは・・・お前はやがて・・・」
ラッパの音が鳴り響き、また城門が開いた。こんどこそボロミアが帰ってきたのに違いない。たくさんの馬が入ってきた。僕はすぐに兄のほうに駆け寄っていった。
ファラミアはいくつになっても俺にべったりついてくる。かわいいと言えばかわいいが、もう15歳になったし、このままでいいのか心配になってくる。父はファラミアが小さい時は無視し、最近は憎しみすら感じているように見える。そのためかとにかく俺にばかり甘えてくる。俺がちょっといないだけでも帰りが待ちきれず、飛びついてくる弟を見て複雑な気持ちになった。
父の部屋に行き、無事戻ったことを伝えた。そこには見たことのない者が一人いた。このあたりでは見かけない濃い緑の服を着ている。
「ボロミア、イシリアンの大将ダムロドだ。お前が会うのは初めてか」
「はい。イシリアンの話はよく聞いていますが・・・」
「デネソール殿、もう一人ご子息がいらっしゃると聞いているのですが」
「ファラミアのことか、あれはまだ子供で全く役には立たない。イシリアンはモルドールのオークからゴンドールをまもるため、これからますます重要になってくる。ボロミアもよく話を聞いておけ」
「わかりました」
「イシリアンでは、すべての村の村人を非難させました。今残っているのは200人ほどの野伏だけです。オークの攻撃が激しく人は住めなくなっています」
「そんなになっているか。だが、オークの被害を食い止めるためにも、イシリアンの者の力が必要だ。武器や食料など必要な物はすべてミナス・テリスから運ばせる。遠慮なく言うがよい」
「ありがとうございます。あと野伏の数ももう少し増やしたいのですが・・・」
「訓練所にいるものから選んで連れて行ってよい」
「いえ、私どものところでは別の形で野伏を訓練しています。今まではイシリアンの村の中から見込みのありそうな子を選んで訓練していたのですが、それだけではとても数が足りず、こうして私が自ら出歩いて、探しているところです」
「どんな条件で探している」
「ヌメノールの血を濃く引き、身のこなしがすばやい子という条件で探しております」
「イシリアンではまだヌメノールにこだわっているのか。その血を引く者はミナス・テリスにはほとんどいないし、いてもたいして役には立たないだろう。ヌメノールの血は呪われている。その血を持つものには災いばかりふりかかる」
「ファラミア様、あの方はヌメノールの血を濃く受け継いでいます。ファラミア様にイシリアンに来ていただくことはできないでしょうか?」
「ちょっと待ってください。弟はまだ15歳です。なんで急にイシリアンに行く話しになるのですか。ヌメノールの血がいったいどうしたというのですか」
「ヌメノールの血を濃く引くファラミア様にきていただければイシリアンは救われます」
「ほう。お前はあれをそう見ているのか。わしはそうは思わぬ。ヌメノールの血でわしらに災いばかりもたらした・・・あれさえ生まれてこなければ・・・」
「父上、ファラミアのことをそんなふうに言わないでください」
「ファラミア様はまだ自分の力を知りません。それを使いこなすこともできません。このままミナス・テリスにいれば、災いをもたらしてしまうかもしれません。でもイシリアンに来れば、同じヌメノールの血を持つ者が周りにたくさんいます。その力をうまく引き出すことさえできれば、オークなど敵ではなくなります」
「あれの力をうまく使えるというのか。そこまで言うのなら、あれをイシリアンに行かせよう。ボロミア、ファラミアを呼んでこい」
「待ってください。どうしてファラミアをそんな危険なところに・・・あいつは体も小さくて、まだ剣や弓もまともに使えないのです。そんなオークがたくさんいるところに行かせないで下さい」
「ボロミア様、ご心配なさるのは無理もないと思いますが、ファラミア様にイシリアンに来てすぐにオークと戦わせるわけではありません。同じ年ぐらいの子と一緒に訓練し、そして一人前の野伏になっても、決して危険な場所には行かせません。何があってもまずファラミア様を守るとお約束します」
「ボロミア、早くファラミアを呼んできなさい」
兄に呼ばれて、父の部屋に入った。父の部屋はなるべく行きたくない場所だったが仕方がない。だれか他の人が座っているのを見てほっとした。他の人がいれば鞭で打たれることはない。城門で見かけた魔法使いのような人がそこに座っていた。
「ファラミア様、イシリアン野伏の大将をしておりますダムロドという者です。ぜひあなたにイシリアンに来ていただきたくてデネソール殿にお願いしていたところです」
さっきとは話し方が随分違う。僕が呼ばれたということは、この人と父の間ではもう話が成立しているに違いない。ボロミアははんたいするだろうけど、父が決めたことに僕やボロミアが反対できるわけがない。それに前に魔法使いのあの人も言っていた。僕を探しにきた人についていけばいいと。きっとこの人がそうに違いない。
「わかりました。でもなぜ僕を選んだのですか?僕は体も小さく、少しも強くはないです」
「あなたには誰よりも濃くヌメノールの血が流れています。今はわからなくてもいつかきっとそのことの重大さがわかる時がきます」
「いつそこへ行けばいいのですか」
「できれば明日、私が帰るときに一緒に来ていただきたい」
「何を持っていけばいいのですか」
「何も必要ありません。必要なものはイシリアンに用意してあります」
話はすぐに決まってしまった。明日弟が行ってしまうというのに、父は何の準備もしなかった。ファラミアのほうも特に悲しそうでもなく普段と同じであった。俺だけがわけがわからず一人でイライラしていた。自分の部屋に戻るとすぐにファラミアに強い口調で問い詰めた。
「おい、ファラミア。お前なんであんなに簡単にイシリアンに行くと言った。お前そこがどういう場所か知っているのか?」
「わかっています。そこはオークがたくさんいて僕のように弱い人間はいつ殺されてもおかしくない・・・」
「それがわかっていてなぜ・・・」
「僕はここにいてはいけない。父上から離れた場所にいるほうがいいのです。僕が近くにいたら、父上はいやなことばかり思い出してしまいます。父上は僕が死ぬことを・・・」
ファラミアは突然泣き出した。いままでこらえていた感情が一気に押し寄せてきたのか激しく泣きじゃくった。俺はファラミアの服を脱がせて自分の服も脱いだ。強く抱きしめて口づけをした。俺たちはベッドに倒れこみ、そのまま激しく体を絡めあった。体の小さな弟にその行為をすることはできなかったが、それでも俺たちは互いの体をさわりながら激しく愛し合った。
「ファラミア、父上が何を言おうと、どう思っていようと、俺はお前を愛している。たった一人の大事な弟だ。だから死なないでくれ・・・」
「ごめんなさい。いつも泣いてばかりで・・・」
「いいんだよ。俺の前ではいくら泣いてもいい。思いっきり泣いてくれ。俺だって明日からお前がいなくなることを考えると・・・」
翌日ファラミアはダムロドに連れられていってしまった。派手な出陣式をした俺に比べ、ファラミアの場合はほとんど見送る人もなく、ひっそりと出かけた。ファラミアはもう泣いたりせず、振り返りもしないで行ってしまった。年はとっていてもイシリアンの大将ダムロドは歩くのが速かった。小さな弟は歩くだけでは追いつけず、小走りになって必死であとを追いかけていた。その後姿がいじらしく、俺は泣きながらいつまでも見送っていた。
−つづくー
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